ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

下村敦史「ネタバレあり 双紋島の殺人」(光文社)

下村さん最新作。もう、タイトルからして挑戦作って感じで、期待が高まりましたね。

タイトル通り、冒頭に7つのネタバレが明記されています。このネタバレ表記に

よって、読者はいろいろと推理する上で翻弄させられるっていう。ネタバレがあるが

故に、深読みしちゃったりね。私はもともと推理とかちゃんとするタイプじゃない

ので(おい)、なんかいろいろ、素直に騙されてました(苦笑)。

冒頭に書かれている7つのネタバレは以下。

 

1.島での最初の犠牲者は名探偵

2.ミステリー作家は犯人ではない

3.登場人物の一人は偽名

4.名探偵は素性を偽っていない

5.島では四人が殺される

6.ある章は過去

7.共犯者がいる

 

内容は、ある作家が実際に嵐で外界から閉ざされた島(双紋島)で実際に体験

した連続殺人事件の体験記を、雑誌連載時から一文も変更せずに、単行本に

まとめたという体で描かれた作中作で大部分が成り立っています。この島での惨劇の

生き残りである作者は、未解決のこの事件の真相が、聡明な読者によって解明

されることを狙って、この作品を出したという。作品が世に出されると、編集部

には何通かの真相を推理した旨のメールが届くのだが――。

 

典型的な嵐の孤島でのクローズドサークルミステリーです。本格好きにはたまらない

舞台設定で、テンション上がりました(笑)。最近新人作家で似たシチュエーションの

孤島ミステリ読みましたけど、やっぱり完成度が段違いでしたね(あれは個人的には

酷すぎて読んだ記憶を失いかけていますがw)。

ただ、冒頭のネタバレ表記があるので、ほんと、翻弄されまくりました。この人

名探偵っぽいけど、ほんとに?とか(誰が名探偵なのか明記されていない)。

過去の章はここかな、とか(全然違ってましたw)。四人殺されてないじゃん、

とかね(ちゃんと殺されてます)。

作者と思われる登場人物の一人が記憶障害を持っているという設定も効いて

いましたね。

冒頭のネタバレ部分は、真相の推理を聞くと、全部なるほど、と思えました。

でも、このネタバレが7つもあるせいで、推理がすごい複雑で^^;理解するのが

ちょっと大変でした。でも、よく出来ていると思います。ちゃんとネタバレ表記は

フェアに記されていますしね。わざわざネタバレ表記が書かれた理由自体にも、

ちゃんと意味があったとわかりましたし。雑誌連載から一文も変えずに単行本に

まとめた、という冒頭の表記も結構重要だったりします。しかし、これ、読者で

完璧に推理出来た人とかいるのかなぁ。絶対無理じゃないか?^^;ラストの

真相の推理部分読んでも、全然完璧に理解出来ている気がしないです・・・。

映像とかで説明してもらた方がわかりやすいかもしれないなぁ。

はい、私がアホな読者なだけなんですけどね^^;

本格好きには評価される作品じゃないかな。ネタバレありという、ミステリには

本来あるまじき設定を組み込むという前代未聞の試みとしての面白さもありますしね。

下村さん、道尾さんとは違った角度でいろんな飛び道具出して来るから侮れない

作家さんだなぁ。次はどんな作品が生み出されるでしょうか。楽しみです。

 

 

飛鳥部勝則「封鎖館の魔」(星海社FICTIONS)

飛鳥部さん最新作。『抹殺ゴスゴッズ』に続けて新作が読めて嬉しい。星海社の

このレーベル作品とは相性が悪くてどうしようとも思ったけど、やっぱり飛鳥部

さんだと思うと手が出てしまった(笑)。

しかし、飛鳥部さんにしては薄い本なんだけど(335ページ)、めっちゃ時間

かかってしまった。途中、なぜか数ページ読んでは睡魔が襲って来て、全然進まな

くって^^;とくに前半キツかったなぁ。殺人事件が起きてからの中盤以降は

少しペースアップしたのだけど。それでも、終盤の肝心な謎解き部分でまた説明が

長くてペースダウンし・・・結局、これ一冊に一週間くらいかかっていたような^^;

序盤で挫折しかけたりもしたのだけど、飛鳥部さんで挫折はしたくないから意地で

読み続けたらだんだん面白くなった感じ。

設定とかキャラ造形とか、ツッコミ所満載なのはいつもの通り(苦笑)。現代

パートは、ほんとに令和の最近の話なのに、出て来る高校生の名前が正、昌子、

佳子、八寿夫(やすお)。おいおい、昭和かよ!ってツッコミ入れましたよ(笑)。

また、登場人物の喋り方とかも前時代的ですしね。飛鳥部さん、そこは現代風に

アップデートしようよ・・・と思いましたけど、まぁ、これはこういう作風とか

世界観の作家だと納得させて読むしかないでしょうね。普通に、時代を昭和に

すればいいのになぁとも思っちゃうんですけどもね(それならすんなり受け入れ

られると思うので)。

かつて芸術家たちが住み、なぞの増改築を繰り返した結果、あかずの間だらけになり、

幽霊が出るという謎の館・封鎖館。そこでは、かつて猟奇的な殺人事件がいくつも

起きていた。そんな怪奇の館で、芸術家であり館の主の館真一が主催する二泊三日

のデッサン会が開かれることになった。

高校生の小玉正は、友人の林昌子から一緒に行かないかと誘いを受け、その

絵画教室に参加するという憧れの溝口佳子に近づきたいが為に、彼女の誘いを受ける

ことにした。しかし、そこでは恐るべき殺人事件が待ち受けていた――。

 

 

若干ネタバレ気味の感想になっております。未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

エログロエピソードは相変わらず満載で、そこは好き嫌い分かれるところでしょう

けど、肝心のミステリ部分はやっぱり面白かったな。ちょっと理解するのに

大変だったけど(いや、未だに全部は全然理解出来ていないが^^;)。館の

見取り図が最初の方に出て来るのだけど、ほんとに変なつくりで、開かずの部屋

ばっかりで、何だコレ?って思ってたんだけど、からくりを知って、そういうこと

だったのか、と思いました。館が這う音は多分、何らかのからくりがあるから

だとは思っていたのだけどね。しかし、実際こんなの作れるものなんですかね。

この仕掛け作ってくれって言われた建築家もびっくりだったんじゃないの。この

からくり作ったのって、昭和の時代でしょうし。技術的に作れるんかな。

令和の連続殺人の犯人も意外でしたね。『私の鏡子』に完全に騙されてたな。

しかし、一番びっくりしたのは、ある人物の突然の豹変っぷり。言葉遣いとか、

あそこまで正反対になって面食らわされたなぁ。女って怖い。昌子が無事で

良かったよ。◯されるかと・・・^^;

昌子の口の悪さにも度々幻滅させられたけど、この子は基本はいい子だし、どう

見ても正のことが好きなのがわかるから、なんか微笑ましい気持ちで見れたな。

正だけがアホで気づいてなかったけども。でも、もうちょっと好きな男子に対しては

優しくした方がいいと思うけどね。典型的な天邪鬼気質なんでしょうね。

しかし、最後に犯人の独白があるんだけど、動機にびっくり。こんな理由で

殺人を犯すとは・・・(絶句)。愛情がこじれすぎて、こうなっちゃったんだろうけど。

そもそもの諸悪の根源は、真一の◯◯なんですよね・・・(すみません、下ネタ用語

です・・・)。なんだかなぁと思いましたね^^;

でもまぁ、本格ミステリとしては面白かったです。飛鳥部さんらしさ爆発では

ありました。芸術要素もいっぱい出て来るしね。ただ、『抹殺ゴスゴッズ』に

比べると、ページ数のせいもあると思うけど、人物造形とか設定とかいろいろ、

ちょっと薄味に思えてしまったかも(他の作家に比べたら濃いのは間違いない

けど^^;)。

飛鳥部ファンなら楽しめるんじゃないかな。うん、多分・・・。

 

 

 

千咲ゆず葉「私たちの人生レシピ(女3人しあわせ朝ごはん)」(OZbooks)

この間読んだ畑野さんに続いてアラフォー独身女性もの。たまたま同じ時期に回って

来てしまって、題材がかぶってしまった^^;ただ、あちらの作品は出て来る

キャラクターにほとんど好感持てる人物がいなかったのに対して、こちらは

主役三人それぞれに好感持てるキャラクターだったので、こちらの方が読んで

いて楽しくはあったかな。ただ、ところどころ違和感はありましたけど・・・。

飲料メーカー勤めの文月翠は、四十歳独身の身で一軒家を購入した。一人で住む

にはあまりにも広すぎる為、同じく独身の高校時代の友人・瑠璃に軽い冗談混じりに

同居を打診すると意外なことに快諾してくれ、二人でのルームシェア生活が始まった。

二人での生活はまずまず上手く行っていた。そんなある日、突然高校時代のもう一人

の友人・朱音が突然家にやって来て、自分も一緒に住みたいと言って来た。朱音は

結婚して子供もいて、幸せな生活を過ごしていると思っていた翠たちは面食らわ

される。事情を聞くと、朱音は離婚して家を飛び出して来たというのだ。朱音の事情

を加味して、二人は同居を受け入れることに。そこから、三人での同居生活が

始まった。ルールは一つだけ。一緒に朝ごはんをとること――。

仲良しのアラフォー女性三人でほわほわしながら共同生活するのは、楽しそうでは

ありましたね。むしろ、こんな穏やかな共同生活あるんだ、って驚くレベルだった

(笑)。

だって、いくら高校時代の同級生で仲が良かったからって、一緒に暮らしてたら

それなりに軋轢とかどっかで生まれそうじゃないですか?でも、この三人は、

終始穏やかで相手のことをお互いに思いやって生活出来ているからすごいな、と

思いました。いや、私もどっちかっていうと、人間関係で波風立てたくないタイプ

だから、共感出来ない訳ではないのだけどもね。でも、口には出さなくても、

どこかでモヤモヤすることを抱えたりすることもあると思うのですよね。人間だもの。

そういう出来事がほとんどないので、安心して読める感じではありました。

もちろん、それぞれに悩みや鬱屈抱えていたりはするのですが、それは同居

する二人が要因ではないので。むしろ、そういう悩みが、他の二人と囲む朝ごはん

であったり、何らかのアドバイスであったりによって、解消されたりするので、

同居(シェアハウス)生活の良さを全面に出した作品とも言えそうです。

もちろん、もともと高校時代の親友三人という下地があるからこそではあるの

ですけどね。

ただ、離婚して、いきなり他の二人が住む家に押しかけて来た朱音の行動には

首を傾げざるを得なかったです。いきなり荷物持って押しかけて来られてもさ。

住む部屋がなかったらどうするつもりだったんだろう。そこは、まずは電話等で

打診してから来るべきじゃない?親しき中にも礼儀ありって言葉知らないんか、

と呆れちゃいました。それをすんなり受け入れる二人にも驚いたけどね。だって、

家賃とか決まりごととか、まずは相談してからじゃないとさ。実際一緒に住む

訳だしさ。いきなり来てはい、同居決定みたいな流れはどうなの?って思っちゃい

ましたね。まぁ、結果として上手く行ったから良かったですけどね。それに、

離婚に関しても、朱音がいきなり離婚届け書いて置いて来ただけだから、本当に

夫が届けを提出してるかわからないのでは?って思いました。最後に、夫登場で

その辺りの事情が詳しくわかるかな、と期待したのだけど、全く出て来なかった

のが驚きだった。子供はもう18歳で成人してるからいいとしても。旦那(元?)

さんもそれでいいの?と疑問だらけだったな。話し合いもせずに一方的に離婚届け

書いて来て終わりって、離婚ってそんな簡単なものなの?^^;そこはなんか、

もやもやが残りましたね。

最後の同窓会の話は、アラフォー独身女性が出席したら、そりゃ、ああなるだろうな、

と思いました。アラフォー以降の同窓会なんて、マウント取りたい人しか来ない

んじゃない?え、偏見?^^;私も話あっても出席する気になれなかったもんな。

他の同級生たちがどうしてるかは気になったけどさ。

それぞれに幸せならいいじゃないって思うけど、我が物顔でアドバイスしたい人が

いるんだよね。傷つくだけだから、一次会で三人が帰ったのは正解だったと思うな。

三人同居のルールが朝ごはんを一緒に食べるっていうのはなかなかいいアイデア

だと思いましたけど、朝が苦手だったり、朝ごはん食べない派がいたら成立

しないから、三人ともちゃんと食べるタイプで良かったですよね。あと、三人とも

料理出来る人っていうのもね。料理苦手な人だったら、そのルール掲げられた時点で

ルームシェアとか無理だと思うもの。

こんなに上手く行くケースは稀だと思うけど、仲良し三人組がわいわい朝ごはん

食べながら楽しそうに暮らしているのは、ちょっと羨ましい気持ちになりましたね。

そういえば私、『やっぱり猫が好き』の世界観大好きだったんだよな~。

 

「それはそれはよく燃えた」(講談社)

会員制読書読書クラブMephisto Readers Club<MRC>で配信(公開)された

ショートショート集の第六弾だそう。タイトルが全部同じ一文(今回の場合は、

「それはそれはよく燃えた」)から始まるというところが各作家さんへの縛り

のようです。このシリーズは、前にも何冊か読んでるのですが、もう六冊も

出ているとは知りませんでした。

同じ一文から始まるとはいえ、その後の展開は、各作家さんによって全く違うのが

面白いところ。作家さんの個性が出ていて興味深いですね。一作が短いショート

ショートなので読みやすいのは間違いないですが、それだけに作品数も多いので、

なかなか記憶に残る作品を書くのは大変かも。

今回の書き出し「それはそれはよく燃えた」だと、やっぱり不穏なお話が多かった

ですね。

今回印象に残った作品は、米澤穂信さんの「燃えろ恋ごころ」。初恋の先輩に

頑張って一晩かけてラブレターを書いて、勇気を出して渡そうと思ったのに、

目の前で先輩がほかの女の子に告白されてうまく行ってしまう。主人公が用無しに

なったラブレターをライターで燃やしてしまうと・・・最後のオチの黒さが米澤

さんらしくてぞっとさせられましたね。こんなことになるなんて・・・っていう。

こわっ。

あとは秋吉理香子さんの「ファンの鑑」。高校時代、美人の美咲のいじめのターゲット

になった同級生の俊子。しかし俊子は、美咲は美しいから仕方がないと言い、

その後アイドルになった彼女をファンとして応援すらしていた。地方のアイドルから

順調にスターの道を進み、ついに美咲は朝ドラの主演に抜擢されるまでになった。

さぞ俊子は嬉しいだろうと思ったのだが――いや、最後のオチの黒さよ。秋吉

さんらしい落としが良かったですね。推し活じゃなくて◯◯。因果応報ですかね。

あと、河村拓哉さんの「比翼」も印象的な作品でしたね。淡々と怖いこと書いて

あるのがね。人間の耳が簡単に引きちぎれるってほんとなの?^^;おばあさん

が主人公に頼みたかったことがかなりエグい。これが耳じゃなかったら微笑ましい

お願いなんだろうけども。私だったら無理だと思いました・・・。筆致が京極

さんっぽいなぁと思いましたね。河村さんご自身も、若い頃の京極さんみたいな

見た目してるしね。着流し着て、手甲とか着けて欲しい(笑)。

あとは似鳥鶏さんの「全滅館の殺人」は、この短ページでよくぞこの題材に挑戦

した、と思いました(笑)。しかし、名探偵のくせにこんな強引な解決法あるかい、

とツッコミ入れたくなりましたけどね^^;

 

こういう作品集だと、他の人とテーマを被らないようにしつつ、自分の個性を

出して書かなきゃいけないから、ほんと難しそう。それでも、各作家さん

それぞれに個性の違う物語を書かれるからすごいです。作家さんの力量が問われる

タイプのアンソロジーだな、と思いましたね。

畑野智美「30代後半、独身、ひとり暮らし」(小学館)

タイトル見て面白そうだったので借りてみました。結婚する前の私は、このタイトル

のまんまの生活だったので、共感出来る部分が多いかな~と思いまして。

でも、主人公が特殊な仕事に就いているのもあって、ほとんど共感出来るところは

なかったですねぇ・・・。

主人公の藤浪夏帆は、SNSの投稿がきっかけで出版社から声をかけてもらい、

エッセイ漫画家としてデビューした。節約や簡単レシピなのである程度の人気を

維持している。しかし、夏帆は、本が売れるにつれて自分の生活が変わって来た

にも関わらず、節約を謳っていることに対して、読者を騙しているのではないかと

いう罪悪感を覚えるようになってきた。そこで、担当編集者に、今の連載を終わら

せて、新しいテーマの作品を書きたいと伝えると、了承してもらえることに。

しかし、希望が通ったにも関わらず、次に何を書きたいのか、自分でもよくわからず

暗中模索する日々が始まった――。

うーむ。なんかもう、ずっともやもやしてたなぁ。出て来る登場人物に好感持てる

人が全然いないし。主人公の夏帆はそこそこ収入が良くて、彼氏もいるから、

タイトルの生活してても、全然悲壮感みたいなのはないんですよね(彼氏はクズ

みたいなやつですけど)。それはそれで、30代後半独身でも楽しく生活出来るって

いうメッセージとも受け取れるんですけど、だからといって幸せそうかというと、

全然そうでもなさそうだし。結婚して子供もいる妹は、裕福な姉に集ろうって気

まんまんで家にやってくるし、脚本家の彼氏は、自分の都合のいい時だけ夏帆の

もとにやってきて好き勝手振る舞って、浮気めいたことも裏でし放題。とはいえ、

その彼氏と付き合うきっかけは、当時彼女がいた彼氏に夏帆の方から猛烈アピール

したからなので、自業自得でもある。結局、悪いことすれば自分に返ってくるって

いい例ですよね。そもそも、夏帆自身も新しい編集者と浮気っぽいことしてるしね。

彼氏が浮気して、あんなに怒っていたくせに、自分も同じことするの?と呆れ果て

ましたね。キスしただけだとか言い訳してたけど。十分浮気じゃんか(怒)。

なんか、出て来る人出てくる人みんな自分勝手で、読んでてイライラしっぱなし

だったな。

こういうテーマのものは好きなのだけど、ちょっと思っていたのとは違って

残念だったかな。

秋吉理香子「月夜行路 Returns」(講談社)

まさかの続編。大好きな作品だったので、とても嬉しかったです。ドラマ化された

影響でしょうね。ドラマ化自体も意外だったけれど(未だに一度も観られていない

ですが^^;)。

昨年、BARのママ・ルナと共に大阪を旅したことで、心残りだった男との過去を

手放し、傷心を癒した涼子は、東京でまた家族との平凡な日常を過ごしていた。

しかし、ふとした瞬間にルナママを思い出し、再び会いたいと思った涼子は、

勇気を出してルナママのBARに会いに行くことに。ママは涼子との再会を喜んで

くれた。その時、ママの元に古いノートパソコンが届く。ママにとっては曰く

ありげなそのパソコンには、パスワードロックがかかっていた。パスワードは

漱石の『吾輩は猫である』に関係ある言葉らしい。どうしてもパソコンを開きたい

様子のママを見かねて、涼子もパスワード探しを手伝うことに。5回間違えると、

ロックがかかってしまうらしく、チャンスは5回きり。二人は、まずは『吾輩は

猫である』の初版本復刻版を扱っているという古書店に向かう。しかし、そこで

店主の男性が血を流して倒れているのを発見して――。

相変わらず行く先々で事件に出会う二人。ママにとって大事な内容が入って

いると思しきパソコンを開ける為、少しづつ手がかりを得ながら、思いつく

パスワードを試して行きます。今度こそ正しいパスワードを探り当てた!と

思いながら入力する度に、エラーが出てしまう。残り回数が少なくなるにつれて、

二度と開けられないのではないか、というドキドキ感がありました。残り回数が

少なくなるにつれて、ママの態度も諦めの境地になって行く。このパソコンは

一体誰のもので、ママに何を伝えたいのか。そこが物語のキモとなります。

ママの過去とも繋がっていて、ママのことがまた少し理解出来たような気持ちに

なりました。今のママになるまでに、たくさんの辛いことを経験して来たことが

伺い知れて、胸が痛みました。普段は明るくふるまっていても、きっと心の底

には、いろいろな後悔や思いが積み重なっていたのだと思う。このパスワード

探しに、涼子が付き合ってあげられて、本当に良かったと思いますね。あの

タイミングで涼子がBARを訪れたことも、何か運命的なものを感じました。最後の

パスワード入力の言葉は、涼子がいなければ思いつけなかった訳ですから。

ママの名探偵としての聡明な推理も、涼子の一言がきっかけで思いつけたり

してますしね。涼子は本当に、ママにとって優秀な助手であり、大切な友人に

なったのだな、と思えて嬉しかったです。前作で、二人の関係がこの先も続くと

いいな、と思っていたので、この作品が読め本当に良かった。ありがとうドラマ化

・・・!(笑)

パソコンに残されていた、ある人からママへのメッセージにもぐっと来ました。

お互いに蟠りはあったのだろうけれど、最後にちゃんとママに思いが伝わって

良かった。

ちょこちょこ出て来る漱石や『吾輩は猫である』の蘊蓄も楽しく読めました。

とはいえ、私自身はこれだけの有名作ですが、読んだことがなかったりするんです

よねぇ。『坊っちゃん』なんかは読んでるけど。有名文学作品はそういうのが

山程あるんですよね。今更読もうとも思わないんだけどね(読めよ)。

今回もママと涼子の関係がとても良かったです。まだまだ続編読みたいぞー。

 

 

 

米澤穂信「倫敦スコーンの謎」(創元推理文庫)

大好きな小市民シリーズ最新作。前作の流れを組んで、新作はてっきり大学生編

になるのかと思いきや、時代設定が少し戻って、今までに語られていなかった

過去の出来事をまとめた作品集って感じでした。外伝とか番外編って感じでも

なく、二人が活躍する本編なのは間違いないと思うけど。でも、◯◯限定が

なくなってるから、やっぱり番外編って位置づけなのかな。二人の高校一年~二年

までの出来事でしたね。四編が収録されています。

まだまだ距離感ある感じ。なんか、初々しいというか。二人の性格的に、初々しい

という形容詞は違和感しかないんだけどさ(苦笑)。

相変わらず、可愛らしいタイトルに反して、ほろ苦いどころかどす黒い内容に

なっているところがこのシリーズならでは。やっぱり、この二人の互恵関係が

いいですね。君たち、ほんとに高校生かい?とツッコミたくなったりもするけど

(小佐内さん、見た目は小学生ですけどw)。

では、各作品の感想を。

 

『桑港クッキーの謎』

最近大きな美術展で賞を獲った芸術家の縞大我氏は、僕たちが通う舟戸高校

出身だった。その縞氏が在校時代に描いた作品が、同級生の堂島健吾によって

発見された。しかし、その作品はある既存の画家の模写であるにも関わらず、

過去に展覧会に出品されていることがわかった。その作品は盗作なのか?健吾は、

僕に、以前絵の謎を解いた小佐内のことを紹介して欲しいと頼んで来たが――。

盗作かどうかの真相には、なるほど、と思わされましたね。しかし、当時誰もこの

事実に気づかなかったってのがね。当時の展覧会の審査員が気づかなかったのは

問題だったのでは^^;本人はちゃんと言い分を用意してた訳だけどさ。

 

『羅馬ジェラートの謎』

小佐内さんとショッピングモールにジェラートを食べに行った。二階のフード

コートでジェラートを食べていると、僕は一階のフロアに座るスーツの女性に

目が行った。彼女もまた、僕たちが食べているジェラート屋さんのジェラートを

買ったようだ。しかし、なぜか僕たちが話しながらジェラートを食べている間中、

自分の前に置いてあるジェラートに全く手をつけようとしなかった。一体なぜ、

彼女はジェラートを食べないのか?

そんな長い間ジェラートに手をつけなかったら、どんどん溶けて行くんじゃないの?

って思ったんですけど・・・こういうことでしたか。小佐内さんが待ち合わせに

遅れた件は絶対後で伏線になるだろうな、と思ってたんですが、こういう風に

繋がるとは思いませんでしたね。

私も、イタリア行った時、一番美味しかった食べ物は何かと聞かれたら、カプリ島

で食べたジェラートって答えますね。あんなに美味しいジェラートは後にも先にも

食べたことがないです。ああ、また行きたいなぁ。

 

『倫敦スコーンの謎』

僕たちの学年で調理実習があった。メニューは、サンドイッチとカナッペとスコーン

だった。小佐内さんのクラスでも同じように実習があった。しかし、小佐内さんの

班のスコーンが、なぜか生焼けで失敗してしまったという。スコーン担当の子は、

スコーン作りに自信があるといって、一人で担当したという。小佐内さんが作り方

を見ていた限り、失敗する要素はなにもなかったようなのに。彼女はなぜ、スコーン

作りを失敗してしまったのか――?

スコーン担当の沢海さん、言動にちょいちょい引っかかるところがあって、好感

持てませんでした。しかし、高校の調理実習でスコーンって、結構ハードル高くない?

いや、作り方はそんなに難しくはないと思うけどさ。でも、一番ムカついたのは、

何ひとつ作業しなかったくせに、失敗したことを責め立てた青田川だったけどね。

失敗した理由が二人の推理によって少しづつ明らかになって行くところは、やっぱり

上手いなーと思いましたね。保冷ボックスのこととか、細かい伏線がきっちり張って

あって、さすがだな、と思わされました。

読んでて、久しぶりに自分もスコーン焼きたくなっちゃいました。バターめちゃくちゃ

使うから、コスパ良くないんだけどね^^;ちなみに、私はそんなに生地寝かせ

ないで作りますね(ちょっとだけ冷蔵庫に入れたりはするけど)。

 

『維納ザッハトルテの謎』

船戸高出身の造形作家・縞大我の講演会が開かれることになった。しかし、学校宛に、

盗作作家の縞は講演会に相応しくないから中止しろという脅迫状が届いたという

噂が、学園内のあちこちで囁かれるようになっていた。講演会の二週間前のある日、

僕はクラスメートの島井さんと共に、美術の甲村先生から呼び出された。講演会で

生徒に見せて欲しいと送られて来た、縞大我のオブジェを運んで欲しいというのだ。

その場には、小佐内さんのクラスメートの沢海さんと青田川くんもいた。四人で

言われた通りオブジェを運んだが、講演会の前日、オブジェにヒビが入っているのを

発見して――。

学校に脅迫状が届いたかもしれないと聞いて、何か起きないか期待する小鳩くんの

黒さにちょっと引きました(苦笑)。そんな性格だったっけ?^^;登場人物みんな、

腹の中にどす黒いものを抱えてる人ばかりでしたねぇ・・・。沢海さんも、青田川

くんも、甲村先生も。縞大我もかな。主役の二人は言わずもがなですが。こんな

人間ばかりの学校やだよー^^;沢海さんの言動には一番引いたけども。思い込み

激しい人間のやることは怖いよ・・・。

 

各タイトルに出て来る都市の和名は勉強になりました。初めてみたやつもあったなぁ。

維納は知らなかったです。他は、倫敦以外は見たことあるくらいだったしね。

出て来るスイーツは今回も美味しそうだった。小佐内さんがスイーツ食べる時だけは

見た目通りの可愛い少女になるところに萌え萌え。中身は正反対だとしてもね。

やっぱり、この二人は最強にして最恐ですね。