ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

若林正恭「表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬」/我孫子武丸「凜の弦音」

こんばんは。本屋大賞候補が発表になりましたねー。私は読んでない作品ばかりだけれど、
昨年のマイベストランキング1位と2位の作品がどちらも候補に入ったのは嬉しかったです。
瀬尾さんは入るんじゃないかなーと予想していたし。モリミーは直木賞に続いての
ノミネートになりましたね。今度はどうでしょうね。発表前に未読の作品は少しでも読みたい
ところですが、候補に入ったことでもうどれも予約いっぱいだろうな。
さて、どうなりますかね。発表が楽しみです。


今回は二冊ご紹介。


若林正恭「表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬」(KADOKAWA
オードリー若林さんのキューバ旅行記。出た時ずいぶんと世間の評判が良かったし、
確か何かのエッセイの賞を獲ったりもしているので、回って来るのを楽しみに
していました。若林さんの文章自体が好きですしね。
2016年の夏休みに5日間のキューバ旅行をした若林さん。その時に体験した
出来事を綴って行く旅行エッセイです。御本人自らが撮った写真もたくさん掲載
されています。その時々で経験したこと、感じたことを素直に文章に綴られていて、
とてもおもしろかったです。キューバは未知の国ですが、その国の独特の雰囲気や
空気感が伝わって来て、自分もキューバを旅しているような気持ちになりました。
元祖人見知りの若林さんですが(一応卒業したとはおっしゃっているけれど)、
せっかく外国に行くのだから、とキューバの土地や人に合わせて、積極的に
コミュニケーションを取ろうとしたり、必死に明るく振る舞おうと頑張るところに
好感が持てました。郷に入っては郷に従えの精神、海外に行った時は大事だと思う。
何度もくすりと笑える場面があったのだけど、中でも印象的だったのは、
市内観光をしてくれたキューバ人のガイドが若林さん以上に人見知りだった
ところ。キューバ人なのに!観光ガイドなのに!ひ、人見知りって!(爆)
いや、そりゃ、キューバ人だって明るい人ばかりじゃないのはわかるけども、
でも、現地ガイドをやろうと思う人だったら、大抵人とコミュニケーション取る
のが好きな人だと思うでしょうよ。
若林さんが、彼となんとか楽しくコミュニケーションを取ろうとして、観光中も
いろいろと話しかけるんだけど、どうにもこうにも盛り上がらない。何を
言っても距離が縮まらない二人。でも、ある場面で、ついにガイドの彼の
ツボに入る出来事が・・・!その過程がめっちゃ可笑しかったです。しかし、
彼がなんでそこで爆笑のツボに入ったのか、その辺りはちょっと謎でしたが。
キューバ人って不思議。
そして、その後で若林さんは日本人女性のガイドさんにも観光案内をしてもらう
のだけれど、そちらの女性の方がよっぽど陽気で明るい人だったという(笑)。
今回読んでいてとても意外だったのは、キューバ中南米の国の中では群を抜いて
安全な国だというところ。なんとなく危険そうなイメージがあったので、驚きました。
あと印象的だったのは、やっぱり街中の至るところにカストロチェ・ゲバラ
いった革命家の影響が残されているところ。キューバという国はやっぱり、革命
によって培われて来た国なんだなぁと再認識させられました。
社会主義の国ということで、食料や石鹸やタバコといったいろんな品物が、少額のお金で
交換出来る配給所があったり、貨幣に現地人用と観光客用があったりと、日本とは全く
違う国の制度に度々驚かされました。
カリブ海で浮かれる若林さんも面白かったな。でも、外国人だからなのか、理不尽な目
にも遭うのだけれど。カリブ海の碧い海、私も一度でいいから見てみたい~~。
でも、この旅行エッセイが一番評価されているのは、若林さんがこの旅に出た理由が
わかる終盤の部分だと思う。まさか、こういうエッセイで、こんな風に心を揺さぶられる
ことになるなんて。若林さんが、こんな想いで旅に出ていたなんて。とても驚きました。
突然、若林さんがもうひとりの若林さんと対話する場面が出て来るから、一体どうした?
と思っていたのだけれど・・・。この、エッセイとしての構成の巧さにも唸らされました。
やっぱり、若林さんって頭のいい人だ。社会性を養う為、個人的に家庭教師を雇って勉強
されているというのにも感心しました。地頭がいいのだと思う。飲み込みも早そうだし。
やっぱり若林さんの文章が好きだな、と改めて思わされました。
単なる旅行エッセイというのではなく、最後に思わぬ感動が得られる作品でした。
面白かったです。


我孫子武丸「凜の弦音」(光文社)
我孫子さんの最新作。高校の弓道部を舞台にした青春ミステリ。ただ、どっちかというと、
ミステリよりは弓道をテーマにした青春小説の割合の方が多いですね。ミステリ的な
面白さを期待すると、ちょっと肩透かしになるかもしれないです。三話目辺りまでは
ミステリ色も結構強かったのですけど。後半はほとんどミステリ要素が出て来なくて、
個人的には物足りなさを感じました。
我孫子さんの奥様が弓道をやってらして、我孫子さんご自身も少し経験してることから、
弓道をミステリに生かせないかと考えついた作品らしいのですが・・・。正直、そこまで
両者が巧く噛み合っているようには思えなかったかなぁ。無理にミステリを絡ませなくても
良かったのかも・・・。ただ、ミステリ部分が全くない弓道青春小説を我孫子さんが書く必要性
も感じないのは確かなのですが^^;
弓道の奥深さはとても伝わって来ましたけどね。
弓道一直線の主人公・凜の、弓道に対する情熱や真摯な思いには胸を打たれました。
それだけに、彼女の周りをうろちょろする放送新聞部の中田には、ちょっとイラっと
させられましたが。ずっと密着されているうちに、なぜか凜が彼にほだされて(?)行く
ところがちょっと理解出来なかったのだけど。私だったら、自分の動画をSNSで上げられ
たら、絶対イヤだけどなぁ(一応、本人の許可は取っているのだけどね)。まぁ、悪い人
じゃないのはわかりますけども。でも、練習中もずっと撮影されたりしたら、気が散ったり
しないのかなぁ。慣れたら平気なものなのか。
真剣に弓道をしている女子高生の姿は、確かに絵(画?)になりそうですけどね。
後半、他校の弓道女王、波多野との美少女ライバル対決の場面は、何かアニメかラノベ
設定のようでした。ちょっと波多野のキャラは作り過ぎな感じがしましたね。
ミステリ仕立てにするなら、ちゃんと凜の弓道名人は名探偵』という部分をもう少し
全面的に押し出すべきだったんじゃないかなーと思いました。後半の作品では名探偵
って設定はどこへやら、単なる弓道探求小説になっちゃってたんで。そこの部分が
ちょっと残念でした。