ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

青崎有吾「早朝始発の殺風景」/辻村深月「傲慢と善良」

どうもこんばんは。平成もあと二週間ちょいで終わりですね。30年って長いようで
あっという間だったような。
平成が終わるのと平行して、ヤフーブログも終わってしまうのか・・・。
記事アップ出来るのっていつまでなのでしたっけ。いい加減、次のことを考えねば、と
思うのだけれど、なかなか。いちおう、はてなブログは開設してあるんですけど、
一個記事上げて(こっちであげたやつをコピーしただけだけど)、そのまま放置中。
お引越しのこととか考えると、気が重くなるなぁ。みなさん、もうほぼ移行先も
決めてらっしゃるみたいですし。取り残されてるなぁ・・・。どうしよう・・・。


読了本は二冊です。

 

青崎有吾「早朝始発の殺風景」(集英社
お仲間さんの評価が高い青崎さん。シリーズものが多いのでなかなか手に
取れずにいたのですが、これはノンシリーズの新刊みたいだったので、
予約してみました。
うん、これは良かった。ノンシリーズの短編集ではあるんですが、
エピローグで各作品が微妙に繋がるちょっとしたリンクもあって、見事に
まとまりのある短編集になってます。
一作ごとの出来もなかなか。ほろ苦い青春の1ページを描いた学園ミステリ。
どれも気に入りました。キャラもそれぞれに良かったですしね。

 

各短編の感想を。
『早朝始発の殺風景』
殺風景がそういう意味だとは・・・!まさか、このタイトルで人を表して
いるとは誰も思わないよなぁ。いい意味で裏切られた。
加藤木くんと彼女の、早朝始発電車内での淡々としたやり取りが良かったです。
お互いに隠していることを推理し合うという。彼女のラストの不穏な発言に
ぞっとしたのですが、その続きがエピローグで読める形になってます。
二人ともいいキャラなんで、シリーズ化してもいいくらいだと思う。

 

『メロンソーダ・ファクトリー』
仲の良い女子三人組が、ファミレスでドリンクバーのドリンクを飲みながら、
クラスTシャツの絵柄を決める会議をする話。仲がいいと思っていた詩子が、
自分の考えたTシャツの絵柄を選んでくれなかったことにショックを受ける
主人公の真田の内面心理がリアル。その理由にはなるほど、と納得出来る
ものがありました。まぁ、ミステリではよく使われるやつですね。私は
現実にこれの人に出会ったことがないのだけれど、多分知らないだけで、
世間には一定数いるんだろうな。

 

『夢の国には観覧車がない』
部活の引退記念に、フォークソング部の部員たちで地元千葉の幕張ソレイユランドに
やってきた。しかし、思いを寄せる葛城ではなく、なぜか後輩の伊鳥と
観覧車に乗る羽目になった寺脇。伊鳥の目的とは何なのか。
ちょっぴりBLより?伊鳥君のキャラがいいですね。先輩想いの。でも、表向きの
理由よりも、実は単に寺脇と一緒に観覧車に乗りたかっただけだったりして
(ついつい邪推をしてしまう・・・てへ)。

 

捨て猫と兄妹喧嘩』
両親が離婚してバラバラになった兄妹が、妹が拾った猫を理由に再会する話。
猫を捨てた人物に関しては、なんとなく、もしかしてそうかな、とは想像
してました。ただ、偶然にも程があるとも思いましたけど。どんな理由が
あっても、飼っていた猫を公園に捨てることには嫌悪しか覚えません。
絶対にやってはダメなやつ。今回は、良い子に拾われてよかったです。
でも、一番腹が立ったのは、家族である猫を捨てろと言った人物ですけどね。
猫を通して、兄妹の交流がまた繋がったところは良かったです。

 

『三月四日、午後二時半の密室』
クラスで孤高の存在、煤木戸さんが、風邪で卒業式に出られなかった。
クラス委員の草間は、卒業証書とアルバムを届けに煤木戸さんの自宅に
行くことに。風邪で寝込んでいた煤木戸さんは、庭に隠してある合鍵を
開けて部屋まで届けに来いという。でも、煤木戸さんは、本当に風邪を
引いて学校を休んだのだろうか――?
クールで大人びた煤木戸さんの本当の姿に微笑ましい気持ちになりました。
見抜いてくれるクラスメートが、最後の最後に現れたことは、彼女にとって
良かったと思う。二人の関係が、卒業後も続くといいなと思いました。

 

エピローグは、一話目の『早朝始発~』と繋がっています。始発列車で
やり取りを交わした二人が、その後何をするのか。その結果何が起きるのか、
が明らかになります。本当にやったのか、と呆れつつ、さすが彼女だ、と
感服する気持ちにもなりました。結局、加藤木くんも付き合ったんですねぇ。
なんか、お人好しというか。彼女のことが放っておけなかったんだろうな。
二人が今後も繋がって行けそうなラストで、嬉しくなりました。


辻村深月「傲慢と善良」(朝日新聞出版)
辻村さん最新長編。なかなかのボリュームですが、相変わらずリーダビリティ抜群
なので、のめり込んで読んでしまいました。今回は、男性目線から見た婚活が
テーマなのかな。こういうテーマって、女性目線のものがほとんどだから、
違う意味で新鮮だった。男性側の婚活事情も描かれているし、自分が結婚する
前後のこととか思い出して、共感出来たり反発覚えたり、いろんな感情が
芽生えるお話でした。
婚活がテーマといっても、基本的には結婚直前に失踪した婚約者を、主人公の
架が捜して、足取りを追って行くお話。婚活アプリで出会った二人だったので、
彼と出会う前の彼女がどういう経緯で婚活アプリを使うに至るのか、その
辺りの事情を探って行くにつれて、彼女の婚活事情が明らかになっていく、
という流れ。
婚約者である真実が失踪する少し前から、架は彼女がストーカー被害に遭っていた
ことを聞いていました。そして、失踪直前に彼女からの緊迫感溢れる声で、
ストーカーが彼女の家に現れたという電話も受けていた。電話を受けた時、
架自身は友人との飲み会中で、慌てて彼女の住むアパートに駆けつけ、
事なきを得たことを知りほっとする。しかし、その日からしばらくして、
ある日突然、忽然と彼女は姿を消してしまう。アパートの部屋に行っても
ドアは閉じたままだし、携帯は電源が入っていない。焦る架は、彼女の母親に
電話して、大家に掛け合ってもらい、アパートの部屋を開けてもらう。しかし、
彼女はいない。ストーカーに攫われたのではないかと恐れる架は、警察に訴えるが、
結局警察が出した答えは『彼女は自ら失踪したのだろう』という信じられない
ものだった。警察が頼りに出来ないと痛感した架は、自らで探し出すしかないと
決意する。そして、ストーカーが彼女の地元、群馬で出会った人なのではないかと
言っていたことを思い出し、群馬へ向かうことに――。
ストーカー被害に遭った女性が突然いなくなったというのに、自分から失踪したと
決断を下した警察には呆れたし、憤りを覚えました。なんでそういう判断に
なるのか理解不能でしたし。でも、あとから考えると、警察は警察で、彼女の部屋や
過去の言動を調べた上でのことだったのでしょう。あの結末を知って、納得が
行きました。
正直、主人公の架のことも、ヒロインの真実のことも、あまり好感は持てなかったです。
どちらも、タイトル通り、婚活でも性格でも、善良さと傲慢さを兼ね備えている人物
だと思います。まぁ、婚活になると、大抵誰もがどこかしら傲慢なところが出るのは
仕方がないと思う。だって、自分の一生がかかっているのだし。真実が地元で
入っていた結婚相談所の小野里の言葉は、かなり婚活の本質をついていると思いました。
婚活になると、ほとんどの人が自己評価が高く、傲慢だ、というところ。相手に
ピンと来ない理由は、相手につけている値段や点数が自分と釣り合っていないからだ、
というところも。確かに、そうだろうなーと思いました。真実が小野里から紹介された
二人の男性に対する評価も、傍から見ると、ものすごい傲慢にしか思えない。何様だって
思う。でも、本人の立場に立って考えると、彼女の評価もわからなくないんですよね。
何か、違う。何かピンと来ない。婚活だけど、やっぱり結婚は恋愛感情が芽生える人と
じゃなきゃダメって思っちゃうんですよね。自分にはもっといい人がいる筈、と
思ってしまう。簡単に妥協は出来ないっていう。
架の婚活での内面感情も、やっぱり傲慢でした。元カノを引きずって、彼女と
婚活相手をいちいち比べてしまう。誰と合ってもピンと来ない。なんとなく
良いかと思って付き合い始めた真実につけた点数も、結婚したい度70%。
前の彼女と比べて妥協しているからこその、点数。でも、誰だって、新しく
付き合った彼氏彼女とその前に付き合っていた彼氏彼女を比べてしまう部分って、
必ずあることなんじゃないのかな。だから、誰だって恋愛や結婚に対しては
傲慢になる部分があるってことだと思う。本書を読んで、随所でそういう感情を
覚えました。二人とも、善良な部分も傲慢な部分もある。読んでいて痛々しいと
思うところも多かったけど、共感出来る部分も多々ありました。もちろん、全く
共感出来ないところもありましたけれど。
今回読んでいて、一番許せなかったのは、架の女友達。真実の嘘を架に伝えて、
結婚をぶち壊そうとしたところです。確かに、真実がついた嘘は人として
どうかと思うレベルのものです。友達として、あの子はやめた方がいいと
アドバイスしたくなるのもわかる。でも、彼女を選んだのは架本人なのだから、
周りがとやかく言うべきじゃない。真実の嘘を伝えたことで、本当に破談になる
かもしれないのに。人の一生を左右するようなことを、なんで簡単にやってしまえる
のか。彼女たちの方がよっぽど、傲慢だし醜悪だと思いました。
真実の母親にもムカついたなぁ。真実との共依存としか思えない関係も
気持ち悪かった。でも、最近はこういう母娘が増えているのじゃないかなぁ。
子離れ出来てない母親の言動にはぞっとしました。娘を自分の思い通りに支配する
ことが彼女の幸せなんでしょうね・・・。
最悪の事態も想定していましたが、後半はまさかの展開。そういうからくりが
あったのか、と驚きました。冒頭の、真実が架に電話をかけるシーンがああいう
意味を持っていたとは。正直、真実の言動には引くところも多かったですが、
崖っぷちの彼女の心理状態を思うと、仕方がないところもあったのかな、とも
思えました。彼女の行動には嫌悪しか覚えないけれども、そのきっかけに関しては、
同情すべき点もあるし。最終的には、辻村さんらしいラストで良かったです。
ある意味、まさかのどんでん返しだったかも。悪い結末しか想像していなかったから。
架が、真実の嘘を知っても、それでも彼女を追い求めたところは意外でした。
架自身も崖っぷちだったからかもしれないけど。それに、彼女の婚活事情を知って、
自分を顧みて、いろいろと反省し、成長したおかげかもしれないですね。
途中読んでいる間は、イライラムカムカすることが多かったけれど、最後は
清々しい終わり方で良かったです。