ミステリ読書録

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田中啓文/「ハナシはつきぬ! 笑酔亭梅寿謎解噺5」/集英社刊

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田中啓文さんの「ハナシはつきぬ!笑酔亭梅寿謎解噺5」。

青春落語ミステリー、波乱万丈の最終巻!
苦し紛れの一発ギャグで売れっ子タレントになった笑酔亭梅駆こと竜二。事務所からは落語を
封印され、ストレスが溜まる一方。ある日、バイク事故を起こして噺家の命である声を失って
しまう……(あらすじ抜粋)。


梅寿シリーズ最終巻。一作ごとに副題の『謎解き噺』の部分に意味をなさなくなっていった
このシリーズ。最終巻はその原型さえ留めていなかったような・・・^^;まぁ、謎解き部分が
あってもなくても、面白ければそれでいい訳なんですけれどもね。今回、竜二は、兄弟子の
梅雨の代わりに出演したテレビのバラエティ番組で、とっさに出てしまった一発ギャグによって、
思わぬ反響を得たことで、一躍人気タレントになってしまいます。けれども、師匠の梅寿は一発
ギャグが大嫌い。竜二は、師匠に内緒で数々のテレビ番組に出演し、人気者になっていきます。
けれども、タレントとしての人気が出る代わりに、落語ができなくなった竜二は、自分はとても
落語がやりたいことに気が付き、ストレスが溜まって行く・・・。

何度も落語から逃げようとして来た竜二ですが、最終巻では、強制的に落語から遠ざけられたことで、
落語への本当の思いを認めることが出来たようです。ただ、皮肉なもので、『落語が好き』だと
素直に認められた矢先に、ある事故によって竜二は声を失ってしまいます。落語がやりたいのに、
声が出せない、そのジレンマの辛さに折れそうになる竜二が可哀想になりました。とはいえ、
もとはといえばそうなったのは、全部本人の自業自得な訳なんですけど。やっちゃダメだって
いうことを、ことごとくやってしまい、結果最悪の状況に陥る、の繰り返しばかりで、読んでる
こっちが歯がゆかったです。ほんと、竜二って学習能力のないヤツですよねぇ・・・。彼は、
もうちょっと我慢とか忍耐ってものを知った方がいいですね。

でも、そんなアホな弟子でも、梅寿にとっては一番可愛い弟子なんですね。最後の最後まで
竜二を見捨てない梅寿の心意気に胸がじーんとしてしまいました。自分の一番大事な五十周年の
独演会で、あの状態の竜二と師弟対決なんて。竜二になんとしてでも復活して欲しかったん
ですね・・・。やっぱり、このシリーズは梅寿ありき、なんですね。最後まで美味しいところを
持って行くひとだ。声が出なくても、必死で落語をしようとする竜二の必死な姿にも感動しました
けどね。

小学生噺家の梅の種のキャラクターも良かったです。最後、竜二との関係がいいですね。竜二
よりも遥かに素直な分、落語家としての成長も早そうです。師匠が竜二ってのが心配ではあり
ますが(苦笑)。竜二が入院した時の甲斐甲斐しい働きっぷりが健気でした。


これで終わりとは寂しい限りです。もうちょっと、梅寿と竜二の活躍が読みたかったなぁ。
でも、最終巻らしい盛り上がりのあるストーリーで、最後は感動で締めくくってくれて、良い
終わり方だったと思います。竜二も、落語家としてちょっぴり成長出来たように思いますしね。
落語の面白さも十二分に伝わって来て、気持ち良く読み終えられました。面白かったです。