ミステリ読書録

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坂木司/「大きな音が聞こえるか」/角川書店刊

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坂木司さんの「大きな音が聞こえるか」。

高1の泳はなりたいタイプの大人がいないのが悩みだが、サーフィンをしている間だけは全て忘れ
られる。終わらない波・ポロロッカの存在を知りアマゾン行きを決意する……。泳の成長を鮮やかに
描き出す青春大河小説!(紹介文抜粋)


坂木さんの最新作。図書館の新刊案内で見かけて、初めて出ていたのを知りました^^;それほど
予約が入ってなかったので、結構すぐ回って来て良かった。『和菓子のアン』で人気が出た割に、
予約者が少なかったのが意外だったのですが。

さて、本書。今までの坂木作品といろんな意味で違ったタイプの作品でした。まずページ数が
多い!坂木作品って、多くてもせいぜい300ページ行くか行かないかくらいの作品がほとんど
だったと思うんですが、これはなんと倍の600ページ超え。手に取って、『これ、ほんとに
坂木さんの作品?』と疑いたくなったほど、結構な厚みがあってビックリしました。内容がまた、
今までの坂木作品とはちょっと雰囲気が違っていたので、慣れるまではちょっと戸惑いながら
読んでる感じでした。なんせ、主人公がサーフィン少年。出だしの方はまんまサーフィン中心
の描写が続くので、あんまりサーフィンに興味のない私にはイマイチ乗れなかったんですよね。
ただ、主人公がアマゾンに行く為にバイトを始めた辺りから、坂木さんお得意のお仕事小説風に
変わって、俄然面白くなって行きました。そして、いざアマゾンに行ってからのロードノベル
部分がまたぐいぐい読ませる面白さ。ただ漠然と毎日を生きていた少年が、バイトや海外での
生活を通してぐんぐん成長して行く様が鮮やかに描かれていて、とても気持ちよく読み終え
られました。ブラジルのホームステイ先での女の子との一夜や、殺人事件に遭遇した時のこと
など、今までの坂木作品ではありえなかったエピソードなども盛り込まれていて、かなり
面食らわされるところも多かったです。ちょっとやりすぎかな?と思えるところもありましたが、
主人公・泳の成長の為には多少過激な描写も必要だったのかな、と思いました。

泳の親友・二階堂を始め、泳がいろんなバイト先で出会う人々、アマゾンでのホームステイ先で
出会った家族、ポロロッカを一緒に経験した船の仲間たち、そして泳の叔父である剛など、
脇役も個性的でいいキャラばかりでした。

ポロロッカという大きな目標を持ったことで、泳は本当にものすごい勢いで成長したと思います。
たったの数カ月だけど、多分泳の人生の中で最も濃密な数カ月。少年時代に、こういう経験が
出来るというのは、本当に羨ましいことです。
ただ、泳の両親が感じる寂しさもすごくよくわかりますね。私には子供はいないけど、もし、
自分の子供が泳のように短期間で大人になってしまったら、やっぱりすごく寂しく感じると思う。
子供はいつか親元を離れるもの、というのが頭ではわかっていても、親は子供がいくつになったって
親のままなんですから(意味不明?^^;)。
でも、その反面、泳のような子供を持てたことを誇りにも思うでしょうね。なんせ、ポロロッカ
という、とんでもない大きな波に、たった一人で立ち向かって、やり遂げたのですから。

旅っていうのは、本当に人を成長させるものなんですねぇ。もちろん、仕事をして賃金を得ること
も大事ですけれど。高校生の泳は、その両方を一度期に経験したのだから、物語の冒頭と最後
では、全く違う顔つきに変わっているのでしょう。もちろん、ブラジルでミウ『あること』
体験したことも大きいでしょうけどね(まぁ、個人的にはその場の勢いでこういう流れになる
のは反対ですが・・・今のこの世代の子には当たり前のことなのかもしれなくてもね(苦笑))。


今までの坂木作品とは全く雰囲気が違いますが、高校生の冒険と成長を描いた青春小説として、
とても読み応えのある一冊でした。YA世代の青少年たちにも読んで何かを感じて欲しい作品ですね。