ミステリ読書録

ヤフーブログから引っ越して来ました。ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

大山誠一郎「ワトソン力」(光文社)

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なぜか、そばにいる人間に飛躍的な探偵能力を与えてしまう能力を持つ警視庁

捜査一課の和戸。彼は密かに自分のその能力を『ワトソン力』と呼んでいた。

和戸の行く先々ではなぜか難事件が起き、その度にその場に居合わせた人物が、

彼のワトソン力を借りて事件の謎を解いてしまう。そんな和戸がある日目を

覚ますと、窓のない部屋に閉じ込められていた。何者かにスタンガンで気絶

させられ、監禁させられたらしい。和戸は、犯人は過去に自分のワトソン力で

解決した七つの事件の関係者の誰かではないかと思い当たり、一つづつ事件を

回想し始めた――。

そばにいる人間の推理力を大幅にアップさせてしまう『ワトソン力』という設定は

なかなか面白いなぁと思いました。主人公の和戸自身は決して探偵役にはなれ

ないのだけど、そばにいる人間を名探偵にしてしまえるので、和戸と一緒にいれば

自然と誰かしらが謎を解いてくれる、という図。とはいえ、全員が全員正解を

導き出せる訳ではなく、それぞれに推理力がアップするだけなので、間違った

推理を導き出す人も出て来る。和戸のそばにいる人は自動的に推理したくなるらしく、

関係者たちが次々と自説を披露し始めて、推理合戦に発展して行くのが面白かった。

結局、その中で一番もともとの探偵力がある人間が最終的に解答に辿り着くように

なっている模様。

結構強引なトリックもありましたけど、なるほど、と思える推理も多く、概ね

楽しく読めました。一話目の『赤い十字架』なんかは、本当にオーソドックスな

古典ミステリのトリックっぽくて、使い古された感はあるのですけれど、嫌いじゃ

なかったですね。わかりやすいし。二話目の『暗黒室の殺人』も、暗闇の中

ならではの犯行で、盲点をつかれた感じ。ただ、犯人の動機の身勝手さには辟易

しましたけれども。三話目の『求婚者と毒殺者』は、和戸のワトソン力を逆手に

取った真相。和戸と月子さんでは合いそうもないよなぁと思ったら、案の定

な結末でした(苦笑)。四話目の『雪の日の魔術』のトリックには唖然。こんなの

成功するのかな?とも思いましたが・・・。図があるから状況はわかりやすかった

ですけど。犯人は意外でしたね。五話目の『雲の上の死』は、推理そのものよりも、

ワトソン力が機長にまで及んだところに慄きました。いや、推理より操縦に専念

して~~~と言いたくなりました(苦笑)。六話目の『探偵台本』は、ちょっと

試みを変えて、火事で一部が消失してしまった推理劇の台本の結末(犯人)を

みんなで推理し合う作品。これだけ実際の事件ではないので、ほっこりした結末

なのも良かったです。七話目の『不運な犯人』は、バスジャックされたバスの中

で起きた殺人事件の犯人を、乗り合わせた乗客たちが推理するもの。バスジャックと

殺人が同時に起きるバス・・・の、乗りたくない^^;まぁ、バスジャックが

起きたことで、いろんな不運が犯人に降り掛かってしまった訳ですけれど。自業自得

なんで、同情は出来ませんでしたけどね。

ラストで、冒頭に出て来た和戸監禁の犯人も明らかになります。その前にちょこちょこ

インタールードとして、犯人に至る伏線は少しづつ明らかにされていたのですけども。

なるほど、この人物だったか、という感じでした。和戸を助けに来た人物もまた、

それまでに登場していた人物だったのですけど、正直、名前聞いても全然ピンと

来なかった・・・前に戻って確認しちゃったもの。なるほど、なるほど、確かに

この職業だった!と溜飲が下がりました。和戸は終盤のこの人物の提案に、どう

答えたのでしょうか。もし続編が出るとしたら、そこで明らかになりますね。

私も和戸の近くで推理小説読んでみたくなりました(犯人が当てられるかも!w)。

 

綾辻行人「シークレット 綾辻行人ミステリ対談集 in 京都」(光文社)

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綾辻さんゆかりの後輩作家さんを京都に招いて、それぞれの作品や創作活動に

ついて語り明かすミステリ対談集。2014年の第一回詠坂さんから2019年

の道尾さんの最終回まで、約5年間をかけて雑誌に連載されたものに、単行本

スペシャル対談として、辻村(深月)さんの回を加えて構成されています。

未読の作家さんの回も、ファンの作家さんの回も、どれもが楽しかったです。

それぞれの作家さんのデビューに綾辻さんが少なからず関わっていることもあり、

どの作家さんも綾辻さんのことをとにかくリスペクトしているのがひしひしと

伝わって来ました。そりゃ、そうだよね。ミステリ作家として、綾辻行人といえば、

もう生ける伝説と云っても過言じゃないくらいの大御所なんですもの。今のミステリ

ブームを作ってくれた張本人の一人でもある訳ですし。私自身、もう何度もこの

ブログでも言及してきたけれど、綾辻さん(と有栖川さん)がいたから、本格

ミステリにはまったし、読書にはまったし、読書ブログも書くようになった訳で。

私にとっての恩人でもあるんですよね。だから、本当に特別な作家さんの一人です。

今回対談しているのは、詠坂雄二さん、宮内悠介さん、初野晴さん、一(にのまえ)

肇さん、葉真中顕さん、前川裕さん、白井智之さん、織守きょうやさん、道尾秀介

さん、辻村深月さんの10人。うち、宮内さん、一さん、前川さん、白井さん、

織守さんは未読の作家さん。でも、綾辻さんとの対談を読んでいて、どの作家さん

の作品も読んでみたいと思いました。特に、一さんと白井さんの作品は絶対読み

たい!と思いました。道尾さんは今や直木賞も受賞して大人気作家さんですが、

私は実はデビュー作から追いかけています。そのきっかけが、デビュー作

『背の眼』に、綾辻さん推薦の帯がついていたから。その当時、割と綾辻さん推薦

の作家はハズレがないと思って、綾辻行人推薦の文字がある本は、無条件で手に

取ることが多かったんですよね(最近はあんまり追いかけられてないけど^^;)。

だから、道尾さんと出会えたのも綾辻さんのおかげだったりします。辻村さんの

場合は、綾辻さんは関係ないきっかけで読み始めたのだけれど、辻村さんの綾辻さん

リスペクトはもう熟知しているので、今回の対談もすごく楽しかったです。

綾辻さんの、後輩作家さんへの目線が本当に優しくて、どの対談読んでもほっこり

しました。でも、対談の締めくくりに、必ずその作家さんへ『本格の呪い』をかける

ところが綾辻さんらしいなぁとくすりとしました。私も、やっぱり根底に本格の

意識がある作品が一番好きだから、この呪いは、是非とも各作家さんに効いて機能

して欲しい、と思いました。

ちょっと悲しかったのが、道尾さんの『いけない』の話をしている時に、オチが

絵になっている作品の先行作として、ちらっとソブケン(蘇部健一)の話題になった

時、綾辻さんがその作品についてかなり濁して語っていて、多分あまり認めて

ないんだろうなぁというのが伺えたこと。木乃伊男』私は面白かったけどな・・・

(遠い目)。

タイトルほど、シークレットのお話をしている感じはなかったけど、どの対談も

面白く読みました。やっぱり綾辻さんは生きるレジェンドだと思うな。これからも

お元気で作品を書き続けて、有望な本格ミステリ作家を生み出し続けて頂きたい

ものです。

 

 

歌田年「紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人」(宝島社)

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第18回このミステリーがすごい!大賞』大賞受賞作。個人的に、このミス大賞

系の作品とは相性が悪いので、最近ではほとんど読むことはないのだけれど、

これは設定が面白そうだったので読んでみたいと思って予約してありました。結構

話題になっていたので、だいぶ待たされましたね。もう半ば予約してたことも忘れ

かけてましたよ・・・^^;

でも、うん。面白かったです。待たされた甲斐はあったかも。久しぶりにこのミス系

作品の当たりに出会った感じ。所々ツッコミ所はありますけど、紙鑑定士という

聞き慣れない職業の主人公と、世捨て人みたいなプラモデル造形家の土生井、

二人のキャラが作品に生きていて良かったです。紙のプロである主人公渡部の特技に

ちなんで、装丁もかなり凝っていて、章ごとに違う紙を使って製本してあったりする

ところも面白い。渡部が、ちょこちょこ紙に纏わる薀蓄を会話に挟んで来る辺りは、

若干の鬱陶しさも感じつつ、そのマニアックさに感心させられたり。ただ、なぜか

紙鑑定士という職業なのに、仕事の依頼がプラモデルに関してばかりというのは

このタイトルを掲げておいて、ちょっとどうなんだ?とは思いましたが。結局、

依頼人は渡部を頼って依頼してくれたのに、謎を解くのはプラモデラーの土生井って

いう。

まぁ、足を使って捜査するのは渡部で、頭を使うのは土生井っていう役割分担に

したとも云えそうですけど。でも、もうちょっと紙鑑定士っていう職業を生かした

事件にしても良かったんじゃないのかなーとは思いました。まぁ、事件とはあまり

関係ないところで、ちょこちょこ紙鑑定士としての矜持が伺えるシーンも盛り

込まれていたからいいのかな。

失踪した妹の部屋に残されていたミニチュアハウスを手がかりに、彼女の行方を

辿って行く、という展開はなかなか面白かったです。ミニチュアハウスのモデル

になった家を、グーグルマップで探し出す辺りは、今どきのツールを上手く使って

いるなぁと感心。しかも、そこに写っている写真から、犯罪の痕跡を見つけ出す

ってのも、なかなかすごい。確かに、実際グーグルマップの写真から沈んだ車を

発見し、その車から行方不明の人物が見つかった、というニュースを目にした

記憶がありますし、あり得ないことではないですよね。

終盤、ちょっと駆け足になった感は否めませんが、スリリングな展開にぐいぐい

読まされましたし、ラストのカーチェイスも疾走感あって良かったと思います

(いろいろ、ツッコミたいところでもありますけど・・・)。渡部の元カノ、

真理子さんのキャラは強烈ですね。なんだかんだ言って、真理子さんは渡部の

ことがずっと気になっていたのでしょうね。渡部の仕事が有利になるように

陰で口利きしてあげてたりしたみたいだし。もちろん、渡部だって未練たらたら

でしたけどね(笑)。ラストの二人の関係の変化にはびっくりしましたけど。

こうやって、だんだん元サヤに戻って行くのかな(笑)。

渡部と土生井のデコボココンビも気に入りました。渡部に教えられて、土生井が

だんだんスマホやインターネットの機能に詳しくなっていくところが面白かった。

お互いにお互いを『先生』だと思ってリスペクトしている関係がいいな、と

思いましたね。これはぜひまた続きを書いて頂きたいな。まだまだ荒削りな感じも

しますけど、今後の活躍に期待したいです。

斜線堂有紀「楽園とは探偵の不在なり」(早川書房)

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全く予備知識のない作家さんだったのですが、読書メーターの『今読みたい本

ランキング』で1位になっていて、気になったので借りてみました。

・・・うーむ。なんというか、いろんな意味でB級感満載の作品だった。ハード

カバーの単行本体裁だけど、正直、文庫本とかで出した方がいいような内容だと

思いました。もともと電撃文庫とかでデビューされた方みたいで、そちら方面で

活躍されているようですし。二人以上人を殺すと天使によって地獄に落とされる

世界で起きる連続殺人事件、という奇抜な設定自体は面白い着眼点とも云えそう

ですが・・・。ただ、この基本設定自体の練り込み方が今ひとつで、なんだか

説得力がないんですよ。天使のキャラ造形もどっちかっていうとビジュアルは

悪魔みたいだし(蝙蝠みたいな羽で、顔は目鼻口もない)、二人以上殺すと地獄

ってのも、なんで一人までは許されるの?という部分は曖昧なまま。この二人以上

人を殺せないっていう設定を孤島で起きる連続殺人事件に上手く絡ませたいという

気概は十分伝わって来たのだけれど、細かい設定がざっくりしているせいで、

トリック説明されても、なんとなく腑に落ちない気分で読み終える羽目になって

しまった。なんか一つ一つの設定に必然性がないんですよね・・・作者の思いつき

だけで世界作っちゃってるからなのか。

そもそも、天使が降臨したって言うけど、あんなビジュアルで天使って言われても。

顔がないのっぺらぼうの天使なんて嫌だーー。わざわざ、私たちが思い描く天使像を

ことごとく覆すような設定にする必要があったのだろうか。天使なのに、人間を

地獄に突き落とすってのも理解出来ないし。神様からそういう使命を与えられて

いるってことなんだろうけど、それにしては、普段は言葉も発せず、ただ空中を

ふらふら漂っているっていうだけの存在でしかなかったりするし。もうちょっと

厳かな風体にすれば良かったのに。なんか、天使の扱いが杜撰すぎるんですよ。

金持ちの道楽で売買の対象になったりとか。人間を地獄に突き落とすような力を

持つ危険な存在が、ペット感覚で取引される?あり得ないでしょう・・・。

登場人物一人一人のキャラ造形も、ちょっと薄っぺらい。主人公の探偵・青岸の

辛い過去には同情するところもあるけど、何かある度にいちいち過去の感傷的な

青臭い思い出や感情が出て来て、ちょっと食傷気味になってしまった。

クローズドサークル内で起きる連続殺人の真相は、まぁそれなりに整合性は取れて

いるのかな、とは思いましたが、最終的な黒幕(真犯人)は、正体も動機も、犯行が

明らかになった後の行動も含めて、すべてが、金田一少年とかコナン君で出て

来そうな展開で拍子抜け。漫画だったらこれでいいのかもしれないけどさー・・・。

あと、エピローグがまた蛇足としか思えなかった。仲間たちがどれだけ青岸を

慕っていたかがわかるエピソードではあるのだろうけど・・・もう、いちいち

会話とか言葉がこっ恥ずかしい。青岸以外の全員がこんな恥ずかしいメッセージを

撮っていた、というのも理解出来ないし。最後までラノベ臭漂う作品だった(別に

ラノベを貶めている訳ではありません!)。

巷では絶賛されてるらしいけど・・・私にはちょっと合わなかったです。文章も

ちょっと・・・。他の作品読んでみようって気にはならなかったなぁ。前評判が

良かっただけに、ちょっとがっかりな読書になってしまった。また黒べるが

出てしまった。今年はなんか多いなぁ^^;;

 

芦沢央「汚れた手をそこで拭かない」(文藝春秋)

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最近気になる芦沢さんの最新作。この方、割とコンスタントに新作が出ている

みたいで、なかなか追いつけない^^;これは図書館の新刊情報に出て面白そう

だったので借りてみました。

お金に纏わるブラックよりの短編集。小さな綻びが最後に効いてくるタイプの、

じわじわと背筋が寒くなるような短編ばかり。一編のページ数もそんなに

多くはないけど、きっちりと一作ごとに小技が効いていて、なかなか読み応えの

ある短編集になっていると思います。全編、お金が絡んでいるという共通点も

あって、統一感もちゃんとありますし。雰囲気はちょっと『教場』の長岡さん

っぽいかな。あっちよりは少し救いがある感じ?(全くないのもありますが)

 

では、一作ごとに感想を。

 

『ただ、運が悪かっただけ』

工務店で働いていた時に、自分が持って行った脚立によって、人を死なせて

しまったと悔やむ夫。癌で余命僅かの妻がかけてやれる言葉は。

自分が原因で人が死んだとしたら、気に病むのは当然でしょうけど、この場合は

完全に夫のせいじゃないですよねぇ。最後の最後、妻が夫の心の負担を軽くして

あげられて良かったです。夫にとってはそれよりも辛い現実を向き合うことに

なってしまうのだろうけれど・・・。

 

『埋め合わせ』

誤って学校のプールの水を半分ほど抜いてしまった小学校教師の秀則。抜いた分の

水道代は、請求されたら13万ほどになってしまう。なんとかしてこのミスを

誤魔化せないかと画策するのだが。

自分のうっかりミスをなんとか誤魔化したいと思うのは、誰でも経験あると思い

ます。秀則の気持ちはわかるけど、やっぱりこの場合は正直にミスを認めて謝る

べきでしたね。五木田が秀則を裏切ったと思ってがっかりしたのだけど、ラストの

オチを読んで唖然。これで五木田にとっての最悪の事態は避けられたのだろう

か・・・。

 

『忘却』

孤独死した隣人の死因は熱中症だったらしい。随分前に隣人に来た電気代未払い

通知を届け忘れていた武雄は、後悔に苛まれることに。しかし、暑かった先月の

電気代が三千円ほど安かったことを不思議に思った武雄の妻が、エアコン修理に来た

電気屋にその旨を話すと、隣人に関する意外な事実が判明して――。

アパートならではのセコい犯罪ってところがやけにリアル。本当に、こういうこと

する人はいそうです。信頼していた人間に、こういう風に裏切られていたというのは

やりきれない気持ちがしますね。隣人の死は、因果応報というやつだったのでしょう。

 

『お蔵入り』

映画監督の大崎は、ベテラン俳優の岸野の最高のシーンを撮り終え、手応えを

感じていた。しかし、岸野のクランクアップと同時に、彼に纏わる不穏なニュース

が持ち込まれる。岸野に薬物使用疑惑がかかっているというのだ。岸野が逮捕

されたら映画はお蔵入りになってしまう――大崎は、岸野を呼び出し事の真偽を

問いただすが、岸野は薬物使用を認め、自暴自棄状態になってしまう。その態度

に腹を立てた大崎は、ベランダから岸野を突き落として殺してしまう。映画の

お蔵入りを避けたい大崎は、その場にいた岸野のマネージャーとプロデューサーの

森本と共謀して、岸野はその場に一人でいたと口裏を合わせることに。しかし、

その後思わぬ証言者が現れてしまい――。

出演者の不祥事で映画がお蔵入りになるかも――という展開は、つい最近も

同じような話題が芸能界にあったばかりだったので、妙な符合にドキリとしました。

伊○谷友介とか伊藤○太郎とかね。タイムリーすぎでしょ、と思いました^^;

特に前者の方はまさに薬物使用でしたしねぇ。現実では映画に罪はない、という

ことで、公開になりましたけども。ただ、不祥事はともかく、監督が殺人犯したのに、

映画公開しようとしちゃダメでしょう。ラストは当然の帰結だと思いました。

 

ミモザ

料理本がベストセラーになり、サイン会が開催されることになった私の元に、

元不倫相手の瀬部が現れた。あの頃とは立場が逆転したことに若干の優越感を

覚えた私は、サイン会が終わると彼の待つ向かいのビルのバーに向かった。

久しぶりに会った瀬部は、奥さんとも別れ、仕事も辞めてボロボロになっていた。

極めつけは、私の収入を知りたがり、挙げ句金の無心をしてきた。これが最後と

思って三十万を貸したが、それが私の運の尽きだったのだ――。

どこまでもしつこい元不倫相手の瀬部のキャラが嫌で嫌で仕方がなかった。気持ち

悪くて。でも、主人公も周りからちやほやされるようになって、ちょっといい気に

なっているところがあったんでしょうね。腐ったものを捨ててくれる夫が、最後

豹変するところが怖かった。元不倫相手も『腐ったもの』と見なしてどうにかする

のかと思って戦々恐々としていたのだけど、そこまで救いのない展開ではなかった

です。ま、この後どうなるかはわからないですけどね・・・。主人公がマンションで

目をそむけていた清掃員が、ああいう風に伏線になっているとは。上手いなぁと

思いました。

 

松尾由美「ニャン氏の憂鬱」(創元推理文庫)

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シリーズ第三弾。ゆきあやさんの記事で出ているのを知って、慌てて予約。一作

ごとに主役が代わる体裁は、今回も健在。ニャン氏に気に入られた主人公が、

ニャン氏から最後に転職を勧められる流れも。毎度思うけど、ニャン氏と一緒に

働くのは結構楽しそうだし、雇用条件もかなり良さそうなのに、なんでみんな

お断りしちゃうのか理解不能。私だったら、速攻『はい!』って飛びついちゃい

そう(笑)。

ま、それだけみなさん、今の自分の仕事に愛着があるってことなんでしょうけども。

製缶会社に勤めながらバンド活動をしている茶谷は、ある日大株主で実業家の

アロイシャス・ニャン氏の代理という秘書の丸山から、猫缶を開ける時の『音楽的な

響き』について話を伺いたいと訪問を受ける。丸山はなぜか一匹の猫を連れていた。

しばらく雑談を続けていると、ふと茶谷が過去に体験した、逃げた鳥に纏わる不思議な

体験の話を思い出した。なぜかその話に飛びついて来た丸山に詳しく話して欲しいと

請われ、茶谷は当時の出来事を語って聞かせるのだが――。

相変わらず、ニャン氏と秘書の丸山のコンビが良いですね。丸山氏が、ニャン氏の

言葉の通訳中に、たまに氏の口調が移って語尾が『~にゃん』になるところが

なんとも愛らしくて、ほんわかしてしまう。普段が真面目で堅物に見えるだけに、

余計に和む(笑)。

茶谷君を気に入って、彼の行く先々で出没しつつ、なぜか事件に遭遇し、謎を

解いてしまうニャン氏と丸山氏。愛らしい猫探偵にその都度、ほのぼのさせられ

ました。

二話目の銭湯屋の息子のひいお祖父さんが残した暗号を解読するくだりには、

ワクワクしました。隠された宝の顛末は皮肉なものでしたが。ラストで茶谷くんが

作ったニャン氏と丸山氏の為の曲、ちゃんと聴いてみたいです。楽譜がついている

から、譜読みができる人ならどんな曲かわかると思うんだけど・・・って、私も

ピアノ経験者だけど、もう全然楽譜とか読めないし、ピアノも手元にないから

全然ピンと来なかった(言い訳w)。

茶谷くんの音楽活動は今後どうなって行くのかなぁ。バンドは残念なことになって

しまったけど、また新たな仲間を見つけて再スタートして欲しいです。もちろん、

製缶会社に勤めながらね。

それにしても、気に入った人物に出会う度に転職を勧めても、ことごとく断られて

しまうニャン氏がちょっと可哀想。今後、彼らと一緒に働く人物は出て来るので

しょうか。優秀なお仲間が見つかると良いのですけれどね。

 

 

 

綾辻行人「Another 2001」(KADOKAWA)

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シリーズ第三弾。800ページ超えで、京極さん並のお弁当箱本。重いので、職場

には持って行かず自宅のみで読んでました。間に旅行なんかも挟んでいたので、

結局一週間以上かかったなぁ。いや、読みやすいからページはどんどん進んで

行くのだけれどね。なかなかまとめて読書の時間が取れなかったもので。それでも、

最後の300ページ以上は一気読みでした。ずっと同じ体勢で読んでると、腕は

痛いしお尻は痛いしでなかなか集中出来なかったりもしたんですけどね^^;

いつものごとく、前の二作の内容をすっかり忘れていたので、ヒロインの鳴のこと

以外は基本設定すら覚えてなくて、こんな話だったけ?状態でした・・・。アニメの

方も観てないからなぁ。

今回の主人公は、二作目の『エピソードS』に出て来た比良塚想くん。1998年

に起きた前二作の出来事から時は三年進んで、タイトル通り2001年の出来事。

想は、災厄が起きるかもしれない呪われたクラス、夜見北中学の三年三組に入る

ことに。その年の災厄が<ある>年なのか<ない>年なのかは、始まってみなければ

わからない。見崎鳴が三年三組だったあの年以来、災厄は起きていなかった。災厄が

起きる時、そのクラスには死者が一人、人知れず紛れ込む。その対策として、長年

三年三組では生徒の一人を<いないもの>として扱うことが決められていた。鳴から

災厄について聞いていた想は、今年の<いないもの>に立候補することに。しかし、

今年は保険として、もう一人の<いないもの>を選出しようということになり・・・。

この対策は果たして功をなすのか――生徒たちが不安になる中、ついに恐るべき

事態が訪れてしまう――。

相変わらず、いろいろとツッコミどころが満載な設定だなぁとは思います。何年か

ごとに、こんなトンデモナイ災厄が訪れる学校、怖すぎる・・・。まぁ、その辺りは

こういう世界だと思って受け入れるしかないんでしょうけども。腑に落ちない部分は、

大抵が『記録の改竄・記憶の改変』という便利設定で誤魔化されているような

(苦笑)。

今回、紛れ込んでいた死者を特定するのはかなり簡単だったように思います。これ

伏線だろう、と思えるところが、そのまんま伏線になってたりしたんで。その人物が

すんなり特定されたので、これで終わりではないだろうなぁとは思いましたが(その

時点でまだまだ中盤辺りだったしね)。その後の展開も、ほぼ予想した通りでは

ありました。ただ、もう一人に関しては、二択のうちどちらかだと思っていて、

まんまと間違えましたし、その人物自体の正体も意外でした。途中、想の意味深な

ノローグが入るので、気にはなっていたのですが。ラストで、きれいに説明が

ついて、すっきりしました。ただ、ミステリ的には、もう一ひねりくらいは欲しかった

かなぁ。これだけ長いページかけて引っ張った割には、ちょっと食い足りなさを感じ

てしまった。一作目の方がそういう意味では面白かったような覚えがあるな。

それにしても、災厄の犠牲になって死ぬ人たちの死に方があまりにもエグいので、

ちょっと読むのが辛かった。中には子供とかもいるしね。ここまで残虐な死に方じゃ

なくてもいいのでは・・・と思ってしまった。どんだけ、呪いの力が強いんだ。

そもそも、なぜ災厄は数年ごとなのか。ある年とない年では、一体何が違うのか。

考え出すと、もうキリがない。こんなに死者が続々と出る学校、もう閉校にするべき

じゃないのだろうか・・・。時代設定がSNS等が普及する前だからまだ成立して

いるんでしょうね。今の時代だったら、絶対SNSとかで拡散されて、全国レベルで

噂になってしまうと思う。人の記憶は薄れても、メディアやネットに出てしまった

ものに関しては消しきれないと思うしね。

まぁ、とにかくツッコミところは満載なんだけど、私はヒロインの鳴のファンなので。

彼女が活躍してくれたらそれで満足なワケで(笑)。今回の鳴はあんまり眼帯する

シーンがないからちょっと残念だったけど。ここぞ!という時に眼帯して現れたり

してくれたから、まぁいっかw(変態?)。

ところで、記事を書くに当たって冒頭からページをぱらぱらとめくっていたら、

すごい事実に気づいてしまった。

以下、ちょっとネタバレ。未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

これ、冒頭から堂々とネタバレしてますよね?っていうか、そもそもこの部分は謎

でもなんでもないってことだったのか?一作目の内容覚えてなかったから、

当然ながら登場人物なんて鳴くらいしか名前も覚えてない私がアホなだけだった

ってこと?それを踏まえて、最初の方を軽く読み返してみたら、まぁ、伏線

らしき描写のオンパレードで。なるほどねぇ、と思わされました。一作目の

登場人物覚えてる人にとっては、その人物が出て来た時点で気づかなきゃ

いけないところだったんですね。アホだわー。

 

 

 

ま、腕はしびれましたけど、面白かったです。

今回も表紙の遠田さんの鳴が美しくてうっとり。この表紙眺めているだけでも

手に取る価値があると思うわ(←え?)。

シリーズはあと一作あるそうで。次は今までの三人が<湖畔のお屋敷>を

探検するお話になるのかな。そうなると、三年三組の災厄はどうなるのやら。

綾辻さんに、なんとか体調と気力を整えてもらって(絶対にコロナには罹らないよう

気を付けて頂きたいです(><))、できれば早めに書いてもらいたいものです。