ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

越谷オサム「まれびとパレード」/朱野帰子「会社を綴る人」

こんばんは。直木賞芥川賞、発表になりましたねぇ。まぁ、芥川賞は古市さんが
受賞するかどうか、直木賞はモリミーくらいしか興味なかったんで、今回は
そんなに注目してなかったんですけども。古市さんもモリミーも残念でしたね。
別に古市さんのファンでもないし作品も読んでませんけど^^;モリミーは、
あれで受賞って言われても微妙な気持ちになったと思うんで、まぁ、妥当なのかな、と。
真藤さんは読んだことがないので、どんな作風なのかわからないのですが、
あらすじ読んで、相方が面白そうだと早速図書館予約してました(笑)。私は多分
苦手な作風っぽかったのでスルー予定。


今日は二冊ご紹介。


越谷オサム「まれびとパレード」(角川書店
越谷さんの最新作。4つの作品からなる短編集。いきなり一作目でゾンビが
出て来て、面食らわされたんですが、続く二作目では座敷わらし、
三作目では泥田坊、最後の作品は、奈良の興福寺の四天王に踏みつけ
られている邪鬼たちと、人外の者ばかりが出て来る作品集でした。
タイトルの『まれびと』は、稀人、人ではない者ってことなんでしょうね。
折口信夫は『まれびととは神である』と書かれたようですが。一話目の
『Surfin' Of The Dead(邦題:サーフィン・ゾンビ)』
は、一年前に海で消息を断った男がゾンビになって帰って来るお話。
かなりシュールな設定でしたねぇ。元付き合ってた男がゾンビに
なってるのに、それを受け入れちゃう主人公がなかなかすごいな、と
思いました。目玉が取れちゃうシーンとかもめっちゃシュールだった。
まぁ、一番すごかったのは、最後サバが群れちゃうところだと思うけど・・・。
二話目の『弟のデート』は、引きこもりの弟が家に出る座敷わらしに恋を
してしまうお話。コミュ障の弟が、一生懸命座敷わらしちゃんを楽しませようと
頑張る姿が微笑ましかった。座敷わらしの性質を知っている姉が、
外出したいと弟にねだる座敷わらしをあの手この手で家に留まらせようと
画策するところにちょっとイラっとさせられたりもしたのだけど。
最終的には弟思いのいいお姉さんってことがわかったから良かったの
ですけどね。座敷わらしを家に留めようとするのも、家族を思っての
ことですし。母親にあんな風に裏切られたら、ちょっとひねくれて
しまうのも仕方がないとも思いますしね。
三話目の『泥侍』は、ショッピングモールが建つ予定の県有地に、気味の悪い声が
聞こえると市役所に電話が相次いだので、市役所の職員、大宇巨青空が
調べに行くと、その土地から、下半身が泥で埋まった奇妙な男が現れるお話。
男は、その土地に300年以上前から住んでいる大宇巨作助という郷士だった。
調べてみると、奇遇なことに、青空の先祖であることがわかった。青空は、
その土地は県有地でショッピングモールが建つ予定な為、出て行って欲しいと作助に
頼むのだが――。
作助さんのキャラが良かったですね。作助さんの存在を保護しようと
頑張る青空の上司、並中さんのキャラも好きでした。若い市長には全く
好感持てなかったですけど。悪事がばれて辞職したのには、胸がすっと
しました。最後は切ない結末になると思いきや、作助さんにとって
最高の結末になって良かったです。それにしても、『青空』と書いて
『ふぁいん』って・・・どんだけDQNネームなんだ^^;本人気に入ってる
みたいなところがずっこけましたけど(苦笑)。普通だったら毛嫌いすると
思うけどなぁ。
最後の『ジャッキーズの夜更かし』は、興福寺薬師如来に仕える四天王に
いつもは踏み潰されている邪鬼たちが、一夜だけ開放されて外で気晴らしするお話。
四匹のキャラが可愛らしくて、憎めないところが良かったですね。鹿にビビリながらも
立ち向かって、結果惨敗するところが笑えました。そのにっくき鹿のピンチを救おうと
必死になるところも愛らしかったです。真打ちみたいに現れた薬師如来がかっこ
よかった~。
どのお話の主人公も、人外の者を自然と受け入れていて、共存している
ところが良かったです。まれびとたちのキャラ、それぞれが良かったですね。
面白かったです。


朱野帰子「会社を綴る人」(双葉社
新聞広告で面白そうだったので予約してみました。基本、お仕事小説が大好き
なんですよねー。さくさく読めて、とても面白かったです。
何をやってもダメな32歳の派遣社員の紙屋くん(仮名)が、奇跡的に小さな
製粉会社で正社員として雇ってもらえることになったところから物語はスタート。
なぜ名前が仮名なのかというと、この作品自体が紙屋くんが綴った文書という
体裁をとっているからです。人物が特定されないよう、登場人物はほぼすべて
仮名が使われている、という訳。なかなか面白い構成だなぁと思いました。
一応、ラストで本名も明らかになるのですが。
んで、製粉会社の正社員としてスタートした紙屋くんでしたが、当然の如くに
仕事はてんで何をやっても失敗ばかり。自分でも、なぜこんなに仕事が出来ない
のかわからず、落ち込むばかり。でも、そんな紙屋くんでも、唯一文章を
綴ることだけは得意でした。そこで、紙屋くんは、いろんな文章を綴ることで、
この会社に貢献しようと考えます。まずは東京本社内の社員に回す予防接種
を促す社内メールから始まり、老舗の製パン業を営む鶴屋製パンに提出する営業資料、
社内の安全標語コンテストに出す安全標語、社内会議の議事録、そして最後に
社史。そうした紙屋くんの文章が、少しづつ会社の人々に影響を及ぼして行く
・・・と、そんなお話です。
仕事は何ひとつ満足に出来ないくせに、文書でみんなの心を動かす紙屋くんを
敵対視して、なにかとつっかかって来るのが開発室のエース、榮倉さん。
榮倉さんがなぜ紙屋くんを目の敵にするのかというと、彼女が密かに会社の
ことをブログで記事にして、たくさんのコメントをもらうことを趣味に
しているから。とりわけ、紙屋くんが来てからは、紙屋くんの失敗や愚痴
を記事にすると、アクセス数が増えてコメントがたくさんつくことから、
紙屋くんに関する記事ばかりをあげるように。この榮倉さんのキャラは、
正直最後まであまり好きになれなかったです。ブログに悪意のある文章ばかりを
載せて、アクセス数やコメント数を増やそうとするところも嫌だったし、
自分の文章と紙屋くんの文章を比較して紙屋くんを貶そうとするところも
いやだったし。まぁ、素直に紙屋くんのことを認めるのが悔しかったの
だとは思いますが・・・。ブログでコメントがたくさんつくと嬉しいとか、
そういう部分は、私もブログやってるのでわからなくもなかったですけど。
でも、他人を貶めてまでアクセス数を増やしたいとは思わないです。アクセスを
増やすために書きたくないことを書くくらいなら、やらない方がましだと思う。
最近流行りの炎上商法みたいな感覚なのかなぁ。理解不能
紙屋くん自身に関しては、自分のダメなところを素直に認めていて、
自虐も多いけれど、自分の出来ることを一生懸命頑張ろうとするところが
好感持てました。ただまぁ、こんなに普通の仕事が出来ない人、実際
一緒に仕事するとなったら迷惑なだけかもしれないですけど・・・^^;;
ラストはちょっと切なかったです。紙屋くん、もうちょっと頑張って
ほしかったなぁ。お兄さんや義理姉の提案という最終選択も残されて
いるけれど、彼には彼のやるべきことがもっとあるんじゃないのかな。
あと、一番気になったのは、この文章を読んだ榮倉さんがその後どう
反応したのかっていうところ。敢えて書かなかったのでしょうけど、
やっぱりそこは知りたかったなぁ。二人はその後もう会うことはない
のかな。紙屋くんは、なんだかんだ言って、榮倉さんのことが好きだった
のだと思う。ま、叶わない恋なのは間違いないでしょうけどね。
想像したのとは大分違ってましたが、こういう切り口のお仕事小説も
あるんだなぁと新鮮でした。