ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

法月綸太郎「法月綸太郎の不覚」(講談社)

綸太郎シリーズ最新作。久しぶりののりりん。これの前に出たやつとか、読んでる

のか全然覚えてない^^;法月さんはこの綸太郎シリーズだけはなんとなく追い

かけているつもりなのだけど、ちゃんと追えているのかは謎。間読んでないのも

結構あるような気がしている・・・そもそも、読んだそばから、すぐに内容

忘れちゃうのよね。なんか、トリック等の説明がいつもわかりにくくって。

結局どんな話だったかすぐ忘れちゃう^^;今回も、交換殺人ものが四作中

三作も入っていて、立て続けに読んでたら、どれがどれだかわからなくなっちゃった

(アホ過ぎるw)。最近ほんとに記憶力が怪しくなって来ていて、複雑なトリック

の作品とか登場人物が多い作品とか、ほんと覚えていられなくなってるのよね。

ミステリ読みとしては致命的ですよね・・・でもミステリ卒業はしませんけどね!?

ゆきあやさんじゃないけど、私も法月シリーズの方を卒業するようかなぁ・・・(涙)。

 

一応、各作品の感想を(あらすじ大分端折っててすみませんw)。

 

『心理的瑕疵あり』

事故物件の話(ざっくりすぎるw)。これはアンソロジーで既読だったはずだけど、

あんま覚えてなかったな。ただ、犯人がエアコンフィルターを持ち去ったことが

重要なポイントだったってことはなんとなく覚えてた。そこの部分の解説には

なるほど、と思いましたね。

 

『被疑者死亡により』

養父殺害の容疑をかけられた男が、自分の容疑を晴らして欲しいと綸太郎に依頼

して来る話。

交換殺人を行った二人のうちの一人は意外でしたねぇ。でも、なんか動機に納得が

いかなかったなぁ。こんな人間のために?っていう。もやもやしました。

 

『次はあんたの番だよ』

不動産業で財をなしたひとり暮らしの女性が殺された。犯人候補に甥が浮上

したが、死亡推定時刻にはアリバイがあった――。

夢の話と現実がごっちゃになって、全然話が頭に入って来なかった^^;

ただでさえ、交換殺人ものって殺人事件が二つ出て来て混乱するのに。

ラストはちょっとホラーっぽかったな。

昨今のコンプラの影響で、法月警視と綸太郎の会話を録音しなきゃいけなくなった

ところに、時代を感じましたね。読者とかからクレーム来たのかな。

あとがきで作者が触れられていたのですが、タイトルは日テレ系ドラマの『あなた

の番です』から取られているとか。それが一番意外だったかも(笑)。

 

『平行線は交わらない』

三鷹市の和菓子店の店主が殺された。ちょうど一年前の同じ日にも都内で不審死

で経営コンサルタントが亡くなっていた。被害者同士に直接の関係はないが、

動機の面で二件の死亡事件関わっていると目された人物が二人、需要参考人

として浮かび上がっていた――。

老舗和菓子店の醜い兄弟争いって感じでしたね。そこに解雇された元職人も

関わって来て、なかなか複雑な人間関係でした。出て来る登場人物みんな自分

のことしか考えてなくて、好感持てる人物が一人もいなかったです。こんな奴らが

作ったお菓子は食べたくないなぁ。でも、真犯人は意外でした。綸太郎が、動画

配信者と動画に出ることになるとは・・・時代は変わったねぇ。メイサの

ビジュアルは、黒木メイサしか思い浮かばなかったです・・・(苦笑)。

前作で出て来た、法月親子の会話の録音がなんだかんだ理由つけて緩和されて

いたのが面白かったです。面倒になったのかな(笑)。

 

 

 

 

「裏切りの捜査線 警察小説アンソロジー」(文春文庫)

警察小説ばかりを集めたアンソロジー。米澤さんと芦沢さん目当てで予約しました。

予約本次々来ちゃってたから、そのお二人のだけ読んで返しちゃうかとも思った

のですが、どれも読み安かったので、結局全部読んじゃいました(笑)。同じ

アンソロジーのシリーズで、「偽りの捜査線」というのもあるみたい。そっちも、

警察小説が代表作の作家さんがいっぱい寄稿してますね。誉田さん、今野さん、

堂場さん、長岡さんetc。そっちはそっちで面白そうです。

 

では、各作品の感想を。

 

米澤穂信『お見通し』

歌って踊れる人気チェリストがSNS上で脅迫を受けた。コンサートの日、警察は

近くの公園で、二年前に脅迫で逮捕された男を発見、近くでナイフも見つかった

ことから連行し、コンサートは無事催行された。公園内で見つかったナイフは

意外な場所にあった。一体なぜそんな場所から見つかったのか?

『可燃物』の葛警部シリーズ。同期との会話だけで真相を導き出す炯眼には、

相変わらず驚かされます。脅迫容疑で逮捕された男の本当の目的も意外でしたね。

 

方丈貴恵『メゾン・イニシェの怪』

心霊ルポライターが、十五年前に殺人事件が起きたマンションのエレベーターを

使って、異界に行く方法を試したところ、エレベーターが開いた先のエレベーター

ホールに、血まみれの女性の死体があった。女性のジーンズのポケットには、

遺書らしきものが入っていたのだが――。

これもシリーズものみたいです。心霊ルポライターと警察官の二足のわらじ生活

をする生駒のキャラクターが面白い。こんな困った人が同僚にいたら、確かに

いろいろ苦労しそうですが。このシリーズは毎回心霊絡みのお話なのかな?

ちょっと八雲シリーズみたいですね。

 

荒木あかね『プライドの隙間』

警察署内部のトイレで若い警察官が拳銃自殺を図った。しかし、現場からなぜか

拳銃が持ち去られていた。拳銃の吊紐が切られていたことから、外部の人間が

犯人だと見做された。警察職員ならば、誰でも吊紐の取り外し手順を知っていて、

切断する必要がないからだ。即座に署内を封鎖し、持ち去った犯人と拳銃の捜索が

始まったのだが、拳銃はどこからも見つからない。一体、誰がどこに持ち去ったのか。

真相は割とオーソドックスでしたね。あからさまな伏線が出て来るので、まさか

そのままじゃないだろうとは思ったのですが。警察だろうが、一般の会社だろうが、

どこにでもパワハラで悩む人がいるんですね・・・暗澹たる気持ちになりました。

 

松嶋智左『家につく猫』

隣県での所用の帰り、山の麓のコンビニに寄った弓木主任と茂森の刑事コンビは、

コンビニで不自然な買い物をする老人と出会う。コンビニを出た後、警察車両

で帰ろうとしたところ、タイヤがパンクしてしまう。すると先程の老人が軽トラ

で通りがかった為、ジャッキを貸してもらいたい旨を要請し、渋られたものの、

自宅に伺うことになった。しかし、老人の自宅の様子はどこかがおかしい――。

弓木の老人や家族に対する要求がいちいち図々しいものばかりだったので、かなり

イラッとさせられていたのだけど、理由を知ってなるほど、と思わされました。

ただ、この手の題材は過去にたくさん読んだことがあるからなぁ。あんまり新鮮味

はなかったですね。猫全然出て来ないじゃん、と思ってたら、最後にタイトルの

理由がわかりました。そういう意味だったのか。

 

芦沢央『コールバック』

吉良探偵事務所の正式な調査員となった正太郎の元に、息子のいじめで悩む夫婦が

相談にやってきた。息子のいじめ調査に乗り出した正太郎だったが、妻と夫と

では息子のいじめに対する温度差があるようで――。

いじめも最低だけど、子どもが行方不明になって憔悴しきっている親の元に、

面白半分であんな電話をかけることにも、本当に腹が立ちました。どうしてそんな

発想が出て来るのか。その電話を受けたことで、母親がどれだけ心を傷つけられる

のか、少しは想像力働かせろよ、と言いたくなりました。結果、最悪の結末を

迎えることになってしまった。ただ、ラスト、息子を亡くした父親が取った行動に、

少しだけ救われる気持ちになりました(息子のいじめで調査依頼した父親とは別

の人です)。本人はやきりれなかったでしょうけどね・・・。さすが、読み応えの

ある一編でしたね。

 

 

 

 

辻村深月「ファイア・ドーム 上下」(小学館)

辻村さんの最新作。上下巻併せて800ページ超えのなかなかの長編。世間でも

かなり話題になっているようですね。

いや~・・・すごい作品だった。リーダビリティに関しては圧巻だったな。もう、

話が動き出した上巻の中盤くらいから、先が気になって読む手が止められなかった。

ここまでのめり込んで読めた作品は久しぶりかも。さすがでしたね。

ほぼ発売日に順番予約しておいたので、上下巻ほぼ日を開けずに回って来て、

一気読み出来て良かったです。上巻のあのラストの引きのところで、下巻回って

来るのに時間かかったら、半殺し状態だよ~^^;;

いろんな要素が詰まった作品です。出て来る登場人物もそれなりに多いのですが、

全く混乱することなく読めました。お見事。普通だったら、現在と過去、いくつか

の事件が出て来て複雑に絡み合っていたら、もっと登場人物とか人間関係とか

混乱すると思うんですが、全くそういうこともなく。事件の真相をすんなり理解

出来ました。かといって、単純な事件という訳でもなく。まぁ、いくつかの

事件とはいえ、真の悪人は一人ですからね。あ、いや、もう一人いるか。でも、

そっちは殺人まではいかないしね。でも、本当の悪人は、こういう事件が起きた時に、

SNS等で悪意もなく(むしろ正義感にかられての人が多いかもしれない)、好き

勝手な噂を撒き散らす私たちすべてなのかもしれません。まぁ、私はSNS等で

書き込むことはほとんどないけど、ついついYahooニュースのコメント欄とか

読んじゃうもの。そして、そこで誰かが言った言葉を、世間話のノリで深く

考えもせず、他人に話したりすることもある。多分、誰もがやってることだと

思います。でも、今回、そういう悪意のない誰かの噂話が、被害者遺族を苦しめる

ことになってしまいます。読んでいて、被害者側の気持ちになるともう、読み

進めるのが怖いし、苦しいし、辛かったです。SNS時代の怖さを痛いほど思い

知らされる作品でしたね・・・。

事件の発端は、1994年の7月のある日、L県の一郷屋百貨店で起きた受付嬢の

誘拐事件から始まります。犯人からの電話で、身代金を要求されたデパート側は

六千万円を用意し、犯人の指示に従っていくつかの場所に移動させられたが、

結局最終的に身代金が受け渡されることはなく、人質となった新沼紗英は無惨に

殺されてしまった。この事件の少し前、L県では小学四年生の男の子の失踪事件も

起きていた。少年が通っていた小学校の近くの山道には交通事故の痕跡があり、

ひき逃げに遭って、犯人によって連れ去られたとみなされた。少年が事故に遭った

のは、一郷屋百貨店の誘拐殺人事件が起きる前日だった。そのことから、世間では

二つの事件を興味本位で結びつける人々が後をたたず、SNS上で炎上した。男子

児童を轢いたのは、一郷屋百貨店の事件の被害者である新沼紗英か、あるいは

その父親なのではないかと――この根拠のない噂話は、火の粉のように被害者遺族に

降り注いだ。誘拐事件の犯人はとっくに逮捕されていたというのに――。

そしてその出来事から25年が経ち、一郷屋百貨店の事件の被害者新沼紗英の

妹の息子、つまり甥の光汰朗が突然失踪する事件が起きた。紗英の父親であり

光汰朗の祖父である新沼忠治は、25年前の悪夢が再び再燃することに恐怖と

戦慄を覚え、何があっても光汰朗を探し出そうと捜索隊に加わるのだが――。

取り上げたい要素がたくさんあるのですが・・・何を述べても陳腐になっちゃいそう。

とにかく、読んでみてとしか言えないなぁ。事件を追う地元新聞の記者、光汰朗

の担任教師と図工の専任教師、光汰朗の同級生の友人、25年前の誘拐事件の

犯人の息子たち・・・とにかく、いろんな人が絡み合って、事件が語られて行く。

いろんな感情が胸に迫っては消えて、また違う感情が浮かんで来て。なんか、

ジェットコースターみたいに、感情の起伏が激しかったな。ぐっと来たシーンも

たくさんあります。特に、上巻最後の、いなくなった光汰朗を、少年二人(速斗

と一樹)が探しに行く辺りの、友情物語パートは良かったなぁ。速斗も一樹も

ほんとにいい子。孤独だった光汰朗の近くに、こういう子がいてくれて良かった

よ・・・!(涙)しかし、上巻の最後でまさかああいう展開になるとは思わなかった。

ここでもうクライマックスみたいになってますけど?って思っちゃったよ。

でも、下巻はさらに面白さが加速して、読ませるスピードが上がって行きましたね。

新聞記者の透真が、25年前の事件の犯人・久我に会いに行って、証言を引き出そう

とするところなんかも緊迫感あって読ませられたし。久我という人物の矮小さには

うんざりしましたね。こんな奴の子どもが、なぜあんなに真っ当に育ったので

しょうね。反面教師にしたからなのかな。

新沼忠治氏の、「みんなで背負っていく」という言葉が、とても胸にずしんと

来ました。その繋がりがあれば、これからも生きて行けるのかもしれない。とても

重苦しい枷になってしまうだろうけども。その言葉で、久我の息子たちも少し

救われたところはあるんじゃないのかな・・・。

ラスト、例の証拠品がちゃんと見つかって良かった。上巻で、確かにそのモノに

関しても言及していて、伏線が張ってあるんですよね。

久我の手紙に関しては、あんな衝撃の事実が書かれていて、なんで見過ごされて

たの?とすごく疑問だったのだけど、ちゃんとそれに関しても理由があるので、

溜飲が下がりました。他にもいくつか腑に落ちないところがあったのだけど、さすが

辻村さん、抜かりなく、そうした疑問の部分にもフォローがあって、ほぼすべてが

すっきりしましたね。証拠品に関しての証言の部分や実際に捜索する過程などは、

さすがにちょっと出来すぎでは、と思わなくもなかったけど、まぁ、フィクション

だしね。それがないと話にならないんで。

途中であんな別れ方をしてしまった美冬と透真が、ラストにどうなるかが気がかり

だったけど、そこにもちゃんとフォローがあったので良かったです。元通りには

ならないのかもしれないけど、少しづつ歩み寄って行けたらいいなと思う。

タイトルに関して、他の方のレビュー読んでたら作品と合わないって意見も見かけた

けど、私は上手いつけ方だと思いましたね。スノードームならぬファイアードーム。

噂の火の粉が、被害者遺族や事件の関係者たちに降り注ぎ、そこからまた火種が

どんどん飛び火していく。悪意なく広めた噂で、傷つく人がいる。公共の場での

発言には、ちゃんと自分で責任持たなきゃいけない。人の話を鵜呑みにしない。

他人事ではなく、自分の事件でもあると戒められた気持ちがしました。

上下巻800ページ超えでも全然長いと思わなかったですね。

読ませる力は圧巻だった。やっぱり辻村さんはすごい作家さんだね。

 

 

 

 

 

 

「プレゼント」(新潮文庫)

寄稿作家がとても豪華なアンソロジー。よくぞこれだけ集めましたって感じの

ラインナップですよね。一応全員既読作家さん。江國さんは一作くらいしか

読んだことないけど。それ以外はみんな好きな作家さんばかり。これで全作

書き下ろしだっていうんだから、これは借りない手はないでしょ、と即予約。

読んでる時はあんまり意識してなかったけど、カバー裏側の紹介記事読むと、

テーマは『夏』だそうな。なるほど。確かに夏の物語ばかりだったわ(遅)。

では、各作品の感想を。

 

伊坂幸太郎『ウッドペッカー荘事件』

語り手の僕(尊)が、友人の名探偵・白河ヨフネの六番目の事件の体験記を

綴った作中作の体裁で語られる作品。

ですが、最後に驚くべき事実が明らかになります。うーむ、伊坂さんがこういう

騙しの手法を使うのはちょっと意外だったかも。ヨフネの最後の願いがあまりにも

切なくて。やりきれない気持ちになりました。

 

江國香織『二つの宇宙』

おばあちゃんが大好きな悠斗(はると)。そんな悠斗の話を聞いて、彼女の茉莉加

が、悠斗のおばあちゃんに会ってみたいと言い出した。しかし、悠斗の祖母は

極端な人見知りで、彼女には会いたくないというのだが――。

謎のおばあちゃん。なんであんなに他人に会いたくないのか、よくわからなかった

なぁ。茉莉加ちゃんはいい子そうだったけど、結局最後は別れちゃったってこと

なんだろうな。いまいちピンと来ない話だった。

 

宮部みゆき『真実のトランク』

赤坂の繁華街から少し離れた路地の奥のビルにあるバー<瑞季>を切り盛りする

わたしの元に、ある人物が現れた。わたしは、その人にまつわる三十年前のあの日

の記憶を思い出した。それは、不可思議なトランクに纏わる思い出だった――。

このトランクに関しては、変にSFちっく過ぎて、ちょっとついて行けないところが

ありましたね。三十年前にそんなに技術が進歩してたとは思えないし。被験者を

ああいう形で探してたっていうのも、なんかリアリティがなかったし。現実に

SFが混じり合う、初期の宮部さんっぽい作品でしたね。

 

町田その子『きっとあの日の光と同じ』

幼馴染の康生に彼女が出来たのをきっかけに、ひと夏の恋を経験してみたくなった。

そんなおれは、ある日門司港のコンビニ・テンダネスから出て来たところで、中三

の時のクラスメイトの南戸流奈と出会う。ひとしきり世間話をした後で、流奈は

おれに『ひと夏の思い出、作ろうよ』と言って来た。後で知ったが、流奈には

ある事情があったのだ――。

『コンビニ兄弟』にも繋がるこの作品は、高校生のみずみずしいひと夏の恋を

描いた爽やかな作品でしたね。ラストに明らかになる二人のその後も含めて、

気持ちの良い作品でした。

 

米澤穂信『無明』

うだるような暑さの中、新宿駅の東西自由道路の雑踏にまぎれて、一人の女が

赤ん坊を殺そうとした事件が起きた。なぜ女は自分の子どもを殺そうとしたのか

――。

いやー、これは今回の寄稿作の中ではダントツで印象に残りましたね。今の日本の

暑さの中では、本当にリアルに起きそうな、恐ろしいとも痛ましいとも云える事件

というか。最初は自分の子どもをあんな形で殺そうとするなんて、と憤りしか

覚えなかったのだけど・・・彼女の事情が少しづつわかってくるにつれて、現実

の無情さに震えが来るような気持ちになりました。こういう人を政府はもっと

救うべきなんじゃないの?この女性のような立場に置かれてる人は、今の世の中に

きっと確実にいる。なんとかして救ってあげて欲しいと思う。

 

梨木香歩『見越しのマツ』

実家の向かいには大きな松のある屋敷が建っていた。その松を生前の父は『見越しの

松』と呼んでいた。父によると、あの松は先を見越す力があるのだという。そんな

松は、お向かいのご主人が亡くなって敷地が売られ、取り去られてしまった。私は、

跡地に残った松ぼっくりを拾った。その後土地が三分割されて、新しく建売住宅が

出来て、我が家側の家に若い夫婦が引っ越して来た。私の部屋からその家のリビング

が丸見えだった。すると、夫婦の生活が垣間見えるようになって――。

松が記憶を見せてくれていたんでしょうね。梨木さんらしい不思議だけど切なく

優しい物語だと思いました。お隣の引きこもりの青年が、最後に思わぬ行動力を

見せて成長が伺えたところも良かったですね。

 

恩田陸『伝説の季節』

関根春は、今年のサヨコになった。春の通う学校では、毎年誰か一人が『今年の

サヨコ』に人知れず任命され、任命された人は、その任務を果たさなければ

ならないルールがあった。春は戸惑いながらもサヨコの任務と向き合おうとする

のだが――。

まさか、関根シリーズとあの『六番目の小夜子』がこんな風に繋がるとは・・・!!

サヨコの設定は全く覚えていなかったですけど。こんな話だったんだっけ?

春が小夜子の学校と同じところに通っていたとはね。久々に関根シリーズの新作が

読めて嬉しかった。また本格的に書いてくれないかなぁ。

 

 

垣谷美雨「空き家と移住」(朝日新聞出版)

垣谷さんの新刊。昨今問題になっている空き家や地方移住をテーマにした作品。

相変わらず、取り上げるテーマの目の付け所がいいですよね。生きていれば、

いつか自分にも降り掛かって来るような話題をタイムリーに取り上げてくれる

作家さんだなーと思います。

亡くなった親の田舎の実家を売りたい都内の主婦の路代と、都内にパートナーと

一緒に住む家を買おうとするも、マンションは昨今の高騰で手が出ず、地方の

一軒家購入に目をつける会社員の史緒里の二人の視点から交互に語られます。

地方の戸建て事情とか、閉鎖的な人間関係がとてもよく描かれていて、ぐいぐい

読まされましたね。いろいろと考えさせられるところも多かったです。そこそこ

高額で売れると思っていた路代の実家は、結局そうそう買い手が現れず二束三文

みたいな金額まで引き落とされてしまうし、地方の一戸建てを買って、最初は

田舎暮らしにハマったかに思えた史緒里の方も、少しづつ暮らしの中に綻びが

出始めて雲行きが怪しくなって行くし。まぁ、この辺は、最初から予感してたこと

ではありましたけどね。地方の人たちって、結構閉鎖的な人が多いから、いい面

ばかりじゃないだろうなぁと思っていたので。結局、よそ者を受け入れてくれる

心の広い人って、そうそういないんじゃないかなぁ。その土地柄もあるとは思い

ますけども。それにしても、二人の家がある風穂町の閉鎖的な人々の言動と習慣

の数々には辟易しましたね。男尊女卑の考えがそのまま受け継がれているし。

老人が多いから、現代の考え方に全然アップデート出来てないんだよね。こんな

人たちの中で暮らしていたら、頭がおかしくなりそうだと思いましたね。もちろん、

地方ならではのいい面もあるとは思うのですが。人間関係で考えると、とても

暮らして行けるとは思えなかったです。

風穂町の家を買う前に、史緒里とパートナーの大河が出会った、都内の一軒家

に一人で住む老女の千堂とのエピソードにはムカムカしました。とはいえ、

どんどんエスカレートしていく千堂の要求に、いちいち応えてあげようとする

二人にもイラッとしたのですけどね。そんな簡単に都内の家が手に入る訳ないのに、

相手の口車に乗せられて、ほいほい何でもやってあげて。下心はないと言いつつ、

期待してるのもまるわかりだったからね。そんな上手く行く訳ないじゃん、と

呆れていたら、案の定、とんでもない反撃に遇ってしまって。息子が出て来た

途端、千堂の態度がころっと変わったのにも腹が立ちましたね。そういう人間

だったんでしょうね。でも、最後に大河が、自分たちがしてあげた分のお金を

相手に要求したのは痛快でしたね。ただ、その後風穂町に移住した後で大河の

やったことには幻滅させられましたが。

史緒里は史緒里で、路代にあれだけアドバイスもらっておいて、あっさり違う家

買っちゃったりして、身勝手なところもあって、あまり好感持てなかったです。

路代の娘・望美が、風穂町に店舗つきの一軒家を買ったことで、少しづつ新たな

商売の方向性を見出して成長していくところが一番良かったかな。あんなに

引っ込み思案で人嫌いだったのにね。地方でお金稼ぐのも大変だよね。

地方の移住あるあるがいっぱい出て来て、面白かったです。イライラムカムカ

させられることも多々ありましたけどね(苦笑)。

 

 

万城目学「ホルモー燦燦」(角川書店)

めちゃくちゃ久しぶりのホルモーシリーズ(でいいの?^^;)新刊。っていうか、

まさか今になってまた続編が出るとは思わなかったです。当然ながら読んだのが

昔過ぎて、ホルモー自体の設定をまったく覚えておらず。久しぶりに読んで、

そういえば、こんな設定だったんだっけ?って感じで読み進める羽目になりました。

『鴨川ホルモー』読まれてから時間経ってる私みたいな方は、多少おさらいして

からの方が良いかも・・・。登場人物とか全然覚えてなかったからさ。現代版

のお話の方は新たな登場人物が主役なので問題なく読めると思うんですけど。

中の『社会人ホルモー』に出て来るキャラは、多分『鴨川ホルモー』と被って

いるので、そちらを覚えていれば、多分ラストで気持ち良く感動出来る・・・筈

です(私に関して言えば、読んでる時は全く覚えてなかったので、そこまでの

感慨には浸れず。この記事書くに当たって、過去の自分の記事読み返してみて、

多少思い出したって感じでした)。

そういえば、ホルモーって競技だったんだっけ、っていうくらい、覚えてなかった

んで^^;改めてホルモーの設定とか読んでると、ツッコミ所満載ですよねぇ。

謎だらけっていうか。鬼(式神?)たちは一体どこから来るの?とか。そもそも

『ホルモー』ってどこから来た言葉?とか。最後『ホルモー』って叫ぶと、

なんで不思議なことが起こるの?とかね。まぁ、京都の地ならではの競技ってこと

なんでしょうけども。不思議がいっぱい。

今回は、主に三作の中編(プラスプロローグとエピローグ)から成り、それぞれ

大学生、社会人、高校生、と主役を務める人物の年齢や立場もバラエティに富んで

います。それぞれの立場からホルモーとの関わりが語られて行きます。一作目の

大学生のお話は、同志社(大学)黃竜陣会長の司馬と、京大青竜会会長の武良

の、鴨川デルタに渡るための飛び石の一年通行権をかけた『鴨川デルタホルモー』を

巡る因縁から派生するお話(何のこっちゃ)。司馬と武良は、このホルモーで

二人同時に『ホルモーッッ』と叫んで敗北したことで、あるモノが見えるようになって

しまい・・・という流れ(意味不明ですねw)。こんなモノが見えるようになる

のは嫌だなぁ。ていうか、鴨川の飛び石くらい自由に誰でも渡らせてやれよ、

とツッコミたくなりました(苦笑)。

二作目の社会人編は、社会人となったホルモーOBのカンムとキケロが、東京で

行われるホルモーの助っ人に駆り出される話。カンムとキケロの正体は、作品の

ラストでわかるようになってます。前の話覚えてる人は、多分すぐにピンと来る

のかもしれませんが(私のことはほっといてくださいw)。東京でもホルモーって

やれるんだ、とびっくりしたのだけど、ネット検索で他の方のご感想読んでいたら、

『ホルモー六景』にも出て来てたそうで。覚えてないって~^^;;まぁ、日本

全国どころか、やろうと思ったら外国でも出来るんでしょうけどね。舞台が東京

タワーってことで、なかなか大規模です。上にどんどん上って行きながらの戦い

は、なかなか迫力ありましたね。映像で見た方が面白さは伝わりそう(アニメ

とか)だと思いました。

三作目の高校生編は、高校生がホルモーをやる訳ではなく、高校の茶道部の生徒

が、お茶の先生が持って来た雲龍釜ならぬ雲蛇釜からの声を聞いたことを

きっかけに、不思議な出来事に遭うお話。この雲蛇釜は、一作目の大学生のお話

から出て来ているので、ちゃんとそれぞれのお話が繋がっていることがわかります。

主人公のふまい(風舞)ちゃん、なかなか面白い子でしたね。同じ茶道部の小堀

ちゃんとの友情にはぐっと来ました。顧問のノッキー先生の正体にも驚かされ

ました。三作が、きれいに繋がっていて、素晴らしい大団円だと思いました。

一作目から読み直したくなったなぁ。一気に三作読んだら、もっと感動が得られた

ような気がするな。

一応これで完結なのだそう。確かに、これ以上書いたら蛇足になりそうってくらい、

ちゃんと完結してますからね。いい終わり方だな、と思いました。

いきなりこの作品から読んだら、多分わけがわからないと思われますので、是非

前二作をお読みの上でお読み頂きたいですね(お前が言うなw)。

 

貴志祐介☓荻堂顕「最恐ホラー 嫌な記憶」(講談社)

小説現代誌上で、1テーマ☓2人づつ掲載されたシリーズの第三弾(らしい)。

今回は貴志さん目当てで借りました。第二弾は誰だったのかしらん。

今回も二作併せて110ページくらいなので、一時間くらいで読めちゃいました。

貴志さん目当てで借りたけど、初めましての荻堂さんの方がよっぽど怖くて

嫌な話だった。貴志さんの方は、終盤読むまであんまりピンと来てなくって。

海外が舞台だし。世界的な画家・ペトルーシンのほとんどの作品には、ある

二つのモチーフのどちらかあるいは両方が描かれている。しかし、画家に

なぜそれを描くのか訪ねても、本人自身もわからないと答えたという。なぜか、

記憶の底から繰り返し浮かび上がってくるイメージだという。そこで、彼の

熱烈なコレクターであるドルフマンは、招待客たちの前でその謎を解き明かすべく、

ある実験の模様を配信するのだが――(貴志祐介『薔薇の小枝』)。

簡単に言うと、画家の脳内に眠る記憶を映像化する、みたいな実験だと思うんですが、

これが文章で説明されるとなかなか理解出来なくって^^;特殊用語も頻発するし。

なんかよくわからんなぁと思いながら読み進めてたんですが、ラストで、画家の

記憶に眠る、ある恐るべき過去の出来事が浮かび上がって来て、なるほど、

それが嫌な記憶ってことなのね、と理解したって感じです。でも、最恐ホラー

って言われる程のインパクトはなかったかなぁ。

逆に、後半の荻堂顕(おぎどうあきら)さんの作品は強烈なインパクトがあった。

中学生の男子生徒数名が、地元で有名な曰くのある山に肝試しに行って、恐ろしい

出来事に遭う話なんですが・・・もう、嫌な出来事のオンパレード。特に、途中

みんなで焚き火をしてからの展開がとんでもない。焚き火から、誰かが入れた

何かが爆ぜて一人の少年の目に当たってしまったことをきっかけに、人間の

悍ましさがこれでもかと出て来る展開に。いやー、悪魔みたいな子どもって

いるんだなってぞっとしました。みんなそれぞれに自分の保身しか考えてないし。

早く救急車呼べよって思ったけど、最終的には怪我した子が一番の悪魔だった。

最後のオチも絶望的だったし。主人公の立場の逆転も見事だった。嫌な記憶って

テーマの作品としては、満点の出来だと思う。でも、読んでいて本当に嫌な

気持ちになりましたけどね・・・。この作品が読めただけでも、借りて良かった

かな。

しかし、今回は110ページ程度で1000円。やっぱりお高い(しかも、この間

より若干ページ数が多くなっただけで100円もアップ)。この内容でこの値段設定は

ないよなーと改めて思ってしまうのでした(買ってないけど^^;)。