ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

今野敏「隠蔽捜査10 一夜」(新潮社)

シリーズ第10弾。神奈川県警刑事部長になった竜崎の元に、有名な純文学系の

小説家・北上輝記が誘拐されたという一報が舞い込んで来た。小説を読まない

竜崎は知らなかったが、県警本部長の佐藤はファンだという。佐藤から、何として

でも北上を無事に保護するように発破をかけられた竜崎だったが、犯人からの

要求が何もないまま時間だけが過ぎて行く。そんな中、北上と知り合いだという

梅林というミステリー作家が県警にやってきた。北上誘拐の情報が世間に知られて

いないにも関わらず、なぜか北上が誘拐されたことを言い当て、推理したと嘯くの

だが――。

今回は誘拐事件。いまひとつ緊迫感のない誘拐事件だなぁと思いながら読んで

いて、多分その理由はアレだからだろうな~と想像していたら、その通りの

展開でした。竜崎も感じていたいくつもの違和感から、なぜその想像が浮かばない

のか、そっちの方が疑問でしたねぇ。もうひとつの事件との関わりも、まぁ、

多分そういうことだろうな、と思っていた通りの真相でしたしね。ま、このシリーズ

に意外性とか求めてないんで、そこはそんなに不満でもないんですけど、それに

しても、展開がスロー過ぎないか、とは思いましたね。警察、これで大丈夫?

と心配になりました^^;素人の梅林に捜査情報漏らしちゃうし。竜崎が関わって

いるのだから、もう少しスピーディに事件解決できそうなものですけどね。

ただ、そのミステリー作家の梅林と竜崎の関係は良かったですね。他人に興味の

ない竜崎が、珍しく友情めいたものを感じていそうだったし。梅林ファンの伊丹

が、彼に会えるよう便宜を図ってあげたりもしているし。仕事に対する姿勢とか信念

信条とかに対するブレなさは相変わらずだけど、今回は全体的に性格が丸くなった

ように感じましたね。それは、伊丹に対する態度にも感じたのですけれど。なんだ

かんだで、竜崎も伊丹のこと好きですよね(笑)。今回一番びっくりしたのは、

竜崎が警察官になったきっかけのエピソード。えぇぇーーー!!そんな理由だった

の!?って思いました。まぁ、確かに竜崎って、昔伊丹にいじめられたこと未だに

根にもってましたもんね。でも、そこまで伊丹のことを意識していたとは思わな

かったんで。でも、本書のラスト読んで、やっぱり竜崎も、伊丹のこと好きなんだな

(今まで、伊丹が竜崎のことが大好きなのは幾度となく感じさせられて来たけれど)、

と再認識させられました。ラスト、刑事部長同士が人気作家を挟んでわちゃわちゃ

やってる所想像すると・・・も、萌える。そのシーンまで書いてほしかったーー。

梅林との友情は、今後も続いて行くといいなーと思いました。

梅林のおかげで、邦彦の大学の件も一件落着して良かったです。しかし、ほんと

問題ばっかり起こす息子だなぁ。せっかく東大まで入ったのにさ。それでなくても、

邦彦のせいで竜崎の出世も遅れたのに。もうちょっと、自分の立場を考えなさいよ、

と言ってやりたくなりました。竜崎も、なんだかんだで息子には甘いよね(呆)。

 

東川篤哉「博士はオカルトを信じない」(ポプラ社)

東川さん最新作。今回は、両親が探偵業をやっているオカルト好きの中学生男子と、

寂れた廃工場に住む、自称天才発明家のふたりが、オカルトまがいの事件に挑む

連作ミステリー。相変わらず、キャラも設定もゆるゆる(笑)。ツッコミ所満載

ですが、いいのいいの、これが東川さんだからッ(ファンの贔屓目爆発発言)。

でも、謎解き部分はしっかり本格テイスト入ってますし、ミステリーとしての

体裁は整っているので!!オカルトを信じる中学生男子・丘晴人が体験した

不可思議な現象を、オカルトなど一ミリも信じていない謎の天才(自称w)博士・

暁ヒカルが持ち前のひらめき力と推理力で解き明かす、というのが大まかなあらすじ。

一話目の、狐憑きの女性の口からおばあさんの声が聞こえて来るトリック、三話目

幽体離脱のトリック、四話目の、誰もいない所から『うらめしや~』の声が聞こえ、

突然ガラスが割れた真相は、それぞれに感心させられました。二話目の赤いワンピース

の女性のトリックもなるほど、とは思ったのだけど、アレを縦にして人を映した

ところで、実際の人と見間違えるものかな?と若干半信半疑な印象がありました。

まぁ、人の思い込みをうまく利用したトリックとも云えるのかもしれませんが・・・。

あと、五話目の、アレのスタンプも、絶対不自然になるんじゃない?ってツッコミ

たくなってしまった。そもそも、このラスト一話に関しては、基本設定の筈の、

オカルト的な要素が全くないってところもね。シリーズとして破綻してるよね。

東川さん、オカルト要素を考えるのが五話目にして面倒になっちゃったのかな

(苦笑)。できれば、そこの部分は拘っててほしかったですけどね・・・(タイトル

がアレだしさ)。

『ひらめき研究所』所長(といっても、所員は一人だけだけどw)のヒカルさんの

キャラは、東川さんの作品にも今まであまりいなかったタイプの女性キャラって

感じがする。男性でこういうタイプはいそうだけど・・・(誰とは思い浮かば

ないけれど^^;)。天才的な発明家という触れ込みの割に、発明品はポンコツ

ばかりだし、晴人が『ヒカルさん』と呼ぶと不機嫌になって、『博士と呼べ』と

強要するという、なかなかに面倒な性格。でも、なんだかんだで晴人が持ち込む

謎をちゃんと解いてくれるので、基本的には良い人なのかな。しかも、手柄は

全部晴人の探偵事務所になってる訳だし(本人、そこは特に拘りがないもよう)。

まぁ、ある意味、ほんとに天才肌なのかもね。謎解きの才能は間違いなくある

訳ですしね。ちょいちょい入る、晴人のツッコミが面白かったです。なかなか

良いコンビなんじゃないかと。

いつもの如くに、ゆるゆるな空気で楽しめました。

大倉崇裕「犬は知っている」(双葉社)

大倉さんの最新作。警察病院で患者の苦痛や恐怖を和らげるために常駐するファシリ

ティドッグのピーボ。普段は小児科病棟で子供たちを癒やしているが、実はピーボ

には裏の任務があった。それは、特別病棟に入院している瀕死の受刑者たちの

元へ行き、彼らが関わった事件に関する重要な情報を引き出すこと。普段は頑なに

口を閉ざしている彼らも、なぜかピーボを前にすると心を癒やされ、口を開いて

しまうのだ。ピーボとバディを組むのは、ある理由で窓際職に追いやられた笠門

巡査部長。笠門は、ピーボが受刑者たちから引き出した情報を元に、事件の捜査

を開始する――。

警察犬とはまた違った職務に就いている、ファシリティドッグのピーボが活躍する

警察小説。ゴールデンレトリバーのピーボは、そこにいるだけで、その場にいる

人々の心を癒やし、頑なな心を溶かしてしまう。なぜか、凶悪な受刑者たちも、

ピーボを前にすると心を許し、口が軽くなってしまう。なんとも不思議な魅力を

持つ犬です。ほんとに、ピーボの賢さには何度も驚かされました。ピーボの

ハンドラー、笠門巡査部長とのコンビもいいですね。笠門は、ピーボがいないと

てんで使い物にならないへっぽこ警官って感じの設定ではあるのですが、なんだ

かんだで最終的にはピーボがもたらしてくれた情報を元に事件を解決してしまう

のだから、実は結構切れ者なんじゃないかと思うな。お互いに信頼関係が結ばれて

いるのがわかって、微笑ましかった。

凶悪な受刑者たちと対峙しなきゃならない時は、かなりピーボにとってもストレス

がかかりそうなのが少し気がかりでしたが。それでも、毅然と職務を遂行しようと

するピーボが健気で頼もしかったです。

ミステリ的にはさほど瞠目するようなところはなかったのですが、とにかく癒やし

のわんこ、ピーボが可愛いので、それだけで十分楽しめました。

作中で警視庁の総務部動植物管理係のこともちらっと触れられているので、もしか

したら薄ちゃんも登場するかな?とちょこっと期待したのだけれど、残念ながら

出て来なかったですね。大倉さんの警察ものは、大抵繋がっているから、今後

どっかで登場するかもしれませんけどね。

今回出て来た、資料編纂室の五十嵐いずみ巡査もなかなか良いキャラでした。

笠門巡査部長とのやり取りは結構好きでしたね。

最初、犬の名前、ピーポだと思って読んでたら、ピーボでした。まぁ、そもそも

その由来も、始めはピーポだったけど、小児科のこどもたちが呼びにくそうに

していたから、ピーボになったそうな。子供だと、ピーボの方が呼びやすいん

ですかねぇ。ピーポの方が読みやすい感じもするけれど、どうなんだろ。

ま、ピーポだと、完全にピーポくんを彷彿とさせちゃいますけどね。

私もピーボに癒やしてほしい~って思いました(笑)。

 

凪良ゆう「星を編む」(講談社)

2023年本屋大賞受賞作『汝、星のごとく』の続編。人気ありすぎて、回って

来るのに時間かかりましたねぇ。ようやっと読めました。今年の本屋大賞にも

ノミネートされているので、結果が出る前に読めて良かった~(発表は明日かな?

ギリギリだった^^;;)。

続編と紹介しましたが、三作が収録されていて、純粋な続編はラストの一作だけで、

他二作はスピンオフ的な作品です。

 

以下、若干、内容に触れたネタバレ的な感想が入っております。

未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

 

一話目の『春に翔ぶ』は、北原先生の過去のお話。彼がなぜ、血の繋がらない

結ちゃんという子供を育てることになったのか、その理由が明らかになります。

いやもう、北原先生、良い人過ぎんか!?暁海に対してもそうだったけど、昔

から真面目でお人好しなところは変わってなかったんですねぇ。彼の菜々に対する

教師としては少し逸脱し過ぎな言動には、何度もヒヤヒヤさせられました。どこで

誰に見られているかわからないですからね・・・時代設定がいつなのかいまいち

はっきりしないけど、少し前の時代だとしても、ね。教師と生徒ですからね・・・。

菜々の妊娠を知らされた敦くんの態度には腹が立って仕方なかったです。まぁ、

彼の立場を考えると、仕方がないのかもしれませんが・・・。結構ありがちな展開

ではありますけど、やっぱりそこに少しくらいは誠実さがあってほしかったです。

彼女のそばに、北原先生がいたことが、せめてもの救いでしたね。先生にとっては、

背負わなくてもいいものを背負ってしまった訳ですが。でも、その後の結ちゃんとの

関係なんかを考えると、あの選択はきっと人として間違ってなかったんでしょうね。

本編の時にはわからなかった、北原先生の人となりや苦悩が知れて良かったです。

二話目の『星を編む』は、櫂の小説に携わった柊光社の編集者・植木と、薫風館の

編集者・二階堂、二人の物語。二人とも編集長に昇進しています。櫂が亡くなった

翌年のお話。それぞれに、櫂の小説を出す為にたくさんの障害と戦って、傷ついて、

それでも、彼の才能を疑わずに邁進した同士。二人には、『共闘』という言葉が

似合うと思う。男女の枠を超えて、同じ勝利を掴む為に協力し合って、励まし合って、

『櫂の本を売る』という目的の為に戦う同志。少しだけ、男女の感情が垣間見えた

瞬間もあったけど、結局深い仲にはならずに、その感情には目を瞑ってやり過ごした

ところが、大人だなぁと思いました。ま、お互いに家庭もあるし、踏み込んじゃ

いけないのは間違いないですしね。そこで足を踏み外さないところが、二人の

いいところなんじゃないかな、と思いましたね。安易に不倫に走るような人間に、

櫂の本を作って欲しくはないですもの。って、二階堂さんはかつて不倫したひと

なんだったっけ(しーん)。二階堂さんの旦那さんの言動は、なんだか怖かった。

ちょっとサイコパスっぽい雰囲気ありますよね、この人。誠実そうに見えて、

全然誠実じゃないことやってるし。まぁ、子供を作ることに関する二階堂さんの

旦那さんへの応答もひどかったですが。こんな表面だけ取り繕ったような歪な関係は、

やっぱりいつか破綻する運命だったとしか思えなかったですね。どっちもどっちだと

思いました。

三話目の『波を渡る』は、『汝、星のごとく』の後日譚。暁海と北原先生のその後の

生活が、年を追って描かれます。相互に助け合う為に結婚したふたりの関係が、

その後どう変化していくのか。少しづつ時が進むごとに、その想いも形も変わって

行く。その様子が丁寧に描かれていて、良かったですね。何度か離婚話も勃発

するけど、それも乗り越えて。二人の関係は、複雑に思えて、実はすごーく単純

にも思えました。ただ、本人たちが認めてなかった(気づいてなかった?)だけで、

もうずっと、胸の底にあるのは愛だったんじゃないかなって思う。もちろん、

最初はそうじゃなかっただろうけど。暁海は櫂のこともありましたからね。でも、

激しかった櫂への愛とは全く別の形で、暁海は北原先生のことを愛し始めていたのでは

ないかな。北原先生の方は、もしかしたら、最初の方からその感情があったのかも。

晩年の二人の関係は、もう、完全に理想の夫婦って感じでしたね。始まりは歪な

関係だったかもしれないけれど、長い年月を経て、いろいろな経験をして、ゆっくりと

穏やかでお互いを思い合える関係になっていったんだと思う。

二人であちこちに旅行に行って、楽しそうにしている姿が微笑ましかったです。

ほんと、一緒にご飯を食べて、おいしいねって言い合える人がいるのって幸せな

ことだと思う。もう、それだけで、十分なんだよね。周囲の人のわだかまり

解けていて、穏やかな凪のような老後を過ごしている二人が、とても幸せそうで、

私も嬉しかったです。二人とも、いろいろあったものね。最後くらい、静かに

穏やかに暮らしたっていいんじゃないかな。

 

暁海でも北原先生でもない主人公を据えた二話目のタイトルが表題作になっている

ことに違和感を覚えてしまうけど、『汝~』についている『星』がこちら

にもついているから、それを受けてこれにしたのかなぁ。内容的には、一話目と

三話目のどちらかが表題作になるべきって気もするんだけどもね。

『汝~』と対になるような装丁も素敵でした。『汝~』の内容が補完されるような

作品なので、二作併せて、読んで頂きたい傑作だと思いました。

 

 

 

ほしおさなえ「言葉の園のお菓子番 復活祭の卵」(だいわ文庫)

シリーズ第四弾。亡き祖母が通っていた連句会『ひとつばたご』に、祖母の代わりに

月に一度お菓子番として通う傍ら、ブックカフェで働き始めた一葉。歌人の久子

さんと小説家の柚子さんによるトークイベントが好評を博し、今度は短歌の書き方

指南のイベントを開くことになった。しかも、そのイベントの企画を一葉が任される

ことに。責任ある仕事に尻込みする一葉だったが、前へ進む為にも引き受けることに。

そんな中、一葉は、『ひとつばたご』主催者の航人さんの過去にまつわる情報を

柚子さんから打ち明けられて――。

今回は、いつものように『ひとつばたご』で参加者たちが連句を作る様子も描き

つつ、一葉が手掛ける短歌のイベントの様子も追って行く形。連句も短歌も、

どちらにしても才能がないと作れないし、ひらめきと言葉選びの大事さを感じ

ました。ひらめきも語彙力もない私には到底無理だーーーと思いました^^;

特に連句は、何人かで句を出し合って創って(巻いて)行くものだから、いろんな

人の感性が重なって、思わぬ着地点になったりして、とても面白いです。誰の句を

採用するかによっても、全然方向性が違うものになって行ったり。奥が深いなぁと

思いますね。誰の句を採用するか決める『捌き』担当の人の感性も大事かな、と

思いました。

出来上がった連句を通して読むと、句の連なりというよりは、物語性のある詩を

読んでいるような印象を受けたりもします。ひとりひとり全然違った雰囲気の句

だったりするのに、通して読むとしっかり繋がりを感じられるというのも興味深い。

人と人とが縁によって繋がって行くように、連句も言葉によって人と人とを繋げて

くれるもののように感じられて、素敵な文学ツールだなぁと思いますね。

今回、一葉たちの『ひとつばたご』が参加した、連句の大会というのも面白そう

でした。でも、制限時間内があると焦っちゃいそうだと思いましたけどね^^;

今回、明らかになった『ひとつばたご』主催の航人さんの過去。彼の離婚には

こういう理由があったのですね・・・。少しの行き違いで、ああいう結末を

迎えてしまったことが悲しかったです。まぁ、少しづつ、歯車が合わなくなって

行ってたんでしょうけども。でも、完全に奥さんに非があるような・・・。お互い

に思ってることを何でも言い合える関係だったら、きっとああいう風にはなって

なかったんでしょうね。なんだか、やりきれないな、と思いました。でも、今回

再会してお互いの近況がわかったことで、少しわだかまりが解けたなら良かった

かな。

一葉も、ブックカフェでの仕事に慣れて、少しづつ責任ある仕事も任されるように

なって、成長しているな、と感じます。一葉が創る句も素敵なものが多いです。

才能あるんじゃないかなー。やっぱり、実体験から創られる句は説得力があって

いいですね。こういう才能が私にもほしい・・・(創作能力の才能ゼロ人間)。

毎度ながら、出て来るお菓子も美味しそうでした。

 

 

藤崎翔「三十年後の俺」(光文社文庫)

元お笑い芸人の藤崎さんの文庫新刊。新刊なのは間違いないけれど、単行本が

文庫化されたもののようで、単行本時はこちらも作中の「『比例区は「悪魔」と

書くのだ、人間ども』」の方がタイトルだったらしい。長ったらしいタイトルだし

内容がわかりにくいから、最後の方に収録されてるこっち(「三十年後の俺」)

の方をタイトルに変えたのかな。確かに、こっちの方がすっきりしていて良い

ような気がするな。

短編とショートショートが交互に六作づつ収録されていて、全部で十二編。

なかなかバラエティに富んだ作品ばかりで、楽しめました。かなりぶっ飛んだ

設定のものも多くて、さすが元お笑い芸人だなぁって思いましたね。これだけの

ネタがよく思いつくものだ。今の時代に合った題材を意外な視点で取り上げて

いたりして、盲点を突かれたって作品も多かった。

 

では、各作品の感想を。

『日本今ばなし 金の斧 銀の斧』

あの有名な昔話の『金の斧 銀の斧』を現代に持ってきたらどうなるか。神様の

話を誰も信じてくれないせいで、神様なのに散々な目に遭っちゃうところが、

哀れになりつつ可笑しかった。

 

 『ショートショート 貴様』

『貴様』という言葉が、昔と今とでは違った使い方をしているところから発展

させた作品。さすがに、こんな言葉遣いが敬語になる未来にはなってほしくない

です・・・。

 

『一気にドーン』

アンチエイジングで名を馳せる、美のカリスマ・香奈子。55歳の年齢をまったく

感じさせない美しさで巨万の富を得た。しかし、ある日突然一気に老けがやって

来て――。

いや、怖いわ。一晩で一気に老けるとか。そのせいでさんざんな目に遭ってしまう。

誰も自分があの美容のカリスマだと信じてくれない。ああいう状況になると、

巨万の富も何の役にも立たなくなるんですね。人間不信になりそうだ^^;

 

 ショートショート マッチングサイト』

なんでもマッチングサイトに頼って生きて来た僕。それで順風満帆の人生だと

思ったが、結婚して父親になった時の『父親像マッチングサイト』の結果が原因で、

人生が崩れて行く――。

マッチングサイトの大渋滞(笑)。自分の人生は自分で切り開くのが一番なんで

しょうね。

 

『伝説のピッチャー』

甲子園の伝説のピッチャーと言われて、鳴り物入りでプロ入りをした俺だったが、

その後はさっぱり活躍できず、年々年俸を減らされている。挙句の果てに、ギャンブル

に手を出し、巨額の借金を抱え、ヤクザに脅される羽目に。ある日、ヤクザから

今度の試合で八百長をしろと命じられるのだが――。

賭博なんかに手を出すからこんなことになる訳で。最後、起死回生の変化球が生まれた

のに、皮肉な結末に。でも、最後にあんな球が投げられて、野球選手としては本望

だったのでは。

 

 『ショートショート シンデレラ・アップデート』

あの名作童話の『シンデレラ』をここまでぶっ飛んだ作品にしちゃうとは^^;

でも、確かに、王子が靴のサイズだけでシンデレラを捜し当てたのは間違い

ないですよね。顔覚えてなかったって部分は盲点だったかも。こっちの、革命

起こしちゃうシンデレラ、かっこよくて好きかも(笑)。

 

『心霊昨今』

空襲で死んだ俺は、七十五年経つ今も、恨みを持って成仏できずに現世にいる。

現代の人間たちは、死者への恐れと敬意が欠けている。俺は、なんとしても、

こいつらに幽霊への恐怖を植え付けてやりたいのだ――。

主人公が、なんとかかんとか現代人に恐怖を与えようと四苦八苦するところが

健気でもあり、滑稽でもありました。確かに、心霊番組とか今はほとんどなくなり

ましたもんねぇ。なんだかんだで人が良い主人公には好感持てましたね。生まれ

変わった来世では幸せになってほしいですね。

 

 ショートショート 未来の芸能界』

ちょっとした不祥事で謝罪会見を行わなければいけなくなった今を皮肉った作品。

コンプライアンスが叫ばれる今のご時世を考えると、未来の芸能界は本当にこんな

風になっているかも・・・。

 

比例区は「悪魔」と書くのだ、人間ども』

悪魔の恰好で選挙に立候補した、イロモノ候補のサタン橋爪。しかし、YouTube

を使った生配信が若者たちの心を掴み、なぜか当選してしまう。そして、橋爪

率いる『悪魔党』は、少しづつ支持率を上げて行き、ついに橋爪が内閣総理大臣

になる日がやって来る。そして、世界が橋爪の『悪魔運動』に感化されて行き――。

こういう、斬新で国民のことを考えてくれる政治家が現実にもいてくれたら・・・

とついつい読んでいて考えてしまった。このビジュアルはどうなの、とは思う

けども。ただ、最後に明かされる橋爪たちの正体には面食らわされましたが。

シュールすぎる^^;

これを単行本のタイトルに据えたのは、なかなか冒険だったんじゃないかなぁ。

インパクトはこちらの方があったかもですけどね。

 

 ショートショート 宇宙人用官能小説』

十八歳以上のメセランボ星人の為の官能小説。という訳で、地球人の私には

さっぱり意味がわからないのでした・・・ははは。

 

『三十年後の俺』

部活から帰宅して庭に自転車を停めようとしていた俺は、背後から声をかけられた。

知らないおじさんだった。しかし、どこかで見たような顔・・・すると、おじさんは、

『俺は、三十年後のお前だ』と言った。タイムスリップしてここにやって来たと

言うのだが――。

ラスト、思わぬ感動の展開に。途中からおじさんの正体にはピンときちゃう人が

多いんじゃないかな。それでも、その後の展開には胸を打たれました。ありきたり

といえば、ありきたりな内容かもしれないですが、私は好きな作品でした。

 

 ショートショート AI作』

恐ろしいのは、これが決して未来の話ではないところ。今でも十分あり得そうな

話だと思う。最後、ゴミ箱に捨てられた小説の作者は・・・。

 

 

 

友井羊「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん 巡る季節のミネストローネ」(宝島社文庫)

シリーズ第8弾。もう8巻なんですね~。そして、8冊目にして、ついに主人公

の理恵さんが、スープ屋しずくの店主・麻野さんに告白しました。長かった

ですねぇ・・・。しかし、冒頭・プロローグの時点で告白した理恵さんでしたが、

『少し時間がほしい』と言われてしまい、お預け状態でその後、通常の物語が

始まります。麻野さんも罪なことするなぁと思いましたが、やはり亡き妻の静句

さんのことも、露ちゃんのこともあるしなぁ、仕方ないかもね、と納得していた

訳なのでしたが・・・。でも、ここまで作品読んで来て、麻野さんは確実に理恵

さんに惹かれていると思ってたので、ちょっと腑に落ちない気持ちはありました

・・・が。

やー、こういうことでしたかー。ぜんっぜん気づいてなかったです。この仕掛けに。

まぁ、確かに、オリーブの苗木の成長に関しては、ちょっと変だなぁとは思って

たんですけどね。

一話ごとに季節が変わり、それによって出て来るミネストローネの種類も変わって

行くという演出に、すっかり騙されてました。しかし、ミネストローネだけでも、

こんなにいろんな種類が作れるとは驚きです。普通に、トマト味のミネストローネ

しか食べたことないし、作ったこともなかったので。山菜を使った和風のもの、

夏にぴったりな冷製のもの、秋野菜を使った黄色いもの、冬野菜を使った緑色の

もの・・・と、四季に合わせて、どの季節でもミネストローネが楽しめるように

考えられているところが、麻野さんの素晴らしいところだな、と思いました。

まぁ、トマト使わなくても、野菜を入れて煮込めばミネストローネって言えるって

ことなのかな?黄色の時は黄色いトマトを使ったと言ってましたけれどね。

どれも美味しそうでした。

しかし、理恵さんのように、朝ごはんであれだけ頻繁に外食するのは、私には到底

無理だなぁ。値段設定どうなってるかわからないけど、多分千円前後はしますよね。

パン食べ放題とかもついてる訳だし。その分、ランチで節約してるとかなのかな。

まぁ、会社員でそれなりに収入あるから出来るんでしょうけどね。

ラストの一話は、かなり不穏なお話。静句さんの過去の出来事が描かれます。

静句さんが、懇意にしていた女子中学生に乱暴を働いたのはなぜなのか。その

真相には驚かされました。こんなモノを当時の女子中学生が持っていたとは・・・

恐ろしすぎる。昔の昆虫標本キットって、本当にこんなものが使われていたので

しょうか・・・そうだとすると、怖すぎる。昆虫標本って子供の頃に流行った覚え

があるけどね。まぁ、その頃はもう違うものになってたんでしょうけどもね。

理恵さんの、静句さんに対する強い想いに胸を打たれました。本来なら永遠に

適わないライバルの筈なんでしょうけどね。それだけ、静句さんという女性が

素晴らしい人だったということでもあるし、そのことを素直に認められる理恵さんも

とても素敵な女性だな、と思えました。

さて、本書のラストを受けて、そろそろ物語もクライマックスに近いのかな。

本書が最終巻とも書かれていないから、さすがにこれで終わりではないと思う

けど・・・。この先の二人のことも読んでみたいから、ぜひ続きをお願いしたい

ところです。