ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

葉真中顕「鼓動」(光文社)

葉真中顕さんの最新長編ミステリー。葉真中さんらしい、現代社会の闇を切り取った、

社会派ミステリーでしたね。

児童公園でホームレスの老女の死体が発見された。首を締められた後、灯油を

かけられて死体は燃やされたようだ。犯人の草鹿秀郎はその場で捕まり、

『ホームレスなんて何の役にも立たなくて目障りだから殺した』と話しているらしい。

その上、草鹿は自宅で父親も殺したと自供しているという。そんな犯人の草鹿は、

18年間無職で引きこもり生活を送っていた。長年引きこもりで他人と関わりを

持たなかった男が、なぜ二人もの人間を殺すに至ったのか。男は自らの絶望の人生

を振り返る――。一方、事件を捜査する桜ヶ丘警察署の奥貫綾乃は、殺された

ホームレスの老女を知っていた。彼女はいつも、見かける度に華やかな花柄の服を

着ていて、ホームレスには見えなかった。綾乃は、内心で彼女のことを『フラワー

さん』と呼んでいた。離婚して子供と離れて暮らす道を選んだ綾乃は、自分もこの

フラワーさんのように孤独に死ぬのかもしれない、と自分と重ね合わせてしまう。

事件の裏に潜む、孤独と絶望の叫びとは――。

 

若干感想がネタバレ気味です。

未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

 

舞台が自分の地元に近い場所なので、知ってる地名が次々と出て来て、読んでて

嬉しかったし、ちょっと興奮しました。まぁ、犯罪の舞台なんですけど・・・^^;

出て来る駅名とかはそのままだけど、駅前の施設なんかは、ほとんどフィクション

って感じでしたね(知ってるからこそわかるw)。

ホームレスの老女を殺した犯人の独白と、事件を追う女刑事の視点が交互に出て

来る構成。犯人の草鹿は私と年齢も近いので(綾乃もだけど)、自分の過去を

振り返る過程で出て来る社会現象や大きな事件などの出来事は、ほぼ同じ時期に

自分も経験していることばかりなので、自分も過去を追体験しているような気持ち

になりましたね。あの時期にはあんな出来事があった、あんな事件もあった、

あんな凶悪犯罪や災害に世の中が震撼した・・・。最後はもちろん、コロナの

パンデミックですが。

ただ、途中からほぼ引きこもりになってしまう草鹿は、そうした世の中を揺るがす

出来事が起きても、結局家の中で他人事のようにしか感じられて来なかったわけ

なのですが。唯一、東日本大震災が起きた時にだけ、家庭内のある事情を受けて、

心境の変化が訪れるのですが。草鹿が引きこもりから脱却するには、この時が最後

のチャンスだったと思う。けれど・・・。結局、草鹿の本質は変わらないまま

だったのが残念だった。

承認欲求の強い草鹿の内面描写は、読んでいてイライラさせられました。

自分がダメなのは、世の中が自分を認知してくれないからだ、という考え方は、

正直、甘えにしか思えなかったです。自分から何もしようとしないで、自分がダメ

になった責任を親や社会に押し付ける。発端は子供の頃に受けたいじめから始まって

いるのだろうけど・・・。まぁ、うまくいかない人生を、何かのせいにしないと

生きていけなかったのだろうけども。

現代社会の重要な問題として、よく8050問題が取りざたされているけど、

まさに草鹿親子のケースはこれに当てはまろうとしていたと思う。結局親が

80になる前に、事件は起きてしまった訳だけれど。父親が最後に草鹿に頼んだ

ことに衝撃を受けました。父親は父親で、限界だったんだろうな、と胸が苦しく

なりました。そりゃそうだよね。長年、働かず家に閉じこもる息子に悩まされ

続けて来たのだから。こんな息子がいるせいで、妻は変な詐欺まがいの水に

大金をつぎ込む羽目になったし。草鹿の半生の独白部分を読むのは、正直ちょっと

しんどかった。そこの部分が長いものだから、少し途中で飽きてしまったところも

ありましたし。でも、終盤、畳み掛けるように事件の真相が見えて来るくだりは、

さすがの面白さでした。人物関係が少し複雑なので、混乱したところもありました

けれども。フラワーさんの事件の真相には驚かされましたね。まさかの人物が

最後に出て来て、あれ、この人どこで出て来た人だったっけ?と忘れかけて

ましたよ・・・。名前聞いて、ああ、そこに伏線があったのか、とは思いました

けど。ただ、さすがにこの真相にするには、もう少しヒントになる伏線が必要

だったのでは、と思わなくもなかったけれど。

草鹿が、フラワーさんの遺体を猟奇的な方法で遺棄した理由に、胸が苦しくなり

ました。でも、こんなことがまかり通ってしまったら、日本の司法も終わりです。

父親の殺害の真相も明らかになってしまったから、どうあっても草鹿の目論見は

通らないだろうし、これからは一人で生きて行かなきゃいけなくなるでしょうね。

そうなった時、もう助けてくれる親もいないし、どうするんでしょうか。

ただ、どこかで間違ってこんな人生になってしまった人間って、世の中には

いくらでもいると思う。こんな筈じゃなかった。もっと世の中の役に立てる筈だった。

草鹿の人生って一体何だったんだろう。でも、他人に認められるってそんなに

必要なことかな。私には、そんなに承認欲求ってものがないから、彼がそれほど

こだわった、他人に認められたいって気持ちには、あまり共感出来なかった。

最近の若い子も、この承認欲求に振り回されて人間関係うまくいかなくなるって

ケースが多いのだろうけども。自分は自分、他人は他人。誰もがそうやって思える

なら今の世の中もっと生きやすいのだろうけどね。でも、そんな単純じゃないよね。

草鹿の心の叫びも、フラワーさんを殺した犯人の心の叫びも、綾乃の孤独の叫びも、

胸に突き刺さって苦しかったです。綾乃は、一生娘に会えないままなんだろうか。

綾乃は、今からだって、もっと正面から娘と向き合うべきって気もするけども。

娘にとっては、今更か。

多少の中だるみ感はありましたが、現代社会の問題に深く切り込んだ、

読み応えのある一作でした。

 

 

 

 

古内一絵「東京ハイダウェイ」(集英社)

『マカン・マラン』シリーズでお馴染みの古内さんの最新作。東京で働く人々の

癒やしをテーマにした連作短編集。

東京は便利な街だけれど、都心で働くってそれなりにストレスが多そうだなぁとは

思いますね。私は東京でもどっちかというとのんびりした郊外の方に住んでいるし、

職場も都心の方だったことがないから、想像するしかないのですが。

一話目の主人公・矢作桐人は、虎ノ門にあるEコマース企業・パラウェイに入社して

五年目の社員。ようやく念願だったマーケティング部に配属になったが、ある日、

同期のやり手社員・寺嶋から、施策の違いを指摘された上、真面目過ぎることを

揶揄され、鬱屈を抱えていた。そんな中、普段は誰とも話さず黙々と仕事を遂行

する同僚の神林璃子が、昼休みに颯爽とオフィスの外で歩く姿を見かけ、思わず

後を追いかけてしまう。すると、璃子が入っていったのは、意外な建物の中だった

――(『星空のキャッチボール』)。

みんなそれぞれにストレスを抱えて生きていて、そういう鬱屈をなんとか解消

したいと、癒やしを求めるんですね。癒やしの方法も、人それぞれ。働くって

本当に大変。どんな職場でも嫌な上司や同僚はいるし、マウント取る奴、

揚げ足取る奴、セクハラする奴、パワハラする奴、もう、そりゃー千差万別、

いろんなハラスメントの宝庫ですよね。そうしたストレスにさらされた時、ちょっと

した癒やしを与えてくれる『隠れ家』があったら、きっと束の間の休息を取って

回復できる――本書の主人公たちは、それぞれに自分ならではの『隠れ家』を

見つけます。一息ついて、ほんの一刻でも、ままならない日常を忘れることで、

新たに気づきを得て前向きになれたりする。まぁ、世の中には、そういう心の

拠り所が見つけられない人もたくさんいるとは思いますが。六つの作品が収録

されていますが、どの人物にも共感できるところがありましたし(出来ない部分も

ありますが)、やはり古内さんは登場人物の心理描写がお上手だなぁと思いました。

ハラスメントをする側の人物の描写もほんとリアルで、こういう人いるいる!って

思いましたね。特に、桐人の同期の寺嶋は、その後度々違う話でも登場して来る

んですが、本当に嫌な奴過ぎて、出て来る度にイライラさせられました。真面目で、

クライアントのことをしっかり考えて仕事をする分、要領が悪い桐人のことを

小馬鹿にする態度にもムカつきましたが、それ以上に、精神的な疾患を抱える

璃子に対する差別的な態度に腸が煮えくり返る思いがしました。女性の上司である

恵理子に対する侮蔑的な態度も酷かったですしね。仕事が出来て上層部からの

評価も高いし、自分に自信があるのわかるんですが・・・長いものに巻かれるタイプ

で、自信過剰で他人に対してリスペクトがないこういうタイプの人間は、きっと

そのうち何かやらかして足元すくわれることになるんだろうなーと思いながら

読んでましたら・・・案の定な展開でしたね。結果的にはスカッとしたけど、

最後はなんだかんだで、ただでは起きないタイプなんだろうなぁと呆れました。

全く反省してないんだろうな、こういう人って。っていうか、自分は悪くない

のに、って思ってるから、絶対反省なんかしないか。

私は、桐人のように真面目にこつこつとやるタイプの人の方がずっと共感出来ます。

まぁ、会社員としては、もう少し要領よくやった方がいいのかもしれませんけども。

各作品、少しづつ人物関係が繋がっています。最後の話は多分、璃子になるんじゃ

ないかな、と思ってたら、その通りでした。璃子みたいなタイプって、恋愛とか

出来ないんじゃないかと思っていたので、ラストの展開は少し意外でした。でも、

自分だけの隠れ家が、誰かと一緒の隠れ家になるって、とてもいいなって思う。

それだけ、その人に心を許した証拠なわけですしね。他人と関わりを持とうと

しなかった璃子が、こんな風に変われて良かった、と心が温かくなりました。

個人的には、いじめられてた高校生がボクシングの指導を受けることで少しづつ

心も強くなっていく『タイギシン』と、四十代半ばにして独身のカフェチェーン

従業員が、美術館の最上階の眺めの良い部屋で東京を一望することで心を癒やす

『眺めのよい部屋』が心に残ったかな。高校生のやつは、心技体を鍛えることで、

ちょっとづつ成長して行く過程にぐっと来たし、カフェチェーン従業員の方は、

四十代独身女性の内面描写がとてもリアルだったし、なんといっても、後半の

母親が上京して来た辺りからの展開に心を掴まされました。母親の心情を思うとね。

もう、涙腺崩壊しかけましたよ・・・。遠くで一人で頑張ってる娘にひとめ会いたい

っていう親ごころがね。あんな状況だったのにね。

もちろん、それ以外のお話も良かったです。桐人の話読んでて、久しぶりに

プラネタリウムに行きたくなっちゃいました。我が街にも、結構大規模な施設の

プラネタリウムがあるんですよね。出来た当時は、東洋一とか言われてたんだっけ

(今はもちろん、他にいくらでもすごい施設のところがたくさんあると思いますが)。

自分ならではの隠れ家を見つけられるのっていいなって思わされた作品でした。

ちなみに、タイトルの『ハイダウェイ』が『隠れ家』という意味だそうです。

勉強になりました(笑)。

 

 

 

 

 

米澤穂信「冬期限定ボンボンショコラ事件」(創元推理文庫)

待ちに待った小市民シリーズ、最新作。一応、これが最後になるのかな。春から

始まって、冬までようやく辿りついた感じ。

最終巻(たぶん)ということで、読み応えたっぷりでしたね。冒頭から衝撃の

展開が訪れます。高校3年生の冬のある日、小佐内さんと学校帰りに河川敷の堤防

道路を歩いていた小鳩常悟朗は、ひき逃げ事件に遭う。車に轢かれる直前、小鳩は

横にいる小佐内さんを突き飛ばしていた。とっさの行動で、小佐内さんを助けよう

とした意識はなかった。目が覚めた時には病院のベッドの上で、手術の後だった。

退院までは二ヶ月ほどかかるらしく、入試は見送らなければならなくなった。

手術後、意識朦朧としている間に、小佐内さんが来てくれたらしい。枕元には、

『犯人をゆるさないから』というメッセージが残されていた。独力で犯人捜しを

しようとしているらしかった。

一方、ベッドの上で看護師の介助を受けながら入院生活を送ることになった小鳩は、

今回のひき逃げ事件と似ている、三年前に起きた同級生のひき逃げ事件を思い出

していた。小佐内さんと出会い、解きたがりの自分が大失敗したあの恥ずべき

出来事を――。

 

若干ネタバレ気味の感想になっております。

未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

小鳩君と小佐内さんが小市民を目指すきっかけになった出来事がようやく明らかに

なりました。想像以上にダークでしたねぇ・・・。ほろ苦いを通り越して、苦い

だけの事件って感じでびっくりです。ただ、その中心となる人物・日坂君に

関する最悪の噂の真相にはほっとしましたが。もし、その噂が本当だったら、

小鳩君は一生罪を背負って生きていかなければならないところだったから。三年前

には解決出来なかった問題も、三年経って、自分が被害者になるという皮肉を経て、

ようやく真相が解明出来た。良かったのか悪かったのかはともかくとして。中学

三年の小鳩君の言動は、私から見ても傲慢に見えました。関係のない他人の問題に、

自分なら謎を解けるという自負を持つことで、ずけずけと入り込んで。良かれと

思ってやったことがすべて裏目に出て。プライドはずたずたになった。こんな

経験があったら、そりゃ小市民を目指したくなってもおかしくはないですね。

中学生の小佐内さんは、予想以上に黒かったですね^^;言動が怖い、怖い^^;

こんな中学生嫌だよーー(><)。

三年前の日坂君を轢いた犯人に関しても、現在の小鳩君を轢いた犯人に関しても、

どちらも予想外の人物でした。まぁ、日坂君の方はそもそも読者に当てるのは

無理のような気がしますが。小鳩君の事件の方は、犯人の狂気が怖かったですね。

こういう職業の人が、こんなことをやるのは一番ダメでしょう。いくら憎しみが

あったからといって。小佐内さんの暗躍によって、最悪の事態が免れて良かった

です。

二人の関係は恋や愛にはなり得ない、と本人たち(少なくとも小鳩君は)思って

いるようですが、ラストの小佐内さんの一言で全部がひっくり返った気がします。

大学で離れ離れになって(小鳩君は浪人だし)、二人の互恵関係も終わりなのかと

思いきや。小鳩君が、今回轢き逃げ事件に遭ったことで、小佐内さんは初めて、

小鳩君の不在がどれだけ自分にとって不安を引き起こすのか、痛感させられた

のでしょうね。それってもう、恋なんじゃ?^^;わたしの次善。次善って、

最善ではないけれど、それに次ぐものであること、だそうな。それが最善になる

日はもうすぐって気がするな。小鳩君が、来年度、進学先を変えて、小佐内さんを

見つけられたら、きっとね。

これで終わりとはさみしい限り。大学生編がいつかスタートするといいなぁ。

ほろ苦い二人の互恵関係、まだまだ先が読みたいです。

 

 

浅倉秋成「家族解散まで千キロメートル」(KADOKAWA)

朝倉さんの最新作。読み終わったのは結構前なんですが、うっかり間違って、

記事を書く前に本を返してしまいまして。手元に本がないため、うろ覚えの

感想になってしまいそうです。すみません・・・。

あらすじや登場人物の名前等、ネットを参照しつつ、間違えないよう気をつけよう

と思います^^;

主人公は喜佐周(きさ・めぐる)。子供の頃から、父親は常に不在の家庭に育った。

いて欲しい時にいつもいない父親には、いつの頃からか期待しなくなっていた。

兄の惣太郎は元地下アイドルの女性と結婚してすでに家を出ていて、喜佐家には父・

母・姉のあすな・周の四人が住んでいた。

そんな中、姉が結婚することになり、周自身も結婚を控えていて、これを機に

古い実家を取り壊し、両親はマンションに、子供たちもそれぞれに転居することに

決まり、一家は解散することになった。引っ越しの3日前、いつもの如くに不在

の父を除いた家族全員で実家の整理をしていたところ、庭の倉庫に不審な箱が

置いてあることに気づく。周は、引越し業者に下見に来てもらった時にはこんな

ものはなかった筈だと不審に思う。中身を見ると、ニュースで話題になっていた、

青森の神社から盗まれたご神体にそっくりな仏像が入っていた。家族全員が知らない

と言い合う中、誰もがこんなものを盗んで来たのは、ここにいない父親に違いない、

と考えた。なぜなら、父には、以前、あるモノを盗んで来た前科があったからだ。

父に代わって、青森までご神体を返しに行くしかない――神主は、今日中に返しに

くれば許してやるとインタビューに答えていた。一同は、ご神体を車に乗せて、

一路青森を目指すことに――。

喜佐家の家族たちは、父が盗んだ(らしい)ご神体を無事に青森の神社まで返す

ことができるのか。その道中は、ハラハラ・ドキドキの連続。若干中だるみ感も

ありましたが、青森目指してみんなで北上する過程は、さながらロードムービー

のようで、概ね楽しめました。中盤以降は、どんどん意外な展開へ。特に、青森

に着いた後で、結構まだページ数が残っていたので、これから一体何があるんだ

ろう?と首を傾げながら読んでました。ご神体返して終わり、とはならなかった

ので。神主の態度も意外だったし。とはいえ、そこに至るまでにいろいろと腑に

落ちない描写が結構あって、ツッコミ所の多い作品だなぁと思ったのですが・・・

うーむ。なるほどぉ!って感じでしたね。いろんな伏線が最後に集結するところは、

さすがだと思いました。

ただ、この種明かし的な部分に関しては、道尾さんの作品の二番煎じって感じに

思えなくもなかったなぁ。なんとなく、全体的に、伊坂幸太郎さんと道尾さんを

足して二で割ったような感じの印象だった。既視感があるというか・・・。

そもそも、仏像盗む時点でね。伊坂さんっぽいし。家族のキャラ設定なんかも、

それっぽい。

ただ、父親の本当の姿に関しては、完全にやられたって感じだったな。こんな

裏があったとは・・・っていうか、度々不在にしていた理由にもびっくり。

切ないというか、なんというか・・・。

部分的に、これって誰の視点なんだろう?って思える箇所があって、そこが

ポイントだったんですね。

誰からも理解されていないと思われていた父親だったけど、少なくとも一人は

理解者がいて良かったと思いました。

父の真の姿がわかって大団円かと思いきや、まさかの結末で驚かされましたが。

でも、この家族にはこれが似合っているのかも。家族だからって、無理して

付き合う必要はないし、それぞれに幸せならそれでいいと思うしね。どこか遠くで

元気にしていてくれたらそれで十分ってことなんでしょうね。

面白かったけど、もうちょっとコンパクトに読ませてほしかった気もするな。

ちょっと全体的に冗長な印象は否めなかったので。

 

 

深水黎一郎「真贋」(星海社FICTIONS)」

深水さん最新作。久しぶりに芸術探偵シリーズの新作が出て嬉しいです。といっても、

今回は瞬一郎は出て来るものの、海埜警部補は登場せず、違う主人公が活躍する

新シリーズという位置づけになりそうです。

主人公は、美術関連の犯罪を取り扱う為に警視庁に新設された『美術犯罪課』に

突如課長代理として抜擢された森越歩未。唯一の部下である馬原茜とともに、

二〇社近い関連企業を持つ一大コンツェルン・鷲ノ宮グループが持つ名画コレクション

の巨額脱税疑惑の捜査を命じられる。時価数百億とも言われていた名画コレクション

だが、最近改めて有名な美術評論家によって鑑定してもらった結果が、『すべての名画

が贋作』というものだった。いつの間にか名画が贋作にすり替わっていた?それとも、

これは先代が亡くなった後、鷲ノ宮家を継いだ長男の公晴氏による相続税逃れの

陰謀なのか――。捜査に乗り出した二人の前に新たに持ち上がったのは、公晴氏

の妻・時乃夫人の若かりし頃を描いた絵が、いつの間にか『現在の年老いた時乃夫人』

の絵にすり替わっていたという不可解な謎。歩未たちは、美術に造詣が深い庁外

アドバイザーの神泉寺瞬一郎と共に、この謎に挑むことに。

面白かったです。本物だった筈の名画コレクションが、厳重な保管環境にあったにも

関わらず、いつの間にかすべて贋作にすり替わっていた謎と、若い女性を描いた

作品が、年老いた女性を描いた絵に変わっていた謎。どちらの真相も、なるほど、

と思えるものでした。絵が年を取った謎の方は、途中で伏線らしきエピソードが

出て来て、多分これが伏線なんだろうなーと当たりをつけていたので、ほぼ

方法も犯人(というと微妙に語弊がありそうですが^^;)も予想通りでは

あったのですが。鷲ノ宮コレクションの贋作事件の犯人の方は、全く予想外の人物

で驚かされました。

ミステリとしての面白さももちろん楽しめたのですが、それ以上に、絵画の贋作

に関する蘊蓄の部分が興味深かった。歴代の名画は、必ずといっていいくらい、

天才的な贋作師によって贋作が描かれて来たんだなぁと驚かされました。本物と

ほぼ見分けがつかないくらいの腕前だったら、贋作なんか描かずに、自分の絵を

描けばいいのに・・・というのは、誰もが持つ感想のようです。でも、無名の

自分の絵を売ったところで二束三文ですからね。結局、贋作師としての腕を

磨くよりなかったのかもしれません。

美術鑑定技術の進歩によって、現在はほぼ贋作かどうか判断できるみたいです

けどね。当時は、X線とか分析機なんてものはなかったですからねぇ・・・。

瞬一郎が、自前の蛍光エックス線分析装置を持ってたところには目が点になり

ました。何者なんだ^^;

女性二人と瞬一郎の関係も良かったですね。特に、馬原さんのキャラが立っていて

良かったな。見た目と口調がいまいち一致しない印象はありましたけど・・・

なんであんな体育会系の口調とノリなんだか^^;

最後、時乃像の真相を時乃さん本人に告げるかどうかで女性二人と瞬一郎の意見が

分かれるのですが・・・うーん。どちらの言い分もわかるけど、個人的にはやっぱり

女性側の意見よりかなぁ。私だったら、真相を知らないままでいるよりは、知りたい

かなぁと思う。それがどんなに辛い真相だろうが、真実を知りたいですもん。

 

今までとは版元も違うから、心機一転、新シリーズ始動って感じなのかな。

今後は、美術犯罪課の二人+瞬一郎のトリオでシリーズが展開していくのかしらん。

でも、やっぱり海埜警部補がいないのは寂しいな。瞬一郎とオジさんの関係好き

だから。

そっちはそっちでまた新作書いて欲しいなぁ(ついでに、おーべしみも登場して

ほしいw)。

 

余談ですが、この作品読んだ直後に、現実に徳島県の美術館が六千万以上で

落札した絵画が贋作だったかもしれない、というニュースが飛び込んで来て

びっくり。しかも、その贋作が有名なドイツの天才贋作師が描いた作品かもしれ

ないらしく。鑑定書はついてるらしいですが、真相を見極めるべく、調査中だとか。

作品との絶妙なシンクロに面食らわされたのでした。

 

 

雨穴「変な家」(飛鳥新社)

YouTubeで話題になり、映画化までされた人気作。話題騒然となった時は予約が

すごくて全然借りられなかったのですが、文庫版が入荷されて、それほど予約数が

いなかったので、やっと借りられました。

知人が買おうか検討している中古の一軒家について相談を受けた主人公。一見

良さそうな物件に思えるが、間取りを良く見ると、謎の空間が存在していた。

知り合いの建築士に間取り図を見てもらうと、その家にはいくつもの違和感がある

というが――。

読みやすいのであっという間に読めました。間取り図を見て、建築士と二人で

あれこれ検証している部分まではかなり面白く読んでました。

でも、その家にまつわる因縁の真相の部分は、さすがに作りすぎてて、信憑性が

なくなってしまったなぁって感じだった。子供に◯◯をやらせるって時点で

すでにおかしさ満載だし。まぁ、ミステリに於いて、旧家の因習っていうのは

魅力的なガジェットのひとつではあるんだけど、こういう現代的な作品に無理やり

当てはめると、そこだけ嘘っぽくなってしまって、なんだか白けてしまった。

そもそも、死体がそんなに都合良く手に入る訳じゃないじゃないですか。この

現代において。戦時中のような混乱時ならともかく。それ以外の部分でも、

ツッコミ所多すぎて・・・。

前半部分の、間取りだけであれこれ考察するところはとても面白かったので、

変にこじつけるような真相エピソードを盛り込まないで、いろんな不可思議な

間取りを取り上げて、あれこれ考察して終わるような作品の方が個人的には好み

だったかも。真相がどうだとか、間取りだけでわかるわけないんだから、そこは

わからないままでもいいと思うしね。

でもまぁ、間取りだけでここまで話を広げられるのはすごいと思う。話題になるのも

納得ではあったかな。絵のやつも文庫化したら読んでみたいと思います。

 

 

 

似鳥鶏「刑事王子」(実業之日本社)

似鳥さん最新作。アラフィフの刑事と、フィンランド湾内にある小さな島国・

メリニア王国の第三王子がタッグを組んで不可解な連続殺人事件を捜査する、

異色のバディ小説。

うーん・・・すっごい微妙だった・・・。いつもの似鳥作品だと、小さい事件から

少しづつ世界観が広がって、最後はとんでもなく大きな事件に発展、みたいな

展開になるのが定石なのだけど、今回は、冒頭から事件の背景に隠された陰謀の

規模が大きい。アラフィフ刑事と王子のコンビは良かったと思うけど、国際機密

を扱っている割に作風が軽くて、なんだかちぐはぐな印象しか持てなかった。

摂取すると殺人衝動が起きるという新種の危険なドラッグSNAKEを巡る世界規模の

陰謀が、日本の一般人の殺人事件と関わって来るってのも、どうにも設定が強引

過ぎて引いてしまって、世界観になかなか入り込めなかったです。

そもそも、世界を揺るがす殺人ドラッグを扱う黒幕が、日本のアニメやマンガや小説

に影響受けてるからって、標的を日本にするってのもなんかねぇ。何ソレって感じ

・・・。まぁ、その影響のせいで、それぞれの事件のトリックが、本格ミステリ系の

王道を踏襲したタイプのものが多く、それはそれで楽しめたところもあったのです

が・・・。

でも、ミカ王子の兄が飛行機事故の炎から逃げ出せた真相には唖然。いやいや、

そりゃないでしょ、とさすがにツッコミたくなってしまった。

それ以外にも、絶対的にツッコミところが満載というか・・・。警察庁職員の

敷島さんのキャラは面白かったけど、こんな人いね―よ!とツッコミたくなる

箇所が何度もありました^^;

終盤は、いつもの如くにすごいアクションシーンが。なんか、やりすぎなんだよ

ね・・・。作風が作風だから、いまいち緊迫感にも欠けるし。いきなりハリウッド

級のアクションシーンが出て来たりするものだから、なんだか引いてしまって。

事件が大きい割に、最後駆け足だから、結局何も解決せずに終わってしまった

感じがして、拍子抜けだった。兄はどうなったんだ、結局。

なんか、一話目で嫌な予感がして、挫折寸前だったんだけど、ちょうど次に読む本

図書館から取って来てない時だったから、なんとなく全部読んでしまったけど・・・

ちょっと好みからは外れた作品だったかな。残念。