

辻村さんの最新作。上下巻併せて800ページ超えのなかなかの長編。世間でも
かなり話題になっているようですね。
いや~・・・すごい作品だった。リーダビリティに関しては圧巻だったな。もう、
話が動き出した上巻の中盤くらいから、先が気になって読む手が止められなかった。
ここまでのめり込んで読めた作品は久しぶりかも。さすがでしたね。
ほぼ発売日に順番予約しておいたので、上下巻ほぼ日を開けずに回って来て、
一気読み出来て良かったです。上巻のあのラストの引きのところで、下巻回って
来るのに時間かかったら、半殺し状態だよ~^^;;
いろんな要素が詰まった作品です。出て来る登場人物もそれなりに多いのですが、
全く混乱することなく読めました。お見事。普通だったら、現在と過去、いくつか
の事件が出て来て複雑に絡み合っていたら、もっと登場人物とか人間関係とか
混乱すると思うんですが、全くそういうこともなく。事件の真相をすんなり理解
出来ました。かといって、単純な事件という訳でもなく。まぁ、いくつかの
事件とはいえ、真の悪人は一人ですからね。あ、いや、もう一人いるか。でも、
そっちは殺人まではいかないしね。でも、本当の悪人は、こういう事件が起きた時に、
SNS等で悪意もなく(むしろ正義感にかられての人が多いかもしれない)、好き
勝手な噂を撒き散らす私たちすべてなのかもしれません。まぁ、私はSNS等で
書き込むことはほとんどないけど、ついついYahooニュースのコメント欄とか
読んじゃうもの。そして、そこで誰かが言った言葉を、世間話のノリで深く
考えもせず、他人に話したりすることもある。多分、誰もがやってることだと
思います。でも、今回、そういう悪意のない誰かの噂話が、被害者遺族を苦しめる
ことになってしまいます。読んでいて、被害者側の気持ちになるともう、読み
進めるのが怖いし、苦しいし、辛かったです。SNS時代の怖さを痛いほど思い
知らされる作品でしたね・・・。
事件の発端は、1994年の7月のある日、L県の一郷屋百貨店で起きた受付嬢の
誘拐事件から始まります。犯人からの電話で、身代金を要求されたデパート側は
六千万円を用意し、犯人の指示に従っていくつかの場所に移動させられたが、
結局最終的に身代金が受け渡されることはなく、人質となった新沼紗英は無惨に
殺されてしまった。この事件の少し前、L県では小学四年生の男の子の失踪事件も
起きていた。少年が通っていた小学校の近くの山道には交通事故の痕跡があり、
ひき逃げに遭って、犯人によって連れ去られたとみなされた。少年が事故に遭った
のは、一郷屋百貨店の誘拐殺人事件が起きる前日だった。そのことから、世間では
二つの事件を興味本位で結びつける人々が後をたたず、SNS上で炎上した。男子
児童を轢いたのは、一郷屋百貨店の事件の被害者である新沼紗英か、あるいは
その父親なのではないかと――この根拠のない噂話は、火の粉のように被害者遺族に
降り注いだ。誘拐事件の犯人はとっくに逮捕されていたというのに――。
そしてその出来事から25年が経ち、一郷屋百貨店の事件の被害者新沼紗英の
妹の息子、つまり甥の光汰朗が突然失踪する事件が起きた。紗英の父親であり
光汰朗の祖父である新沼忠治は、25年前の悪夢が再び再燃することに恐怖と
戦慄を覚え、何があっても光汰朗を探し出そうと捜索隊に加わるのだが――。
取り上げたい要素がたくさんあるのですが・・・何を述べても陳腐になっちゃいそう。
とにかく、読んでみてとしか言えないなぁ。事件を追う地元新聞の記者、光汰朗
の担任教師と図工の専任教師、光汰朗の同級生の友人、25年前の誘拐事件の
犯人の息子たち・・・とにかく、いろんな人が絡み合って、事件が語られて行く。
いろんな感情が胸に迫っては消えて、また違う感情が浮かんで来て。なんか、
ジェットコースターみたいに、感情の起伏が激しかったな。ぐっと来たシーンも
たくさんあります。特に、上巻最後の、いなくなった光汰朗を、少年二人(速斗
と一樹)が探しに行く辺りの、友情物語パートは良かったなぁ。速斗も一樹も
ほんとにいい子。孤独だった光汰朗の近くに、こういう子がいてくれて良かった
よ・・・!(涙)しかし、上巻の最後でまさかああいう展開になるとは思わなかった。
ここでもうクライマックスみたいになってますけど?って思っちゃったよ。
でも、下巻はさらに面白さが加速して、読ませるスピードが上がって行きましたね。
新聞記者の透真が、25年前の事件の犯人・久我に会いに行って、証言を引き出そう
とするところなんかも緊迫感あって読ませられたし。久我という人物の矮小さには
うんざりしましたね。こんな奴の子どもが、なぜあんなに真っ当に育ったので
しょうね。反面教師にしたからなのかな。
新沼忠治氏の、「みんなで背負っていく」という言葉が、とても胸にずしんと
来ました。その繋がりがあれば、これからも生きて行けるのかもしれない。とても
重苦しい枷になってしまうだろうけども。その言葉で、久我の息子たちも少し
救われたところはあるんじゃないのかな・・・。
ラスト、例の証拠品がちゃんと見つかって良かった。上巻で、確かにそのモノに
関しても言及していて、伏線が張ってあるんですよね。
久我の手紙に関しては、あんな衝撃の事実が書かれていて、なんで見過ごされて
たの?とすごく疑問だったのだけど、ちゃんとそれに関しても理由があるので、
溜飲が下がりました。他にもいくつか腑に落ちないところがあったのだけど、さすが
辻村さん、抜かりなく、そうした疑問の部分にもフォローがあって、ほぼすべてが
すっきりしましたね。証拠品に関しての証言の部分や実際に捜索する過程などは、
さすがにちょっと出来すぎでは、と思わなくもなかったけど、まぁ、フィクション
だしね。それがないと話にならないんで。
途中であんな別れ方をしてしまった美冬と透真が、ラストにどうなるかが気がかり
だったけど、そこにもちゃんとフォローがあったので良かったです。元通りには
ならないのかもしれないけど、少しづつ歩み寄って行けたらいいなと思う。
タイトルに関して、他の方のレビュー読んでたら作品と合わないって意見も見かけた
けど、私は上手いつけ方だと思いましたね。スノードームならぬファイアードーム。
噂の火の粉が、被害者遺族や事件の関係者たちに降り注ぎ、そこからまた火種が
どんどん飛び火していく。悪意なく広めた噂で、傷つく人がいる。公共の場での
発言には、ちゃんと自分で責任持たなきゃいけない。人の話を鵜呑みにしない。
他人事ではなく、自分の事件でもあると戒められた気持ちがしました。
上下巻800ページ超えでも全然長いと思わなかったですね。
読ませる力は圧巻だった。やっぱり辻村さんはすごい作家さんだね。