ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

東野圭吾/「ダイイング・アイ」/光文社刊

東野圭吾さんの「ダイイング・アイ」。

バー「茗荷」で、バーテンとして働く雨村慎介。ある夜、一人の男性客が閉店間際のバーに
やって来た。薄気味悪い風体のその男は一人カウンターで働く慎介としばらく雑談して帰って
行った。男が帰り、店じまいをした慎介は、その男に鈍器で殴られ意識を失う。男は、慎介が
一年前に起こした交通事故の被害者の女性の夫で、慎介に復讐しにやって来たのだ。慎介に復讐を
遂げた直後、男は自殺していた。男に殴られた後遺症で、慎介は一年前の事故の記憶を失って
しまっていた。何故自分はそんな重大な事実を忘れてしまったのか。奇妙な事件が続き、慎介は
自らの過去のことを調べ始める。そんな中、バーに復帰した慎介のもとに一人の女が現れる。
出会った瞬間、その女の虜になった慎介。一体、女は何者なのか――?


予約本ラッシュ週間最後の一冊。あまり前評判がよろしくなかったので、なんとなく後回しに
なってしまった。今までは真っ先に嬉々として読んでいたのだけどなぁ。最近東野作品とはどうも
あまり相性が良くない。前作「夜明けの街で」なんて、東野作品ワーストまで躍り出ちゃったし^^;
で、そんな大して期待せずに読んだ本書。これがまぁ、予想通りの作品で。リーダビリティは
相変わらず抜群だと思うんですが、なんとなく全体の雰囲気は「夜明けの街で」の流れを汲んで
いるように思いました。エロシーンが・・・というのはあちこちで聞いてはいたんですが、なる程、
結構激しかったです(といっても、iizukaさん辺りからすると全然甘いといわれそうですが)。
別にそこに関しては、さらっと読み流せばさほど気にはならなかったのですけど。それより、
またしても登場した東野さん十八番のファム・ファタル(=「宿命の女」:男を破滅に導く魔性の
女の意)。これがまた強烈でした。睨んだ人間を石化させてしまう怪物・メデューサを思い出し
ましたよ。こ、怖い・・・。
でも、そろそろこの系統から離れた方がいいんじゃないかなぁ、東野さんは。毎度毎度、同じ
ような女性を登場させなくても、と少々食傷気味。そんなに嫌な女ばかり書かなくても^^;
ただ、この瑠璃子(邊瑠子じゃないよ!)のぞくぞくする登場シーンが本書の中では一番面白
かったかも・・・(じゃ、やっぱ必要じゃんかー^^;←一人ツッコミ)。

ストーリー展開はいつものごとく巧いのでするすると読み進んでしまいましたが、その実、
真相はだいたい予測できてしまいました。なので、ミステリとしての驚きというのは
ほとんどなかったです。ただ、瑠璃子の正体だけは意外でしたが。多分ほとんどの人は
雨村の陥れられたからくりに気付けてしまうのではないかなぁ。だって、私が予測できた
位だもの。意外性という点で、もうひとひねりあって欲しかった。










以下ネタバレ注意です。未読の方はご遠慮下さい。














最後までわからなかったのは、何故瑠璃子が雨村との子供を欲しがったのか。美菜絵が
自分の遺志を継ぐ遺伝子を残したかったから?でも、それにしても何故相手が雨村なのかが
わからない。美菜絵は、最後の最後まで自分を撥ねた犯人が江島だと気付いてなかったから、
犯人は雨村だと思ってたわけで、その犯人との子供を欲しがる理由がわからない。憎い男の
子供なんて欲しいものだろうか・・・。まだ木内ならわかる気がするんだけど。結局そこの所は
明かされないまま逝ってしまったから真相は闇の中。何とも消化不良でした。

事故を起こした犯人たちが、人を一人死なせてしまったという事実をあまりにも軽く捉えて
いる所に憤りを覚えました。自分の罪を人に押し付けて、大して罪の意識も感じないでのうのうと
生きているなんて。その罪をお金で肩代わりした雨村も最低です。幸せだった一人の人間の
人生を滅茶苦茶にした罪に対する刑罰もあまりにも軽い。犯人たちと同時に、司法にも憤りを
感じずにはいられませんでした。事故を起こした二人に関しては、美菜絵の執念でか、最後は
因果応報という結末になったので(一応矢島も廃人同然だし)、犯した罪からは逃れられない
ということなのでしょう。






と、ここまで書いてネットで書評を見て回っていたら、この作品って、9年前に書かれたもの
だったのですね。この頃から女性の書き方が変わっていないということなのか・・・しーん・・・。
「夜明けの街で」の方が本書の流れを汲んでいた、と書くべきだったのか。それに一番驚いた^^;

マネキン工場といえば、私の親戚の家の近くにマネキン工場があって、昔その親戚の家に行く
途中で倉庫の外に出されてる無数のマネキンを見るのがいつも怖くて怖くて仕方なかったっけ。
裸にされて、無造作に放り出されてるマネキンって、本当にホラーですよ・・・。