ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

辻村深月「嘘つきジェンガ」(文藝春秋)

辻村さん最新作。詐欺に纏わる三つの中編集。一作目のロマンス詐欺のやつだけ

アンソロジーかなんかで既読でした。ざっくりしか覚えてなかったから、再読

出来て良かったです。まぁオチとかだいたい覚えていたけれどね。

詐欺の話ばかりなので救いのないオチになるかと思いきや、読後はどれもそれほど

悪くない。途中までは嫌な気分になる話ばかりなんですけどね。最後は意外と

思わぬ方向へ進むものばかり。読んでる間は最悪の結末しか思い描けないんです

けどね。騙す側、騙される側、どちらに自分が転ぶかは紙一重のところにいる、と

思わされるお話ばかりでした。日常に潜む詐欺事件が、とてもリアルに描かれて

いるな、と思いました。

 

では、各作品の感想を。

『2020年のロマンス詐欺』

コロナで大学の授業もなくなり、仕送りが減らされる為バイトをしようにも不採用

になり、八方塞がりだった大学生が、友人に唆されてロマンス詐欺に手を染めて

しまう話。一人の女性と頻繁にメールをやり取りするようになり、心をときめか

せるが、自分は彼女からお金を引き出さなければならない立場なのに、彼女からは

家庭内DVの告白をされて――という。

以前の感想にも書いた覚えがあるのだけれど、平凡で良識のある一大学生が、ほんの

出来心から犯罪に手を染めて行く過程がとてもリアルで、空恐ろしかったです。

ラスト、こういう展開になるの!?って感じでした。主人公が基本的にはとても

良い子なのはわかるけど、こういう経験をした二人が付き合うっていうのは、

ちょっと現実的にはあり得ない気がするなぁ。絶対親反対するでしょ。

 

『五年目の受験詐欺』

次男・大貴の中学受験の時、多佳子は教育コンサルタントのまさこ先生が開く、

受験生の親向けの『まさこ塾』に通っていた。大貴の成績が思うように上がらず

焦っていた多佳子は、まさこ先生から持ち込まれた100万円支払って特別に

事前受験できる制度を利用した。結果、大貴は見事に合格した。しかし、それから

数年が経ち、ある日多佳子は『まさこ塾』のあの制度が詐欺だったと知り――。

これは、受験生を持つ親だったら主人公に共感できるんじゃないかなぁ。うちの

姉のところの上の子も、今年高校受験したんですけど(大貴は中学受験なので

またちょっと違うかもですが)、姉も娘の受験前は相当ナーバスになってました

からね。普通に考えれば、100万なんて大金を支払えって時点でおかしいと

気づくべきだとは思うんですけどね。精神状態が普通じゃないと、藁にもすがる

思いになっちゃうんでしょうね。

詐欺だったことを打ち明けた時の夫と次男の反応が正反対で、人間の器の違いを

感じましたね。息子の方がよっぽど人間出来てるよ。優しい子で良かった。夫の

方は、将来的にDVとかしそうなタイプに感じちゃいました。100万は痛い勉強代

として諦めるしかないでしょうね。

 

『あの人のサロン詐欺』

紬は、大人気漫画の原作者の谷嵜レオの名を騙って、オンラインサロンを開催

している。最初はファンの集まりに過ぎなかったが、いつしか創作教室のような

体裁になって行った。もともと谷嵜の大ファンだった紬は、自分が谷嵜として

振る舞うことで、谷嵜と同化したような気持ちになっている。サロンのメンバー

たちも紬を慕ってくれている。その証拠に、嘘だとバレないまま10年が過ぎた。

しかし、ある日本物の谷嵜レオが犯罪を犯して逮捕されてしまい――。

人気漫画の原作者の逮捕、という設定が、少し前に起きた『アクタージュ』という

漫画原作者の逮捕の事件と重なりました。やった犯罪もそれに近いものだし(こちら

の方がまだ軽いものだけど)漫画家の逮捕だと、『るろうに剣心』の作者の事件とかも

ありましたね。『アクタージュ』はすごく好きな漫画だったので突然続きが読めなく

なったのは本当にショックだった。もしかしたら、辻村さんもそういう経験をもとに、

こういう作品を書いたのかな、と思ってしまった。制作者側の何らかの事情によって、

漫画やアニメの続きが観られなくなった、というようなね。夢を与えて来た側の

人間が、こういう事件によって読者を裏切る、というのはやっぱりショックが

大きいですよね。

それにしても、紬が、何の罪悪感もなく谷嵜になりすまして、親すら欺いている

ところにはドン引きしました。どうしてあんなに息を吸うように嘘が吐けるの

だろうか。全く、紬の言動は理解不能でした。まぁ、紬の詐欺を知った後の

谷嵜の言動も理解不能でしたけど。ラスト、ああいう形で助かったとしても、

何らかの後遺症は絶対残ってしまうでしょうね・・・。救いがあるようで、ない

とも云えるラストだなぁと思いました。

桂望実「残された人が編む物語」(祥伝社)

桂さん最新作(かな?まだ?)。桂さんは食指が動くものは読むのだけれど、ここ

最近は少しご無沙汰気味でした。本書は、ブロ友さんのところで高評価っぽかった

ので予約してありました。予約本ラッシュ中に回って来てしまって、一度今回は

スルーして返してしまおうかと思いかけたのだけど、とりあえずと冒頭の一作読んで

みたら、なかなか良かったので、そのまま読み通してしまいました。読みやすかった

しね。

本書は、亡くなった人の行動をさらって、残された人がその人に対して思いを

馳せる物語。特に、今回亡くなった人々は、みな、行方不明者協会の名簿で名前を

発見して死亡が確認されたケースばかりを取り上げています。そこで働く職員の

西山静香が全作に共通して登場します。依頼人は、長年連絡を取っていなかったり、

行方がわからなくなっていたりしていた人物を捜す為、行方不明者協会に依頼をし、

当該人物を捜し当ててもらいます。生きて捜し出せれば一番良いのでしょうが、

本書に出て来るケースは、みな当該人物が死亡しています。依頼人は、当該人物が

自分と会わない間にどんな生活をしていたのか、どうして死に至ってしまったのか

を少しでも知りたいと願い、西山と共にその人物のことを調べ始める――というのが

だいたいの流れ。疎遠になっていた弟、大学時代に一緒にヘビメタバンドをやって

いた仲間、十年前に突然失踪した夫、転職前の会社でお世話になった社長、幼い頃

に東京に行ったまま帰って来なかった母親・・・それぞれに、それぞれの物語が

あって、胸に響きました。依頼人は西山と共に亡くなった人のことを調べて、少し

づつその人のことがわかって行くのだけれど、結局その人はもういない訳で、本当

のその人がどんな風にどんな思いで亡くなったのかは推測するしかない。だから、

残された人が、結局のところは、その人が思うように亡くなった人の物語を構築

するしかない。と、いうわけで、こういうタイトルなんだな、というのがすとんと

腑に落ちました。

一話目の疎遠だった弟の話は、疎遠だった間にホームレスにまで落ちていた弟が、

姉が気まぐれであげた詩集をずっと大切に持っていたところにぐっと来ました。

気性が荒い弟に苦労させられたきた姉だったけど、弟自身もそういう自分をなんとか

抑えようと努力していたところもあったのかな、と思うと切なくなりました。

二話目のヘビメタバンド仲間の話は、大事な友達だった筈なのに、あの告白を受けて

向き合わずに逃げた主人公に腹が立ちました。同じ会社の同僚カップルのことを

悪く言う資格は、彼には一切ないと思いましたね。だって、全く同じことをして

たんだから。

三話目の、十年前に夫が失踪した妻の話だけは、失踪した夫の本性が見えて来て、

亡くなった人に対して嫌な気持ちになるお話でした。依頼人は、夫の本性を

知らないままの方が幸せだったのかもしれない。でも、それを知ったからこそ、

強い気持ちでこの先を生きていけるとも云える訳で。現実が見えて良かったん

じゃないかな。

四話目の、元の会社の女社長を捜す男の話は、亡くなった女社長がいい人過ぎて、

その最期がさみしくて胸が痛かったです。彼女の凋落が悲しかった。その死因も。

彼女を騙して逃げた元社員が許せなかったです。主人公は、彼女に借りた300万を

返すことは出来なかったけれど、そのお金を自分の懐に入れたままにするんじゃ

なくて、ちゃんと次の世代に繋げるような使い方をしたところが良かったです。

ラストの話は、行方不明者協会の西山静香のお話。彼女がこの仕事に就いたのは、

彼女自身の母親が子供の頃に失踪していたからだったのですね。彼女自身、大好き

だった母親の突然の失踪に心を痛めた一人だった。そして、この仕事に就いてから

ずっと母親を捜し続けて来た。その母親が、ついに遺体で見つかった身元不明者の

持ち物がきっかけで見つかることに。

静香にとって最悪の結末になってしまったけれど、母親が失踪した理由が明らかに

なり、静香に対する思いも推測できるようになって、やっと静香は母親の不在と

折り合いがつけるようになったんじゃないかな。そして、継母や兄弟ともこれからは

良い関係が築けるのではないかと思う。

静香にはこの仕事がすごく合っていると思うけれど、今後は違う道に進む可能性も

ありそうですね。それとも両立していくのか。どちらにしても、静香ならどちらの

仕事も責任を持って請け負うことができる人だと思うから、自分のやりたい方を

選べばいいと思う。

長く会っていなかった人が、亡くなっていたと知ったとしたら、自分もその人が

どんな生活をしてどんな思いで亡くなったのかは気になると思う。突然突きつけ

られたその人の死に戸惑うと思うし、受け入れられない気持ちになるとも思う。

静香の仕事が、亡くなった人の為ではなく、残された人の為、というのはとても

良くわかるな、と思いました。

神永学「心霊探偵八雲 青の呪い」(講談社文庫)

心霊探偵八雲シリーズ外伝。講談社文庫で出るって、かなり珍しいのでは?スピン

オフ的な作品だからかな。一応文庫書き下ろし作品らしい。

八雲が高校生の時に出会った、共感覚を持つ同級生の琢海が語り手となっています。

サウンドカラー共感覚という特殊な能力を持つ琢海は、交通事故で両親を失い、自身

も腕を骨折した時に病院で出会った、青い声の少女のことが忘れられなかった。

一年後、高校に入学した琢海は、偶然その青い声の少女と再会する。少女は美術部

の三年生だという。明るい彼女との再会に喜ぶ琢海だったが、ある日早朝の美術室で

顧問の先生が死体となって発見される。発見したのは琢海だった。しかも、琢海は、

死体を発見する直前に、青い声の先輩の姿を目にしていた。殺したのは彼女なのか

――。

なかなかの読み応えでしたねぇ。ちょっと中だるみした感もありましたけど。

先生殺害の犯人は、半分は予想通りだったけど、半分は盲点をつかれたって感じ

でした。琢海が結構優柔不断というか、ぐるぐる考えるタイプなので、ちょっと

イラッとさせられたところもありましたね。

事件の方は解決したけれど、妹のいじめ問題の方は何も解決しないままだったのが

ちょっともやもやしました。結局、逃げるみたいに転校することになってしまったし。

良かったところは、やっぱりラストの琢海と八雲の再会シーンかな。琢海とあの子

が一緒にいたのも嬉しかったし、八雲に歩み寄ろうとした琢海の行動も嬉しかった。

やっと八雲にも本当の意味で同年代の友達が出来たと云えるのかなぁ。この再会の

後も交流が続くと良いのだけれど。

共感覚を題材にした作品はいくつか読んだことがありますけれど、サウンドカラー

共感覚というものもあるのですね。こういう能力のものは読んだことがあったかな??

初めてのような。声が色で見えるなんて、面白いですね。まぁ、琢海にしてみれば

面白いなんてものじゃないんだろうけど。オーラが見える人みたいな感じなのかな?

私の声はどんな色に見えるんだろう~。琢海に見てもらってみたい。でも、嘘が

混じるとすぐにわかってしまうのはちょっと怖いかも。それで、琢海自身も辛い

思いもして来たんだろうな。時間はかかったけど、八雲という理解者が出来たことは

琢海にとっても心の支えになるんじゃないのかな。二人が普通の友達同士みたいに

付き合える日が来るといいなぁと思いました。

窪美澄「夜に星を放つ」(文藝春秋)

第167回直木賞受賞作。実は、読んだ後で直木賞獲ってたことを知りました。

多分受賞された報道は目にしていたけれど、これがその作品だとは思ってなかった

んですよね。図書館の新着図書ページで、なんとなく見かけて、久しぶりに食指が

動いたので予約しておいたのでした。多分、受賞されてから予約してたら、とても

じゃないけど、読めるのはもっとずっと後になっていたと思う。ナイス、自分(笑)。

『星』に纏わる作品ばかりを集めた短編集。どの作品も胸にずしっと来ました。

人間のリアルな部分が、まっすぐに描かれている作品という感じ。心に傷を抱えた

人々が、もがきながら今を明日を生きて行く。何気ない日常でも、息苦しく生きづらさ

を抱えている人はいくらでもいる。文章が上手いので、ぐいぐい読まされました。

ただ、これが直木賞って言われても、正直「え、そうなの?」って感じではあった

かな。確かに上手いとは思うけど・・・短編集というのもあって、一作一作は

さらりと読めてしまうものばかりだし。でも、こういうタイプの作品が、一番

何気に人の心を揺さぶるものだったりもするのかもしれないな。

 

では、各作品の感想を。

『真夜中のアボカド』

双子の妹を亡くした私は、婚活アプリで出会った人と付き合い始めるが、相手

には隠している秘密があった――。

アボカド、私も種から水耕栽培で育てた経験あります。ほんと、びっくりするくらい

成長します。そして、今現在は庭に植わっていますが、めちゃくちゃ枝とか伸びるの

早いです。実が生るほど育てるつもりはないので、ばしばし切ってます^^;

婚活アプリの彼氏にはガッカリ。でも、実際こういう人間多いんだろうなぁと思う。

それに反して、妹の彼氏だった村瀬君の一途さが素敵だった。主人公は、こういう

タイプを好きになれば幸せになれるだろうにね。

 

『銀紙色のアンタレス

夏休みに、僕は海の近くに一人で住むばあちゃんの家に遊びに来た。後から、

幼なじみの朝日もやってくるという。そこで僕は一人の女性と出会い、恋をする

のだが――。

切ないひと夏の恋。真も朝日も、それぞれにほろ苦い夏の思い出になったと

思うけど、高校生の恋なんてきっとこういうものなんだろうと思う。

 

『真珠星スピカ』

二ヶ月前、母さんが事故で亡くなった。しかし、母さんはいつも家にいる。私には、

母さんの幽霊が見えるのだ。父さんには見えないみたいで、なぜか私にだけ――。

学校でいじめられている私は、母さんが見えることで救われて来た。でも、ある日

私をいじめている同級生が、こっくりさんをやろうと言い出して来て――。

いじめっ子を、こっくりさんで母親がやり込めるシーンはスカッとしました。どんな

時も、母親は娘を守ろうと必死になるものなんでしょうね。ユーミンの『真珠の

ピアス』は私も大好きな歌。まぁ、確かに歌詞は女の怖い部分が出ている感じが

しますね。

 

『湿りの海』

元妻は、突然僕に離婚を言い渡して、娘を連れて好きな人のいるアメリカのアリゾナ

州に行ってしまった。僕は、週一度、ズームを通してしか娘に会えなくなった。

会社の後輩は新しく恋愛をしろと勧めて来るが、気乗りはしない。しかし、そんな

ある日、僕の住むマンションの隣の部屋に、子連れの女性が引っ越して来た。僕は

二人と交流することで心の隙間を埋め始めた――。

なんか、勝手な女性たちに振り回される主人公がちょっと気の毒だった。元妻に

しても、隣の女性にしても。ま、主人公も優柔不断なところがあって、いまいち

好感持てるとも言いがたかったけれどね。

 

『星の随に』

僕が小学四年生の時に、弟の海君が生まれた。海君はとてもかわいくて、僕は大好き

だ。でも、父さんと再婚した渚さんは、海君を生んでからとても忙しくて大変で、

とても疲れているように見える。ある日、学校から帰ってドアの鍵を開けると、

ドアガードがかかっていて家に入れなかった。一度は大声で呼んで気づいてもらえ

たけれど、その日以来、僕が帰る頃にはいつもドアガードがかかっているように

なってしまった。渚さんはきっと、今、少し疲れているだけなんだ・・・。

この話は、本当に切なかった。そして、渚さんの言動はとても許せなかった。赤

ちゃんのお世話で疲れているからといって、これは絶対にやってはいけないことだ。

だって、完全に育児放棄だし。どう考えても、児童虐待だもの。

でも、そんな渚さんを必死で庇おうとする主人公の想がとても健気で、いじましくて、

胸が痛みました。本当に、良い子で、泣けた。もっと父親がしっかり渚さんも

想のことも気遣ってあげなきゃいけなかったとも思う。

佐喜子さんと想のやり取りがとても良かったですね。心の拠り所だった佐喜子さん

との別れが切なかったなぁ。でも、これからは両親共にもう少し想のことを気に

かけてくれると思いたい。想には、心の底から幸せになって欲しいと思いました。

 

坂井希久子「朱に交われば 江戸彩り見立て帖」(文春文庫)

江戸版カラーコーディネーターのお仕事小説第二弾。一作目がとても面白かったので、

二巻を読むのを楽しみにしていました。

謎の京男・右近の紹介で、右近が働く呉服屋・塚田屋で色見立ての仕事をすることに

なったお彩。しかし、お彩を雇うことが面白くない上に、弟を目の敵にしている

塚田屋の主人は、何かと彩に突っかかって来る。自分はロクに仕事もせずに遊び

呆けてなかなか店にいないというのに。挙げ句の果てには、お彩に新たな江戸の

流行色を作り出せ、出来なければ右近ともども店から追い出すと言い出した。様々

な問題を抱え、お彩は頭を悩ませることに――。

今回も、お彩さんの色見立てはお見事でした。塚田屋の人々は、店主の奥方のお春

さん以外は敵ばかりで、気の毒になってしまいます。特に店主の刈安と番頭はイヤな

ヤツですねー!嫌味な言動ばかりで辟易しました。まぁ、江戸の時代なんて、

まだまだ男尊女卑まっさかりの時代だろうから、女性が仕事で出しゃばることが

許せないんでしょうね。でも、それをお彩さんの見立ての実力で黙らせて行く

のが痛快です。もっともっとやってやれー!って応援したくなりますね。

飄々とした右近のキャラも良いですね。右近のお春さんへの不毛な恋が浄化して、

いずれお彩さんの方を向いてくれたらいいのにな~と思ってしまいます。なんだ

かんだでお似合いな二人だと思うなー(お彩さんは嫌がっているけどw)。

今回も、聞いたことがない色の名前がたくさん。色の名前の羅列を読んでいる

だけでも、うきうきしちゃいます。どの名前も素敵!江戸時代の色見本帖、見て

みたーーーい!当時の流行は、芝居や浮世絵なんかがきっかけだったりしたという

のも納得。いつの時代でも、素敵なものを見たら、自分も同じものを身に着けたい

と思うものなんですねー。面白いなぁ。

しかし、ラストの引きが強すぎる。えぇーー、ここで終わりなの!?この先が

読みたいのにっ!って思いました。

お彩が作った流行色は果たして流行るのでしょうか。ああ、早く次が読みたいっ。

 

歌田年「紙鑑定士の事件ファイル 偽りの刃の断罪」(宝島社)

個人的に一作目が面白かったので、二作目も手にとってみました。今回は中編が

三作入った中編集。前作で紙鑑定士渡部のバディとして活躍したプラモデル造形家

の土生井に代わり、今回のバディはフィギュア作家の團。土生井のキャラも好き

だったので、大幅に出番が減ったのはちょっと残念だったのですが(多少は出て

来ますが)、今回初登場の團氏もなかなか良いキャラクターだったので、こちらは

こちらで良い相棒だと思いました。どちらにしても、マニアックな技術と知識を

持っていることに変わりはなく、紙オタクの渡部も入れて、みんな自分の好きな

物に対する情熱がすごいなぁという感じ。好きこそものの上手なれ、とはよく

言ったもので、そのモノへの愛情や情熱があればあるほど、達人の域まで到達出来る

ものなんだなーと思わされました。

一話目の『猫と子供の円舞曲』は、依頼人が小学生の女の子。野良猫虐待に使われた

白い紙粘土の正体を探るお話。

容疑者のひとりとして登場する團ですが、人柄とその知識の広さで渡部の心を掴み、

その後の二作でも大活躍することに。身勝手な理由で野良猫を虐待する犯人には

腹しか立たなかったです。依頼人梨花が、転校してしまった少年と再び仲良く

なれて良かったです。梨花と渡部のラインのやり取りも微笑ましくて好きでした。

 

二話目の『誰が為の英雄』は、團が受けた、アメコミのキャラクターの一品物

フュギュアを巡るお話。依頼人の女性は、父親がいなくなって以来ふさぎ込みがちの

息子の為に、好きなアメコミ・キャラクターの一品物フィギュア制作を團に依頼。

出来上がったフィギュアは素晴らしい出来だったが、なぜか息子はそれを見た瞬間

気に入らないと突き返して来た。息子が望むフィギュアとは一体どんなものなのか?

印刷された青色の違いから、紙の不良に気がつく渡部の観察眼と紙の知識に脱帽

でした。紙鑑定士の面目躍如というお話でしたね。息子が本当に拘っていたのが

フィギュアではなく、あることだったところにちょっと拍子抜けしましたけども。

少年特有の反抗期のように見えて、まだ母親が必要な子供だったということなん

でしょうね。

 

三話目の『偽りの刃の断罪』は、渡部の旧知の石橋刑事からもたらされた案件。

懐紙に書かれた古風なラブレターの送り主が、送り手の女性の夫を刺殺し、家の

一部を焼いた罪に問われているという。しかし現場から凶器は消えていた。石橋

刑事は容疑者の人となりを知っていて、無実だと信じているらしい。渡部と石橋は

協力して事件を調べ始めるが。

コスプレ好きの仲間三人内で起きた事件。凶器消失の理由は、なるほど、と思わされ

ました。こんなモノが実在するんですねぇ。確かに、ソレって凶器になる時あります

ね。私もよく手を切ったりするし。特殊な加工をすれば、いくらでも鋭い刃になり

そう。

相変わらず、派手な車の持ち主である真理子さまはカッコ良かったです。もう少し、

渡部との絡みが見たいなぁ。お互いに憎からず想い合ってる風に見えるんだけど

なぁ。真理子さんの送迎が終わったら、二人の関係はどうなっちゃうんでしょうか。

 

今回も、ちょいちょい挟まれる紙ウンチクに感心したり、若干うんざりしたり(笑)。

でも、基本的には読みやすいですし、キャラクターも良いので、さくさく読めて

楽しかったです。

冒頭に、本の各部位の名前と、使っている用紙の詳細な解説が入っているあたり、

作者の紙に対する拘りを感じました。装丁も凝っていて素敵でした。

 

村田沙耶香「信仰」(文藝春秋)

コンビニ人間以来の村田作品。こちらも、王様のブランチで紹介されていて、

興味を惹かれたので予約してありました。

なんとも、へんてこな作品ばかりを集めた短編集です。いやー、ほんと、この人の

頭の中はどうなってんだろうか。

エッセイっぽい作品もあったりして、いきなり作者の顔が出て来て戸惑ったところも

ありましたが、村田さんらしい奇抜な設定の作品ばかりで、不思議な読後感でした。

まぁ、正直理解できない作品も多々ありましたけど、この人にしか出せない世界観

みたいなものは楽しめました。ちょっと、舞城(王太郎)さんっぽい作品なんかも

あったかな。天才は奇才ってことなんでしょうねぇ。

印象に残ったのは、表題作の『信仰』、生存率をテーマにした『生存』、エッセイ

っぽい『彼らの惑星へ帰って行くこと』、多分完全にエッセイである『気持ちよさ

という罪』辺りかなぁ。他はちょっとSFぽさが入っている作品が多かったような。

『信仰』は、まさしく信仰について考えさせられる作品でした。『原価いくら?』

が口癖で、どこまでも現実主義の主人公が、怪しげなカルト商法に誘われて、足を

突っ込もうとするお話。でも、どこまでも現実主義だから、どっか引いてるという。

ラストは想像するともう、カオス。なんじゃ、こりゃ、って感じでした。

『生存』は、自分の生い立ちやら頭脳やらで、生まれつき生存率が決まってしまう

世の中の話。努力次第で多少は生存率UPも望めるとはいえ、世知辛い設定だなぁ

と面食らわされました。最後は努力することさえ放棄した主人公の投げやりさに

なんだか胸が締め付けられる気持ちになりました。パートナーの彼もなんだか

気の毒だった。

『彼らの惑星~』『気持ちよさ~』は、村田さんご自身の生きづらかった経験が、

文章からにじみ出ているように感じました。心の中にいる『イマジナリー宇宙人』

って存在は、きっと誰もが似たような経験あったりするんじゃないかなぁ。

現実にはない、どこか違う世界にいる筈の友達。まぁ、言ってみれば現実逃避

ってやつですけど。それがないと、自分を保っていられない時って、絶対誰にでも

あると思うんだよね。辛くて逃げたい時、助けてくれる存在や場所。空想の世界。

それは精神的な弱さなんかじゃない。自分を逃がす為に、絶対に必要な場所なんだと

思う。のほほんとしていて不思議キャラだと思っていた村田さんの、心の深淵

を覗いたような気持ちになりました。

『気持ちよさ~』は、多様性という言葉についても考えさせられましたね。最近

流行りの多様性。なんでもかんでも多様性。多様性を認めろ。個性を認めろ。

それで傷つく人もいるんだな、と。マイノリティだからいいって訳でもないし、

みんなと一緒だからいいって訳でもないし。その人それぞれが認められる世の中

になれば良いなと思わされました。