ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書日記です。

東野圭吾「ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人」(光文社)

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東野さんの最新作。コロナ禍の日本の地方都市で起きる殺人事件が題材となって

いて、しっかり今の世相を反映させている感じ。小説家も今の時代に合わせて

作品を書いていかないといけない、というメッセージにも思えました。既存の

シリーズ(加賀シリーズ、ガリレオシリーズ、マスカレード・ホテルシリーズ等)

の時代背景をこれからどうするのかはわかりませんけど・・・(コロナを反映

させるのかどうか)。

これはノンシリーズものだから、今の時代に合わせて書こうと思われたのかも

しれませんね。

主人公は、東京で不動産会社のリフォーム部門に勤める神尾真世。同じ会社の先輩、

中條健太ともうじき結婚することが決まっており、結婚式の準備を進めていたが、

未曾有のウィルスが世の中に蔓延し始めていた。そんな中、ある日突然真世に

もたらされたのは、遠く離れて地元で一人暮らしをしている父・英一の不審死の

知らせ。英一は元教師で、もうじき地元で英一も交えた同窓会が開催される

予定だった。真世は急いで地元へと里帰りすることに。自宅で何者かに殺された

と思われる英一。誰からも慕われる教師だったのに――。そんな真世の前に、

長く音信不通だった叔父の武史が現れた。アメリカでショーマジシャンをしていた

この叔父は、変わり者だが頭は恐ろしく切れる。真世と武史は、警察よりも先に

英一の死の真相を突き止めようと事件を調べ始めるのだが――。

武史のキャラ、始めは傲岸不遜な姪への態度が鼻について、あまり好感が持て

なかったのですが、二人の捜査が進むにつれて、その明晰な頭脳が明らかに

なり始めてからは、少し印象も変わって行ったかなと思います。お金にがめつく、

あんなに年下の姪にタカるところにはドン引きしましたけど。英一の葬儀に

出したカラの香典袋にも呆れましたし。大人としてどうなんだ^^;胡散臭さ

満載で、最初は詐欺師かと思ったくらい。でもまぁ、兄の死の真相を暴きたい

という思いが本物だというのは途中から伝わって来たので、そこからはそんなに

嫌悪感もなくなったかな。ただ、キャラ立ちとしては、もう一歩踏み込んだ個性が

ほしかった気もする。せっかくアメリカで成功したショーマジシャンって特異な

設定なんだから、謎解き場面でそれを生かして、もっと派手なマジックを見せるとか。

終盤の見せ場がちょっとダラダラした感じだったのは残念だった。英一を殺した

犯人に関しても、あんまり意外性はなかったかな。なんとなく怪しいなぁと思って

た人物ではありましたから。細かい伏線がつながるところはさすがだと思いましたが。

コロナのせいで、地方の小さな町が再生をかけて計画した大きなプロジェクトが頓挫

してしまったというくだりには、リアリティがありましたね。そのプロジェクトが

大ヒット漫画にまつわるものって辺りも含めて。今の鬼滅ブームみたいな感じ

でしょうか。確かに、こういう都市で鬼滅のテーマパークなんかが出来たら、人は

押し寄せて来るでしょうから、町おこしとしては成功しそうですよね。

ラストで突然明らかになる、真世のあのことに関する鬱屈にはちょっと驚かされ

ました。確かに、途中でちょっとした伏線めいたものはありましたけど。これは、

私としては叔父さんの意見に全面的に賛成だな。このまま進めたとしても、幸せに

なれるとは思えないもの。話し合って解決する問題でもない気もしますけど。

なんだかんだいって、武史はやっぱり姪のことが可愛いんでしょうね。彼女の幸せ

を願っているのは間違いない。叔父の愛情を感じる場面でした。

これはシリーズ化されるんでしょうか。武史のキャラは、もう少し掘り下げて

みて欲しい気はします。真世ともいいコンビでしたしね。その後の二人の活躍を

もう少し読んでみたいな、と思いました。

 

三浦しをん「マナーはいらない 小説の書き方講座」(集英社)

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作者がコバルト短編小説新人賞の選考委員をやっていた関係で、Webマガジンの

コバルト上に掲載された、小説を書く人に向けたプチアドバイスを一冊にまとめた

もの。

特に小説を書こうとも書きたいとも思ったことはないのですが、しをんさんの

文章が読みたいので借りてみました。

何度も、これって小説を書くに当たってのアドバイスだったよね?と確認したく

なってしまった。だって、アドバイスそっちのけで、ハイロー(注:映画『HiGH

&LOW』のこと。しをんさんは数年前からザイル系にドハマりしている)について

熱く語ったり、それ以外にもちょいちょい脱線しまくるんだもの。まぁ、そこが

面白いんだけど(笑)。ちょいちょい自作の宣伝が入ったり、自虐が入ったり。

相変わらずの一人ノリツッコミが可笑しくて可笑しくて。やっぱり、しをんさん

の文章を読むのは楽しいなぁ。単純にエッセイのような感覚で読めちゃいました。

ただ、もちろん、そこはプロの小説家の面目躍如。小説を書くに当たっての、

ためになるアドバイスも満載。一冊の章立てをフレンチのフルコースに見立てて、

一章を一皿として構成しているところも一工夫あって面白い。全部で24皿も

あるので、そんなに食えるかー!って感じではあるけれど(と、ご本人も冒頭の

まえがきで自虐されていた)。

ちなみに間にちょこちょこ挟まっている書き下ろしのコラムは『お口直し』という

設定だそうな。

小説を書く気はないけど、小説ってこうやって出来ているんだなー、小説家の人

って大変だなーと思いながら読みました。短編は『序破急』が大事とか、長編

は構成力が鍵だとか。あとは一人称とか三人称とかの人称についての章は、小説

読む上でもすごく参考になりました。文章例が出てるから、すごくわかりやす

かったし。そうか、なるほど~って感じ。一人称と三人称だけならわかりやすい

けど、三人称でも単一視点と複数視点があるってところまでは、あんまり意識して

読んでなかったです。一人称小説っていうと、私の中では新井素子さんって感じ

なんですよね。中学生でハマって読んでたんですけど、『あたし』視点の文章

っていうのが当時すごく新鮮だった覚えがあります。一人称の小説は本人の心理描写

とかが中心だから、すごく読みやすいってイメージ。でも、確かにその反面、

独りよがりになりがちではあるな、と思い返しました。その分主人公には寄り添える

し共感もできやすいけど、それ以外の登場人物とは距離ができるし。客観視出来ない

分、描写に限度もある訳で。一人称は諸刃の剣でもあるんだな。三人称は三人称で

長所も短所もあるし。視点を何にするかで全く違った小説になるっていうのは、

まぁ、当たり前のことではあるのだけれども、改めて勉強になりました。

登場人物のセリフに関しての章も興味深かった。現実の会話と小説の会話の違いとか。

言われてみれば~って感じ。小説を映像化する際に、小説の会話文とは微妙に違った

セリフになっていることがほとんどですよね。実際口に出す言葉と小説の会話では

やっぱり全然違うものなんだな、と再認識させられました。しをんさんがおっしゃる、

『現実の会話は、決して理路整然としていない』というのは、全くその通りだと

思いました。

アミューズブッシュとして一皿目に出て来るのは『推敲』。投稿作品の中には、

この、『推敲』を全くしていないのではと思われるものが多いのだそう。私も、

一応このブログの記事は一通り書き終えたら下書き保存しておいて、投稿時に

プレビュー画面で推敲した上で公開するようにしています。ただ、時間がないと

ろくに読み返さずに公開しちゃってるけど^^;たまに、何なのこの文章!?

って思うようなわけわかんない文章書いてる時もあったりして。文章が破綻

していたり。誤字脱字はもちろんですけど。伝えたいことが巧く文章にならなくて

もどかしく思うこともしばしば(っていうか、ほとんどがそうのような気も^^;)。

私のブログなんかは単なる本の感想だけど、小説書くとなったら、もっともっと

構成力も文章力もなきゃいけないわけで。誰が読んでも理解できる文章ってほんと

難しい。かといって、全部を全部説明するとくどくなるし。ある部分までは説明

して、あとは読者の想像に委ねるように書かなきゃいけないとか、もう想像を絶する

世界です。まぁ、その辺りの技量は各小説家さんによって様々なのでしょうけども。

こういう指南書を読むことで、改めて、小説家って偉大だなぁと思わされたのでした。

 

 

 

 

西澤保彦「偶然にして最悪の邂逅」(東京創元社)

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西澤さん新刊。最近結構刊行ペースが早いような。なんだかんだでコンスタントに

新刊が出てますよね、西澤さんって。最近は過去に起きた事件を、何十年も後に

なって回想しつつ、当時解明されなかった謎を解く、という形式の作品ばかりの

ような気がします。なんかワンパターン化してるというか。そこにプラスして

セクシャルマイノリティーやアブノーマルといった要素が必ずついて来る、と。

だいたいどれを読んでもこの形が踏襲されている為、どれを読んでも同じような

感想になってしまいます。そして、それは今回も同様でした。ミステリ的には

そこそこ巧く出来ているとはいえ、さすがに飽きて来たなぁ。もうちょっと違った

タイプのものも書いてみて欲しいなぁ。それか、そろそろあのシリーズの新刊

を・・・!あるいは、『収穫祭』みたいな、こってこての本格ミステリの大作とかさ。

て、なんか西澤さんの記事の時って、毎回おんなじようなこと書いてる気が・・・。

ま、まぁ、いいや。とりあえず、本書の各作品の感想をば。

 

『ひとを殺さば穴ふたつ』

廃屋に埋められ、幽霊になった男が、38年経って過去の事件を考察する話。

次々憑依先が変わるところはちょっと目新しかったかな。いくら好きだからと

言って、一人の女にいろんな男が振り回され過ぎ。ファム・ファタルとはこういう

女のことを言うんだろうなぁと思いました。これが一番5作の中では比較的

わかりやすかったかな。

 

『リブート・ゼロ』

会社の女社長が自宅で何者かに殴打される事件が起きた。同日、別の場所では

女社長の娘が何者かに首を締められ、殺されていた。二つの事件のからくりとは。

もう、人間関係がぐちゃぐちゃ。整理しきれず読んでいたら何が何やらだった^^;

身内内の人間関係でこれだけアブノーマルな愛憎劇が繰り広げられているのもすごい。

最近の西澤作品はまともな恋愛する人がいなくて困るよ・・・。

 

『ひとり相撲』

アナウンサーの両坂の行方不明事件のことを告げられたぼくは、ついにこの日が

来たか、と観念し、過去の四つの殺人事件を告白し始めた――。

これも一人の女にいいように振り回される男たちの悲劇って感じだけど。女に命じ

られたからって、なんで言いなりになって殺人を犯すのか、その辺りの男たちの

内面心理は全く理解不能だった。そんな簡単に人を殺すなよ、とツッコミたくなり

ました。いろいろと腑に落ちなさの残る話だったな。

 

『魔女の隠れ処』

小学生からの同級生だった俺たち三人は、大晦日の夜、メンバーの一人ダバダの

経営する居酒屋で、もうひとりのメンバー、トーマスが書いたミステリ原稿

読まされていた。その原稿の中身は、過去に実際起きた事件を元に書かれたものの

ようなのだが――。

語り手の『おれ』の正体には騙されました。手術のこととか、ちょこちょこ伏線は

出て来ていたのだけれどね。過去の事件に関してはちょっとわかりにくかった。

まぁ、これはどの作品でも云えることなんだけれど^^;

 

『偶然にして最悪の邂逅』

学生時代、夏休み前のある一時期、毎日のように廃屋に忍び込んで女教師の情事を

盗み見していると、ある日、一人の女がそこへ乗り込んで来て修羅場になってしまう。

不可解なあの日の出来事とは一体何だったのか。

これもちょっと人間関係わかりづらかったなぁ。ラストで主要登場人物の『センセー』

と語り手の『ぼく』の正体がわかるのですが・・・ちゃんと理解してると『意外!』

となるんだろうけど、いや、確かに意外なのはわかるんだけれども、途中の人間関係

で大分混乱していた私は『・・・ふーん』ってくらいの感想で終わりました^^;

誰か私に理解力と読解力をくださいーーー(涙)。

 

 

 

 

 

加藤シゲアキ「できることならスティードで」(朝日新聞出版)

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最近いろんな賞にノミネートされている加藤シゲアキ氏のエッセイ集。できれば

先に話題の『オルタネート』を読みたかったところですが、予約中で全然回って

来そうになく、相方が予約して回って来たこちらを先に読むことになりました。

本書をなぜ相方がいきなり予約していたのかよくわからなかったのですが、読んで

納得。タイトルのスティードに反応したんだろうな。バイクの知識がない私は

知らなかったのですが、スティード400ってホンダの古いバイクのことなんだそう。

その単語が、バイクが大好きな相方の琴線に触れたんでしょう。それに、先に

読んでいた相方が『面白いよ、読みなよ』ってしきりに薦めていたのもあって、

相方が夜勤でいない間に、二時間くらいで読了。結局相方より先に読み終えて

しまった(笑)。

加藤さんは大抵の方がご存知の通り、ジャニーズグループNEWSのメンバー。

アイドルとはいえ、その小説家としての評判はかねてから聞いていたし、信頼

しているブログ友達のゆきあやさんがかなり著作を褒めていたので、彼の本は以前

から読んでみたいと思っていました。できれば小説から入りたいところでしたが、

エッセイだけでも彼の文筆能力の高さは伺い知ることが出来ました。主に旅を

テーマにしたエッセイというのも私好み。行った国もそうでない国も、どちらの

体験談もとても興味深かったです。その土地に行って体験したことや感じたことを

素直に文章にしていて、好感が持てましたし、私も行ってみたい気持ちになりました。

旅以外のテーマでも印象深いものがいくつもありました。特に、お祖父さんや

ジャニーさんの死に関する回は、こころに響くものがあったな。どちらも大好きな

人には違いないのだろうけれど、苦手な人でもあり、相手から認知されていない、

という共通点があるところが面白い。まぁ、お祖父さんに関しては、認知症

あったから仕方ない部分も大きいのだけれど。かわいがってもらっていた存在から、

『あなたは誰?』って言われるのって辛いだろうな・・・。でも、ジャニーさんの

ダメ出しの『最悪だよ』は、『最高だよ』と等価交換できる言葉なのじゃないかな、

と思いました。きっと今の加藤さんの活躍は、空から『最高だよ』って言ってくれて

いるんじゃないかな。

旅行の話は、キューバスリランカとパリの回が印象に残りました。キューバ

以前に読んだオードリーの若林さんのエッセイでも出て来て、すごく気になってる

国。キューバに行きたがる人って、大抵がチェ・ゲバラに影響受けてますよね

(苦笑)。スリランカは全然ノーマークの国だったけど、魅力的な場所がたくさん

あるんですね。世界遺産も多いみたいだし。紅茶ってイメージしかなかったけど。

すごく行ってみたくなりました。でも、加藤さんが行った後からかなり国内情勢が

悪くなっているらしく。今のコロナ禍もあるし、いつか行けるようになる日が

来るだろうか・・・。

パリの回は、自分が行った時のことを思い出して懐かしかった。私も初めてパリに

行った時、加藤さんと同じマレ地区のホテルに泊まりましたし。夜に白く浮かび

上がるサクレ・クール寺院の美しさといったら。未だに強く覚えている光景です。

そして、ノートル・ダム寺院の炎上は、私にとっても本当にショックな出来事

でした。当時一緒に旅した仏文時代の友人が、ショックで翌日朝一でメールを

くれたくらい。やっぱり、あの場所を訪れたことがある人はみんな同じように

ショックなんじゃないかな。荘厳で神聖で、独特の雰囲気のある場所だから。

きっと、沖縄の首里城もそうだと思うけど。みんなが心の拠り所にしている場所が

傷つけられたり燃えてしまったりするのは、本当に悲しいことです。時間かかっても

いいから、再建して欲しいな・・・。

感心したのは、中に収録されている三つの鍵にまつわる短編小説が、エッセイの

最後にあっと驚かせる繋がりを齎す構成になっているところ。さすがに最後の

部分は創造なんだろうけど、この繋がりには素直にびっくりした。あの鍵が

まさかここでこんな形で登場するとは!と。果たして、このマネージャーは実在

するんでしょうか?こういうトリッキーな構成ができる辺り、只者じゃない作者

だぞ、と思わされました。話題になってる『オルタネート』読むのが楽しみに

なってきました。その前に他の作品にも手をつけてみようかなぁ。

 

 

 

 

三津田信三「逢魔宿り」(角川書店)

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三津田さん新刊。作家三津田が集めた怪異譚をまとめた、お馴染みの形式の作品集。

5つの怪異が収められています。今回もバラエティに富んだ、背筋がぞくっとする

怪異が語られていきます。このシリーズはどこまでが実話でどこからがフィクション

なのか、さっぱりわからないところが一番怖い気がする・・・。作者の著作なんかは

実在のものがそのまま使われているし。出て来る編集者の人なんかは架空の人物が

多そうな感じがするけど、実在しそうな人も出て来る気がするし。まぁ、作者も

その辺りは意識してボーダーレスな感じで書かれているのだろうけど・・・。

作中に出て来る、三津田が蒐集した怪異も、実際見聞きしたものも入っていそうな

リアルさが怖い。基本ホラーは苦手なんだけど、三津田さんのホラーは単にホラー

で終わらないところが個人的にツボで、ついつい新刊が出ると読んでしまうのよね。

今回のも、ラスト一編が、他の四編を受けての作品になっている辺りはさすが。

あと、個人的には二作目の『予告画』の小学校教師の体験談の話が、ラストで

しっかりミステリになった所に一番感心しました。悲劇的な未来を予知した子供の絵

には、ある人物に対する悪意が潜んでいた、という展開にぞくぞくさせられました。

巧いなぁ。

奇妙な宗教施設の夜警の仕事をすることになった男の恐怖体験を描いた『某施設の

夜警』も印象的だった。怪異のデパートって感じで、これでもかと奇妙な体験が

目まぐるしく押し寄せてくる展開に圧倒されました。文章で説明されても、ちょっと

状況がわかりにくくて混乱したところもありましたが。こんな仕事は絶対やりたく

ないですよ・・・いくら高給でもね。

冒頭の『お籠りの家』は、刀城言耶シリーズみたいな旧家の因習が絡んだもので、

雰囲気は最高に好み。父親に連れられて行った田舎の大きなお屋敷で、なぜか

7日間の『おこもり』を強いられる少年の話。そこでのおこもり中、少年は

同じ年頃の少年と友達になるのだが、なぜか少年は家の敷地の中に入って来られず、

敷地の外で遊ぼうとしきりに誘って来る。始めは拒否していたものの、ついに

少年の誘いに抗えずにルールを破ってしまった語り手の少年は、しだいに恐ろしい

怪異に遭い出す――というもの。少年時代にこんな怖い思いしてたら、そりゃ

トラウマになるよなぁと思いました。

四作目の『よびにくるもの』は、三津田さんらしい割合オーソドックスな怪異譚。

体調を崩した祖母の代わりに、旧知の家の法事に参加して香典を供えて来ることに

なった女子大生の体験談。その経験をしてから彼女は奇妙なモノにつきまとわれる

ようになってしまう、というね。多彩な擬音語で表現される『よびにくるもの』

描写がなんとも怖い。三津田さんの擬音ってなんか怖いんだよね。一人で読んでたら

もう。ひー。

最終話の『逢魔宿り』は、雑誌に載った上記四つの体験談を読んだ大阪の装幀家が、

久しぶりに三津田に連絡を寄越し、自らが散歩で訪れる公園の四阿で体験した

出来事について語り出すお話。装幀家の体験と、四つの体験談の奇妙な相似に

関しては、さすがにちょっとこじつけ感があった気もしました。でも、こういう

奇妙な相似って、小説とか読んでても、たまに起きることがあります。同じ

名前の登場人物が出て来る小説続けて読むとか、似たようなテーマの物語を偶然

続けて読むだとか。何か『続く』んですよね、そういのって。ホラー読んだら、

なぜか続けてホラー小説ばかり予約が回って来るとかもあるな。ホラーなんて

めったに予約しないジャンルなのにね。京極堂『この世には不思議なことなど

なにもない』というけれど、やっぱり、世の中には不思議なことが溢れているもの

なんですよねぇ。

ま、現実では、本書で出て来るような怖い体験は御免被りたいですけどね。

 

 

 

 

 

町田その子「52ヘルツのクジラたち」(中央公論新社)

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大変評判のよろしい町田さんの作品。私自身も去年ブランチで紹介された時に

興味を引かれて、読むのを楽しみにしていました。本屋大賞にも選ばれてますね。

はぁ。期待に違わぬ傑作でしたねぇ、これは。もう、久しぶりにのめり込んで、

本当に一気読みした作品でした。ページ数がさほどないというのもあるのですけれど。

痛々しくて、切なくて、やるせなくて、どうしようもなくやりきれなくて。

それでも、最後には温かい何かが心を満たしてくれる、良作だったと思います。

他のクジラには聴こえない、52ヘルツの声で鳴くクジラという題材が、

とても効いていますね。親から虐待されていて誰にも助けてもらえない孤独な

少年と、海の中でたった一人誰にも聴こえない声で鳴く孤独なクジラの存在が、

見事に呼応していると思いました。よくこの題材見つけて来たなぁ。

その孤独な少年の心の叫びを唯一聴き取れたのが、主人公のキコ。彼女もまた、

ある出来事によって心に深く傷を負って、孤独な心を抱えて亡き祖母の家がある

海辺の町に逃げるようにやってきた。

すべてに自暴自棄になっていたキコは、ある日一人の少年と出会う。言葉が話せない

その少年の身体に酷い虐待の痕があることに気づいたキコは、彼の身を案じる。

筆談で事情を聞いているうちに、母親から育児放棄されていることを知り、彼の

ことが放っておけなくなってしまう。彼の孤独な心の声を聴き取れるのは、誰

からも顧みられることのなかった自分しかないのではないか――。

少年とキコの、魂の交流に心が震えました。どちらも辛い経験をしたからこそ、

わかり合える何かがあったのだと思う。

キコ自身の過去の出来事も、少しづつ明らかになって行きます。それは、若い女

が抱えるにはあまりにも衝撃的な出来事ばかりでした。母親との確執、愛した

男性からの裏切り、そして一番自分を理解してくれて助けてくれた唯一無二の

存在、アンさんとの別れ――どれひとつ取っても耐え難い程の苦しみなのに、

それが全部キコひとりに降り掛かってしまうなんて。彼氏に関しては、キコ

本人の自業自得な部分もあったとは思いますけど。どう考えても、共依存

関係にしか思えなかったですし。相手の男の言動があまりにも下衆過ぎて、

かなり引いてしまいました。完全に自分のエゴでキコを振り回してるし。ムカ

ついて仕方なかったなぁ。

そして、アンさんの秘密には驚かされましたね。ただ、それがあるから初めてアン

さんがキコを見た時、彼女の危うさに気づけたのだと納得が行きました。一目惚れに

近いものだったのかもしれないなぁ。あの時のキコは、きっと今にも壊れそうな

美しさを放っていて、目を惹かれたんじゃないだろうか。

キコの母親と52の母親、どちらに関しても、虐待やネグレクトの描写は読んでいる

のが辛かった。この手の話をどれだけたくさん読んでも、慣れないし、辛い。子供

が悲しい思いをする描写は、やっぱりどんな作品でも嫌だ。子供はいつだって幸せ

でいなくちゃいけない存在なのに(by夢水清志郎)。周囲がどうにも出来ない

ことが、歯がゆくて仕方なかったです。だから、アンさんがキコを、キコが52を

助けるシーンはスカッとしたし、ほっとしました。だからこそ、アンさんの声も、

誰かが聴き取ってあげてほしかったな・・・できれば、キコが。

52ヘルツのクジラは、まだまだ世の中にたくさんいるのだと思う。52の声が

キコに聴き取れたように、誰にも届かない声が、誰かに届くといいと思う。

私も、そういう声が聴き取れる人でありたいと思うけれど・・・。言うは易く、

行うは難し。そうそうできることじゃないですよね。それでも、一人でも世の中に

そういう人が多いといいと思うし、誰かの声に耳を傾けようとする人が増えると

いいな、と思いました。

ラストまでハラハラさせられたけれど、最後は優しい気持ちで読み終えられて

良かったです。

キコは自分が孤独で何もない最低の人間みたいに思っているけれど、少なくとも

周りの人間にはすごく恵まれていると思う。特に、親友の美晴の存在は大きい

ですよね。あんな風に寄り添ってくれる友達がいるだけで、すごく救われると

思うな。もちろん、52という、魂の番と出会えたのも大きいですしね。

 

彼らの二年後のシーンを、作者は書こうと思えば書けたと思うし、その方が読者は

安心したとも思う。でも、敢えて書かなかったのではないかと私は思いました。

この二人なら、敢えて書かなくてもいい、と判断されたのでは、と。だって、

絶対約束は守られる筈だから。それだけ、二人の絆はしっかりしたものだと思うから。

読み終わって、しばらく余韻に浸ってしまった。ああ、いい本だった。読めて

良かった、と心から思えました。

本屋大賞、いいとこ行くんじゃないかなぁ。他の作品、読めてないの多いから

なんとも言えないのだけどさ。伊坂さんも青山さんも良かったけど、少なくとも

その三冊の中ではこれが今回は一番相応しい気がする。まぁ、全部読んでないから

希望なだけだけどね。伊吹さんのも評判良いようだし。

やっぱり町田さんいいなぁ。町田さんって、海とか川とか水の中の生物をテーマに

した作品が多いですよね。お好きなのかな。そういうところも共感出来たりして。

未読の作品も早めに読まなくては。

 

 

 

 

 

秋川滝美「ひとり旅日和 縁結び!」(角川書店)

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人見知りで引っ込み思案の主人公・日和が、ひとり旅に目覚めていろいろな場所に

旅に出ることで、成長していくシリーズ、第二弾。

前作の始めと終わりを比較した時も、主人公の日和は随分成長したなぁと思って

いましたが、今回は更に旅がステップアップしています。ペーパードライバーを

卒業して、現地で車移動できるまでになったんですから。確かに、旅行で車が

使えるのとそうでないのとは行ける場所の範囲が大きく変わって来ますからねぇ。

現地でレンタカー使えるまでになるとは、日和はすごいです。私自身がペーパー

ドライバー人間なので、日和の頑張りは尊敬に値しますね。車の運転ができれば、

近場なら日帰りでいろいろ行けるようになりますもんね。ひとりでふらっと旅行

するなら一番いい手段かも。まぁ、電車や飛行機の旅も、それはそれでいいもの

ですけども。

今回、日和が旅するのは、函館、房総、大阪、出雲、姫路。私が行ったことがある

のは、函館と房総と大阪かな。函館の夜景を観に函館山をロープウェイで登ったこと

を思い出します。懐かしいなぁ。大阪のたこ焼きには私も当時感動したけど、冷めて

しぼみかけのたこ焼きが美味しいっていうのは知らなかった。たこ焼き食べる為

だけに旅に出るって、なんかいいですねぇ。旅の目的って、そんなものでもいい

のよね。前の仕事の後輩が、彼氏とラーメン食べる為だけに、九州だって日帰りで

行くって話してたのを思い出すなぁ(とにかくラーメンが好きな子だった)。

しかし、恋にも奥手だった日和が、恋心を抱く蓮斗に会いたいが為に房総まで

行ってしまったのには驚きました。ある意味ストーカーのような(苦笑)。

久留里城って初めて知りました。千葉県民には有名なスポットなんでしょうか。

積極的になった甲斐あって、実際蓮斗に会えてしまうあたり、ちょっとご都合主義的

に感じなくもなかったけど、そうじゃないと物語にもならないしね(苦笑)。

でも、せっかく会えたのに、その態度じゃダメでしょ~~~!と読みながらついつい

ツッコミ入れたくなっちゃいました。

チャンスをことごとくダメにしてしまうところが、日和らしいのかもしれませんけど。

蓮斗にも、食事くらい誘え!と言ってやりたくなりましたし。蓮斗の態度から、

日和に対して少なからず好印象は持っていそうなのだから。でも、この二人の性格

だと、恋が成就するのはもうちょっと先になりそうかなぁ。5話の麗佳の結婚式で

再会出来て、しかも一緒に受付もやったのだから、さすがにプライベートの連絡先

交換はしていると思いたい・・・。

毎回出て来るご当地グルメが何とも美味しそうで。夜読んでたらお腹が空いて

しょうがなかったです^^;

そして、日和が旅に出て、いろんな経験をして成長して行くのを読んでいると、

もう、もう、私も無性に旅に出たくて仕方なくなりました。旅行行きたいよぅ。

行きたい行きたいいきたぁぁぁいいっっ!!!えーん。コロナのばかー。ぐすん。

早く落ち着いて、また旅に行けるようになりたいなぁ。温泉入りたい。美味しい

ご当地グルメ食べまくりたい。パワースポットで運気上げたーーーい!

日和の次の旅行記を読む前に、どこかに行けるようになるだろうか。

どうかどうか、早く行けますように!(念を送る)