ミステリ読書録

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田中啓文/「ウィンディ・ガール サキソフォンに棲む狐1」/光文社刊

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田中啓文さんの「ウィンディ・ガール サキソフォンに棲む狐1」。

永見典子は須賀瀬高校一年生。吹奏楽部でアルトサックスを吹いている。父・光太郎は二年前に
新宿で不審な死を遂げ、母の瑤子と二人暮らしだ。彼女の行動に異常に口出しする母に、反発する
典子。そんな典子の秘密の親友は、彼女のサックスに棲みつくクダギツネのチコだ。譜面が絶対で、
部員に命令を強制する顧問の高垣、いやな先輩・柿沢、厳しい練習、理不尽な説教、でも典子は
仲間たちとレギュラー・オーディションやコンテストの準備に部活を頑張っていた。ところが、
そんな吹奏楽部に、不思議で不吉なトラブルが次々に起こる。典子はチコの力を借りながら、
トラブルを解決していく。一方、典子は父の最期の様子を知ろうと新宿に行き、ふと入った
ライヴハウスでミュージシャン・坂木新のステージを観る。力強くさまざまなものを自由に表現
するその演奏に強い衝撃を受け、典子は未知の音楽の魅力に導かれていく…。事件に、人に、音楽に、
出会い、ぶつかり、悩みながら進む少女を描く連作小説(あらすじ抜粋)。


田中さんの音楽小説。主人公が扱う楽器がサックスということなので、大好きな永見緋太郎
シリーズとの関連があるかも、と期待は膨らみつつ手に取りました。
読んだ結果、関連は多分・・・ある、のだろうけれども、よくわからない、というのが結論。
主人公の苗字が同じ永見だからってだけなんですけど^^;でも、同じ苗字でテナーとアルト
の違いがあるとはいえ、サックス吹きという共通点もあるのだから、あの永見の何らかの
係累であることは間違いないと思うのですけどね。
ただ、作品中でそのことに触れる描写は一切ありませんでした。まだ一巻なんで、今後
出て来ると思いたいところですが。あとがきでも両シリーズの関連性については全く
触れられていないので、敢えて隠しているのか、おいおい出て来るから別に触れる必要が
ないと思ったのか、その辺はよくわからないですけれども。

内容としては、音楽+青春小説+ちょっとした謎解き+ファンタジー。なんか、めちゃくちゃ
ジャンルミックスですね^^;でも、あとがきでは、田中さんがこの作品で一番書きたいのは
音楽小説だとおっしゃってます。その通り、音楽に疎い人間にはちょっとピンとこない音楽
用語なんかもバンバン出て来ます。だからって読みにくいとかは一切なく、とても読みやすいし
入りやすい。ただ、典子が音楽的なことで挫折する場面では、実際の音がどんななのか想像
出来ない分、理解しにくいところもあるのですが。

あと、青春小説として見た場合も、同じ吹奏楽部の仲間たちや顧問のキャラ造形に問題が
あって、いまいち爽やかさに欠けるところがありました。典子に対して、悪意のある態度や
言葉が多いので、読んでてイライラムカムカしたり、嫌な気持ちになることが多かったです。
典子自身の態度にも問題がある場合が多いんですけどね。人間誰しも嫌な部分を持ってる
っていうのはわかるんですが、友だち相手にそんな嫌な言葉を投げつけなくても、と思って
しまう場面が結構あったんで。それに、生徒の方はまだしも、吹奏楽部顧問のボンパ(高垣)
の性格はほんとに指導者としてどうなの、と思ってしまうくらい酷い。人格破綻者としか
思えなかったです。『出来なかったら殺す』とか、冗談だって先生が生徒に言っていい言葉じゃ
ないですよ・・・。生徒に八つ当たりは当たり前だし。自分の体裁の為だけにライバル校に
勝ちたいってのがありありとわかるし。こんな顧問で良く生徒の親から苦情が来ないよね・・・。
出て来る登場人物がみんなクセのある性格ばかりで、まともな人間がほとんどいないってのは
どうなんだ^^;典子の母親も問題アリな感じですし。まぁ、典子に過保護なのは理由が
あるみたいなんで、その辺りは今後の展開を見守るしかないわけですが。

唯一気に入ったキャラは、管狐のチコですかね。性格悪いといえば、悪いですけど^^;
でも、見た目がちっちゃい狐で可愛らしいので、許す(笑)。その存在はかなり謎めいてますが。
永見家は代々管狐憑きって言われてもねぇ。
父親の死の真相も謎ですし、謎は結構たくさん残されているので、その辺りの解明と、典子の
音楽を通しての成長を今後も楽しみにしていたいと思います。