ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

葉真中顕「Blue ブルー」/東川篤哉「ハッピーアワーは終わらない かがやき荘西荻探偵局」

こんばんは。昨日今日と、少しだけ晴れ間が覗きましたが、相変わらず毎日
ぱっとしない梅雨空が続いてますね。その上台風まで襲来する始末だし。
また西日本に大雨が降るかもしれないとのことですし、被害がないことを
祈ります。


読了本は二冊。また性懲りもなく予約本ラッシュがやってきそうで、
戦々恐々としております。今月は人気作家の新刊ラッシュだったからなぁ。
発売日に予約して一番手~二番手で回って来てくれるのは嬉しいのだけれど・・・。
伊坂さん、宮部さん、東野さんの新刊が一気に回ってくるもよう。
その前に池井戸さんのが回って来ているし。意地でも読み切らなくては。


葉真中顕「Blue ブルー」(光文社)
葉真中さんの最新長編。先に述べたように予約本ラッシュ中でして、結構分厚いので
借りたはいいものの、スルーしようか若干迷ったんですが、読み始めてみたら
やっぱりリーダビリティがあるので、最後まで読まずにはいられませんでした。
平成の初日に産まれ、平成が終わる日に人生を終えたブルーという青年を軸に、
平成の世に蔓延る様々な社会の闇を描いたクライムノベルです。冒頭に衝撃的な
一家惨殺事件が起きるところから物語は始まります。平成一六年のクリスマスの
翌日、青梅市の一軒家で発見された死体は5つ。この家に住む夫婦二人と、次女、
そして離婚して出戻った長女とその5歳の息子。警察の捜査の末、事件は引きこもり
だったという次女による犯行として、被疑者死亡で幕を下ろした。なぜなら、
次女だけが死亡推定時刻が半日もずれており、お風呂場で薬物を服んだ上で
心臓麻痺を起こしたものだったことに加え、犯行に使用されたと思しき包丁にも
次女の指紋がついていたからである。
しかし、事件を担当した藤崎は、捜査の過程で次女が引きこもりではなかった
という情報を得る。更に捜査を進めると、彼女に子供がいたことが判明し、
被害者の爪に犯人と目される次女のものではない皮膚が残されていたこともあり、
犯行当時、現場にはもうひとりの人物がいたのではないかと思い始める。
しかし、ある事情により、事件の捜査はそのまま打ち切られてしまい、藤崎は
警察官でいることに虚しさを覚え始める。そのまま結局気持ちが回復することはなく、
数年後、ある決意を秘めて警察を退職してしまう。
そして平成が終わる間際の四月、東京多摩市のD団地で、身元不明の男女の死体が
発見された。二つの事件の繋がりとは――。
無戸籍児童、児童虐待外国人労働者問題、児童ポルノ――平成で話題になった
社会の闇問題がこれでもかと出て来て、気が滅入る場面が多かったです。合間に
ちょこちょこ挟まる平成の出来事やヒットソングなどは懐かしい気持ちになれ
ましたけれど。現実の出来事とフィクションを上手く混在させて、リアリティのある
物語に仕上がっていると思います。
ブルーという少年の身の上には同情すべき点がとても多い。母親があんなだと、
子供はただただ悲惨な人生を歩まざるを得なくなってしまう。ブルーの母親の
言動には、ただただ嫌悪と怒りしか覚えなかった。自分の子供に対して、なぜ
あんなことができるのか。でも、どんなに酷い母親でも、やっぱり子供にとっては
無条件に愛する存在なんですよね。母親にどんなに邪険にされてもめげずに
母の愛を求めてすがりつく、ブルーの健気さが可哀想でならなかったです。
とても読み応えはあったのですが、クライマックスにはもう一捻り欲しかったなぁ。
事件の真相はほぼ思った通りだったし、冒頭のブルーに関する記述も、なにか
最後にドンデン返しがあるのではと期待していただけに、特に何の仕掛けも
なかったことで拍子抜け。『絶叫』の時のような、カタストロフが感じられ
なかったので、ちょっと残念だった。葉真中さんには、やっぱり最後であっと
言わせてもらいたいと思ってしまうので(この辺り、私の中では道尾さんと
同じようなタイプの作家と言えるかも)。
最後の最後まで救いがなかったのが悲しかった。ブルーの人生って一体何だった
のだろうか。せめて、十数年気心が知れた仲間と一緒に穏やかに暮らせたこと
が救いといえば救いなのかな。もっと、ブルーの内面を知りたかったです。
エピローグで、語り手の人物はブルーを憎んでいないけれど、もうひとりの方
は憎んでいると書かれていたのが意外でした。逆ならわかるのだけれど。
親にあれだけの酷い虐待を受けていたのは、もうひとりの人物の方だったのに。
それでも、やっぱり親は親なんでしょうかね・・・感謝してもいいくらいだと
思ってしまうのは、やっぱり当事者じゃないからなんだろうな。
平成十六年の一家惨殺事件の後で樺島香織に引き取られたブルーが、どうやって
生きていたのかが気になります。戸籍がないから学校もいけないだろうし。
学校に行っていない子供がいたら、周りに通報されたりしないのかな、とか
気になる点はいくつもありますけど。香織ならその辺、うまくやっていたの
かもしれないですけどね。ブルーがそのまま、ひねくれずに育ったのは、
香織のおかげなんでしょうね。そのまま、香織と友人のマルコスと穏やかに
暮らしていけたら良かったのにな・・・。
ブルーは重い犯罪を犯した犯罪者ですが、ベトナム人のリエンにとっては間違いなく、
救世主だったと思います。彼女にとって、最後までブルーが『いい人』のまま
だったのは救いに思えました。
格差社会の闇を浮き彫りにする力作だったのは間違いないと思います。
気が滅入る描写もたくさんありましたが、いろいろと考えさせられる作品でした。


東川篤哉「ハッピーアワーは終わらない かがやき荘西荻探偵局」(新潮社)
東川さん最新作。かがやき荘の貧乏アラサー女子三人組が探偵役を担うシリーズ
第二弾です。といっても、読み始めるまですっかりシリーズものだったことを
忘れていましたけど。読み進めて、そういえば、このアラサー女子たちのお話
前に読んだよなぁと思い出した次第。
作風はいつも通りのユーモア本格ミステリ。女子三人組のキャラがアホでいいですね
(褒めてますよw)。ツッコミ所も満載だけど、トリックは今回も面白かったです。
ただ、三話目のありふれた密室のトリックには拍子抜けでしたけど。ありふれ過ぎ
だろッとツッコミを入れたくなりました・・・って、完全にそのツッコミを狙って書かれて
いる気がしますね、コレ。そうだとしたら、東川さんの狙い勝ちと云えるのかも。
葵のトリック解説の前に披露された美緒の推理にもツッコミは入れたくなりましたけどw
トリック的には、二話目のビルの谷間のやつが一番面白かったかな。犯人は意外性
ゼロだったけど(苦笑)。礼菜が倒れた理由にも納得が行きましたし。
他の二編、一話目の若きエリートが殺された作品に関しては、被害者が裸にされた
理由自体には、なんとなく予想がつきました。こういう性癖を持った人間、最近は
結構多いらしいですしね。
四話目の奪われたマントの話は、礼菜が特撮イベントに参加した後で被害に遭った
というところがポイントですよね。同じような特殊な格好してる女子がいっぱい
集まってそうですし。葵の推理を読んで、なるほど、と思いましたね。
しかし、礼菜は二回も犯罪に巻き込まれて病院のお世話になっているのに、
なぜ身内の人はお見舞いに来ないんでしょうか。四話目の場合は最初に方界院家に
連絡が行くのは仕方ないとは思うけど(礼菜が言ったことだから)。何か実家に
連絡したくない理由でもあるんですかねぇ。入院するほどの状態だったら、
家族に連絡してもいいと思うんだけどなぁ。
それにしてもこの三人、それぞれにアルバイトとかして働いてる筈なのに、家賃
毎回滞納しすぎだと思うんですが。多分、働いてるお金、全部お酒に変わって
るんだろうなぁ・・・。こんな状態じゃ、三人とも、結婚とか絶対無理でしょうね^^;
大家が心の広い(?)法子さんで良かったのかも。
よく考えたら、東川さんって、大富豪を作品に登場させるの好きですよねぇ。
本書もだけど、『謎解きはディナーの後で』もそうだし、『探偵少女アリサ』シリーズも
そうですよね。まぁ、お金持ちだといろいろ設定に都合がいいことが多いんだろうな。
本書はまさに、方界院の家の威光で、警察の横槍を阻止したりしてるしね。法子さん
のキャラもいいですね。やりたい放題のわがままマダムだけど、かがやき荘のアラサー
三人組には結構情けをかけてやったりしてるし。見習い秘書の啓介は振り回されて
ちょっと可哀想ですけどね(笑)。
東川さんらしいユーモアミステリで楽しめました。