ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

田中啓文/「笑酔亭梅寿謎解噺」/集英社刊

田中啓文さんの落語ミステリ「笑酔亭梅寿謎解噺」。

関西落語会の重鎮、笑酔亭梅寿の元に、何の因果か無理矢理入門させられた不良少年・竜二。ロックバンドを志し、金色の鶏冠頭なのに、何故か落語をやらねばならないはめになる。弟子入りした梅寿はふたを開けてみれば、大酒飲みで借金まみれ、弟子には暴力をふるうどうしようもないオヤジだった。しかし、次第に人情味溢れる梅寿と落語に魅了されていく竜二。そんな中で起こる様々な事件の謎を、落語をからめて解いて行く連作短編集。

「落下する緑」でも思いましたが、田中さんはこの手の連作短編がとても上手いですね。今回のこの作品も、ミステリと落語を絡めて、非常に上手く一つの作品をまとめている。その中に人情や笑いがあって、主人公が少しづつ成長して行って・・・と1冊通して非常に楽しめました。

落語とミステリというと、北村薫さんの円紫師匠と私シリーズや、大倉崇裕さんの牧&緑の季刊落語シリーズを思い浮かべますが、この作品は昨年流行ったクドカンドラマ「タイガー&ドラゴン」に一番近いです。
個々のキャラクター設定は違いますが、全体の雰囲気はそっくり。田中さんの連載の方が早かったようなので、クドカンのドラマはこれをヒントに書かれたものではないかと疑いたくなる位。師匠と弟子の関係とか。主人公の名前も「竜二」だしね。虎は出て来ないけど・・・。
梅寿と竜二のやりとりがとても微笑ましい。梅寿のキャラがいいんですよ~。

落語を知らなくても、十分に楽しめる連作集。
そして、落語って奥が深いなぁ、と思わせてくれる1冊なのです。