ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

成田名璃子「東京すみっこごはん 楓の味噌汁」/三上延「ビブリア古書堂の事件手帖~扉子と不思議な客人たち~」

こんばんは。朝晩の冷え込みが厳しくなってきましたねー。
今日はついに長いコートで仕事に行きました。朝早いから、寒いのよねぇ。
職場で暖房つけてたら、職場の人に『そんなに寒い?』と訝しげに言われ
ましたけど・・・おっさんにはこの寒さはわからないんだー(><)。
女性は手足が冷えるんだよっ(ぜえはあ)。夏も冬も、エアコンでは
その都度闘争がある我が職場なのでした。


・・・読了本は今回も二冊です。


成田名璃子「東京すみっこごはん 楓の味噌汁」(光文社文庫

 

シリーズ第四弾。前作から間を置かずに読めて嬉しいです。これで新刊まで
追いついた~。今回は、楓を悩ませる二人の人物と、彼女自身の物語の
三部作で構成されています。
一話目は、SNSで偽りのセレブ写真を投稿し、イイね!を押してもらうことに
執着する読者モデルの瑠衣。
SNSを全くやらない私のような人間からすると、瑠衣みたいなSNSに依存する
タイプは全く理解不能なんですよね。イイね!の数やフォロワーの数が
多いからって何?って思っちゃう。そりゃ、自分が投稿した写真を褒め
られたら嬉しいとは思うけど。それの為に、自分を偽って無理して高い
ブランドものを買ったり、オシャレで高価なレストランに行ったりして、
虚しくならないのかなって思う。それに見合う収入を得ているならば
いいと思うのだけど。でも、瑠衣のように育ちの面でコンプレックスを
持っている女の子は、華やかな世界に憧れても仕方がないのかな。
身の丈に合った生活が大事だと思うんだけどな。
二話目は、家が貧乏で、普通の生活もままならない男子中学生の瑛太
主人公。これはちょっと、読んでいて胸が痛かった。片親家庭で、家に
お金がないせいで、修学旅行にも行けず、高校進学さえ断念しなければ
ならないかもしれない状況に置かれた少年。瑛太は、母親が一生懸命
働いて瑛太を養ってくれていることをとても理解しているだけに、いろんな
ことを諦めているのが切なかった。そんな瑛太がすみっこごはんに
来て、楓たちの説得で進学に向けて勉強し始める気になった時はとても
嬉しかった。すみっこごはんのメンバーみんなが瑛太の受験勉強の
ために協力して、瑛太もそれに応えるべく勉強して成績も上がって。
いい方向に行くと思っていたのに、瑛太にとっては辛い現実が待ち構えて
いました。あんな終わり方は悲しかった。終盤の瑛太の、楓への慟哭が
痛ましかった。瑛太をかわいがっていた柿本さんも辛かったと思うし。
すみっこごはんのお話は、いつも訪れた人を癒やして終わる結末ばかり
だったので、今回の冒頭の二つのお話のラストは意外でした。ただ、
この二つの人物との苦い結末が、ラストの楓のお話に繋がって行く訳
なのですが。
ラストの三話目は、楓の実の父親が楓に会いにやってくるお話。楓は、
どんな人からも好かれて、どんな人も癒やすことが出来た亡き母親と、
瑠衣や瑛太を癒やすことが出来なかった自分との違いに悩んでいました。
そんな時に実の父親が訪ねて来ることになり、動揺しつつも、会う
決心をします。そこで、母親の意外な素顔を知ることになり――。
楓がなぜ瑠衣や瑛太にあんなに親身になっていたのかが、この話を
読んでやっと腑に落ちました。すみっこごはんで母親を知る人々から、
若かりし頃の彼女の立派な振る舞いを聞く度に、自分との差を感じて
コンプレックスに思っていたのでしょうね・・・。楓の父親が楓たちに
したことは許しがたいことですが、新しい命の誕生を楓が素直に喜べる子で
嬉しかったです。楓は本当に良い子に育ちましたよね。楓は十分、母親の
良い気質を受け継いでいると思いました。これからは父親とも良い関係が
築けて行くかもしれませんね。
金子さんと弟子の関係も良かったです。金子さんはやっぱり素敵な
料理人ですね。
ラストで、瑠衣とは再会出来たけど、瑛太が戻って来なかったのは
ちょっとショックでした。彼は本当にもうすみっこごはんに来ない
のかな。それとも、そこの部分は次の巻に持ち越しなのかも?
何にせよ、続きを読むのが待ち遠しいです。



三上延ビブリア古書堂の事件手帖~扉子と不思議な客人たち~」(メディアワークス文庫
ビブリアシリーズ最新刊。映画も近々公開される予定なので、それに合わせて
新章スタートって感じなのかな。
新章っていうより、今回はスピンオフみたいな感じだけど。
前作から7年の時が経ち、栞子さんと大輔は晴れて夫婦になって、娘が
一人誕生しています。娘の名前は扉子。容姿は栞子さんに生き写しで、
人と付き合うよりも本が好きという点もそっくり。幼いながらも難しい本
をすらすらと読み、かなり大人びた言動をするので、全然幼児って感じが
しなかったです。もうちょっと子供らしい可愛げがあってもいいと
思うんだけどな。なんか、栞子さんの思いもそっちのけで、友達いらない、
本だけあればいい、みたいな態度に、若干イラッとさせられました。
まぁ、栞子さん自身がそんな子供だったとは思うけど(苦笑)。
全体の構成としては、過去に体験した、古書にまつわるいくつかのエピソードを、
本に対する好奇心旺盛な娘の為に、その都度栞子さんが語って聞かせる、
という形になっています。六歳の娘に語るには内容が難しいし、悪意のある
エピソードも入っていて、どうなのかな、と思いましたが。
本編で出て来た坂口夫妻や、せどりの志田なんかのその後が読めたのは
嬉しかったですね。忘れちゃってたキャラクターもいましたけど(玉岡君とか、
誰って思いました^^;)。
ラストの話の山田の行動には腹が立ちました。栞子たちへの憎悪なんか、
完全に逆恨みだし。っていうか、自業自得だし。いくら生活が苦しい
からって、犯罪はいけないですよね。結局、最後は皮肉な結末でした。
余計な策略を立てなければ、欲しいものは手に入ったのに。
本編の時も思ったのだけれど、このシリーズでは、悪意を持った古書業界人
が出てくるケースがやたらに多い。高価な古本が絡むと、人間はみんな
邪な気持ちが芽生えるとでもいいたいのでしょうか。基本、扉子と同じで、
私も本好きに悪い人はいないと思いたい派なので、そこはちょっと反発心
が芽生えてしまうのですよね。私自身は、本を通じて、ブログでたくさんの
いい出会いがあった方なので。もうちょっと、古書業界をプラスの面から
描いて欲しいなぁ。本が好きな人に、あまり悪意を絡ませて欲しくないん
ですよね。
ま、それを言ってしまうとお話にならないのかもしれないですけどね。
栞子さんが大輔に頼まれて探していた本の正体は、意外ではありましたが、
言われてみると、なんとなく腑に落ちるものがあるなって感じでした。
扉子に読ませたくない本で、大輔が時々大事そうに開いている本。
シリーズタイトルの意味もこれですとん、と腑に落ちましたね。
それにしても、結婚してもラブラブ感満載な栞子さんと大輔が微笑ましかった
です。大輔が篠川姓を名乗っているとはびっくりでしたが。相変わらず
敬語で話しているところも二人らしくて笑えました。
そういえば、今回取り上げられていた本で読んでいる本は一冊もなかったの
ですが、三話に出て来た佐々木丸美さんの本は多分一冊だけ読んだことが
あります。一時、復刻版が何冊も出てミステリ好きの間で話題になって
いましたよね。昔ながらの端正な本格ミステリで、ゴシックな感じが好み
だった覚えがあります。今回出て来た『雪の断章』は読んだことがない
ので、読んでみたくなりました。今度借りてみようかな。
今回は扉子の活躍があまり出て来なかったけど、これからはどんどん
娘の方も推理力を発揮して行くのかな。何にせよ、またシリーズが
コンスタントに読めるのならば嬉しい限りです。