ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

米澤穂信「冬期限定ボンボンショコラ事件」(創元推理文庫)

待ちに待った小市民シリーズ、最新作。一応、これが最後になるのかな。春から

始まって、冬までようやく辿りついた感じ。

最終巻(たぶん)ということで、読み応えたっぷりでしたね。冒頭から衝撃の

展開が訪れます。高校3年生の冬のある日、小佐内さんと学校帰りに河川敷の堤防

道路を歩いていた小鳩常悟朗は、ひき逃げ事件に遭う。車に轢かれる直前、小鳩は

横にいる小佐内さんを突き飛ばしていた。とっさの行動で、小佐内さんを助けよう

とした意識はなかった。目が覚めた時には病院のベッドの上で、手術の後だった。

退院までは二ヶ月ほどかかるらしく、入試は見送らなければならなくなった。

手術後、意識朦朧としている間に、小佐内さんが来てくれたらしい。枕元には、

『犯人をゆるさないから』というメッセージが残されていた。独力で犯人捜しを

しようとしているらしかった。

一方、ベッドの上で看護師の介助を受けながら入院生活を送ることになった小鳩は、

今回のひき逃げ事件と似ている、三年前に起きた同級生のひき逃げ事件を思い出

していた。小佐内さんと出会い、解きたがりの自分が大失敗したあの恥ずべき

出来事を――。

 

若干ネタバレ気味の感想になっております。

未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

小鳩君と小佐内さんが小市民を目指すきっかけになった出来事がようやく明らかに

なりました。想像以上にダークでしたねぇ・・・。ほろ苦いを通り越して、苦い

だけの事件って感じでびっくりです。ただ、その中心となる人物・日坂君に

関する最悪の噂の真相にはほっとしましたが。もし、その噂が本当だったら、

小鳩君は一生罪を背負って生きていかなければならないところだったから。三年前

には解決出来なかった問題も、三年経って、自分が被害者になるという皮肉を経て、

ようやく真相が解明出来た。良かったのか悪かったのかはともかくとして。中学

三年の小鳩君の言動は、私から見ても傲慢に見えました。関係のない他人の問題に、

自分なら謎を解けるという自負を持つことで、ずけずけと入り込んで。良かれと

思ってやったことがすべて裏目に出て。プライドはずたずたになった。こんな

経験があったら、そりゃ小市民を目指したくなってもおかしくはないですね。

中学生の小佐内さんは、予想以上に黒かったですね^^;言動が怖い、怖い^^;

こんな中学生嫌だよーー(><)。

三年前の日坂君を轢いた犯人に関しても、現在の小鳩君を轢いた犯人に関しても、

どちらも予想外の人物でした。まぁ、日坂君の方はそもそも読者に当てるのは

無理のような気がしますが。小鳩君の事件の方は、犯人の狂気が怖かったですね。

こういう職業の人が、こんなことをやるのは一番ダメでしょう。いくら憎しみが

あったからといって。小佐内さんの暗躍によって、最悪の事態が免れて良かった

です。

二人の関係は恋や愛にはなり得ない、と本人たち(少なくとも小鳩君は)思って

いるようですが、ラストの小佐内さんの一言で全部がひっくり返った気がします。

大学で離れ離れになって(小鳩君は浪人だし)、二人の互恵関係も終わりなのかと

思いきや。小鳩君が、今回轢き逃げ事件に遭ったことで、小佐内さんは初めて、

小鳩君の不在がどれだけ自分にとって不安を引き起こすのか、痛感させられた

のでしょうね。それってもう、恋なんじゃ?^^;わたしの次善。次善って、

最善ではないけれど、それに次ぐものであること、だそうな。それが最善になる

日はもうすぐって気がするな。小鳩君が、来年度、進学先を変えて、小佐内さんを

見つけられたら、きっとね。

これで終わりとはさみしい限り。大学生編がいつかスタートするといいなぁ。

ほろ苦い二人の互恵関係、まだまだ先が読みたいです。

 

 

浅倉秋成「家族解散まで千キロメートル」(KADOKAWA)

朝倉さんの最新作。読み終わったのは結構前なんですが、うっかり間違って、

記事を書く前に本を返してしまいまして。手元に本がないため、うろ覚えの

感想になってしまいそうです。すみません・・・。

あらすじや登場人物の名前等、ネットを参照しつつ、間違えないよう気をつけよう

と思います^^;

主人公は喜佐周(きさ・めぐる)。子供の頃から、父親は常に不在の家庭に育った。

いて欲しい時にいつもいない父親には、いつの頃からか期待しなくなっていた。

兄の惣太郎は元地下アイドルの女性と結婚してすでに家を出ていて、喜佐家には父・

母・姉のあすな・周の四人が住んでいた。

そんな中、姉が結婚することになり、周自身も結婚を控えていて、これを機に

古い実家を取り壊し、両親はマンションに、子供たちもそれぞれに転居することに

決まり、一家は解散することになった。引っ越しの3日前、いつもの如くに不在

の父を除いた家族全員で実家の整理をしていたところ、庭の倉庫に不審な箱が

置いてあることに気づく。周は、引越し業者に下見に来てもらった時にはこんな

ものはなかった筈だと不審に思う。中身を見ると、ニュースで話題になっていた、

青森の神社から盗まれたご神体にそっくりな仏像が入っていた。家族全員が知らない

と言い合う中、誰もがこんなものを盗んで来たのは、ここにいない父親に違いない、

と考えた。なぜなら、父には、以前、あるモノを盗んで来た前科があったからだ。

父に代わって、青森までご神体を返しに行くしかない――神主は、今日中に返しに

くれば許してやるとインタビューに答えていた。一同は、ご神体を車に乗せて、

一路青森を目指すことに――。

喜佐家の家族たちは、父が盗んだ(らしい)ご神体を無事に青森の神社まで返す

ことができるのか。その道中は、ハラハラ・ドキドキの連続。若干中だるみ感も

ありましたが、青森目指してみんなで北上する過程は、さながらロードムービー

のようで、概ね楽しめました。中盤以降は、どんどん意外な展開へ。特に、青森

に着いた後で、結構まだページ数が残っていたので、これから一体何があるんだ

ろう?と首を傾げながら読んでました。ご神体返して終わり、とはならなかった

ので。神主の態度も意外だったし。とはいえ、そこに至るまでにいろいろと腑に

落ちない描写が結構あって、ツッコミ所の多い作品だなぁと思ったのですが・・・

うーむ。なるほどぉ!って感じでしたね。いろんな伏線が最後に集結するところは、

さすがだと思いました。

ただ、この種明かし的な部分に関しては、道尾さんの作品の二番煎じって感じに

思えなくもなかったなぁ。なんとなく、全体的に、伊坂幸太郎さんと道尾さんを

足して二で割ったような感じの印象だった。既視感があるというか・・・。

そもそも、仏像盗む時点でね。伊坂さんっぽいし。家族のキャラ設定なんかも、

それっぽい。

ただ、父親の本当の姿に関しては、完全にやられたって感じだったな。こんな

裏があったとは・・・っていうか、度々不在にしていた理由にもびっくり。

切ないというか、なんというか・・・。

部分的に、これって誰の視点なんだろう?って思える箇所があって、そこが

ポイントだったんですね。

誰からも理解されていないと思われていた父親だったけど、少なくとも一人は

理解者がいて良かったと思いました。

父の真の姿がわかって大団円かと思いきや、まさかの結末で驚かされましたが。

でも、この家族にはこれが似合っているのかも。家族だからって、無理して

付き合う必要はないし、それぞれに幸せならそれでいいと思うしね。どこか遠くで

元気にしていてくれたらそれで十分ってことなんでしょうね。

面白かったけど、もうちょっとコンパクトに読ませてほしかった気もするな。

ちょっと全体的に冗長な印象は否めなかったので。

 

 

深水黎一郎「真贋」(星海社FICTIONS)」

深水さん最新作。久しぶりに芸術探偵シリーズの新作が出て嬉しいです。といっても、

今回は瞬一郎は出て来るものの、海埜警部補は登場せず、違う主人公が活躍する

新シリーズという位置づけになりそうです。

主人公は、美術関連の犯罪を取り扱う為に警視庁に新設された『美術犯罪課』に

突如課長代理として抜擢された森越歩未。唯一の部下である馬原茜とともに、

二〇社近い関連企業を持つ一大コンツェルン・鷲ノ宮グループが持つ名画コレクション

の巨額脱税疑惑の捜査を命じられる。時価数百億とも言われていた名画コレクション

だが、最近改めて有名な美術評論家によって鑑定してもらった結果が、『すべての名画

が贋作』というものだった。いつの間にか名画が贋作にすり替わっていた?それとも、

これは先代が亡くなった後、鷲ノ宮家を継いだ長男の公晴氏による相続税逃れの

陰謀なのか――。捜査に乗り出した二人の前に新たに持ち上がったのは、公晴氏

の妻・時乃夫人の若かりし頃を描いた絵が、いつの間にか『現在の年老いた時乃夫人』

の絵にすり替わっていたという不可解な謎。歩未たちは、美術に造詣が深い庁外

アドバイザーの神泉寺瞬一郎と共に、この謎に挑むことに。

面白かったです。本物だった筈の名画コレクションが、厳重な保管環境にあったにも

関わらず、いつの間にかすべて贋作にすり替わっていた謎と、若い女性を描いた

作品が、年老いた女性を描いた絵に変わっていた謎。どちらの真相も、なるほど、

と思えるものでした。絵が年を取った謎の方は、途中で伏線らしきエピソードが

出て来て、多分これが伏線なんだろうなーと当たりをつけていたので、ほぼ

方法も犯人(というと微妙に語弊がありそうですが^^;)も予想通りでは

あったのですが。鷲ノ宮コレクションの贋作事件の犯人の方は、全く予想外の人物

で驚かされました。

ミステリとしての面白さももちろん楽しめたのですが、それ以上に、絵画の贋作

に関する蘊蓄の部分が興味深かった。歴代の名画は、必ずといっていいくらい、

天才的な贋作師によって贋作が描かれて来たんだなぁと驚かされました。本物と

ほぼ見分けがつかないくらいの腕前だったら、贋作なんか描かずに、自分の絵を

描けばいいのに・・・というのは、誰もが持つ感想のようです。でも、無名の

自分の絵を売ったところで二束三文ですからね。結局、贋作師としての腕を

磨くよりなかったのかもしれません。

美術鑑定技術の進歩によって、現在はほぼ贋作かどうか判断できるみたいです

けどね。当時は、X線とか分析機なんてものはなかったですからねぇ・・・。

瞬一郎が、自前の蛍光エックス線分析装置を持ってたところには目が点になり

ました。何者なんだ^^;

女性二人と瞬一郎の関係も良かったですね。特に、馬原さんのキャラが立っていて

良かったな。見た目と口調がいまいち一致しない印象はありましたけど・・・

なんであんな体育会系の口調とノリなんだか^^;

最後、時乃像の真相を時乃さん本人に告げるかどうかで女性二人と瞬一郎の意見が

分かれるのですが・・・うーん。どちらの言い分もわかるけど、個人的にはやっぱり

女性側の意見よりかなぁ。私だったら、真相を知らないままでいるよりは、知りたい

かなぁと思う。それがどんなに辛い真相だろうが、真実を知りたいですもん。

 

今までとは版元も違うから、心機一転、新シリーズ始動って感じなのかな。

今後は、美術犯罪課の二人+瞬一郎のトリオでシリーズが展開していくのかしらん。

でも、やっぱり海埜警部補がいないのは寂しいな。瞬一郎とオジさんの関係好き

だから。

そっちはそっちでまた新作書いて欲しいなぁ(ついでに、おーべしみも登場して

ほしいw)。

 

余談ですが、この作品読んだ直後に、現実に徳島県の美術館が六千万以上で

落札した絵画が贋作だったかもしれない、というニュースが飛び込んで来て

びっくり。しかも、その贋作が有名なドイツの天才贋作師が描いた作品かもしれ

ないらしく。鑑定書はついてるらしいですが、真相を見極めるべく、調査中だとか。

作品との絶妙なシンクロに面食らわされたのでした。

 

 

雨穴「変な家」(飛鳥新社)

YouTubeで話題になり、映画化までされた人気作。話題騒然となった時は予約が

すごくて全然借りられなかったのですが、文庫版が入荷されて、それほど予約数が

いなかったので、やっと借りられました。

知人が買おうか検討している中古の一軒家について相談を受けた主人公。一見

良さそうな物件に思えるが、間取りを良く見ると、謎の空間が存在していた。

知り合いの建築士に間取り図を見てもらうと、その家にはいくつもの違和感がある

というが――。

読みやすいのであっという間に読めました。間取り図を見て、建築士と二人で

あれこれ検証している部分まではかなり面白く読んでました。

でも、その家にまつわる因縁の真相の部分は、さすがに作りすぎてて、信憑性が

なくなってしまったなぁって感じだった。子供に◯◯をやらせるって時点で

すでにおかしさ満載だし。まぁ、ミステリに於いて、旧家の因習っていうのは

魅力的なガジェットのひとつではあるんだけど、こういう現代的な作品に無理やり

当てはめると、そこだけ嘘っぽくなってしまって、なんだか白けてしまった。

そもそも、死体がそんなに都合良く手に入る訳じゃないじゃないですか。この

現代において。戦時中のような混乱時ならともかく。それ以外の部分でも、

ツッコミ所多すぎて・・・。

前半部分の、間取りだけであれこれ考察するところはとても面白かったので、

変にこじつけるような真相エピソードを盛り込まないで、いろんな不可思議な

間取りを取り上げて、あれこれ考察して終わるような作品の方が個人的には好み

だったかも。真相がどうだとか、間取りだけでわかるわけないんだから、そこは

わからないままでもいいと思うしね。

でもまぁ、間取りだけでここまで話を広げられるのはすごいと思う。話題になるのも

納得ではあったかな。絵のやつも文庫化したら読んでみたいと思います。

 

 

 

似鳥鶏「刑事王子」(実業之日本社)

似鳥さん最新作。アラフィフの刑事と、フィンランド湾内にある小さな島国・

メリニア王国の第三王子がタッグを組んで不可解な連続殺人事件を捜査する、

異色のバディ小説。

うーん・・・すっごい微妙だった・・・。いつもの似鳥作品だと、小さい事件から

少しづつ世界観が広がって、最後はとんでもなく大きな事件に発展、みたいな

展開になるのが定石なのだけど、今回は、冒頭から事件の背景に隠された陰謀の

規模が大きい。アラフィフ刑事と王子のコンビは良かったと思うけど、国際機密

を扱っている割に作風が軽くて、なんだかちぐはぐな印象しか持てなかった。

摂取すると殺人衝動が起きるという新種の危険なドラッグSNAKEを巡る世界規模の

陰謀が、日本の一般人の殺人事件と関わって来るってのも、どうにも設定が強引

過ぎて引いてしまって、世界観になかなか入り込めなかったです。

そもそも、世界を揺るがす殺人ドラッグを扱う黒幕が、日本のアニメやマンガや小説

に影響受けてるからって、標的を日本にするってのもなんかねぇ。何ソレって感じ

・・・。まぁ、その影響のせいで、それぞれの事件のトリックが、本格ミステリ系の

王道を踏襲したタイプのものが多く、それはそれで楽しめたところもあったのです

が・・・。

でも、ミカ王子の兄が飛行機事故の炎から逃げ出せた真相には唖然。いやいや、

そりゃないでしょ、とさすがにツッコミたくなってしまった。

それ以外にも、絶対的にツッコミところが満載というか・・・。警察庁職員の

敷島さんのキャラは面白かったけど、こんな人いね―よ!とツッコミたくなる

箇所が何度もありました^^;

終盤は、いつもの如くにすごいアクションシーンが。なんか、やりすぎなんだよ

ね・・・。作風が作風だから、いまいち緊迫感にも欠けるし。いきなりハリウッド

級のアクションシーンが出て来たりするものだから、なんだか引いてしまって。

事件が大きい割に、最後駆け足だから、結局何も解決せずに終わってしまった

感じがして、拍子抜けだった。兄はどうなったんだ、結局。

なんか、一話目で嫌な予感がして、挫折寸前だったんだけど、ちょうど次に読む本

図書館から取って来てない時だったから、なんとなく全部読んでしまったけど・・・

ちょっと好みからは外れた作品だったかな。残念。

 

 

アミの会「キッチンつれづれ」(光文社文庫)

アミの会による、キッチンにまつわるアンソロジー。八人の作家さんが寄稿されて

います。どこのご家庭にもあるキッチンという身近なものをテーマにしている

だけに、あるあるネタがあったりして、興味深い内容が多かったですね。うちの

キッチンは作業するスペースが狭いので、広々としたアイランドキッチンとか

めっちゃ憧れます。大理石の作業台とかあったら、パンとかピザとか粉もの系

の手作りも楽になるだろうにな~とか思ったり。ま、人間ないものねだりですから。

実際あっても、結局面倒になって、やるのは最初だけってオチになりそうだしね

(苦笑)。キッチンに立つ人たちの悲喜こもごも。それぞれに楽しめました。

 

では、各作品の感想を。

福田和代『対面式』

キッチンに立つと、正面の窓から向かいのキッチンが見通せてしまう――これは

嫌だな~^^;設計した人は目線の先まで考えてくれないと。お向かいさんの

玄関先の置物の謎と、旦那さんの職業には、そういうことだったのか、と思いました。

◯◯事件とは関係なくて良かったです(いや、旦那さんは関係なくはないけども)。

 

新津きよみ『わたしの家には包丁がない』

最近、時短料理を得意とする料理研究家なんかがキッチンばさみで食材切るのを

よく目にしますが。個人的には、キッチンばさみが包丁の代わりになるとはとても

思えないのだよなぁ。食材によって、いろんな切り方あるじゃないですか。自宅に

包丁がないって、私にはありえないんだけど・・・こういう人もいるんだなぁと

思いました。しかし、主人公、あんなに田舎に移住する人たちに冷たい視線を

向けていたのに・・・まさかの結末に目が点。ま、人間、付き合う人で主義主張も

変わるってことで。でも、いい方向に変わったんじゃないかな。

 

永嶋恵美『お姉ちゃんの実験室』

なんでもお見通しのお姉ちゃんのキャラが良かったですね。年が離れているから

こそ、妹が可愛くて仕方ないって感じなのかな。お姉ちゃんの料理の向き合い方

があまりにも普通の人と違ってて、面食らわされました。人生は短いから、生きてる

うちにできるだけたくさんの料理を作りたいって気持ちはわからなくもないけど、

だからって同じ料理を二度と作らないってのは極端過ぎて。美味しかった料理って

また作りたくなったりするものだと思うんだけど・・・こういう人もいるんだなぁと

驚きました(二度目)。

 

大崎梢『春巻きとふろふき大根』

男の料理教室って、少し前にも同じような題材の作品読んだなぁと既視感が。今の

世の中、男性も料理くらい出来なきゃ、という認識が強いのかなぁ。しかし、料理

教室中に、世の中を騒がせている犯罪者らしき人物がやってきたらビビリますよね。

包丁に関する、ちょっとした言葉の誤解から、居直り強盗と間違えられちゃった

のは気の毒でしたけどね。

 

松村比呂美『離れ』

自宅の離れで暮らす少年と、その少年を世話する義母に対する主人公の複雑な心情

が描かれます。義母は自分の母であると同時に、少年の母でもある・・・。少年が

熱を出したことで、主人公が運動会のお弁当を一人で食べることになってしまった

シーンは切なかった。でも、主人公の現在と、夫の正体には、いい意味で驚かされた

なぁ。

 

近藤史恵『姉のジャム』

これは一番印象に残った作品だった。苦手だった八つ上の姉が死んだと連絡が来た。

姉は、なぜか、一人暮らしのわたしのところに、定期的に自作のジャムを送って

来た。でも姉が苦手はわたしは、送られて来たジャムにほとんど手をつけること

なく、食べないままのジャムがどんどん棚に増えて行く・・・という。姉がジャム

の中に仕込んでいたメッセージに胸が苦しくなりました。なぜ気づいてあげられ

なかったのか。その都度食べてあげてさえいれば・・・。皮肉過ぎる結末に、心が冷え

ました。同じ姉妹を描いた作品でも、永嶋さんの作品とは対極にあるような内容

でしたね。

 

福澤徹三『限界キッチン』

まともに働かず、安易に美味しい話に乗ろうとするから、こういう羽目になるって

典型ですね。最近捕まる、詐欺の受け子とか、みんなこういうケースなのでは。

 

矢崎存美『黄色いワンピース』

優しくご飯を食べさせてくれた記憶の中のお姉さんを捜しに、以前住んでいた街

にやって来たヒロイン。でも、街並みは記憶とは違っていて――というお話。

主人公の境遇は悲惨だけど、お姉さんとの思い出は温かかった。お姉さんがお姉さん

のままでほっとしました。この交流がこれからも続くといいなって思う。

 

 

藤崎翔「お梅は呪いたい」(祥伝社文庫)

個人的にお気に入りの藤崎さんの文庫新刊。タイトルからしてぶっ飛んでますが

・・・主人公は、表紙にも出ている呪いの人形・お梅。築百年以上の古民家の

解体中に発見された日本人形は、五百年前の戦国時代に、数々の人間を呪い殺して

来た曰く付きの人形だった。五百年の眠りから冷めた呪いの人形・お梅は、復活を

機に、意気揚々とまた人間を呪い殺そうとするのだが、現代の人間にはなぜか

お梅の呪いが通じにくいようで、失敗ばかり。ユーチューバー、失恋女、引きこもり

男、一人暮らしの老婆に友達ができない子供、老人ホームの老人たち・・・お梅は、

呪いの対象を次々と変えて試みるが、呪い殺せるどころか、なぜかお梅を手にした

人間たちを幸せに導いてしまうことに――。抱腹絶倒のオカルトコメディ。

面白かったです。お梅が、真剣に人間たちを呪い殺そうとすればするほど、なぜか

対象になる人間たちがハッピーになって行く。呪いの人形のはずが、気がつくと

お梅は幸せの人形に・・・(笑)。お梅は人間を呪いたくて呪いたくて仕方ない

のに、感謝の対象になってしまうところが可笑しかった。お梅のキャラクターが

なんとも言えずいいですね。人形なのに走ったり出来るし。頭がすっぽ抜けたら、

自分で拾いに行って、自分で取り付けたり。いちいち想像すると面白い。五百年

前の戦国生まれのお梅と、現代人とでは、ギャップがあって当たり前なのだけど。

そのギャップによって、お梅がやろうとしていることが、すべて裏目裏目に出て、

現代人にはプラスに働いてしまう、という設定の妙が非常に効いてました。これ、

コントとかでやっても面白そう。どっかの芸人さんにやってもらえないかしらん。

残念なのは、お梅は話すことが出来ないので、現代の人との意思疎通は出来ない点

でしょうかね。動くことも出来るし、テレビのリモコン操作さえ出来るのに、なぜ

(笑)。拾い主が寝ていたり不在の時に、勝手にテレビを点けて、社会情勢とか

現代人について少しづつ知識をつけて行くお梅。それもすべて現代人を呪う為

なのに、その涙ぐましい(?w)。努力がひとつも実らないという(笑)。呪いの

人形であるお梅が、『チャイルド・プレイ』やら『トイ・ストーリー』やらを

観るシーンは、なんともシュールで笑えましたね。こんな設定、よく思いつく

なぁ。さすが、元お笑い芸人だなぁと所々で感心させられてしまった。お梅が

人間を呪い殺すことに失敗して行くごとに、だんだんお梅が気の毒になって、

気がついたら応援したい気持ちになってました(笑)。呪いの人形をこんなに

好ましい気持ちで見れたことないよ!最後までお梅にとっては気の毒な展開でしたが、

読者としては痛快に読み終えられました。

いろんな人間関係が、最後にきれいに繋がって行く辺りの伏線の張り方も見事でした

ね。さすがに繋がり過ぎでは、と思わなくもなかったですけど、そもそもこの

作品にリアリティとか言い出すこと自体がナンセンスだと思うので。

気軽に楽しく読める一作でした。表紙絵もピッタリですね。ちなみに、ホラー

要素はほぼゼロでした。ホラーが苦手な方でも楽しめますので、ご安心を(笑)。