ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

秋川滝美「ひとり旅日和 福招き!」(角川書店)

シリーズ第4弾。今回の旅は長野、名古屋(愛知)、東京でのお土産宴会を

挟んで、高知・愛媛、宮崎・鹿児島と、ひとり旅としてはなかなかの移動距離。

日和がだんだんとひとり旅慣れしていくのがわかりますね。ただし、今回は間の

東京お土産宴会を挟んだことで、一旦日和のひとり旅熱が下がってしまう。

今まではコミュ障気味の日和がひとり旅をすることによって、少しづつ成長

していくところを微笑ましく読んでいたのだけれど、今回ばかりは、さすがに

日和の思い込みが激しく、自分勝手な僻み思考に、ついていけないものを

感じてしまいました。いくら何でも、面倒くさい性格過ぎる・・・。日和の

ようなタイプがネガティブ思考になってしまうのは仕方がないと思うし、そこを

改善させようと奮闘するところに好感を持っていたのだけれど。蓮斗への恋心が

ひねくれた方向に走ってしまい、自分勝手な思い込みであれだけお世話になって

いる麗佳さんに対して酷い態度を取ってしまうように。もちろん、恋をすると

ネガティブな方向に思考が行っちゃうのはわかります。特に日和のようなタイプは

尚更そうでしょう。でも、麗佳さんにまであんな風に距離を取るような子だとは

思わなかったので、ちょっとがっかり。もうちょっと素直で謙虚な性格だと思って

たのにな。かと思えば、ラストの話では麗佳さんから蓮斗の言葉を聞いて、あっさり

態度を変えるし。些細な言葉や出来事で自分の殻に閉じこもってしまう日和のような

子は、やっぱりちょっと面倒くさいタイプなんだろうな、と再認識させられた気が

します。少しづつ成長しているのも間違いないとは思うのだけれどね。

ただ、日和の経験した旅に関しては、今回もとても楽しそうでした。特に行って

みたいと思ったのは、長野の渋温泉。お正月の七福神巡りが大好きだった人間

としては、ぜひとも祈願手ぬぐいを買って、9つの温泉巡りを達成してみたいと

思いました(日和は最初から諦めましたけど)。長野の温泉は本当に泉質がいい

からな~。

あと、高知・愛媛編では、行ったことのある道後温泉が出て来たのも嬉しかった。

四万十川はほとんど観に行けなかったので、心残りだったんですよね~・・・仁淀

ブルー、私もめっちゃ見てみたい(><)。高知は道の駅くらいしか寄れなかったし。

四国はまだまだ行きたいところがたくさん残ってるんですよね~。

そして、ラストの宮崎・鹿児島はどちらも行ったことがないところで、めちゃくちゃ

行きたい旅行先。宮崎だったら、相方がとにかくチキン南蛮が大好物なので、本場の

チキン南蛮食べさせてあげたい(もちろん、私も食べたい)し、鹿児島も指宿の

温泉とか一度でいいから行ってみたいし・・・って、日和が経験してないこと

ばかりですが^^;もちろん、日和が行った高千穂神社とかクルスの海も気になり

ます。見どころありすぎて、絞れないかも~^^;

このシリーズ読むと、ほんと旅に出たくてうずうずしちゃう。コロナの移動制限も

なくなってることだし、今年こそ長距離移動の旅行がしたいなぁ。ああ、旅に出て

美味しいものが食べたい。温泉に入りたい~~~。

日和と蓮斗の恋は、今回のラストで大分進展を見せたような?浮き沈みの激しい

日和の性格には若干イラッとさせられましたが、大分希望が見えて来たようで、

良かったです。しかし、蓮斗とのお城デートの様子がすぱっと端折られたのは

ガッカリ。そこ書かないでどーすんの!?ってツッコんじゃいましたよ、もう。

次回辺り、そろそろどっちかからの告白シーンが出て来たりするかな?ただ、

日和自身、万が一カップルになっても、ひとり旅は辞めないと宣言をしていたので、

上手く行ってもタイトルが『ふたり旅日和』になることはなさそうですけどね(笑)。

 

恩田陸「なんとかしなくちゃ。 星雲編 1970-1993」(文藝春秋)

恩田さんの最新作。といっても、予約してから大分経ってようやく回って来たって

感じでしたけど(昨年11月の新刊)。最近は予約に乗り遅れてばかりだなぁ。

ちょっと、今までの恩田さんにはないタイプの作品で、斬新な内容でしたねぇ。

主人公の梯結子のキャラクターが抜群に良かったですね。大阪の代々続く廻船問屋

の息子を父に、東京の老舗和菓子屋の娘を母に持つ、四人兄妹の末っ子に生まれた

結子は、タイトル通り、何か問題が起きると『なんとかしなくちゃ』とナゾの使命感に

かられて、いろんな手を使って問題解決を図る子どもだった。問題といっても、結子

自身が何か『キモチワルイ』と感じるかどうかってところが重要で、どんな些細な

ことでも、ひとたびその感情が芽生えてしまえば、それは『なんとかしなくちゃ

いけない問題』にすり替わってしまう。それは例えば大量に捨てられる○クルトの

容器であったり、小学生の頃のお友達を呼んでのお誕生日会での困りごとであったり、

中学の体育館の用具室前の段差であったり。その時々で、結子は持ち前の観察眼と

イデアを駆使して、その『キモチワルイ』をさらっと解決していく。結子自身は、

それを特別な才能だとも思っておらず、なんとなくやってしまうところがスゴイ。

やはり、育ちの良さが効いているのか。結子自身の素直だけども淡々とした性格

がなんともいえず、飄々とした味があって魅力的でしたね。梯家には面白いしきたり

があって、中学を卒業した年の春、当該人物が亭主を務めるお茶会が開催される。

もちろん、結子の兄や姉も行って来たし、結子が中学卒業した春も結子が企画した

お茶会が開催された。その時の結子のお茶会のテーマが、『融通無碍』だった。

融通無碍って言葉は始めて知りました。これは、『滞らずにものごとが行き来し、

何物にも妨げられない』という意味なのだそう。中学生の結子がよくこんな言葉を

知っていたなぁと感心するばかりでした。この言葉が、結子のその後の人生に

おいてもずっと意味をなしていくことになる。結子の人生のテーマといっても

過言じゃないかもしれないですね。その後も度々この言葉通りに、『キモチワルイ』

滞り(問題)を、さらりさらりと解決して、妨げられないようにしていくのですから。

本書では、そうした結子の大学卒業までが描かれています。今後、第二弾として、

社会人編も出版される予定のようです。高校でも大学でも、結子は目を瞠るような

活躍を次々としていくので、取り上げたいエピソードはたくさんあるのですが、

それはぜひ読んで確かめて頂きたいですね。どのエピソードでも、結子らしい

機転の利かせ方に驚かされますし、感心させられっぱなしでした。高校でフランス人

からフランス語を習い始めたってところもすごいし(しかも、受講料は自分で

アルバイトして稼いだお金で払っていたし)。大学ではなぜかなし崩し的に

城郭愛好研究会に入ることになり、様々な初体験をすることになったり。そこから、

ビジネスに繋がるアイデアを閃かせたり。もう、とにかくバイタリティ溢れる

結子のキャラクターが生き生きとしていて、読んでいてとても楽しかったし、スカッと

しました。こういう人が、日本社会を発展させて来たんだろうなぁと思えました。

友達にひとりいたら、ものすっごく重宝するんじゃないかな。どんな人にも一目

置かれる存在だと思う。逆に、絶対に敵には回したくないタイプ。結子自身はあまり

個性があるような感じでもないのに、気が付いたらすごい存在感を放っているって

感じ?何か問題が起きた時、結子に相談すれば、何とかしてくれるんじゃないかって

思えるというか。とにかく、今までにないタイプのヒロインだと思う。大河ドラマ

したら面白そうだけどなぁ。

あと、もうひとつこの小説で面白い部分があって、それは、要所要所で作者の

解説のような愚痴のような身の上話のような、語りが入るところ。最初、この

語り手の『私』って誰のことなんだろう?と首を傾げながら読んでいたのですが、

だんだん、読んで行くにつれて、ああ、これ恩田さんご自身なんだとわかるように

なりました。作者が入り込むことで邪魔に感じる場合もあるとは思いますが、

本書の場合は作品自体もコミカルな部分もあったりする分、割合溶け込んでいて、

そこはそこで味があって良かったと思います。人によってはいらないと感じる場合も

あるかもしれませんけどね。結子が大学で城郭愛好研究会に入ったことで、お城解説と

共に、ちょいちょい歴史ウンチクが入るところは、歴史苦手人間としては、若干

読むのが面倒でうんざりしたところもありましたけどね(逆に歴史好きにとっては

楽しめる部分ではないかと)。

社会に出てからの結子は、持ち前の融通無碍精神がさらにいろんな方面で発揮

されて、素晴らしい活躍をすることになるのではないかと推察。読める日が来る

のが待ち遠しい。

 

貴志祐介「秋雨物語」(角川書店)

貴志さんの最新作。4つの作品からなるホラー短編(中編?)集。共通している

のは、タイトルにもあるように印象的な場面で秋雨が出て来るところくらい。

それも、そこまで重要ってほどの要素でもなく。ネット検索していたら、どなた

かの感想に上田秋成雨月物語を意識した作品と紹介されていました。

いかんせん、『雨月物語』を読んだことがないもので、どの辺りがインスパイア

されているのかはさっぱりわかってません。すみません・・・。

ちょっと、オチがすっきりしないと思うものもありましたね。ジャンルはホラーに

入ると思うのですが、そこまでの怖さもなかったような。一番怖さを感じたのは、

ラストのこっくりさんかな。これはラストのオチまでしっかりしていたし。

ただ、読む人によって好みの作品は分かれそう。なんだかわからないままに

ぞっとした気分にさせられる『フーグ』が好みという人もいれば、呪われた歌

を歌った無名の天才歌手の秘密を探る白鳥の歌が好みという人もいるだろうし。

人の悪意の怖さと醜さを思い知らされる『こっくりさん』が個人的には一番怖かった。

貴志さんは、こういうのを書かせた時が一番怖いと思う。未だに、『黒い家』を

読んだ時の恐怖が忘れられないもの。

冒頭の『餓鬼の田』は、ハイスペックなのに、なぜか女性と付き合ったことがない

男に好意を寄せる女性の話。意中の男性がなぜ女性と付き合ったことがないのか、

その秘密を聞かされた女性が、その話を聞いた上でどういう態度に出るのか、が

読みどころ。この男の業の深さに絶望的な気持ちになりました。

どれも違った読み心地のある作品。貴志さんのホラーが好きな人なら楽しめるのでは

ないかな。近々、似た作品集がもう一冊刊行予定らしい(『梅雨物語』という

タイトルだそう。梅雨時の出来事ばかりが描かれるのかな)。

そちらも楽しみにしていよう。

薬丸岳「罪の境界」(幻冬舎)

薬丸さん最新作。ちょうど読んでいる時に職場の昼休憩でテレビを観ていたら、

王様のブランチで本書が紹介されて、めっちゃタイムリーだなぁと思いました。

薬丸さんご自身が出演されていて、なぜ本書を書こうと思ったのか等のお話が

聞けて良かったです。実際に起きた無差別殺人事件がきっかけだったそうで。

その犯人の動機が『刑務所に入りたかった』というものだったことで、いろいろと

考えさせられて本書が生まれたようです。私もそういう動機で犯罪を犯したケース

はいくつか覚えています。本当にふざけていると憤りましたっけ。

本書で取り扱っている事件も、無差別殺人事件。ヒロインの浜村明香里は、ただ

その日のその時間に渋谷のスクランブル交差点にいたというだけで、事件に巻き

込まれてしまいます。犯人から襲われ、斧で切りつけられた明香里だったが、

その場に居合わせた男性が身代わりになったことで、生き延びられた。明香里を

助ける代わりに命を落としたその男性は、死の直前、『約束は守った。伝えて欲しい』

という謎の言葉を残していた。それは誰に向けた言葉だったのか。明香里は、男性

の伝言を何としてでも相手に伝えたいと願い、男性の身の上を調べ始めることに――。

とても薬丸さんらしい、非常に多くのことを考えさせられる社会派ミステリーでした。

無差別殺人事件の被害者となったヒロイン、彼女を支える恋人や家族、犯人と同じ

ような生い立ちだったことから、犯人に興味を引かれて事件を調べ始めるライター、

そして事件を起こした犯人自身、いろんな角度から偏ることなく作品が描かれて

いて、読み応えがありました。事件を起こした方も、起こされた方も、それぞれに

語るべきことがあり、ドラマがありました。かといって、犯人側には全く同情すべき

点はありませんでしたが。確かに子供時代に母親から虐待され、育児放棄に遭った

という点では可哀想な身の上とも云えるのですが、だからといって、何の罪もない

無関係の人に悪意を向けていいはずがなく。『刑務所に入りたかった』などという

犯人の身勝手な動機には、ただただ憤りを感じるばかりでした。被害者となった

ヒロインの明香里に対する心情は、その時々で気の毒に思ったり、怒りを感じたり、

イライラしたり、好ましく思ったりと、さまざまでした。もちろん、大本のところ

では同情すべき女性なのですが、事件に遭った後の荒み方が激しくて。家族に対する

暴言やDVには、気持ちでは理解出来ても、やっぱりいい感情は持てなかったです。

とはいえ、そうした自分の言動に心底嫌気がさしたからこそ、家を出て一人暮らし

をすることになったのですけれど。もともとは素直で優しい女性だったのに、

そういう女性の人生も一変させてしまった犯人が許せなかったです。一人暮らしを

始めて、命の恩人のことを調べ始めてからの彼女は、人が変わったように強く

しっかりした女性になったように感じました。生きる目的ができると人は変わって

行くものなんでしょうね。彼女を支える恋人の航平の存在も大きかったですね。

まぁ、そもそも、彼女が無差別殺人の犠牲になったのは、航平のドタキャンのせい

っていうのもありましたけど。顔に酷い傷を負った明香里を見たら、気持ちも

心変わりしてしまうかも・・・とちょっと不安に思ったところもあったのですが、

そういう気持ちの変化は全く感じられなかったのでほっとしました。明香里に

対する負い目の感情だけではなく、きちんと彼女への愛が感じられるところに

誠実さが感じられましたね。

児童虐待やネグレクトなど、最近のニュースでも良く取り上げられている問題も

盛り込まれていて、とても考えさせられました。結局、親から虐待を受けて育った

子供は、同じように自分が大人になった時に自分の子供に同じことを繰り返して

しまう。親ガチャなどという言葉も取り沙汰されたりしますが(あまり好きな

表現ではないけれど)、実際に、育った環境で人の人生は大きく左右されてしまう

と思う。何不自由なく両親から愛情を受けて育った人間には、きっと犯人の小野寺

の心情は理解出来ないのかもしれない。それでも、その環境にあっても、罪の

境界を超えなかった人もたくさんいる。小野寺の母親のように(彼女のしてきた

こと自体には、吐き気がするほど腹が立ちましたけど)。

著者の薬丸さんが、インタビューで、こういう事件が起きた時の被害者側と加害者側、

どちらも納得できる終わり方にしたかった、みたいなことをおっしゃっていて、

ラストを読んでその言葉が腑に落ちました。大抵の場合、どうしても加害者側の

権利ばかりが優先されて、被害者側はやられ損、みたいな印象が強いから。

亡くなった飯山に関してはただやりきれない気持ちになったものの、明香里には

救いがあったし、小野寺にはそれ相応の報いがあった。母親の真意を知ったことで、

きっとこの先一生自分のしたことを悔いて行くのだろうと思えるから。

どちらにも納得の行く落とし所だったと思う。この手の社会派作品で、こういう

結末ってなかなかないと思うので、さすが薬丸さんだな、と思わされましたね。

明香里が一人暮らししていた時に、隣に住んでいた少年の今後の人生だけが

気がかりです。

どうしようもない親の犠牲になるのは、いつだってその子供たちなのです。子供が

辛い目に遭う話は読むのがキツい。彼らに明るい未来が来るようであって欲しいと

願うばかりです。

 

 

倉知淳「世界の望む静謐」(東京創元社)

死神のような風貌の乙姫警部が活躍する倒叙ミステリシリーズ第二弾。前作も傑作

でしたけれど、今回もそれに遜色ないくらい面白かったですね。昨年中に読んでたら、

間違いなくミステリランキングには入れたと思いますね。死神にしか見えない

乙姫警部と、恐ろしく整った顔立ちの鈴木刑事、対照的な容姿の二人の刑事が、

今回も完全犯罪を目論む犯人を追い詰めます。何度も何度も犯人の元を訪れては、

少しづつ犯罪の齟齬を見つけ出して行く。倒叙ミステリらしい、じわじわと犯人

を窮地に陥れて行く過程にぞくぞくしました。恐るべしは、乙姫警部は、ほとんど

の犯人を、初めて会った時から疑っているというところ。その慧眼には毎回驚かされ

ます。まぁ、犯人自身が一番驚かされてるんでしょうけど。

でも、一番びっくりするのは、これだけ乙姫警部の慧眼を身近で見ているにも

関わらず、鈴木刑事がいまいち尊敬の念を抱いていなさそうなところ。鈴木刑事は

良く、自分の上司である乙姫警部のことを『何を考えているかよくわからない』と

表現しているけど、私にしてみれば、鈴木刑事の方がよっぽど、何を考えているのか

わからないキャラって感じがする。イケメンという以外にあまり情報らしい情報が

ないからかも。内面描写も出てこないし。ただ、乙姫警部の隣でメモ取ってるって

だけで、推理らしきものもしないし。自分のことを話すこともないし。めっちゃ謎。

乙姫警部は、今回古い歌手を知っていたり、コミケの同人サークル情報を詳しく

知っていたりと、意外とサブカルに強いってことがわかって驚きました。その辺り、

大倉崇裕さんの描く福家警部補とちょっとキャラが被っているかも。あれも倒叙

ミステリだしね。福家さんと会わせてみたいかも(笑)。

 

では、各作品の感想を。

『愚者の選択』

大人気ミステリーマンガ『探偵少女アガサ』の作者・椙田保彦を担当する編集者の

桑島は、椙田からアガサの連載を終了すると一方的に告げられ、カッとなって

殺してしまう。現場からは自分の痕跡を完全に消したはずだったが、死神のような

刑事が現れて――。

現実だと、椙田は金田一少年とかコナン君の作者のような感じなのかな。そういう

人気マンガ家が突然殺されて、もう作品が読めなくなるって思うと、犯人の愚かで

身勝手な犯行は絶対許しがたいと思ってしまいますね。長く続いた人気マンガが

終わってしまうのは悲しいけれど、作者は次の作品の構想を考えていたのだから、

それを支えてあげるくらいの気持ちでいて欲しかった。乙姫警部が、桑島を

疑ったきっかけとなった、机の天板の汚れの推理には脱帽。そのほんの少しの齟齬

を見逃さない乙姫警部は改めてすごい刑事だと思わされました。

 

『一等星かく輝けり』

かつて大スターと呼ばれた歌手だった新堂は、最近では世間から忘れられた存在に

なっていた。もう一花咲かせたいと思い、芸能プロモーターの九木田に400万を

支払って仕事を依頼したが、何ヶ月も全く梨の礫だった。九木田に詰め寄り、仕事を

しないなら金を返せと迫ると、巧妙に騙されていたことに気付かされ、逆上した

新堂は九木田を灰皿で殴って昏倒させ、首を絞めて殺してしまう。現場を偽装して

逃走した新堂だったが、死神のような刑事が訪ねて来て――。

九木田の事務所で撮った写真から、新堂が持ち去ったファイルに気づく下りが秀逸

ですね。余計な工作をしたことで、足元を掬われることになってしまったと。最後に

歌いたくなる犯人の心情が切なかったです。

 

『正義のための闘争』

有名な文化人タレントとして人気の鷹飼史絵は、可愛がって来た部下の宮内莉奈が

年下の夫と不倫していることを知り、正義の鉄槌を下すことにした。莉奈を人気の

ない公園に誘い出し、包丁で刺し殺した。何食わぬ顔で日常生活を送ろうとしたが、

死神のような刑事が現れて――。

乙姫警部が珍しく犯人の思惑通りに動かされているな、と意外に思わせられましたが、

ラストで、すべてがひっくり返されました。まぁ、こういう展開になるだろうな、

とは思ったのですけれどね。こういうプライドの高い人物がやり込められるのは

スカッとしますね。不倫くらいで殺されてしまったら、昨今のタレントたちは

どうしたらよいのでしょう・・・。

 

『世界の望む静謐』

美大の予備校講師の里見は、過去に自分が起こした傷害事件を餌に、事務員の砂川

から脅されていた。砂川は、同性愛者で、美貌の里見を以前から狙っていたらしい。

事件のことに口をつぐむ代わりに、身体を要求されたのだ。平穏で静謐な生活を

好む里見は、砂川の要求が許せなかった。そこで、砂川を呼び出し、殺すことに

した。犯行を終えた里見は、外部から何者かが侵入したように見せかけて現場を

後にした。犯行は完璧だと思ったが、里見の元に死神のような男がやってきて――。

里見を乙姫警部がじわじわと追い詰める過程はいつも通りさすがでしたが、さすがに

この作品はちょっと偶然に頼りすぎかなぁと思いましたね。三人の女性事務員が

全員特殊技能の持ち主ってのもそうだし、犯人を追い詰める切り札となった絵に

関しても、あの一瞬で見ただけのものを、あの状況で乙姫に描いて見せたって

いうのも、さすがにちょっとご都合主義的かなぁと思ったし。そこで彼女が絵に

描かなかったら、里見の供述を引き出すことは出来なかった訳で。しかも、彼女が

直観像記憶を持っていたから描けた訳ですしね。いくつもの偶然が重なり過ぎかな、

と思ってしまいました。感情が表に出ない里見のようなタイプの人間が相手だと、

さすがの乙姫警部もこういう偶然に頼るくらいでしか対抗出来なかったのかも

しれないですけどね。

今野敏「マル暴ディーヴァ」(実業之日本社)

マル暴甘糟シリーズ第三弾。相変わらずやる気のない甘糟刑事ですが、強面上司の

郡原が更に仕事をしない人なので、必然的に仕方がなく、いろんなことをやる羽目

になってしまいます。マル暴担当なのに、こんなに弱々で大丈夫!?といつも

思うのですが、なんだかんだでやり遂げてしまうところは何気に有能だったりする

のかな、と思わなくもなかったり。

麻薬の売買が行われているらしいというジャズクラブに、ガサ入れの前に甘糟と郡原

が下見で潜入することになった。そこで、二人は素晴らしい歌声のジャズ歌手・星野

アイと出会う。彼女目当てに多くの客が訪れていた。甘糟と郡原もその歌声の虜に

なったが、二人は彼女の正体に気づき、驚愕する。その上、店にはとんでもない

身分の客まで来ていて、現場は更に混乱することに――。

歌姫の正体がまさかの人物で、びっくり。ってか、こんな副業して大丈夫なの?^^;

お金もらってやってるのかよくわかりませんが・・・。まぁ、オーナーの手前、

断りようがなかったのかもしれませんが。彼女の歌を聴きに現役の○○○○まで

お忍びでやって来ちゃうし。もう、なんか何でもありだなぁと呆れつつも、その

はちゃめちゃなところがこのシリーズらしさでもあるのかな、とも思いました。

現実には絶対あり得ないでしょうけどね。大問題になっちゃうよ^^;

甘糟の巻き込まれっぷりも相変わらずで、仕事をしない郡原に何でもかんでも

押し付けられてちょっと可哀想でした。ここまでパワハラされて、心の中では

愚痴満載でも、結局真面目に仕事をしてしまうところが彼の良いところでしょうか。

Z世代の新人だったら、間違いなく上司や会社を訴えるんじゃないでしょうか・・・。

ちょいちょい任侠シリーズの阿岐本組が出て来るところがファンにとっては

嬉しい。日村さんは相変わらず渋くて、甘糟の欲しい情報をピンポイントで示唆

してくれたりして、優しいなと思いました。

ラストは相変わらず上手く行き過ぎな感が否めませんが(あんなに簡単に味方が

寝返るなんてありえないと思うし)、まぁ、そこはあまりツッコんじゃいけない

ところかな、と。マル暴担当に見えないマル暴刑事甘糟が、上司や暴力団関係の

人々に振り回されてドタバタしてるのが一番の読みどころであり、今回もそこは

十分に楽しめましたからね。

歌姫星野アイの歌声は聴いてみたくなりましたね。あそこまで、聴く人々を魅了する

歌声というのを、生で体験してみたい。彼女は今後も歌い続けるつもりなのかな。

そのうち芸能界にスカウトされたりして。もちろん、そんな誘いは一蹴するで

しょうけどね。

 

モノガタリプロジェクト編「モノガタリは終わらない」(集英社)

「捨てない」をテーマにした21人の作家による豪華アンソロジー。21人が

寄稿ということで、一編が短いのですぐに読めてしまいます。「捨てない」が

テーマということで、古いものを大事にするとか、思い出のあるものを捨てずに

取っておくとか、そういう姿勢を改めて問われるお話が多かったかな。今流行りの

SDGsの精神というのかな。ただ、一編が短いので、読んだその時には良い話だと

思っても、記憶にはなかなか残りにくいかな。この文章考えてる今の時点で、

どの話が良かったとか本見ないと思い出せないもん・・・(単に記憶力の問題?

^^;)。

ただ、寄稿作家は本当に豪華なので、必ず好みの作家さんがいるんじゃないかな。

作家さんはもちろん、アーティストや芸人さんまで、かなり幅広いジャンルの方

が寄稿されてます。

個人的には伊坂さんとか三浦しをんさんとか恩田さん目当てで手に取ったのだけど、

読んでよかったなーと思った話は、朝井リョウさん、藤崎彩織さん、角田光代さん、

西川美和さん辺りかなー。中でも一番良かったのは藤崎さんの自作のRPGノート

のやつ。藤崎さんって、セカイノオワリの方ですよね?本出して話題になっていた

のは知っていたのだけど、確かにかなり文才ありそうだと思いましたね。話題に

なった作品読んでみようかな。