ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

ロバート・A・ハインライン/「夏への扉」/早川書房刊

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ぼくが飼っている猫のピートは、冬になるときまって夏への扉を探しはじめる。家にたくさんある
ドアのどれかが夏に通じていると信じているのだ。そしてこのぼくもまた、ピートと同じように
夏への扉”を探していた―『アルジャーノンに花束を』の小尾芙佐による新しい翻訳で贈る、
永遠の青春小説(紹介文抜粋)。


今回は早めの今月の一冊。いろいろなところで評判が良いので気になっていた作品だったのですが、
なかなか開架で見かけず未読のままでした。本当は夏の間に読むべき作品なのかもしれないですが、
先日隣町図書館でようやく見かけて読むことが出来ました。先月の記事でみなさまからお薦め
頂いた本は携帯にメモしてあり、随時図書館で探しております。借りられ次第月一企画で
読みたいと思っていますので、気長に待っていて下さいね。

ということで本題。私の漠然とした本書の知識というのは、1.猫が活躍する 2.SF小説
3.青春小説くらいだったのですが、なんだかどれも微妙に想像していたのとは違っていたの
ですよね。なんとなく、私が思い描いていたのは、猫がタイムスリップして少年と出会って
紆余曲折する、とかそういう青春小説なのかと思ってたんですよ。そういう意味では、内容的には
大きく裏切られた形で進んで行くので、途中までかなり面食らいながら読んでた気がします。
そもそも、猫はそれほど活躍する訳じゃないし、主人公は30歳間際の青年で、青春小説とも
言い難い。タイムスリップもののSF小説というのだけは間違いなかったですが、それもストーリー
の終盤まで出てこないので、どちらかというと、コールドスリープ(冷凍睡眠)がメインの、
近未来SF小説っていう方が近いような気がするんですが。ただ、この二つが組み合わさって、
終盤は非常に読ませる、圧巻のラストが待ち受けていました。そこに至るまでは正直、少々
冗長に感じるところもあったのですが、主人公のダンが30年前にタイムスリップしてから
の展開は、本当に面白くて、読む手が止められませんでした。30年前と30年後の繋がりの
部分は若干混乱したところもあるのですが、とっても良く出来ていて、伏線が回収されるところは
お見事。特に私が気に入ったのは、30年前にタイムスリップしたダンが10歳のリッキーと
ある約束を交わし、30年後、その約束が果たされるくだり。女性ならこの展開でツボに来ない
人はいないんじゃないかなぁ。タイムスリップ前のダン同様、二十歳過ぎのリッキーの身の上に
ショックを受けていたので、最後でその誤解が解けた時は嬉しくてニヤニヤしちゃいました。
ダンを裏切った最低な詐欺女の名前がベルというのはちょっと読んでいてモヤモヤしたの
ですが(^^;)、彼女と、彼女に協力して、親友だったダンを一緒に裏切ったマイルズに
一矢報いるような終盤のダンの行動にも胸がスカっとしました。

あと、30年前にタイムスリップして出会ったサットン夫妻との信頼関係のところも好き
でした。気になったのは、トウィッチェル博士のその後ですが・・・博士は本当にダンに
対してずっと怒っているのかなぁ。ダンの本が出版されて、彼らが和解する日が来るといいな、
と思いました。

最後に、肝心の猫のピートですが。確かに、出て来る場面は非常に少なくて、思った程猫が
活躍する作品じゃないじゃん、と言いたくなったのですが、終盤でちゃんと重要な存在として
活躍するので、溜飲が下がりました。ラスト1ページのオチも良かったですね。


中盤までは馴染みのない専門用語に度々躓いたりして、ちょっと読みにくいところもあったの
ですが、中盤以降の展開は本当に面白かったです。長年読み継がれる名作と言われる理由が
わかりました。
苦手な海外SFだったけど、読み終えて、素直に『いい作品だった』と心から思えました。
読めて良かったです。