ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

越谷オサム/「いとみち」/新潮社刊

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越谷オサムさんの「いとみち」。

高校一年生の「相馬いと」は、ちっこくて人見知りで極度の泣き虫。三味線には自信があるけれど、
濃厚すぎる津軽弁が劣等感(コンプレックス)で、コミュニケーションが大の苦手。今年、人生史上、
最大の冒険始めます。本州最北端のメイドカフェでアルバイト開始! ああでも、やっぱす、
わぁには無理だぁ! 津軽の夏、グルーヴィンな青春小説!(紹介文抜粋)


越谷さんの最新作。メイド喫茶でアルバイトをすることになった究極の人見知り女子高生が
主人公の青春ストーリー。津軽弁は正直読みづらいところもあったのですが(^^;)、訛りを
気にする主人公のいとちゃんの焦りっぷりがなんだかいじらしくて可愛くて、思わず応援して
あげたくなってしまいました。なんとも、庇護欲をそそるヒロインです。人見知りで泣き虫で
友達を作るのが苦手ないとちゃんが、何を間違ったかメイドカフェでバイトをすることになり、
人生初の窮地に立たされてしまう、というドタバタな感じが面白かったです。極度の津軽訛り
が染み付いてしまっているせいで、『ご主人様』が言えずに『ごすずんさま』になって焦ったり
しちゃうところがなんとも可愛らしくて、まさに『萌え~~~』って感じでした(笑)。いや、本人
至ってまじめで真剣なだけに、余計に可愛いっていうかね。だって、メイド服5号だし(!!!)。
もう、完全にオヤジ目線で読んでた気がしますよ・・・(ヘンタイ?^^;)。

メイドカフェで働く仲間たちもみんな個性的だけど温かくて、とても好感が持てました。
みんなで慰安旅行に行く場面で、いとちゃんが『家族みたいだな』って思うところが印象的
でした。こういう人間関係の職場で働けるっていうのは、なかなかないことですよね。いと
ちゃんが羨ましくなりました。でも、いとちゃんを車で送ったオーナーが去り際に言うセリフ
で、何かありそうだな、と思っていたので、その後の展開にはショックを受けました。でも、
もっと最悪な結末を想像していたので、それよりはまだましではあったのですが。その後の
展開は、ご都合主義極まりないと言えってしまえばそれまでなのですが、私もそこまで
読んで来て、このメイドカフェとここで働く人びとに愛着が湧いていたので、青木さんの登場
には内心ガッツポーズでもしたくなりました(笑)。普通に考えたら、こういう状況で銀行が
そのまま融資してくれるなんて有り得そうにないけれど(特に、池井戸作品で銀行のシビアさ
を痛感させられているだけに^^;)、思わぬ救世主の登場に拍手でした。

いと以上に骨董品なみの津軽弁を操る、ハツヱばあちゃんの存在も光ってました。伝統的な
津軽三味線の曲だけでなく、海外のロックアーティストの曲までも弾きこなしてしまうところ
がかっこいい。吉田兄弟みたいだだな~と思いました。津軽三味線を粋に弾きこなせる人って、
ほんとかっこいいと思います。吉田兄弟が演奏してるのとか、ほんと見入っちゃいますからねぇ。
クライマックスのいとの演奏シーンも素敵でした。メイド服を着た小さな身体で、ハードな
津軽三味線の曲を無心で弾くいとちゃんの成長っぷりが清々しかったです。
いつかオーナーが帰って来た時に、彼女のこういう成長した姿を見せてあげて欲しいな、と
思いました。


涙と笑いが絶妙に配合されていて、最後はしっかり感動出来る爽やかな青春小説でした。
表紙は完全に萌え系ラノベ小説風ですが^^;
越谷さんの青春小説はやっぱりいいですね。
『メイド服』というと、なぜか他人事に思えずそわそわしてしまう自分にとっては(^^;)、
なかなかにツボにはまった作品でした(笑)。面白かったです。