ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

坂木司/「先生と僕」/双葉社刊

坂木司さんの「先生と僕」。

大学入学して初めて出来た友人の山田に誘われて『推理小説研究会』に入ることになった僕、
伊藤二葉。でも、僕は人が死ぬ話は怖くて読めないんだ。困っていた僕は、ある日公園で一人の
少年と出会い、彼の家庭教師のアルバイトをしないかと誘われる。勉強を人に教える自信なんて
ない僕は断ろうとしたのだけれど、彼が探していたのは「家庭教師のフリをしてくれる人物」
だったのだ。事情を知り、ついつい引き受けてしまった僕。その代わり、彼は僕にミステリー
小説について教えてくれるという。そう、彼はものすごいミステリ通の中学生だったのだ。
そうして『秘密の契約』を交わした僕らの前に、奇妙な事件が次々と起こって――ほのぼの
連作ミステリー。


坂木さん新刊です。へへへ。今回も面白かった~。装丁からして可愛らしい。猫のイラスト
が印象的だったので、てっきり猫が活躍するミステリなのかと思ってたら全然違ってました^^;
『先生』が猫に似てるからなのでした。

なんといっても、今回は主人公の二葉君がツボだった。いろんなものを怖がっちゃう究極の
怖がり屋。どんなことでも最悪の事態を想像しちゃうという心配性っぷりはかなり度を超してる。
でも、気持はわからなくはないです。私もトイレとかお風呂とか入ってて、「ここで地震
起きたらどうしよう」なんてことはしょっ中考えちゃいますから。いろんな施設に行く度、
非常口や非難経路をまず真っ先に確認したり、鞄の中のペットボトルやチョコバーの存在を
確かめるっていう慎重っぷりにも笑いました。でも、彼と一緒に出かけたら、非常事態の時
には役に立ちそうです(笑)。驚異的な記憶力の持ち主でもある訳だし。そんな二葉と
対称的な隼人君。彼がまたいいキャラ。美少年で、頭が切れて、ミステリ好き。怖がりの
二葉青年を引っ張り回して『謎』を追求して行く好奇心旺盛な少年。二人のコンビがとても
良い。「ワーキング・ホリデー」の進君とはまた全然タイプが違うしっかり者。隼人の方が
ひねくれてる感じはしますが(二重人格のごとくに笑顔を人によって使い分けたりするし)、
それでも芯は一本通っているので嫌な印象はなかったです。彼は将来女性泣かせになりそう
だなぁ。

二人が出会う事件は大きくはないけど、れっきとした犯罪事件ばかり。どの犯罪も眉を顰め
たくなるような嫌なものです。特に、1話の古本屋さんは許しがたいですね。本に纏わる
場所で、こういう犯罪が行われるというのは、本好きにとっては我慢がならない。古本屋
をやってる位だから本が好きなんだろうに。本好きに悪い人はいないなんて理想論を持ち上げる
つもりはないけど、やっぱりこういう人間のいる古本屋なんて行きたくないな。

それぞれの話はミステリとしてはかなり軽め。読み応えという点ではあまりないかもしれ
ませんが、人と人との繋がりを大事にするいつもの作風は健在。特に二葉君の人の良い性格
は読んでいてほのぼのしちゃいました。やっぱり坂木さんの作品はいつ読んでも素敵だなぁ。
嫌な事件を扱っていても、必ず根底に救いと優しさがある。読んでいてほっとできるとこが
大好きです。『先生』と『生徒』を行ったり来たりする、二葉と隼人の関係がとてもいいなと
思いました。

各作品のラストで隼人君が二葉に出す『宿題ミステリ』。ミステリ好きのくせに、読んだ
ことがある作品が一冊だけでした(「屋根裏の散歩者」)・・・情けない(海外モノはダメ
なんだってば~^^;)。
最終ページにつけたしのように書かれている「六の宮の姫君」も辛うじて読んでましたが。
これじゃー、隼人君に「そんなんでミステリ好きなんて言うな!」って怒られるな~^^;
アシモフの「黒後家蜘蛛の会」はそのうち絶対読もうと決めている作品ではあるのですが・・・。

ところで、二人が入った漫画喫茶で隼人が二葉に薦めた『人が死なない、とてもよく出来た
ミステリの少女マンガ』って何なんでしょう・・・。ミステリの少女マンガというと
いくつか思い浮かぶのはあるんですが、人が死なないってのは思いつかない・・・。いろいろ書評
見てもみんなわからないみたいです。誰かピンと来る方いたら教えて下さい~(ちなみに、
二葉が隼人に薦めた『王道の野球マンガ』は「キャプテン」らしい)。

「ワーキング・ホリデー」「ホテルジューシー」「先生と僕」三冊共通してついてくる小冊子
の各リンクも嬉しかった。ヒロちゃんと二葉は同じ大学なんですね~。図書館派の私がこれを
読めたのはゆきあやさんのおかげです。この場を借りて深くお礼を申し上げます。