ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

有川ひろ「クロエとオオエ」(講談社)

有川さん最新作。久しぶりにああ、有川さんだ~~~!って感じの作品で、めっちゃ

楽しく読みました。お仕事小説☓恋愛って感じの作品。久しぶりにがっつり恋愛が

絡んだ有川作品読んだなーって思いましたね。これよ、これなのよ!って言いたく

なりました(笑)。視点が男性からっていうのも、新鮮といえば新鮮だったな。

タイトルから、どんな話が全然見えてなかったのだけど、純粋に、主役二人の

名前でした(笑)。

語り手は、横浜で三代続いた宝石商の御曹司、大江頼任。女性には引く手あまたの

人生を送ってきたが、大学四年の春先に、付き合っていた彼女と酷い別れ方をした

ばかりだった頼任が、悪友たちと参加した合コンで運命が変わった。そこに参加

していた一人が、大江とも付き合いのある彫金職人の娘・黒江彩だった。さっぱり

した性格の彩のことをひと目で気に入った頼任は、デートに誘い、そこでピンキー

リングをプレゼントした。しかし、リングのデザインが好みではないと突き返され

て以来、二人の関係は単なるメシ友に成り下がってしまった。しかし、頼任の

お得意様のジュエリーをたまたまクロエが担当したことをきっかけに、クロエの

才能を見込んだ客たちから、次々とオーダーを受けるように。頼任は、クロエの

才能と共に、ますます彼女に惹かれて行くのだが――。

クロエさんのツンデレキャラがいいですねぇ。もう、少女漫画の王道みたいな展開

に、キュンキュンしました(笑)。いや、表面上はなかなか二人の関係は進展しない

んですけどね。クロエさんは、本当に職人気質な性格で、なかなか恋愛感情が

出て来ないので、恋愛偏差値の低い(女には不自由しなくても、女ごころはまるで

わからないで生きて来た奴なんで)鈍ちん頼任なんか、全然彼女のちょっとした

好意アピールに気づいてなかったですし。でも、ちょいちょいドキドキするシーン

はありましたよ。クロエさん側の視点がほとんど出て来ないから、今度はそっち

サイドのお話も読んでみたいですけどね。頼任の元カノが出て来るお話の最後に

ちょこっとだけクロエ視点のパートはありましたけど。そこ、もうちょっと

深堀りして書いてほしかった~と思いましたね。クロエさんがいつから頼任のことを

男性として意識していたのか、ちょっと気になる。個人的には、結構最初の方から

だったんじゃないのかな~と思いますけどね。ピンキー渡した時から、付き合う

のは考えなくもないけど、指輪はいらないって言ってましたからね。全く守備

範囲外の人間に、そんな言い方しないでしょって。頼任、なんでそこもっと

突っ込まないのよ!?って思いましたもんね。まぁ、この時は指輪を突き返された

ショックで大事な発言も耳に入ってなかったんでしょうけどね(苦笑)。

確かに、クロエさんのデザインって、独特だな~って感じします。言葉で説明

されただけじゃ、いまいちどんなデザインかピンと来なかったんですけど、

章終わりにQRコードがついてまして、作中に出て来るジュエリーの実物が写真で

見られるようになってるんですよ。読者はそこにアクセスすれば、クロエさんの

作ったジュエリーがどんな感じなのか、実物を見ることができます。どんな感じ

か実物見てみたかったから、これは結構ありがたかった。実際にある『Moixx』

というお店(個人?)が作ってるらしい(コラボジュエリーと銘打っているけど、

売っているのかは謎)。まぁ、ちょっと面倒ではありますけども。しかも、1ページに

たくさんQRコードがついているから、画像が観たいジュエリーと違うページが開い

ちゃいがちだったし(私のスマホの問題か?)。あと、一番の問題は、写真が

インスタグラムに上がっていること。私、インスタやってないからアカウント

持ってなくて、一日に見れる写真の枚数が限定されるみたいで。一日5~6枚

くらいしか見れなくて、何日かかけて見てました(苦笑)。別に実物どうでも

いいって人も、章終わりにジュエリーのイラストが描かれているので、それで

イメージは出来ると思いますが。

クロエさんのジュエリーは、確かに一般にジュエリーショップで売っているもの

とは違って、大分個性的。オーダーメイドで一点ものが多いから、個性を求める

人にはいいのかも。ただ、私の好みとはちょっとズレていて、自分だったら

買わないだろうな~ってものが多かったな。合わせる洋服持ってないわ^^;

付かず離れずの二人にやきもきしましたが、そこは有川さん。最後はもう、特大

ハッピーな結末で、にやにやしっぱなしでした。ただね~、最終話で頼任があげた

ジュエリーに関しては、さすがに頼任が可哀想になりましたね。そこは頼任に

花持たせてあげても・・・と思わなくもなかったな。いや、そこは頼任も、クロエ

さんの性格と好みをもっと考えるべきだったのか・・・最初にやらかしてるしね。

そこから何も学んでないっていう(苦笑)。

気になったのは、婚約指輪とか結婚指輪に使われる地金の候補に、全くプラチナが

出て来なかったこと。普通、そういう指輪って、ほとんどが地金はプラチナ使う

ものだと思ってたんで。客側も、プラチナを候補にあげないのが不思議で。クロエ

さんが金主体で作ってるからなんだろうけど・・・結婚指輪でK10とか、あんまり

ないのでは。まぁ、本人たちがいいならそれでいいんだけどさ。

知らない宝石の名前がいっぱい出て来て、世の中にはこんなにいろんな宝石が

あるんだな~と思いましたね。一般的な宝石の名前位しか知らないからさ~。

宝石の世界は奥が深い。実は個人的には、そんなにジュエリーが好きって訳でも

ないのですが。独身の時はピアス集めるの好きでしたけども(安いやつね)。

宝飾品は、結婚指輪とピアスくらいしか普段つけないです。ジュエリーショップ

なんて、結婚10周年の時、スイートテンダイヤモンド~!ってしつこく叫んで

(宝石屋に踊らされるw)、折れた相方にダイヤのピアス買ってもらったのが最後

だな(苦笑)。

婚約指輪とか結婚指輪とか、買いに行く時は一番ワクワクしましたけどね。まぁ、

女性ですから、ジュエリーつけると、やっぱりテンション上がるっていうのは

ありますけどね。

新天地でこれからどんどん忙しくなりそうな二人ですが、うまくいくといいなと

思いました。

ちなみに、こんな栞がついていたようで、図書館本にも挟まっていました。

出て来るクロエさんのジュエリーが描かれています。石主体のジュエリーって

感じですよね~。

万城目学「あの子とO」(新潮社)

『あの子とQ』の続編。ちょっと細かい部分を忘れてしまっていたので、自分の

記事読み返してみたりしました。そうそう、現代版ヴァンパイアもので、のほほん

とした作品だと思っていたら、終盤でトンデモナイ展開になったんだった、と

思いだしました。主人公の弓子がバス事故に遭ったんでしたね。続編があるなら、

Qと再会出来るといいな、と思ってたんですが・・・Qは出て来なかった^^;

ちょっと残念。ただ、再会への伏線めいたものは感じたので・・・更なる続編が

期待できそうな終わり方ではありました。

三作の中編が収録されています。一作目は、弓子と友だちのヨッちゃんと、二人が

スカウトした新聞部のスサミンこと須佐見、三人一組で、高校生クイズ&ゲーム

大会に出場するお話。ヨッちゃんがどうしてもこの大会に出たかった理由は、

大会優勝者に送られるペアのディズニーチケットで、恋人とディズニーに行きたい

と思ったから。弓子がヨッちゃんの為に終盤吸血鬼パワーを使ってライバルに

打ち勝つシーンが胸熱でした(若干ズルいと思わなくもないが)。前作では片想い

だったヨッちゃん、両想いになれて良かったですね。

二作目は、カウンセラーの菰田の元にやってきた相談者が、毎年三月になると

見る悪夢について語る話。相談者は前作で出て来た佐久でした・・・って、

すっかり忘れてました。でも、なんか名前は覚えがあったんですよね。佐久が

どうしてヴァンパイアになったのか、その過程が明らかになります。なかなか壮絶

な過去があったんだなぁ。長崎の出島の頃からだとは(絶句)。Qはここでちらっと

出て来ましたね。当時の佐久の隣人の惣右衛門の最後に息を呑みました(奥さんも)。

夫婦共にいい人だっただけに、やりきれない終わり方だった。

三作目は、弓子のお仲間で双子の小学生ヴァンパイア、ルキアとラキアの物語。

双子の父親が経営するピッツェリアに、カナダ出身のオーエンさんというピザ

職人が助っ人にやってきた。双子はすぐにオーエンさんに懐き、ある目的の為に

三人でキャンプに行くことになるのだが――。

オーエンさんの正体にはビックリ。物語が怪物くん(©藤子不二雄)めいてきた

なぁ^^;オーエンさんと双子の関係が良かっただけに、最後はちょっと切なかった

ですね。いつかまた再会出来る日が来るといいですけどね。

 

大きな物語の前の、ちょっとした伏線って感じの作品集だったな。次の巻出る頃

にはもう、すっかり内容忘れてそうだ・・・(しーん)。

次は弓子とQの再会が読めるかな。

 

 

宮島未奈「それいけ!平安部」(小学館)

宮島さん最新作。成瀬シリーズとはまた違った読み心地の青春小説でしたね。

県立菅原高校の入学式の日、牧原栞は教室で同じクラスの平尾安以加に話しかけ

られ、一緒に平安部に入らないかと誘われる。安以加は、平安時代が好きで、

平安時代のことを学ぶ部活をこの学校で新しく作りたいのだという。栞は、正直に

言って平安時代など全く興味がなかったのだが、安以加の熱意に負けて、一緒に

平安部立ち上げに協力することに。部活昇格には5人部員を集めなければいけないと

知り、二人はスカウトできそうな人材を探し始める。あと三人、部昇格の為の

人材を見つけることが出来るのか――。

いやぁ、楽しかったですね。平安部って何だよ、と始めは戸惑いましたが、一人

づつ部員が集まって行って、毎週月曜の部活の日に部員たちが集まって、平安時代

のことを少しづつ深堀りしていく過程にワクワクしました。みんなで平等院

雲中供養菩薩像が描かれたトランプで神経衰弱やったり、歴史博物館に行って

みたり、蹴鞠の大会目指したり。最初は平安部って一体何の部活するんだろう、と

思ってましたけど、平安時代の娯楽がいろいろ出て来て、それを現代の高校生たち

が楽しそうに体験している姿が新鮮でしたね。私の平安時代のイメージというと、

なんか高貴な人たち(天上人)が優雅な暮らしをしてる雅な世界って感じ。つまり、

宮中のイメージしかないってことなんですけど。歴史とか日本史とかの教科書だと、

朝廷の人たちくらいしか出て来ないからなぁ。あとはやっぱり光源氏の世界かな

(やっぱり宮中^^;)。蹴鞠なんかも、宮中の娯楽ってイメージあるけど、市井の

人たちもやっていたのかなぁ。今まで、そんなこと考えたこともなかったけど、

安以加の平安好きについつい感化されてしまった。いろんな平安時代要素が出て来て、

少し平安時代が身近に感じられたように思いました。

文化祭で平安時代をテーマパークにした『平安パーク』を実現する為に、部員

みんながアイデアを出し合って協力し合うところも青春って感じで良かったですね。

面白いこと考えるなぁと思いました。この平安パークのアトラクション(?)の

ひとつが蹴鞠体験コーナーだった訳なのですが、これをきっかけに、部員5人で

練習し合って、蹴鞠の大会に出るところまで(しかもその結果がまたすごい)

行っちゃうところも胸熱でした。

部員たちもそれぞれに個性があってキャラが立ってましたね。平安フリークの

安以加はもちろん、絶世の美男子でモテ男の光吉幸太郎、二年生で元百人一首

の幽霊部員の明石すみれ、中学時代はサッカー部で、高校からは楽な部活に

入りたいという理由だけで入部した割に、意外と平安部の活動に積極的な大日向

大貴。主人公の栞は、のっぺりとした顔立ちで、特に特筆すべき特技などもない

自分のことを他の部員と比べて卑下していたけれど、あの安以加の平安熱について

いけるってだけで、十分奇特な性格だと思いましたね。顔は赤染衛門似だそうな

(誰だよw)。安以加を、中学時代のいじめっ子からそれとなく庇ってあげた

シーンにはぐっと来ましたしね。スクールカーストが何だ!栞ちゃん、いい子。

書道の師範である安以加のおじいちゃんのキャラも好きだったなぁ。渋くてね。

あと、個人的には大日向くんがお気に入りでした。楽な部活に入りたくて、なりゆき

で平安部に入ったけど、なんだかんだできちんと部活に真面目に取り組んでくれて、

きっちり戦力になってるし、基本真面目でいい人なんだろうな~と思いましたね。

蹴鞠大会に関しては、さすがに上手く行き過ぎだろうと思わなくもなかったけど、

それがあったから高校内で平安部の名が知られることにもなった訳なので。弱小

平安部が、少しづつみんなに認められて行くところが嬉しかったです。

この作品を通して、ほんの少し、平安の心がわかった気になりました(笑)。

あないみじ、な作品なのでした。

 

 

朝比奈あすか「温泉小説」(光文社)

はじめましての作家さんかな(多分)。もしかしたら、アンソロジーとかで短編

くらいは読んだことがあるかもしれませんが・・・(覚えてはいない^^;)。

完全にタイトル借りです。温泉大好きなんですもん。温泉にまつわるほっこり話が

読めるのかな~と期待して借りてみました。

・・・うーん、でも、ちょっと期待してたのとは違っていたかなぁ・・・。いや、

温泉は毎回出て来るんですけど、思ったほど温泉がメインではないというか。

温泉旅に行くこと自体がメインのお話も多かったような。そして、思った程には

ほっこりしたお話でもなかったという^^;なんか、オチがないようなお話も

あったし、ちょっと食い足りなかったって印象かなぁ。

作者の方は温泉ソムリエマスターの資格を持っているのだそう。だったら、もっと

温泉自体に特化したお話でも良かった気はするんだけどね。いや、ストーリー

重視にするのが悪いって言ってるわけじゃないんだけどさ。タイトルが『そのもの』

過ぎるから、温泉好きの人は期待しちゃうと思うんですよね。どっちかというと、

温泉は完全につけたしみたいな、刺し身のツマみたいな扱いだったんでね。

どっちかというと、『温泉旅行に行く自分』の小説っていうのかな~。説明ムズい。

それで十分って人もたくさんいるとは思いますけどね。朝比奈さんの小説自体が

好きな人は全然それで楽しめると思いますし。いろんな温泉地が舞台になってるのは

間違いないので。旅の種類も、ひとり旅なのは基本ですが、バス旅行だったり、

車だったり、電車だったり、飛行機だったりと、行き方もバラエティに富んで

ますしね。温泉っていうより、旅に出たくなる小説かも(『旅(行)小説』とかのが

良かったような?^^;)。旅行エンタメ小説としてはそれなりに楽しめたかな。

 

では、各作品の感想を。

『女友達の作り方』

ひとり参加限定の日帰りバスツアーに参加する女性の話。日帰りツアーで温泉に

入るって、結構時間的にハードじゃないかなぁ。私は結構長湯タイプなので、

制限時間1時間半って結構キツイな、と思いましたね。髪の毛乾かしたり肌の

手入れ(+お化粧?)するだけでも30分取られるしさ。せっかくの温泉なのに

な~と思いました。大人になってから女友だち作るのは確かに大変だよなぁと

思いましたね。私は人見知りなので、表面上で付き合うことは出来るけど、こういう

場で友だち作ろうとは思わないかな・・・。

 

『また会う日まで』

後期高齢者になり、娘や妹から免許返納をせかされる老人の話。まだまだ運転

出来ると思う主人公の気持ちもわかるけど、やっぱり娘の心配もよくわかるな、

と思いましたね。女性たちに一矢報いるつもりで、一人で車を運転して、亡き妻

との思い出の温泉に出かけることに。しかし、目的地に近づくにつれて、雪が

激しくなり――という、運転する側としてはなかなかの恐怖に襲われる展開に。

いくらタイヤを履き替えていたとしても、雪の時に運転なんて絶対やめた方が

いいですね。雪国育ちならいいかもですけどね。案の定な結末だったような^^;

 

『おやつはいつだって』

父の十七回忌を期に、父が眠る北海道に行こうと思い立つ女性の話。母親との関係も、

中高の友だちとの関係も、何かモヤモヤが残る終わり方だったなぁ。友だちが、

本当に主人公に対して悪意があったのかもよくわからなかったし。何かしらの含みは

ありそうな感じではありましたけど。母親との関係は共依存っぽかったですね。

主人公は母離れ出来てないし、母親は子離れ出来てないし。なんか不思議な母娘

関係だなって思いました。主人公に対して学生時代にいじめをしていた女性に、

母親が仕掛けた悪意にぞっとしましたね。トラピストクッキー、私も北海道旅行

した時に買って来たな。

 

『わたくしたちの境目は』

妻が亡くなって一年、息子夫婦が妻が好きだった温泉に行く旅行の計画を立てて

くれた。しかし、当日、息子が突然仕事で遅れることになり、嫁と子供と三人で

電車に乗ることに――。

ここに出て来る銀猿温泉って、本当にあるところなのかな~。これぞ秘湯!みたいな

感じでしたね。混浴ってのはちょっと・・・って感じですけど。昔の温泉って

みんなこんな感じだったんだろうなぁ。じいじと孫のしりとりリレーにほのぼの

しました。

 

『五十年と一日』

五十を過ぎて、体に肉がつき始めた照美の為を思って、娘が予約したのは断食

合宿旅行だった――。

3日間の断食!私だったら絶対無理だー・・・。でも、照美のように、だんだん

慣れて来るものなんですかね。でも、こうやって強制的に身体をリセットさせる

のは健康に良いのかも。断食合宿に温泉がついてるのはいいな~と思いましたね。

 

『島と奇跡』

結婚直前まで行っていた女性と別れ傷心の博光は、会社に島への異動を願い出て

受け入れられた。移住のためのヒアリングにやって来た博光は、この島にかつての

親友と訪れた時のことを思い出していた――。

親友と訪れた時に宿までトラックに乗せて行ってくれた工藤さんのキャラがいい

ですね。再会出来て良かったし、工藤さんの現在の職業に、かつての親友が関わって

いたことがわかったことも嬉しかったです。また、三人での交流が始まると良いな、

と思いました。別れた彼女の言動は怪しさ満載だった。絶対騙されてるでしょ、と

思ったから、別れられて良かったよ(詐欺とかではなかったみたいだけどさ)。

 

 

 

 

 

原田ひ香「月収」(中央公論新社)

原田さん新刊。原田さんのお金絡みの作品って人気あるんですよね~。いつも

読みたいと思いつつ、予約に乗り遅れちゃう。ということで、今回は比較的早めに

予約したので、思ったよりも早く読めて良かったです。

いや~、面白かったです。めっちゃ、リアル。いろいろな月収で暮らす六人の

女性たちの物語。月収が多いからって幸せとも限らず、かといって少ない月収

だといろんなところを切り詰めたりしなきゃいけなくて、それはそれで暮らしは

大変。それぞれの悲喜こもごもを身につまされながら読みました。微妙に各作品

の登場人物がリンクしていて、全体的に繋がりを感じさせる構成もお上手でしたね。

 

では、各作品の感想を。

第一話 月収 四万の女 乙部響子(66)の場合

66歳で月収四万(年金暮らし)はキツイなぁ・・・。シルバーの仕事を探すも、

いろいろと出来ない言い訳つけてやろうとしないところにはイラッとしました

けど、自分がもし同じ立場だったら、同じこと思っちゃうのかも。しかし、庭に

ミントを植えさせて欲しいと見知らぬ男から頼まれた時は、「絶対やめとけ」と

思いましたね・・・だって、ミントって、庭に植えちゃいけない植物の筆頭みたいな

やつなんですもん。鉢植えくらいならいいけどさ。

 

第二話 月収八万の女 大島成美(31)の場合

小説書きたいから、仕事辞めて四百万の家を買って、他人に貸して家賃収入で

生活する・・・自分だったら絶対やろうとは思わない方法だなぁと思いましたね。

リスクが大きすぎる・・・。しかも、買った家はリフォーム済みとはいえ築50年

超え。不動産投資は知識がないと悲惨なことになりそうで。まぁ、成美の場合は

そこそこ上手く行ったから良かったですけどね。31歳で、不動産買って不労所得

で生活出来たら、そりゃ好きなことも出来るでしょうけどね。あんまり現実的では

ないよなぁとは思いましたね。

 

第三話 月収十万を作る女 滝沢明海(29)の場合

離婚して一人で住む母親の老後のことを考えて、今の仕事の月収+10万を

稼ぎたいと考えた明海は、新NISAを始めることに。

これは結構、多くの人に刺さる話じゃないかなぁ。年老いた親の老後費用を考えて、

月収をあげなきゃ、と焦るっていうのは。明海の場合は母一人子一人だから余計に

切実だったでしょうし。でも、母親が、明海の工場勤務をバカにするのは許せ

なかったです。しかも主任という責任ある仕事を担っているのに。元夫のキャッシュ

カードで好き勝手に買い物してるくせに、お金がないと娘に無心するし(呆)。

こんな母親でも、ちゃんと老後のことを考えてあげる明海は優しい人だな、と

思いましたね。しかし、せっかくNISA始めたのに、まさかの結末で唖然としました。

まぁ、明海にとって良かったのは間違いないのですけども・・・。

 

第四話 月収百万の女 瑠璃華(26)の場合

パパ活で百万稼ぐ瑠璃華の話。デートクラブで瑠璃華に会いたいと言って来たのは、

小説家志望の鈴木菊子という女性。ただ話を聞くだけと言うのだが――。

いくら百万もらえるからって、パパ活とは・・・。手っ取り早く稼げるからいいん

でしょうけどね。せっかくの美貌を、そんなことに使うの勿体ないなぁって私なら

思っちゃうけど(余計なお世話)。菊子さんの目的を知って、やりきれない気持ち

になりました。妻がいながら、こういうモノを使う男って、一体何を考えてるの

でしょうねぇ・・・。

 

第五話 月収三百万の女 鈴木菊子(52)の場合

四話に出て来た鈴木菊子が主人公。月収三百万稼げたら悠々自適な暮らしが出来そう

だけど・・・。普通に使うのではなく、児童養護施設への寄付に使う、というのが

すごい。ノブレス・オブリージュってやつですかね。こういう聖人みたいな人が

いるから、世の中回っているのかなぁ。菊子さん、裕福な生活をしてきたと思うのに、

ちゃんとお料理も出来るところが偉いと思いました。旦那さんに作ってあげていた

のだろうなぁ。しかも、普通の家庭料理(切ない)。お金はあるけど、旦那さんに

裏切られて傷ついた菊子さんが、生きがいを見つけられて良かったと思いました。

 

最終話 月収十七万の女 斎藤静枝(22)の場合

介護士で月収十七万の静枝は、もっと収入をあげたいと思い、高齢者の『生前整理』

の仕事を始めることに。きっかけは、同僚の父親の部屋の生前整理を手伝った所、

同僚がネットにその時のビフォーアフターの映像を上げてバズったことだった。

そこからネット記事になったり、インタビューに答えたりして、仕事が入るように

なった。そこで、静枝はもっと自分の仕事を広めたいと思い、生前整理のモニター

を募集した。ビフォーアフターの写真を載せさせてもらえれば、お代は無料にする

というキャンペーンを打ったのだ。そこで応募してきたのが、乙部響子という女性

だった――。

お金を稼ぐにも、いろんな方法があるものだなぁと思いましたね。整理整頓が得意

だったら、こういう仕事もいいのでしょうけど。どちらかというと、私はやってもらい

たい方(苦笑)。一話目に出て来た乙部さんが再登場。彼女にも新たな収入源

の話が舞い込んだので、ミント収入がダメになってたからちょうど良かったのかも

(笑)。

本書に出て来る女性たちは、みんなバイタリティがあって逞しいなぁと羨ましく

なりました。私も、将来の為に、今より収入上げる方法考えないと、と思わされ

たのでした。

 

 

 

今野敏「署長サスピション」(講談社)

大森署の新署長・藍本署長シリーズ第二弾。隠蔽捜査シリーズのスピンオフに

当たるシリーズ。あちらのメインキャラクターはほとんど登場しないので、ちょっと

物足りなさはありますが、会う人をみな惹きつけてやまない藍本署長のキャラが

なかなかぶっ飛んでいるので、署長を巡る悲喜こもごもを楽しむ作品かな。署長

や、彼女を目当てにやってくる警察幹部たちに振り回される副所長・貝沼の心の叫び

やツッコミもなかなか楽しい。生真面目な性格であるが故に気苦労が絶えな

さそうで気の毒になったりもするけれど。でも、なぜか犬猿の仲の警察幹部同士の

言い合いに内心で心が躍ったりする、ちょっと不謹慎というか、意地悪な面がある

のも面白いですね。竜崎が署長の時より、ある意味生き生きしているような・・・?

(笑)

藍本署長は相変わらず掴みどころのないキャラクターですねぇ。優秀なんだか、

適当なんだかわからないところがあるというか。面倒な決断は副所長に任せようと

する傾向にあったり。貝沼のことを信頼しているからというのもあるのかもしれま

せんが。

今回は、大森署の管轄内で怪盗フェイクなる窃盗犯が出没し、次は大森署のお宝

を狙うという予告が来たことで、大森署が中心となって警備に当たるというのが

大筋。大森署の金庫には、その時、戸高が競艇で当てた万舟券で得た二千万、

詐欺の主犯から押収した三千万、麻取の黒沢が持って来た、麻薬の囮捜査で使う

見せ金の五千万、計一億が入れられていた。その情報をどこかから入手した怪盗

フェイクが、犯行声明を出して来たのだろうと思われたのだが――?

警察の金庫(しかも署長室にある)に現金がそんなに一度に入れられるなんて、

実際はありえないのだろうけれど、まぁ、そこをツッコんじゃいけない作品なの

でしょうね^^;

藍本署長、初めて会った人が気絶する程の美貌を持っているらしいけど、一体どんな

お顔なんでしょうねぇ。私も見てみたいわ~。警察幹部がこぞって用もないのに

藍本署長に会いに来て、だらだらおしゃべりしようとするし。仕事しなさいよ(笑)。

竜崎が藍本署長に初めて会った時って、どんな反応でしたっけ。何か淡々としてた

ような気もするんだけど・・・でも、竜崎も若い美女に籠絡されそうになった

過去があるからなぁ・・・(あれはショックだった)。

署長が、怪盗フェイクの存在にワクワクしているところは、不謹慎だと思いつつ、

ちょっと可愛らしかったですね。怪盗二十面相に心躍らせる小学生みたいでした。

実は、怪盗フェイクが狙ってる署長室のお宝って、もしかして藍本署長自身なの

では・・・?とか深読みしたりもしていたのだけど、それは考え過ぎでしたね^^;

怪盗フェイクの正体は結構あっさり明かされちゃったので、ちょっと拍子抜け

ではありましたね。まぁ、その後で金庫のお金がなくなっていて一騒動あるわけ

ですけど(その顛末も拍子抜けといえば拍子抜けではあったけどw)。

絶世の美貌の割に、性格はのほほんとした藍本署長のキャラクターは、ギャップが

あって面白いですね。ここまで、見る人を片っ端から虜にしてしまうというのは、

なんだかもう、ファンタジーの世界にすら思えて来ちゃうんですけどね(苦笑)。

警察小説として読むと喰い足りなさはあると思いますが、キャラ重視で気軽に

楽しめる一冊だと思います。さりげない戸高の活躍も嬉しかったです。

ちなみに、タイトルの『サスピション』は、『疑問、疑惑』とか、『うすうす気づく』

とかそういう意味だそうです。勉強になった(笑)。

 

伊坂幸太郎「パズルと天気」(PHP研究所)

伊坂さん最新作。デビュー25周年記念だそうな。振り返れば、私が伊坂さんを

知ったのは、『ラッシュライフ』からだったんですよね。調べてみると、『ラッシュ

ライフ』刊行が2002年(デビューは2000年みたい)。その年の『このミス』か

なんかで書名を見て、図書館で借りたから、だいたい22~3年くらいはファン

なのかな。時が経つのってほんと早いねぇ。そこからはほとんどリアルタイムで

新作追っかけてて、概ね好きな作品ではあるけれど、中にはいまいち合わない

なぁと思うものもあります。それでも、どんなに合わないと思った作品を読んだ後

でも、全く離れようという気にはならないのは、やっぱり伊坂さんの独特の世界観

と洒脱な文章とキャラクターを愛しているからだと思う。きっとこれからも新作出ると

聞けばテンションMAXで、嬉々として手に取るんじゃないかな。ずっと大好きです。

前作の『楽園の楽園』はいまいちハマらなかったのだけど、本書は伊坂さんらしい

作品ばかりで、楽しく読める一冊でしたね。全部の作品じゃないと思うけど、微妙

にリンクがあったりするところも良かったです(自分には見つけられなかったリンクも

あったりするかもなので、丁寧に読むことをお勧めしますw)。

 

では、各作品の感想を。

『パズル』

マッチングアプリで出会った彼女の言動が最近おかしい。悩んだ僕は、マッチング

アプリで出会えるという『名探偵』に相談するのだが。

名探偵の推理の顛末にずっこけました。えぇ、あの推理何だったの!?と思いました。

中途半端に当たってるとこもあったし。名探偵ではなかったってオチでいいのかなぁ。

それとも、全部わかってて、あえて外した?何にせよ、不穏なオチじゃなくてほっと

しました。彼女ともうまく行きそうですしね。

 

『竹やぶバーニング』

仙台の七夕まつりの竹に、かぐや姫が紛れ込んでしまったから捜して欲しいと

頼まれた僕。僕は、青葉区の酒屋で働く傍ら、不定期で公に出来ない事物を内密に

調べる探偵まがいの仕事をしていた。僕はなぜか美女を惹きつける体質の友人・

竹沢と共にかぐや姫捜しに乗り出したのだが。

これはモリミー(森見登美彦氏)のアンソロジーで既読でした。美女ビジョンを

持つ友人とか、人間を助けるかぐや姫とか、ツッコミ所は満載なんだけど、これが

モリミーに捧げた作品だと考えると、妙に納得できちゃう気もする(笑)。伊坂

さんがモリミー好きっていうのは、なんか妙にしっくり来るものがあるなって思い

ましたw

 

『透明ポーラーベア』

彼女と訪れた動物園で、僕は姉の元恋人である富樫さんと再会する。姉はたくさんの

彼氏と付き合っては別れていたけれど、中でも姉が一番最後に付き合っていた富樫

さんのことは、一番好感を持っていた。しかし、富樫さんと別れた後、姉は長い旅

に出かけて、それ以来行方不明になった。姉はシロクマを見に行ったのだ――。

お姉さんのキャラ独特で好きでした。それだけに切なかったけど。でも、歴代の

彼氏も多分、みんな彼女の強烈なキャラクターを愛していたんだろうな。付き合い

きれずに分かれる羽目になっちゃったんだろうけど。お姉さんを通して、いろんな

人が繋がっているところにぐっと来ました。不思議な余韻の作品でしたね。

 

『イヌゲンソーゴ』

『花咲かじいさん』『ブレーメンの音楽隊』『フランダースの犬』・・・俺たち『犬』

の共通の敵の『あいつ』を倒すため、俺たちは立ち上がった――!

童話に出て来る犬の記憶を持った現代の犬たちが、共通の敵を倒す為行動するお話。

『犬』をテーマにしたアンソロジーに収録された一編で、既読でした。そういえば、

あのアンソロジーに寄稿した作家たちの名前の一部が犬になってたんでしたね。

貫井ドッグ郎はこじつけすぎでしょ。一番ウケたけどさ(笑)。犬たちの奮闘に

微笑ましい気持ちになりましたね。そう考えると、童話の犬って、結構散々な目に

遭っているんだなぁと気付かされました。

 

『Weather』

友人の清水が結婚することになった。紹介された新婦は、昔僕が高校時代に半年ほど

付き合った相沢明香里だった。昔から女性にモテる清水の行動を怪しんだ明香里は、

僕に清水のことを探って欲しいと持ちかけて来た。結婚式の日、清水のスパイを

しろというのだ――。

清水の怪しい行動が、全部新婦の為だったことにほっとしました。清水のキャラは、

『竹やぶバーニング』の竹沢と被るものがありましたね。なぜか女が寄って来て

しまうという。清水の女性問題の話題を逸らしたくて主人公が持ち出すのが毎回

天気の話で、毎回そうしていたら、やたらと天気に詳しくなっちゃったって言う

のが面白かったですね。このまま清水が独身のままだったら、主人公は気象予報士

になれたかもしれないですね(笑)。そうなる前に結婚してくれて良かったのかもw