ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

三羽省吾/「公園で逢いましょう」/祥伝社刊

三羽省吾さんの「公園で逢いましょう」。

桜の季節、ひょうたん公園に集う幼児を連れたママたち。みんなそれぞれに子供たちを遊ばせて、
自分たちはおしゃべりに興じる。明るく和やかな光景。でも、それぞれのママたちにも悲喜こもごも、
様々な思い出があった。公園をめぐる、5つの連作短編集。


三羽さん新刊です。ひょうたん型の公園に集う子連れママさんたちの過去を描いた短編集。一作
ごとに視点が変わり、一人づつそれぞれの過去が語られます。公園を舞台にした作品というと、
小路さんの『東京公園』を思い出すのですが、こちらはまた全く違ったテイストの作品でした。
一見、穏やかな春の日差しの中で子供たちを遊ばせながらのんびりとおしゃべりに興じる母親
たちという、端からみても微笑ましい光景で始まるのですが、彼女たちの過去はなかなかに
シビアで、他人の人生なんて見た目からではわからないものなんだなぁと思わされます。みんな
表面上ではなんでもないように過ごしていても、心の中ではいろんな思惑を抱えている。それは
公園という限られた環境の中だけでなく、どこのコミュニティでもあることなのでしょうけど。
小さなひょうたん公園の中での交流は、あらゆる世界の縮図のようなものなんだろうな、と思い
ました。のんきな明るい作品なのかと思いきや、現代社会の重い陰の問題も描かれているところは、
前作の『タチコギ』と共通したものがあるな、と感じました。



以下、各作品の短評。


『春の雨』
ダイちゃんママ視点。周りには『優しい』と思われている彼女だけど、その優しさには理由が
あった。その理由である小四の時の出来事が語られます。「ん」しかいえない琢矢君との
エピソード。私の小学校にも琢矢君のような男の子が一人いました。周りはみんな普通に
接していたけど、やっぱり内心は少し他の子とは違った目線で彼を見ていた気がします。
知らず知らずのうちに人を傷つけること。それはやっぱり怖いことだと思う。


『アカベー』
サトル君ママ視点。弟との苦いエピソードが冒頭に出てきて、一箇所引っかかる表記があった
のですが、それがラストで腑に落ちました。アカベーとの結婚を決めるエピソードはドラマチック
でひたすら羨ましいって感じですが、そんな彼女も過去には重く辛い過去を引きずっていた。
多分彼女はずっと後悔しながら生きていたんだろうなぁ。弟のことをもっと早く許してあげて
いたら、きっと何かが違っていたのでしょうね・・・。


『バイ・バイ・ブラックバード
ユウマ君ママ視点。高校時代の爽やかな吹奏楽部の出来事が語られるのかと思ったら、一転、
眉をひそめたくなるようなエピソードに変わるのでかなり面くらいました。爽やかな瀬川さんも
何故、ここまで堕ちてしまったのか・・・。エンコーで困った女の子を救うというのは一見
ヒーローのように思えるけど、やってることは単なる詐欺。嫌悪ばかりを感じる作品でした。
シゲジィと主人公の関係は良かったですけど。結局瀬川さんって何だったんだろ。ちょっと
よくわからない人間でした。


アミカス・キュリエ』
これだけ間違ってママさんコミュニティに入りこんでしまった男性視点。ひょうたん公園には
新興の分譲マンション群の東側と、古アパートや公団が連なる西側にわかれ、それぞれに
ママさんコミュニティがあるのだけど、主人公は東側人間なのに間違って西側まで子供を
連れて行ってしまう。二つのコミュニティは対立しているから焦るけれど、西側のママさんたち
は、彼も子供も温かく迎え入れてくれる。そんな状況を過去にも経験した覚えがあり、それを
回想するという話。人間違いをされたまま飲み会で居座るという大胆な行動、小心者の私には
絶対無理だなぁ。公園内に派閥(?)があるというのはなんだかリアルだなぁと思いました。
子供を初めて公園で遊ばせる『公園デビュー』は結構緊張するって聞きますしね。


『魔法使い』
羅々ママ視点。これは一番考えさせられたし、印象に残る作品でした。ギャルママである羅々ママ
のことは他の人物からの視点で見ていた時はとても好感が持てなかったのですが、彼女の内面を
知って印象が全く変わりました。表面から見てるだけじゃ、わからないことってたくさんあるな
と思わされました。5歳の彼女と『魔法使い』のおじさんのエピソードはとても切なかった。
DVやホームレスといった重い社会問題に陰鬱とした気持ちになったのですが、ラストの羅々ママ
の子育てへの前向きさに救われる思いがしました。彼女が他の人の話に加わらず携帯ばかり打って
いた理由には爽快な気持ちになりました。



全部が共感出来る話という訳ではなかったのですが、やっぱりどれも巧いな、と思わせてくれる
連作集でした。人生、ひとそれぞれ。みんな過去にいろいろあっても、今は元気に子育てに
奮闘してる。公園はいつも、みんなが幸せである場所であって欲しいです。