ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

山白朝子「小説家と夜の境界」(角川書店)

山白さん最新刊。私は小説家のはしくれである。長年この職業に携わっていると、

様々なタイプの小説家に出会うが、彼らの中には、奇人・変人が多い。小説家は、

小説より奇なり――。私は、変わった小説家の話を聞くのが大好きなのだ――。

小説家にまつわる奇妙な話を集めた連作短編集。山白さんらしく、どれも一風

変わっていて、奇抜な話ばかりでした。どのお話もそれぞれに味わいがあって

面白かったです。なんとなく、それぞれのお話にモデルとなる小説家がいるような

気がしなくもなかったりして。モデルではないのかもしれないけれど、ついつい既存

の作家さんに重ねて読んでしまいがちでした。まぁ、こんなヘンテコな作家ばかり

だったら、出版業界は大変でしょうが・・・^^;

 

では、各作品の感想を。

『墓場の小説家』

小説家のO氏は、学園ミステリで人気を博したが、ある時以降、執筆する時、自分

が経験したことでなければ小説が書けなくなってしまった。学園ミステリを書いた

時は、高校のすぐ裏手の一軒家を購入し、隙間から高校生たちを覗き見したり、

夜中に校舎に忍び込んだりして書き上げた。恋愛の『傷心』をテーマにした時は、

自分の奥さんに出会い系サイトに登録させ、様々な男性と浮気をさせた。そして、

最後にテーマにしたのは『死』について。そこでO氏は墓場で執筆することに――。

実際経験したことしか書けない作家とは。O氏の行動がどんどんエスカレート

して行くところが怖かったです。最後のオチにもゾッとしました。

 

『小説家、逃げた』

人気覆面作家Yさんは、恐ろしく筆が速かった。短期間で、どんどんベストセラーを

生み出し、人気作家になった。私は、Yさんがなぜそんなに速く小説が書けるのか

不思議だった。一体、Yさんはどのようにして小説を書いているのだろうか――。

こんな状況に置かれながら小説を書いていれば、そりゃ逃げ出したくもなりますよ

ね・・・。毒親を持ったYさんがただただ気の毒でした。でも、主人公の機転の

おかげで、地獄から抜け出せたみたいで良かったです。ラストで明らかになる、

冒頭の知人と奥さんの正体にほっこりしました。

 

『キ』

私のもとに、読者から相談の手紙が来た。ある小説を古本屋で買って以来、家の

中で動物が歩き回る気配がしたり、犬が鼻を鳴らすような音がしたりするのだと

言う。ネット検索してみると、似たようなケースがいくつも書き込まれている。

更に調べを進めると、体験者が買った小説は、Kという作家のファンタジー小説

であることが判明した。私は、Kという作家についてもう少し調べてみることに

したのだが――。

猟奇的な小説を書いていたKという作家が、周囲の人間の反対にあい、本来書きたい

ジャンルではないファンタジー小説を書かされる羽目になってしまうことで生まれた

弊害の話。Kのイメージは、平山さんとか飴村さんとかを思い浮かべました。周りの

人の決めつけには辟易しました。余計なお世話だっつーの。Kが少しづつ犠牲にする

生き物を大きくしていく過程は、この間読んだ道尾さんのショートショートの小学生

を思い出しました。ぞぞっ。

 

『小説の怪人』

ベストセラー作家X先生の新作の内容は、私がかつて、小説仲間のAさんから

聞かされた小説のアイデアとそっくり同じだった。これは一体どういうことなのか

――。

ベストセラー作家の作品が生み出される秘密にはびっくり。まぁ、実際に、複数の

人で構成された作家の小説は世の中にいくつもありますけども。ここまで極端に

細分化されケースはなかなかないでしょうけどねぇ。ラストで登場した新人作家

のように、X先生の手法は今後も受け継がれて行くのでしょうね・・・。

 

『脳内アクター』

同じ顔のキャラクターが、別の作品では異なる役柄で登場するスターシステムという

作画方法を小説で起用し、人気になった作家がR先生だ。R先生の頭の中には5人

の劇団員がいて、彼らがそれぞれの作品で割当られた役割を演じることで作品を

完成させているのだという。しかし、ある日、R先生は、彼らのことが実際タルバ

として見えるようになったのだという。タルバとは、化身のことで、R先生の目の

前で彼らが脳内から出て来て、歩き回るようになったのだという――。

大好きだった新井素子さんの『・・・絶句。』を思い出しました。ほんとにこういう

話だったよなー、と。キイのことは可哀想だった。私は個性的なキャラばかりの中

だと、意外とこういう普通の子のキャラクターが好きになるタイプなので、読者

だったら、こういうキャラをないがしろにされるのはちょっと腹が立つだろうなと

思いましたね。

 

『ある編集者の偏執的な恋』

D先生は、細身でイケメンだけど、人付き合いが苦手で寡黙な作家だった。そんな

D先生は、ある日あまり付き合いのない出版社から、担当編集が変わったとの

連絡を受ける。ある日、小説の資料として写真集を買って、コンビニに寄って

帰ろうとしたところ、その出版社の新しい担当者という若い女性から声をかけられた。

その日を境に、彼女はD先生の行く先々に現れて――。

思い込みが激し過ぎる編集者にはドン引きでした。っていうか、もう行動すべてが

怖い、と思いました。でも、ラストで、本当に怖い人間は他にいたことを知って、

更にぞっとしました。本当にそれが真実かはぼかされているものの、もしそうだと

したら、D先生は真実を知らないままの方がいいでしょうね・・・。

 

『精神感応小説家』

不法滞在のベトナム人だったN君は、他人に触れるとその人の考えていることが

わかる、テレパシーの能力があった。その能力を買われて、事故で全身麻痺状態の

文豪作家J先生の新作小説の続きを書いてほしいと頼まれた。気難しいJ先生との

コミュニケーションは難しかったが、N君とJ先生は少しづつ心を通わせ合って、

小説を書き上げて行った。J先生はN君を信頼し、最後は遺産の半分を生前贈与したい

とまで言いだした。しかし、ある日J先生の甥を名乗る男が現れて――。

こんな小説の書き方があるとは。N君とJ先生の交流が微笑ましかったです。N君には

何の裏表もなく、本当に謙虚で優しい人柄だったので、ラストにはほっとしました。

そして、J先生のことに関しても。

甥の結末には、自業自得だとしか思わなかったですね。天網恢恢疎にして漏らさず、

当然の結末だと思いました。

この作品が最後だったので、ほっこりした気持ちで読み終えられて良かったです。

 

しかし、実際小説家がこんな変人ばっかりだったら、出版社とか書店員さんとか、

みんな大変になっちゃいますよね^^;作品としては面白かったですけどね。

装丁もなかなか素敵ですね。表紙のサングラスの人、一瞬『タモさん?』って

思っちゃいましたけどね(笑)。

 

 

 

 

近藤史恵「ホテル・カイザリン」(光文社)

近藤さん最新刊。いろんな媒体で発表された短編をまとめたもの。アミの会の

アンソロジーに収録された作品が多いので、蓋を開けてみたら、大部分が既読

だったという^^;内容あんまり覚えてないものも多かったから、普通に全部

読んじゃいましたけどね。多分、既読じゃなかったのは三作くらいじゃないかな。

外国を舞台にした作品は、やはり異国情緒溢れていて近藤さんらしさが出ていて

いいですね。特にパリを舞台にした作品は、私も行ったことがある場所がたくさん

出て来て、懐かしかったです。

では、各作品の感想を。

 

『降霊会』

幼馴染の砂美が、学園祭でペットの降霊会を催すという。こんな悪趣味な催しを、

なぜ砂美は突然企画したのだろう――胸騒ぎがしたぼくは、砂美の降霊会に参加

することに――。

砂美が降霊会を企画した理由には驚かされました。黒っ!って思いましたが、

ラストのオチで更に突き落とされる気持ちになりました。主人公のサイコパスっぷり

が怖かった・・・。

 

『金色の風』

バレエの道を諦めて、パリに逃げて来たわたし。パリの街にはなかなか慣れなかった

が、少しづつ外も出歩くようになった。そんな時、ゴールデンレトリバーと共に

走る女性を見かけて自分も走りたくなり、パリの街をジョギングすることに。すると、

その犬連れの女性とまた会い、仲良くなった。しかし、ある日彼女から悲しい知らせ

がもたらされて――。

楽しそうに走る犬のベガとアンナの姿が微笑ましかっただけに、アンナからもたら

された悲報にはショックを受けました。でも、主人公が二人(一人と一匹)との

出会いをきっかけに前を向いて行こうと思えたところは良かったと思う。パリの

街中の風景(ペール・ラシェーズの墓地やオペラ座やギャルリー・ラファイエット等)

を懐かしみながら読めて嬉しかった。

 

『迷宮の松露』

理由あってモロッコに一人でやってきたわたし。なぜか、モロッコに来たら、

亡くなった祖母の夢をよく見るようになった。祖母はいつでもきちんとして、

美しいひとだった――。

こういうお祖母さんがいたら、自分もきちんとしなきゃ、と思わずにはいられない

でしょうね。お祖母さんが生きていた頃の主人公との会話を聞いてみたかったな。

松露というお菓子は初めて知りました。キノコの名前だとは。モロッコの風景は

素敵だった。それだけに、先日の地震の被害が思い出されて、胸が痛みました。

 

甘い生活

わたしは、子供の頃から誰かのものが欲しくて仕方ない子だった。小学五年生の時、

沙苗がわたしの家に遊びに来た時、彼女が持って来たオレンジ色のボールペンが

欲しくてたまらなくなり、嘘をついて自分のものにした。それから九年後、その

ボールペンが高価なものだということがわかり――。

こういう子、いますよね。他人のものを何でも欲しがる子。主人公の卑しい内面

がこれでもか、と続くので、かなり辟易して読んでました。ラストまで全く救いが

ないけど、今までやってきたことのツケが回って来ただけで、自業自得だと思い

ましたね。自分の卑しい心が、沙苗ちゃんの運命を変えてしまったことを、もっと

深刻に受け止めるべきでした。

 

『未事故物件』

はじめての一人暮らしに心を踊らせる初美だったが、ある時を境に、上の階の

住民が、夜中の4時に洗濯機を回すようになり、眠れなくなった。管理会社に

言ったものの、上の階は空き室だと言われてしまい――。

これは、実際ありそうな犯罪ですねぇ。最初、心霊現象かと思いましたが・・・

怖すぎる。未然に防げて良かったです。

 

『ホテル・カイザリン』

わたしは、月一度、年上の夫が出張の時に、息抜きでホテル・カイザリンに泊まる。

山の中腹にあり、明治時代の洋館を改造したホテルで、各部屋にはシェイクスピア

戯曲の名前がついていて、とても内装が凝っているのだ。ある日、わたしは

ホテル・カイザリンで愁子と出会った。彼女とはとても気が合った。彼女と過ごす

ホテルでの一日が、私にとっての癒やしになった。しかし、ある日悲劇が訪れる――。

お世話になっていたホテルに対して、恩を仇で返す行動をした主人公には腹が立ち

ました。ただ、主人公をトロフィーワイフとしてしか見ていない夫にはもっと腹が

立ちましたが。お互いに罪を償ったら、また友人として会えるようになるのかも

しれない。

 

『孤独の谷』

大学で文化人類学の講師をしているわたしは、生徒の波良原美希から、彼女の

出身であるW県の纏谷村の奇妙な風習に関しての相談を受けた。彼女が言うには、

纏谷の住民は、誰かが謎の死を遂げると、みんな村から出て行くのだという。

その村には、どんな秘密があるのだろうか――。

こんな風習があったら嫌だなぁ。何でこの村の住民だけがこうなるのか、どういう

システムなのかさっぱりわからないけど。誰か死人が出たら、家族間でもアレが

出来なくなるなんて。なんだか腑に落ちないけど、不気味な話だった。

 

『老いた犬のように』

小説家のぼくは、妻の葵が出て行ってから侘しい一人暮らしだ。週に一度家事代行

サービスを頼んでいるから、家は比較的きれいなまま保たれているが。葵はぼくの

ミューズだったが、なぜ家を出てしまったのか。ある日、行きつけの喫茶店で、

あることがきっかけで、SNSでフォローしてくれている南風さんという女性と出会う。

そこから少しづつ親しく会話をするようになるのだが――。

こういう男は、本当に自分のことを客観的に見ることが出来ないんでしょうね。

自分が妻にどれだけ酷い態度を取って来たのか。南風さんは、妻が仕込んだ刺客

なのかと思いきや。彼女の言動もちょっと、私には理解不能だったな。哀れな人

にしか惹かれないって、それこそ哀れな人間にしか思えなかった。

 

京極夏彦「鵼の碑」(講談社ノベルス)

はい。ということで皆さん。ついに、ついに、ついに!ですよ!!!出ましたーーー

っ!発売から一月半ほど前でしたでしょうか。ブログ友達のKORさんから出る情報

を教えて頂いたのは。ええ、我が目を疑いましたとも。えっ、えっ、まじで!?

まじですか!?嘘じゃないですよね?と。どれだけこの日を待ちわびていたことで

しょう。っていうか、もう、京極さんは出す気ないんじゃないかと疑ってましたよ。

いや、いつか出るとは信じて・・・いた・・・もごもご。前作邪魅の雫の記事を

書いたのは、今はなきヤフーブログを始めた年、2006年の10月でした。

今回の作品を読み終えた後で記事を読み返してみたら、その時の記事の最後の方に、

『次はいつ読めるのかなぁ』と書いていました。まさか、それが17年後になろうと

は・・・(絶句)。ま、まぁいいや。とりあえず出たからね。

発売日当日は、わざわざ電車に乗って国分寺紀伊国屋書店まで行って買いました。

なぜなら、本書専用の紀伊國屋書店特製カバーをつけてもらえるというから。

なくなり次第終了らしいので、開店10時に間に合うように家を出て。って、

どんだけファンなのよ(笑)。そういえば、前作の時も、平塚限定版カバーが

あるって聞いて、どうしても欲しくて、当時たまたま平塚で単身赴任してた兄に

頼み込んで、買ってきてもらったんだったよなー(ありがとう兄)。

でも、今回も私と同じような人がいっぱい来ていました。その時間にレジに

並んでた人、ほとんどが本書を手に持っていました。中には、本を抱えてにこにこ

している女性も・・・うんうん。わかるよ。同じ気持ちだよ!みんな待ってたん

だね(涙)。

え、前置き長い?いや、この出たっていう感動をみなさんと分かち合いたくて・・・

え、もういいですか。そうですか(しょぼん)。

今回は、日光が舞台です。メインキャラ総出演で、楽しい、楽しい。冒頭の、鵼に

纏わる古典文献の引用が長くて、若干出鼻を挫かれた感はありましたが、そこは

ほぼ内容理解できずに読み飛ばし(おい)。そこからはもう、17年ぶりとは

思えないくらい、いつもの京極堂シリーズでした。メインキャラが一人、また一人

と出て来る度に、ド興奮。関くんは相変わらず自虐満載でオドオドしてるし、

京極堂は小難しい蘊蓄で詭弁三昧だし、榎さんは終始躁状態で傍若無人、木場さんは

四角い顔でこうと決めたら猪突猛進。

みんなそれぞれに全然変わってない(そりゃ、作品内ではほとんど月日が経ってない

から当たり前なのだが)。総ページ数830ページほどありますが、全然長いと思わ

なかったです。榎さんのハイテンションが相変わらず過ぎて。関君も木場さんも

けちょんけちょんに貶されてるし(笑)。出て来る度に笑いを提供してくれて

いたなぁ。それぞれのキャラが、それぞれの思惑を抱えて日光に集結していく所

にワクワクしました。全く無関係に思えた関係性に繋がりが見えていく。その過程

の書き方はさすがだと思いました。光る猿に、光る碑。この当時なら、こういう

ことも有り得るのかもしれない、と思わせてしまうところがすごいですね。実際、

この時代から、こういう研究施設はありそうですし。京極堂の出番と活躍が

少なくてちょっと残念に思っていた所で、終盤、あの場面で憑物落としに現れた時、

『キタキタキター!!』快哉を叫んでしまったのは、絶対私だけじゃない筈。

美味しいところを持っていくなぁ、と思いました(笑)。

取り上げたいシーンはたくさんあるのだけれど、それはぜひ各々で読んで頂いて。

いろいろ書きたいこともいっぱいあるのだけれど!

17年のブランクなんて、何のその。とっても楽しかった。ただただ、楽しい

読書だった。まぁ、800ページ近く読んだオチがこれ?というツッコミ所がない

訳でもないけれども、ファンとしては、ただただ、読めたことが幸せ。

そして、驚きは最後の最後に待っています。京極さんのファンなら、この繋がりに

興奮せずにいられないでしょう。17年待ったファンへの、京極さんなりの

サービスかしら?いろんなシリーズが一つに繋がった感がありましたね。

次回作の構想はあるのだろうか。さすがに17年はもう待ちたくないよー・・・。

5年以内にお願いします(懇願)。

そういえば、本当に全くの偶然なのですが、明後日から日光の温泉に行く予定

なんですよ。旅行の予定立てた後に本書を読んだので、運命かと思いました(笑)。

まぁ、全く観光とかはしないで、ただ温泉旅館に泊まって帰って来るだけなんですが。

関口君や京極堂や榎さんがこの地で活躍したことに思いを馳せつつ、楽しんで

来たいと思います。

 

久しぶりの百鬼夜行シリーズでテンションおかしくてすみません^^;

これでも抑えた方なのよ?←えぇーー・・・。

 

 

紀伊国屋のカバーと。 古書肆京極堂の文字がかっこいい!!

 

森絵都「獣の夜」(朝日新聞出版)

久しぶりの森絵都さん。基本的には大好きな作家さんなのだけど、新作は読んだり

読まなかったりなんですよね^^;今回は短編集ということで読みやすそうだった

ので、借りてみました。

児童書のイメージが強い森さんですが、本書はそういうイメージを払拭するような

バラエティに富んだ短編集でしたね。ショートショート的な作品なんかもありまし

たし、ページ数も結構バラバラ。テーマもいろいろだったし。いろんな場所で

寄稿されたものを集めたみたいなので、それでかも。アンソロジーで読んだ作品も

入ってましたね。

 

では、各作品の感想を。

『雨の中で踊る』

コロナのせいで、入社二十五周年でもらえるリフレッシュ休暇で予定していた

海外に行けなくなってしまった俺は、最終日、妻に言われてフットマッサージに

出かけることに。しかし、不倫している妻の言う通りにするのがしゃくで、

急遽海へ行くことに――。せっかくのリフレッシュ休暇がコロナで潰されて

しまう主人公が気の毒で仕方なかったです。海で出会ったヨースケは怪しい老人

だったけど(脳内で鶴太郎さんに変換されていたw)、彼に出会ったこととで

主人公がいろんなものからふっきれていたらいいなと思う。

 

Dahlia

これは、アンソロジーで読んだ覚えがありました。一面のダリア畑の映像がなんとなく

記憶の端に引っかかっていたのを思い出しました。

 

『太陽』

突然歯が痛くなり、ネット検索で徒歩圏内の歯医者を探したが、どこも予約が

取れず、唯一予約のいらないという風間歯科医院にやってきた私。だが、診察

した院長の風間は、私の歯の痛みの原因は虫歯ではないという。どうやら、心因性

のものらしい。それ以降、私は何が私の歯を痛ませているのか探り始めるのだが。

主人公の痛みの原因が◯◯だとは。でも、こういう小さなことが、結構心に刺さる

って確かにあると思う。きっと、とても大事なものだった筈。原因がわかって

良かったです。それだけ大事なものなのだから、金継ぎとかで復活させてあげれ

ないかな、とか思ってしまった。

 

『獣の夜』

女友達の美也を急遽サプライズパーティに連れ出す役目を担った紗弓。しかし、

当の美也はなかなか思い通りに動いてくれず、寄り道ばかりしようとする。時間

までに美也をあの場所に連れていかなければ――。

これは、美也がいちいち紗弓の思惑から外れた行動ばかりするので、もしや、

わかった上でやっている!?と勘ぐってしまうくらいでした。かなり最初はイライラ

させられたけど、美也の状況を知ってからは、断然美也の方に肩入れしたくなり

ました。こんな状況でサプライズパーティを仕掛ける側の気持ちも全く理解

出来ませんでしたが。最後は女二人のジビエ祭りにスカッとしました。

 

『スワン(『ラン』番外編)』

『ラン』番外編と言われても、本編を読んでいないので全然主人公たちにピンと

来なかったのですが^^;ハタくんと小枝ちゃんのカップルは何だか微笑ましい

なーと思いました。スワンボートがしゃべるという展開に目が点に。こんな風に、

乗る人の心の澱を吸い取ってくれるボートがあったら、乗ってみたくなりますね。

本編読んでみたくなりました。

 

『ポコ』

飼い犬のポコが死んで、心がからっぽになってしまった朔。それでも、ポコはとても

強い犬だった――。これは、犬を飼っている人なら共感できるショートショート

じゃないかな。

 

『あした天気に』

自分で作ったてるてる坊主に、なぜかテルテル王国のてるてる坊主が憑依した。

夢の中で、テルテル王国の国王は、天気にまつわるお願いを三つ叶えると約束

してくれたのだが――。

これはほのぼのしてて楽しいお話でしたね。主人公のてるてる坊主に憑依した

てるてるがなんとも言えず愛らしくて。主人公との会話が微笑ましかった。

主人公が叶えたお願いの結果は、主人公にとっては皮肉な結果になったかも

しれないけれど、親友の死よりは遥かにいい。これによって気づけたことも

多かったと思うし、これからきっと主人公は幸せになれると思うな。

 

畠中恵「いつまで」(新潮社)

一年に一度のしゃばけシリーズ最新作。本書で二十二作目だそうです。毎回、

マンネリにならないようにか、いろんな趣向で物語が展開していきますが、

今回は、タイムスリップもの。タイムスリップって、前にもなかったっけ?とも

思いましたけど、似たような作品と混同しているのかも^^;夢の中系も結構

あるしね(今回も、始めは妖の貘である馬久の夢の中から始まってるし)。

若旦那自身が若返っちゃう話もありましたっけね。スピンオフで未来の話も

あったような。そう考えると、ほんと何でもありの世界観だなぁ(苦笑)。

今回は、突然姿を消した場久、次いで姿を消した火幻を心配し、捜す為に場久の

夢の中へ入った若旦那が、次に目覚めたのは五年後の世界。二人の失踪の原因は、

西から火幻を追ってやってきた妖・以津真天(いつまで)だった――という話。

以津真天が火幻や若旦那に敵意を燃やす理由は、完全に逆恨みでしかなく、呆れ

果てました。単なる、かまってちゃんじゃないか^^;自分が寂しくて誰にも

かまってもらえないから、若旦那やたくさんの妖怪に囲まれて楽しく暮らして

いる火幻医師に嫉妬して、自分の方を見てほしくて場久や火幻に嫌がらせした

っていう。子供か!って思いましたよ。言ってることもめちゃくちゃだし、やってる

ことも酷いし、私にはムカつくやつって印象しかなかったのだけど、ラストの

若旦那の以津真天に対する温情には驚かされました。若旦那、どこまでいい人

なんだよー。あれだけのことをされたのに。こいつのせいで、五年後の長崎屋

は偉い大変な状態になっていたのに。婚約者の於りんちゃんとの関係だって危うく

なりかけたのに。若旦那激ラブの長崎屋の人々が、五年間も若旦那と会えないままに

なってしまったのに!・・・まぁ、その優しいところが、若旦那の良いところ

なんだけどさ。なんだかなぁと思ってしまった。

ラスト、そのままの世界で暮らすか、リスクを取ってでも五年後に戻るか選択を

迫られた若旦那。どっちを取るかはわかりきっていたので、まぁそうだろうなー

という展開でした。うまく行って良かったけどね。

以津真天と手を組んで長崎屋を陥れようとした大久呂屋のやり口が汚すぎて、

腹が立って仕方なかったです。こんな汚いやり方で商売が続く訳はないし、

若旦那が作った薬升があったとしても、次第に商売は傾いて行ったでしょうね。

もともとの薬の知識が足りてないだろうし。まぁ、最後はいい気味だったし、

若旦那の薬升がなければこんな悪どい手法も思いつかないだろうから、未来の

長崎屋は安泰でしょう。商売が傾いた長崎屋なんて、読者としても見たくない

ですからね。

今回の件で、唯一良かったことは、五年後の於りんちゃんを見た若旦那の気持ちが

少し変化したことでしょうかね。五年後には、きっとお似合いのカップルに

なっているんじゃないのかな~。ただ、五年後の世界で、於りんちゃんが若旦那の

ことをわからなかったというのはちょっと解せないと思いましたね。若旦那の

年齢の五年って、そんなに人相変わらないと思うけどな。子供の於りんちゃんなら

まだしも。少し若返った?くらいの感想になると思うけどな~と思いながら読んで

ました。ま、細かいことですけどね(苦笑)。

 

下村敦史「逆転正義」(幻冬舎)

下村さん最新刊。王様のブランチで紹介されていて、これは面白そう!と早々に

予約してありました。ブランチで紹介されちゃったから予約すごそうだよなぁと

思ってたけど、思ったよりは早く回って来て良かったです。

うん、面白かった!正しいと思ったことが最後にひっくり返される爽快感。後味

悪いものもあるけど、それよりも自分の思い込みを覆される驚きの方が強かったかな。

気持ちよく騙された作品が多かった。読みやすいからほぼ一日で読んじゃったし。

最近、頭使って理解しないといけない作品だと、読んでてすぐに疲れちゃうん

ですよね。年かなぁ・・・。

 

では、各作品の感想を。

『見て見ぬふり』

教室で行われているいじめ。みんな見て見ぬふりをしている。でも、僕は勇気を

出して担任に伝えに行った。でも、担任は何もしてくれなくて――。

正義感からいじめを辞めさせようと行動したことが、とんでもない結果に繋がって

しまう。見て見ぬふりをするべきだったのか。これは難しい問題ですよね・・・。

自分だったらどうするだろう、と考えると、主人公の立場に立ったら、彼と同じ

行動が出来るかは自信がないかも。いじめに加担することだけはしないと断言

出来るけれど。でも、SNSはやり過ぎでしたね。

 

『保護』

雨の中、コンビニの前で傘も差さずに立ち尽くすセーラー服の彼女を見て、僕は

つい声をかけてしまった。彼女は僕の部屋について来て――。

いやー、これは完全に騙されました。まさかの反転に目が点。あとから読み返すと、

巧妙に伏線が張られていることがわかる。確かに、気になる描写はあったの

ですけれどね。脱帽でした。

 

『完黙』

麻薬の売人をしてる大重は、今日も繁華街の路地裏で客と取り引きしていた。

だが、女や未成年には売らない。売って欲しいと高校生がやってきたが、断った。

しかし、後日警察がやってきて――。

警察に捕まった大重が、徹底して完黙(完全黙秘)を貫いた理由には驚かされ

ました。そういう背景があったのか!と思いましたね。しかも警察に捕まった時に

密告したのもまさかの人物でした。ラストは別れた妻の真意が知れて、少し救われた

気持ちになりましたね。

 

『ストーカー』

ストーカーに狙われていた美里は、ついにこの手で殺人を犯してしまった。血まみれ

の両手を洗面所で洗っている時、チャイムが鳴り、彼が来た。なぜこのタイミングで。

なんとかして、彼を帰さなければならない――。

これも完全にミスリードさせられていたなぁ。やって来た『彼』のことはすぐに

予測がついたのですが、殺された『祐介』に関しては、完全に騙されてました。

祐介を殺った凶器がわかった時、「は?」と一瞬意味がわからなくてぽかーんと

しちゃいました。意味がわかってああ、そういうことか!と目からウロコが。巧い!

ストーカーのアイツにはただただ嫌悪しか覚えなかったです。でも、ラストは少し

救いがあって良かった。

 

『罪の相続』

突然何者かにスタンガンで気絶させられ、廃工場に監禁された曽我部。なぜ、

息子を亡くしたばかりの自分が、こんな目に遭わなければならないのか。犯人からは、

『これは罪の相続だ』と言われ――。

祖父の罪をなぜその子孫が受けねばならないのか。犯人の思考回路はめちゃくちゃ

だな、と呆れました。子供の頃から、こういう思考を親から植え付けられると、

やっぱり子供の考え方にも影響するんだな、とそら恐ろしくなりました。子供の

将来も心配です・・・どんな大人になってしまうのか・・・。

 

『死は朝、羽ばたく』

札幌刑務所から出たばかりの奥村は、殺人の十字架を背負って生きる決意をして

いた。そんな時、三人組の少年から声をかけられ、金をせびられた。無視していると、

三人組はしつこく奥村を追いかけて来て――。

これも巧いですねぇ。奥村の罪に関しては、同じようなテーマの作品を少し前に

読んだばかりだったので、改めてそのことについて考えさせられました。奥村を

ターゲットにしたチンピラ三人があまりにしつこく追いかけ回すので、ムカムカ

イライラしながら読んでいたので、ラストの展開には胸がすく思いがしました。

奥村自身の鬱屈も、最後のシーンで少し晴れていれば良いと思う。この少年も

一生重いものを抱えて生きなきゃいけないのだろうけれど、『罪の相続』なんて

ことは考えず、生きて行ってほしいと思う。

 

 

 

万城目学「八月の御所グラウンド」(文藝春秋)

万城目さん最新作。久しぶりに京都を舞台にした青春小説が二作収録されています。

どちらもスポーツを題材にしてまして、一作目は女子駅伝、二作目は野球。

どちらにもちょっぴり不思議な現象が出て来るので、万城目さんらしい少し

風変わりなスポーツ小説になっていると思います。

一作目の『十二月の都大路上下ル』は、一年生ながら、『全国高校駅伝』に

出場することになった女子高生・坂東(サカトゥー)のお話。まさか補欠の自分が、

先輩たちを差し置いて走ることになるとはつゆとも思わない坂東は、突然翌日

のレースのアンカーを指名されて面くらいます。陸上部の顧問や先輩から説得されて

走る覚悟を決めた坂東でしたが、彼女には致命的なある弱点があり――というお話。

坂東の弱点、他人から見ると『あり得ない』と思われるかもしれないけれど、

個人的には同じ弱点持ってる人間なので、「わかる―――!」と思っちゃいました。

なんで、そっち!?って方に、ついつい進んで行っちゃうんですよねぇ・・・。

その上、走っている時にあんなモノが並走していたら、そっちに気が行っちゃって、

当たり前の判断が出来なくなっても不思議はない。うんうん。ライバル校の新垣

さんが、意外といい人なのがわかって良かった。レース中は怖い人なのかな?と

思っていたので。主人公のサカトゥーのキャラも良かったですね。屈託がなくて。

誰からも可愛がられるタイプだろうなぁ。それにしても、レース中に現れたアレ

の正体には面食らわされました。そんなに走りたがる人たちとは思えないけどなぁ。

まぁ、こういう場面で、こういう人たちを登場させちゃうところが、万城目ワールド

ってやつなんだろうな、とは思いましたけどね。

二作目となる表題作の『八月の御所グラウンド』は、突然彼女にフラれ、夏休み

の予定が何もなくなった大学生の朽木が、友人の多聞に誘われ、早朝に行われる

野球大会に参加することになる話。

もともと野球はあまり興味のない人間だったんですが、ここ数年の大谷選手の

目覚ましい活躍はやはり同じ日本人として誇らしく、毎朝彼の試合をチェック

したりして野球にも親しんでいたところだったので、割合楽しく読むことが

出来ました。ルールもちょっとわかって来たところだったしね(それまで、

野球のルールというものをほとんど知らなかった^^;)。寄せ集めチーム

だけど、なんだかんだで一試合一試合勝ち進んで行くところに心躍りました。

特に、中国人留学生のシャオさんのキャラクターが効いてましたね~。紅一点で

野球のルールなんか何も知らないのに、ここぞというところで活躍しちゃうという。

朽木といい雰囲気になったりしないかな?と思ったりもしてたんですが、最後

思わぬ伏兵が出て来て撃沈。なんか、不思議なキャラクターだったなぁ。朽木

から烈女とか言われてたしね(笑)。

思わぬ伏兵といえば、欠員が出た時に突如参加してくれることになったえーちゃん、

山下君、遠藤君の正体。若くして野球が出来なくなってしまったことが心残りで、

野球がやりたくなっちゃったんだろうなぁ。彼らの身の上に、やりきれない

気持ちばかりが湧き上がりました。きっともっとたくさん野球やりたかったんだ

ろうな・・・。

京都御所の跡地が、こんな風に誰でも使えるグラウンドになっているとは驚き

ました。確かに、こういう地にいたら、いろんな不思議な現象に遭っても

おかしくなさそう・・・という気にはなりましたね。しかも終戦記念日やお盆

のある八月という特殊な月ですし。五山の送り火の風景といい、京都ならでは

の場面も散りばめられ、万城目さんらしい一作だと思いました。どこか寂しく、

どこかほのかに温かいような、不思議な読み心地の作品でしたね。