ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

恒川光太郎/「南の子供が夜いくところ」/角川書店刊

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恒川光太郎さんの「南の子供が夜いくところ」。

夏、両親に連れられ湘南のホテルに宿泊に来た11歳のタカシ。しかし、両親の真の目的は海水浴
ではなく、借金を苦にした一家心中だった。タカシたち一行は、海辺の露店で店員をしていた
エキゾチックで奇抜な格好をした女性・ユナと出会う。ユナは、両親の話から心中の意図を知り、
彼らを日本から遠く離れた南の島に連れて行くことが出来ると話す。しかし、連れられて行った
島でタカシは両親と離れて暮らし始めるが、次々と不思議な出来事に出会う。そこは呪術で支配
された神話的な島だった――神秘の島を巡る南国幻想集。


恒川さんの最新作。予約したらあっという間に入荷して、あっという間に回って来ました(笑)。
人知れぬ南国の呪術的な島を巡る連作集。幻想怪奇な雰囲気は今回も顕在です。ただ、今までの
作品よりも毒が強く、全体的にブラックテイストな短編集。そもそも、一作目に出て来るタカシ
からして一家無理心中をさせられそうになっていたという悲惨な身の上ですし(本人に全く自覚は
ありませんが)。ただ、彼は両親から離されて天涯孤独の身の上になりながらも、持ち前の
順応力のせいか、島に次第に馴染んで楽しく過ごせるようになるのですが。神秘的な南国の
島が舞台というだけで雰囲気たっぷりで良かったのですが、ちょっと全体的にそれぞれの話が
ばらけ過ぎていて、一貫性のなさを感じてしまいました。それぞれにリンクされてはいるの
ですが、そのリンクもちょっと中途半端な印象。それぞれの話で主人公も時代設定も変わったり
するので、どこか散漫に感じてしまいました。一話づつの出来も悪くはないのですが、恒川さん
の作品というより、恩田(陸)さんの作品を読んでいるような気分になるものが多かった。
どうも、全体的に恒川カラーが薄れたというか・・・。ユナが不老になるきっかけを描いた
『紫焔樹の島』はすごい好みの話だったのですが。それに続く『十字路のピンクの廟』
『雲の眠る海』がいけない。何が書きたいのかいまいち伝わって来なかったです。島での
神秘を描いたという意味ではどの作品も共通してはいるのですが・・・どうも、好みの作品と
そうでない作品との差が激しかったですね。作風もばらばらですし。バラエティに富んでいる
とも云えるのでしょうが、私としてはユナとタカシを中心にした連作集にした方がまとまりが
あって良かったのではないかなぁと思いました。これは完全に個人的な好みの問題なので、
これはこれで好きな方も多いと思うけれど。ラストのフルーツ人間の話もなんかシュールで
気持ち悪くてあまり好きじゃなかったです。お母さんは結局どうなったのよ?とも思ったし^^;
人が死ぬシーンも多くて、恒川さんにしてはグロテスクな表現が多かったような気が。まぁ、
もともとホラー大賞の人ですし、それは良いのですけれど・・・でも、恒川さんじゃなくても
こういう話はいくらでも読めると思うんですよね。『紫焔樹~』みたいな恒川さんらしい幻想譚
ばかりだったらすごく好みの作品だったと思うのに、ちょっと残念。どこにあるかわからない南の
神秘な島という設定自体は好みど真ん中だったのですが。120歳のユナのキャラをもうちょっと
生かして欲しかったですね。

相変わらず読みやすいですし、情緒溢れる情景描写も色彩感覚にあふれた文章もとても
良かったのですけれど。もう少し全体的な構成に一貫性があったら良かったかなぁと
思いました。もちろん、その辺を差し引いても面白かったですけどね。
南の島の異国情緒と神秘な空気は十分堪能出来ました。