ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

鈴木るりか「さよなら田中さん」/似鳥鶏「育休刑事」

こんばんはー。台風襲来でどうなることかと思いましたが、東京はさほどの雨も
降らず、さらっと行ってしまってちょっと拍子抜けでした。今日仕事だったんで
どうしたもんかと戦々恐々としていたのですけどね。
まぁ、取り越し苦労で良かったです。雨で出勤は一番気分最悪だからなぁ。
ところで、先日性懲りもなく、またメダカを買いに埼玉まで行ってしまいました。
メダカ本体よりも、交通費の方がよっぽど高かったという・・・^^;
でも、良い子たちが買えてよかったです。とりあえず、今のところ元気に
泳いでくれています。今度は長生きしてくれよ~・・・。


読了本は今回も二冊ご紹介。


鈴木るりか「さよなら、田中さん」(小学館
少し前に、著者の二作目である『14歳、明日の時間割』を読んで、その
才能の素晴らしさに驚いて、すぐさま一作目の本書を予約しました。
中学生作家衝撃のデビュー作ということで結構話題になっていたので、
予約数もそれなりに多く、大分回って来るのに時間がかかりました。
正直、やっぱり、この方はすごい、と思わされる作品でした。これが中学生の
作品なの!?と驚きしかない。
主人公は、シングルマザーの母親に育てられる小学六年生の花実。
母親は、花実を育てる為に朝から晩まで肉体労働で働いているが、
生活は常に苦しく、親子二人倹しく暮らしている。
お金はないけど、真っ直ぐに育っている花実と、小さいことを気にせず、
いつも明るいお母さんのキャラクターが抜群に良いです。
貧乏なのに、全然悲惨な感じがないし、花実も全く卑屈な性格じゃない。
むしろ、貧乏であることを楽しんでいる風さえあるというか。ちょっとした
贅沢を幸せに感じて感動したり(普通の暮らしでは全く贅沢じゃないこと
なのだけれど)。
市内の銀杏を拾えるスポットを探して二人ででかけて行って、ひたすら
銀杏を拾いまくり、それでしばらくお腹を満たしたり。普通は、お金がないと
心までひもじくなったりして、卑屈になったり世の中を恨んだりしがち
だけど、この母娘には全くそういうところがなくて、あっけらかんと
今の人生を楽しむようなたくましいところがすごく良かった。
ただ、そんな花実にも、やっぱりお金がないことで悲しい思いをする
こともある。普段一緒につるんでいる友達二人が、花実に内緒で
ドリーミングランド(ディ○ニーランドみたいなところね)に行く予定
を立てているのを知って、つい見栄を張って一緒に行くと言ってしまい、
そのお金をどうやって工面するか悩んだ挙げ句、自動販売機の周りに落ちている
お金を探し回る羽目になったり(結局大して拾えず終わる。そりゃそうだ)。
お金がなくて、いろんなことを諦めて来た花実だからこそ、
一話目では、母親の再婚話に飛びついたりする。相手の男性が、
断りの返事を寄越すと、自分のせいだと落ち込み、母親の為に
身を引いて施設に行こうとまで思いつめる。ほんと、いい子なんだよね。
花実のキャラが大好きになりました。
その一話目のラストでは衝撃の事実が判明して、ちょっとした
ミステリー小説なみのオチになっている。これにも驚かされました。
ミステリーもいけちゃうのか、鈴木さん!
構成もよく考えられていて、ラスト一編だけは花実に思いを寄せる
同級生の男の子からの視点で描かれています。これがまた、他人から
の視点から語られることによって、花実母娘の人柄がより魅力的に
浮き彫りにされるお話になっていて、脱帽。タイトルの意味も、
ここで初めて理解出来ました。一つ一つのエピソードの描き方が
とてもリアルだし、心情も含めて文章表現の上手さに唸らされました。
ほんとにほんとに、これが中学生の文章なの?って思うくらい。
普通に、大人の作家が書いたと言われたとしても、全然疑わなかった
と思う。やっぱり、デビュー作からその才能は健在だったんですね。
個人的には、花実母娘が住むアパートの大家の息子、賢人と花実の
やり取りが好きだった。賢人は無職の引きこもりで、どうしようもない
青年なのかと思いきや、意外と真面目で花実の悩みに真摯に応えてくれる
ところが良かった。賢人が植えた桃の種が、いつか芽を出して成長
するといいな、と思いました。
やっぱり素晴らしい才能を持った作家さんだと改めて思わせてくれる
素敵な作品でした。面白かった。早く新作も書いていただきたいな。



似鳥鶏「育休刑事」(幻冬舎
似鳥さん最新作。タイトル通り、育休中の刑事が主人公。でも、育休中にも
関わらず、なぜか次々と事件に巻き込まれ、生まれたばかりの赤ちゃんを連れて
捜査の手伝いをしなければいけない状況に追い込まれる、というお話。三作の中編が
収録されています。
一作目から赤ちゃんごと強盗事件に巻き込まれたりして、ほのぼのタイトルの割に
ヘビーな内容から始まるんですが、二作目では殺人未遂事件に巻き込まれ、ラスト一作
では爆弾テロ事件に巻き込まれる羽目になるという、だんだんと事件のスケールが
大きくなって行く辺りの流れはいつも通り。似鳥さんって、最後は必ずパニック映画
のような展開にしたがりますよね。そこまで風呂敷広げんでも、っていつも思うん
だよね。まぁ、パニック映画とかパンデミック映画みたいなのがお好きなんでしょうけど。
とはいえ、ミステリとしても面白かったですが、それ以上に育児あるあるがリアルなのが
良かったですね。すごい真に迫ってるなぁと思ったら、案の定、ご自身の経験が
大いに生かされてらっしゃるそうで。お子様が生まれたところからこの設定が生まれた
そうです。どうりで主人公の春風の育児心理にリアリティがある訳だ。特に、息子の
蓮くんの夜泣きが酷くて大変だった場面の、春風の一瞬の狂気の描写はとてもリアルだった。
育児ノイローゼになるお母さんたちもきっとこういう感情は身に覚えがあるんだろうな、
と思えました。子供のいない私にはなかなか理解し難い感情ではあるんですが。きっと、
お子さんがいる方なら、春風の心理描写に共感しまくりなんじゃないかな。もちろん、
一作通して、大変なこと以上に我が子に対する愛情が勝るってところもきちんと伝わって
来ましたし。
ミステリ的には、二作目の瞬間移動する車の話が面白かった。不可能を可能にする
方法の真相を知って、なるほど、こういうからくりだったのか、と腑に落ちました。
ただ、ラストの爆弾テロの話は、狙われた課長が、わざわざ人の多いショッピングモール
に出かけるところに首をかしげてしまった。そんな場所で万が一のことがあったら、
犠牲者だって半端じゃない数出てしまうのに。休暇を家族と過ごすとしても、もっと
自然が多い場所とか、被害を最小限にするような場所を選ぶべきだと思うんですが。
確かに、犯人としては人が多い場所の方が狙いやすいのだろうけど。おとり捜査だと
しても、その辺りのやり方に疑問を感じずにはいられなかったです。
課長の正体は、実は最初の方に予想がついてしまった。やっぱりそうだったかーって
感じでした。最初から、ちょこちょこ怪しい伏線は出て来ていましたからねぇ。
こういう仕掛けは似鳥さんらしいですね。
何より、蓮くんが愛らしくて、春風が慣れない育児におたおたする姿が微笑ましかった
です。何かと事件に巻き込まれてしまう蓮くん、今後の成長がちょっと心配になりつつ、
楽しみです。優秀な両親に育てられてどんな子供に育つのかな。
そして、途中に出て来る注釈とあとがきはいつもと相変わらず面白かったです。