ミステリ読書録

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又吉直樹/「第2図書係補佐」/幻冬舎よしもと文庫刊

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又吉直樹さんの「第2図書係補佐」。

お笑い界きっての本読み、ピース又吉が尾崎放哉、太宰治江戸川乱歩などの作品紹介を通して自身
を綴る、胸を揺さぶられるパーソナル・エッセイ集。巻末には芥川賞作家・中村文則氏との対談も
収載(紹介文抜粋)。


お笑いコンビ『ピース』の又吉さんの読書エッセイ。芸能界きっての読書家と言われる又吉さんが
読書エッセイを出されたのを知って、是非読んでみたい、と思っていました。もともと又吉さん
のことは、読書家と知る前からあの妙~な負のオーラ(笑)が異彩を放ってる感じがして、気に
なってる芸人さんでした。ある番組で、又吉さんが太宰治を激愛していて、かなりの読書家と
聞いて、より親近感が湧いて以来、テレビに出てるとつい注目して見ちゃうようになりました。
サッカーも上手だそうですしね。見た目とはいろんな意味で随分ギャップがある方ですよね。

さて、本書。冒頭で読書エッセイと一応書きましたが、実際はほとんどが又吉さんの過去の
経験を綴った私的エッセイ。本についての紹介はといえば、ほとんどが最後の数行でちらりと
触れてあるだけ。ただ、だからといって、本がないがしろにされているって感じはありません。
どちらかというと、本の内容に沿うような過去の経験を一生懸命探して書いたのではないかと
思えました。それに、エッセイ部分だけでも十分面白いし、何より、全体通して、又吉さんが
本当に本を愛しているのは十分伝わって来るので、一冊通してとても楽しんで読めました。
本を愛している人が書くエッセイを読むのは大好きです。取り上げられている本のタイトル
だけ見ても、又吉さんが本当に読書家だというのが誰にでもわかる筈です。太宰を始めとする
純文学だけではなく、本当にいろんなジャンルの作品を幅広く読まれている。私はかねてから
読書家というものは、幅広いジャンルを読んでこそ、憚らずに名乗れるものだと思っているので、
又吉さんは間違いなく読書家と言っていいと思います(もちろん、自分が読書家だと思ったことは
一度もありません)。

ちなみに、取り上げられている本は、全部で47冊。これだけでも、すごい量ですよね。本に
ついて触れられているのが最後の数行だけでも、又吉さんがその本を面白いと思って読んだ
ことがわかります。私が読んだ本は、その中でも数えるくらいしかなかったけど、京極さんの
巷説百物語島田荘司さんの『異邦の騎士』が入っているのが嬉しかったな。ミステリー
はほとんど入ってなかったのがちょっと残念でしたが。本の好みは私とは大幅に違ってましたが、
本に対する思いやそこから得られる感動なんかに関しては、すごく共感出来るところが多かった。
それに、冒頭の『はじめに』の部分で書かれていた言葉を読んで、自分がブログをやっている
中で考えていることすごく似ていたので、そこからしてすごく嬉しくて、これからエッセイを
読み始めるのがすごく楽しみになりました。

『僕の役割は本の解説や批評ではありません。僕にそんな能力はありません。心血注いで書かれた
作家様や、その作品に対して命を懸け心中覚悟で批評する商標かの皆様にも失礼だと思います。
だから、僕は自分の生活の傍らに常に本という存在があることを書こうと思いました。本を
読んだから思い出せたこと。本を読んだから思い付いたこと。本を読んだから救われたこと(後略)』

又吉さんの思い出にはいつも本が直結してることが伺えて、この人ほんとに本が好きなんだな、
と思わされたのでした。取り上げられている本についての感想はほとんど一言二言しか触れ
られていなくても、又吉さんの思い出に直結するような面白い内容がその本の中には書かれて
いるんだろうな、というのが想像出来て、不思議とその本が読んでみたくなるようなエッセイ
になってるところがなかなかニクイな、と思いました。こういう、ちょっと回りくどい本の
紹介の仕方もあるんだなぁ、と面白かったです。又吉さんの文章自体もなかなか巧いと思うので、
小説書いてみたらいいのになーと思っちゃいました。エッセイと小説は違うでしょうけど・・・。
途中でちょこちょこ出て来る妄想の世界の描写がなかなか面白いんですよ。もともと、お笑い
やる人は頭の回転が早くて頭いい人が多いとは思うんですけどね。

取り上げたいエピソードもたくさんあったのですが、『梅干しを食べたムンク(略して梅ム)』
エピソードとか、その光景を想像して、読んでてつい吹き出しちゃいました(笑)。きっと、
めちゃくちゃ真面目にその顔してたんだろうなぁ・・・とか思ったら、もう(笑)。
知らずに太宰治の家と同じ住所に住んでた、というのはテレビでも知ってたエピソードなんですが、
やっぱりその偶然には運命を感じずにはいられませんね。さすがに売れっ子になった今は、その
住所にはもう住んでないのかな。売れても、その場所に拘ってて欲しい気はするんですけどね。


なんだか、この本を読んで、ますます又吉さんのファンになっちゃいました。
ちょっと前にアメトーークの読書家芸人だかなんだかの回でも、又吉さんってやっぱ
すごいなーと思ったんですけどね。これからも注目したい読書芸人さんです。

この表紙はちょっとかっこいいね。後ろの本棚はご本人の自宅の本棚なのかしら。
しかし、幻冬舎によしもと文庫なんてものがあるなんて初めて知りましたよ。よしもとの芸人さん
専用のレーベルなんですかね。