ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

伊坂幸太郎「フーガはユーガ」/似鳥鶏「そこにいるのに」

みなさまこんばんはー。あけおめ、ことよろでございます。
お正月はいかがお過ごしでしょうか。私は今年も普段とあまり変わらず。
1日に実家に挨拶に行って(甥姪にお年玉+各種お祝いでお金がすっからかんに・・・)、
2日は隣町のデパートで福袋商戦に参戦したくらい。昨日今日は冬休み太り防止
のため、ジムに泳ぎに行ってました。本は全然読めてないや・・・^^;
ま、毎年長期の休みほど本が読めないんだよね。図書館もやっと始まったたし、
予約の本も溜まっているから、引き取りに行って来なくちゃ。
今年もばんばん読むぞー!(と、意気込みだけは立派なのであった・・・だんだん
尻すぼみになっていくと思うけど!)


というわけで今回の読了本は、昨年の終わりにに読み終えた二冊です。


伊坂幸太郎「フーガはユーガ」(実業之日本社
伊坂さん最新長編。風雅と優雅という双子の青年の物語。幼い頃から父親から
虐待されて来た常磐風雅と優雅は、双子ならではの不思議な力を持っていた。なぜか、
誕生日の日にだけ、二時間おきに入れ替わり現象が起きるのだ。彼らは、その力を
利用して、いろんな実験を繰り返して大人になった。そんなある日、優雅は自分たちの
過去のことを仙台市内のファミレスで制作プロダクションのディレクターだという男に
語りだした。幼い頃からの父親の虐待のことや、双子の入れ替わりのこと、入れ替わりに
よって起こった出来事の数々――。男は興味深げに聞いていたのだが・・・。
今回も、緻密な構成によって成り立っている伊坂さんらしい作品です。ただ、今回も
いつも以上に嫌な気分になる描写がてんこ盛り。なんで伊坂さんは、わざわざ人を
痛めつける描写を描くのかなぁと毎回理解に苦しむのだけれど・・・いや、もちろん、
それが作品に必要だから書いてるのはわかるんだけども。それにしても、今回の作品は
生理的嫌悪感がいつにも増してすごかった。双子が父親から受ける虐待の理不尽さにも
うんざりしたけれど、それよりもはるかに、風雅の彼女、小玉が父親代わりの叔父さんから
受ける虐待の描写が酷すぎた。ああいう悪趣味なことに興奮を覚えるタイプの人間が
世の中に存在することはわかるのだけど・・・それでも、やっぱり到底受け入れ難かった。
あんなことをずっとやらされてきて、小玉の精神が破壊されなかったことの方が不思議。
風雅がいたからといって・・・。もう、あまりにも気持ち悪くて、読むのが本当に
辛かったです。
風雅と優雅の虐待の描写も読むのは辛かったのだけど、そちらは、双子のあっけらかんと
した性格のせいか、そこまでキツくはなかったです。双子だからこそ、理不尽な親からの
扱いに対抗出来たし、乗り越えて来られたことがよくわかりました。例の能力のことも
あったしね。
ただ、ハルコさんとハルタくんに、双子の父親が出会ってしまうくだりは、辛かった。
ゲスな人間は、どこまで行ってもゲスなのだということを痛感させられました。優雅が
あまりにも可哀想だった。その後の優雅に対するハルコさんの態度も仕方がないかな、
とは思うけれど・・・いい雰囲気になりかけていただけに、悲しかったです。
結局、双子になぜその能力が備わったのか、その辺りは最後までわからないままでした。
そこは、あまりツッコむところじゃないのかな、と。酷い両親の下に生まれて来て
しまった哀れな双子に神様が与え給うたギフトなのかも。まぁ、双子からしてみれば、
まともな親の下で生まれて来る方がずっと幸せだったでしょうが。
冒頭で、優雅がディレクターの高杉に、『僕が語ることには嘘や省略がたくさんある』
みたいに言っていたので、彼がどこまで本当のことを語っているのかわからず疑いながら
読み進めて行きました。できれば、父親と風雅の事故のことは嘘であって欲しい、と
願っていました。
そして、それに関しては、良い方に騙されていた。でも、最後の最後に、最大級の落とし穴が
隠されていました。まさか、そんな皮肉過ぎる結末だとは・・・。もう少し、スカッとする
結末だったら良かったのにな。あまりにも、悲しすぎる。事件は解決したかもしれないけれど、
失ったものがあまりにも大きすぎて。風雅にとっても、優雅にとっても。二人は、
お互いになくてはならない存在だったのに。最後に奇跡の入れ代わりが起きていたら、また
少し読後感は変わっていたかもしれないけれど・・・そこまで甘くなかった。
作品としては、伊坂さんらしく、とても上手く出来ていると思う。すべてが繋がって
行くラストは、さすがだと思いました。でも、やっぱり読後感はいいとは云えなかったな。
そこがちょっと、残念でした。


似鳥鶏「そこにいるのに」(河出書房新社
似鳥さんのホラー短編集。ホラーだけの短編集は初めてですよね。ページ数にばらつきは
あるのですが、ほぼ前編に亘って登場する『クママリ』という共通ワードがわるので、
短編集としての統一感はあると思います。ホラーとしての出来も多少のばらつきは
あるのものの、読ませるものが多く、読み応えありましたね。『クママリ』は、最初
あまり意識していなかったのですが、何作か読み進めて行くうちに、必ずどこかで
登場するキャラクターとして意識するようになりました。ただ、どの作品でも、
クママリ自体が恐怖を引き起こしている訳じゃないんですよね。ただ、キャラクター
としてあちらこちらに存在しているだけ。それが、かえって気味の悪さを増長させて
いたように思います。得体の知れない恐怖の側には、必ずクママリの存在がある、
みたいな。クママリが近くにいると、不幸が起きるっていう方がいいのかな。その
証拠に、13編中、たった一作だけなぜかクママリが出て来ない作品があるのですが、
その作品だけ、結末が救いのあるものになっているんです。これは、絶対似鳥さんの
計算だと思っているのだけど、私の考え過ぎじゃないですよね?一作だけどこにも
出て来ないのも不自然だし、一作だけほろっと出来る優しい結末になっているのも
不可解だし。意図してやっているとしか思えないのですが。ただ、その作品だけ
浮いてる感じがしちゃうのは否めなかったですけど。
他はどれもぞーっとする結末ばかりで、正直相方が夜勤で不在で一人で読んでた時は、
めちゃくちゃ怖かったです。特に、恐怖の対象が少しづつ近づいて行く系のが怖かった
なぁ。『写真』とか『なかったはずの位置に』とか。でも、『痛い』とか『なぜか
それはいけない』辺りもラストが強烈に怖い。グーグルのやつも地味に怖いし。
一人で読みたくないよーーって感じでした^^;
ちなみに、冒頭の『六年前の日記』は、以前アンソロジーで既読でして、その時は
日記に貼り付けてあったのはクママリのシールじゃなくて、イルカのシールだったん
ですよね。単行本化に当たって、そこだけ改稿したんですね。この短編集が珍しい
のは、その一作以外は書き下ろしだというところです。この短編集のために、他を
全部書き下ろしたとはね。あのイルカのシールの作品を発端にして、こういうホラーだけの
作品集が出来上がるとは驚きでした。
日常に有り得そうな恐怖が題材のものばかりなので、余計に怖かったのかもしれません。
やっぱり似鳥さんは上手いなぁと思わされた作品集でした。