ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

伊坂幸太郎/「砂漠」/実業之日本社刊

伊坂幸太郎さんの久しぶりの書き下ろし小説「砂漠」。

「砂漠に雪を降らせるんだ」。不可能を可能にすると信じて疑わない西嶋。その西嶋に想いを寄せるクールビューティ東堂。お調子者で変わった行動を繰り返す鳥井。その鳥井に想いを寄せる超能力者南。物事を俯瞰して眺め見る鳥瞰型の北村。それぞれの思惑が錯綜して、様々な事件を乗り越えた先にあるものは・・・。仙台にある国立大学に通う大学生5人の四季を追った青春小説。

正直「魔王」でがっかりしていたので、この作品は少しはすに構えて読んだのですが、とても伊坂さんらしい良作でした。5人のキャラが個性的で、それぞれに上手くバランスを取って書かれています。西嶋は普通にいたらオタクでキモいキャラなんでしょうけど、いろんなことに一生懸命で、情熱を持っていて、とても印象的。ビジュアル的には良くないけど、好感が持てました。その西嶋を好きになるのが、東堂という所がまた良かった。美女と野獣。この二人の駆け引き、その部分はほとんど実際の場面としては書かれていませんが、ちゃんと読んでみたかったな。
鳥井は伊坂作品にはだいたい一人はいるタイプの人物。ただ、鳥井に関しては単なるお調子者では終わらず、暗い宿命を背負うことになります。その辺りが他作品とはちょっと違うかな。ラストの展開は感動的。鳥井の頑張りに、じーんとしてしまいました。

伊坂さんらしいちょっとした仕掛けもあり(私はなんとなく気付いてしまいましたが)、魔王の時とは違って、細かい伏線が全てラストに繋がっている辺りは非常に私好みの作品でした。
「魔王」は消化不良だったので)

自分自身の大学時代にはこんなエキセントリックな体験は出来なかったけど、いろんな体験をして、いろんなことを吸収した頃を懐かしく思いながら読みました。学生時代は宝物ですね。
読み終わって、じわっと胸が温かくなりました。
伊坂作品、好き嫌いは分かれるようですが、私はやっぱり好きだなぁ。