ミステリ読書録

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小島正樹/「武家屋敷の殺人」/講談社ノベルス刊

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小島正樹さんの「武家屋敷の殺人」。

弁護士事務所に勤める若手弁護士の川路は、孤児院で育った20歳の瑞希から、自分の生家を
探して欲しいという依頼を受ける。手がかりは、彼女が捨てられた赤ん坊の時に一緒に沿え
られていたある人物の日記のみ。難しい依頼だが、川路はカヌー仲間の那珂邦彦と共に調査に
乗り出す。邦彦の鋭い考察により生家の特定は出来たのだが、その家には恐るべき過去が隠されて
いた――。


読んだ方が口を揃えて「イライラした」という違う意味での話題作(笑)。読んでみて、
その意味がよ~くわかりました。確かに、これはイライラする。といっても、ストーリーに、
ではありません。主役の川路のキャラクターに、です。作品自体はとても面白かったのです。
文章も読みやすいですし、展開がスピーディとも言えない割に、本格ミステリとしての読ませ所
のツボを押さえてあるので、飽きずに読み続けられる。特に、私は前半の過去の日記だけを元に、
瑞希の生家を探す過程が非常に面白かった。一晩で壁の色が変わり、空から人が降り、塀が血
を流し、床がケタケタ笑う・・・完全にホラーとしか思えないこの現象が、邦彦によって論理的に
解き明かされて行くところはお見事。ちょっとこの辺は道尾さんの『骸の爪』を彷彿とさせる
ところもあったのですが(壁の色が変わる理由なんか特に道尾さんっぽい・・・原因がアレ
だから^^;)。こういうの好きなんですよ~。ラストのどんでん返しに次ぐどんでん返しも
面白かったのだけど、ちょっと複雑になりすぎて情景が頭に思い描ききれない部分があった
ので、どっちかっていうと、最後の謎解きよりも生家発見の部分の推理の方が私にとっては
面白かったです。

で、冒頭で述べたイライラの原因、川路についてなんですが。これ、完全にキャラ造詣失敗
してますね。というか、何故作者が川路をこういう人物像にしたのか全く理解出来ないのですが。
だってね、『若き』弁護士を強調させたいのか知らないけど、依頼人どころか目上の誰に対しても
「~っす」っていう語尾を徹底して貫くってのはどういう了見なのよ。借りにも弁護士って立場に
立つ人間ならば、それ相応の言葉遣いをするべきでしょう。こんな言葉遣いしてて『口が堅い』
って評されても、全然信憑性ないですよ。彼の会話部分にはほんとーにイライラさせられました。
それに、一人称が『わし』ってのもね・・・何歳だよってツッコミたくなりました^^;普段
そういう言葉遣いをしていても、調査で関係者に話を聞く時とか、正式な依頼人に対しては
きちんとした言葉遣いをするべきだと思うんですが。弁護士事務所は、まず彼にその部分から
教え込むべきなんじゃないの?これが探偵事務所だったらまだ理解出来るんですが(でも、
個人的に「~っす」みたいな若者言葉自体好きじゃないので、やっぱり好感は持てないと
思いますけれど^^;)。社会人としてどうよ?って次元でイライラさせられるのはねぇ。
彼をそういうキャラにしたメリットが何ひとつないと思うんですけど。一体何を思っての
キャラ造詣なのか・・・むー。謎。このイライラ感がなければもっといい作品だったと思う
んだけど。カヤック好きって設定もいまいち生かされていなかったような。まぁ、作者ご本人の
趣味がカヤックらしいので、作品に反映させたかったんだろうな。

ただ、ラストの謎解きは、本格ミステリの醍醐味はこうだ!とばかりのどんでん返しに次ぐどんでん
返しで(川路の推理は端からフェイクだってことは章タイトルからも明らかなのでそれ抜きに
しても)、とても良く出来ていると思います。最後の真相は救いがあって読後感も悪くなかったし。
ただ、那珂のキャラが最後の手紙を読んだくらいで豹変しちゃったのはちょっと理解出来なかった
なぁ。あの偏屈な性格の人物がそれほど簡単に心変わりするなんて。でも、彼の決意に関しては
続きが書かれそうな雰囲気ですね。途中で挟まれる『断片』の部分の伏線回収は次回持越しの
ようです。

気になる点はありましたが(^^;)、直球の本格ミステリとしてはなかなかに読み応えがあって
愉しめました。やっぱり『十三回忌』は読んでおくべきかなぁ。