ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

「Mystery Seller」/新潮文庫刊

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「Mystery Seller」。

日本ミステリー界を牽引する8人の作家の豪華競演。御手洗潔、江神二郎など、おなじみの主人公
から、気鋭の新たな代表作まで、謎も読後感も全く異なる八篇を収録。どの事件から解くのもよし。
極上のトリックに酔いしれること間違いなし。すべてのミステリーファンに捧げる、文庫史上
もっとも贅沢なアンソロジー(紹介文抜粋)。

新潮社の豪華アンソロジー『Story Seller』シリーズのミステリー版。初めましての作家さんが
二人。好きな作家さんが結構入っていたので、なかなか楽しめるアンソロジーでした。ただ、
出来には少々ばらつきがあったかなーって感じ。もやもやした終わり方のものもいくつかあった
ので、全部が全部出来が良かったって感じではなかったです。ここに綾辻さん、京極さん辺りが
寄稿されると、もっと全体的に質が上がりそうですけどね。ただまぁ、個人的には有栖川さんの
学生アリスシリーズが読めただけでも十分満足。マリアが出て来ないのがちと残念ではありました
が。島田さんの御手洗さんにも会えましたしね(ちょっと、期待していた作品とは違ってました
けど^^;)。もうちょっと、ザ・本格!みたいな作品が入っていたらもっと良かったかなー。


では、以下、各作品の感想を。

※一部、ネタバレ気味の感想もあります。未読の方はご注意を。








島田荘司進々堂世界一周 戻り橋と彼岸花
終盤まで、一体何が書きたいのかな、と良くわからずにいたのですが、ラストはなかなか
感動的。どこに謎が出てくるんだろう、と思ってましたが、彼岸花の球根が消えたのは何故か、
というのが一番大きな謎だったのかな。なんか、単なる偶然が起因していただけって感じの
真相でしたけど^^;でも、巡り巡って、意外な場所に故郷を見ることが出来て、ビョンホン
は幸せだったんじゃないかな。なんか、ビョンホンって言われると、ついつい、イ・ビョンホン
を想像しちゃいましたけど(苦笑)。御手洗さんの活躍がもうちょっと見たかったな。

有栖川有栖『四分間では短すぎる』
学生アリスシリーズ。アリスが駅の公衆電話で実際に見聞きした謎をお馴染みメンバーたちで
推理し合い、意外な真相が導かれる過程の面白さはさすが。もう、こういうのは老練の手管って
感じで、巧いですねぇ。『Aから先です』の解釈にはなるほど!と思わされました(若干、発音的
に疑問を感じなくもなかったですけど^^;)。ただ、その解釈が正解っていうのではなく、
そういう解釈もあるよ、的な提示の仕方なので、実際のところどうだったのかは謎のままです
けどね。アリスが元気ないのは、『月光ゲーム』事件の後だからとかなのかな。中に出てくる
『九マイルは遠すぎる』読んでみたくなりました。月イチ作品候補にしとこう^^

我孫子武丸『夏に消えた少女』
これはラストの反転がお見事!の一言ですね。あー、そういうことか!と目からウロコ状態でした。
ミステリ的な面白さだと、これが一番良かったかな。今まで、こういう切り口の作品って
有りそうでなかった気がする。完全にミスリードされてました。他の作品に比べてページ数
は少ないけど、印象に残る一編です。

米澤穂信『柘榴』
雰囲気作りは抜群に巧いですね、この方は。ちょっと儚い羊たちの祝宴の黒さと耽美さに
通じるものがあるかな。耽美でいて背徳的なこういう作品はとても好き。ただ、オチが割と早い段階で
見当がついちゃったのが残念といえば残念でした。こんな父親と暮らしたら苦労するだけだと
思うけどねぇ。どうやって生計立てて行くんですかね、これから。

竹本健治『怖い映像』
これは、ストーリーは面白かったんだけど、真相のツメが甘くて、かなりもやもやした読後感
でした。
三人の子供の残りの一人がどっかで出てくるかと思っていたのに、最後まで出てこなくて
拍子抜け。それに、結局真犯人は誰だったのかもわからないし、殺人の真相がうやむやなまま
なのがどうにも消化不良でした。ホラーとして読むべき作品なのかな。

北川歩実『確かなつながり』
初読み作家さん。途中まで悪くはなかったんだけど、終わり方がね。これも、ツメが甘い
って感じ。結局、井波の真意はどっちだったんですかねぇ。ラスト、50を過ぎた男同士の
こういうシーンはあんまり見たくなかったような^^;

長江俊和『社の囚人』
こちらも初読み作家さん。試みは面白いんだけど、小説っていうよりは、映画の脚本読んでる
みたいな印象でした。こういう作品は、映像で観た方が面白いんじゃないかな。といっても、
映像に出来ない部分がキモの作品なんだけど^^;我孫子さんの『探偵映画』思い出しました。

麻耶雄嵩『失くした御守』
高校生が主人公の青春ミステリの割になんだか読みづらかった^^;失くした御守と、心中
事件の真相がもっとリンクしてるのかと思っていたので、ちょっと拍子抜け。しかも、あの
真相って・・・うーん。なんか、もやもやしました。だって、真相聞いてる限り、どう考えても
直接の犯人って○○さんじゃないか?その真相聞いて、なんで優斗がああいう反応なのかが
全く理解不能。怖くなるどころか、『可愛い』と思えるその神経がわかりませんでした。普通、
押入れにソレが隠されてるところを見た時点で、何か変だとか、怖い、とか思うものじゃない?
○○さんのしたことを心から賞賛って、ほんと意味がわかんないです。もしかして、優斗の
神経って、ちょっとおかしかったりするのかな?ラストニページの落とし所がどうにも納得
行きかねて、すっきりしない読後感でした。






個人的な順位づけをするとしたら、有栖川>我孫子>米澤>島田>長江>竹本>麻耶>北川
かなぁ。正直、長江さんからの四人はほとんど横並びって感じ。どれも途中まで悪くない
けど、ミステリとしてはツメが甘いって感じでしょうか。やっぱり、普段から贔屓にしてる
作家さんの方が出来が良く安定して読めた感じがしましたね。まぁ、個人的好みもあるでしょう
けどね。