ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

梓崎優/「リバーサイド・チルドレン」/東京創元社刊

イメージ 1

梓崎優さんの「リバーサイド・チルドレン」。

僕らは、確かに生きている。君という人間を、僕は憶えている。カンボジアの地を彷徨う日本人
少年は、現地のストリート・チルドレンに拾われた。「迷惑はな、かけるものなんだよ」過酷な
環境下でも、そこには笑いがあり、信頼があった。しかし、あまりにもささやかな安息は、ある朝
突然破られるーー。突如彼らを襲った、動機不明の連続殺人の真相とは? 激賞を浴びた
『叫びと祈り』から3年、カンボジアを舞台に贈る鎮魂と再生の書(紹介文抜粋)。


『叫びと祈り』で衝撃のデビューを飾った梓崎さん待望の二作目。二作目まだかな、まだかなーと
思っていたので、書店で新刊を見つけた時は嬉しかったです。
今回は長編。舞台はカンボジア。主人公は、理由あってカンボジアでストリート・チルドレンに
ならざるを得なかった日本人少年ミサキ。仲間と共にゴミを拾って売った微々たるお金で日々の
糊口を凌いでいます。日々の暮らしは厳しく過酷であっても、頼りになる仲間に支えられて
必死に明るく生きようとするミサキたちストリートチルドレン。けれども、ある日突然仲間の一人が
殺されたことから、彼らの生活は激変します。それを契機に、一人、また一人と仲間が殺されて
行く。虫けら同然と見做されるストリートチルドレンを殺して得をする者など、カンボジアには
誰もいない筈なのに。一体誰が、何の為に?と、大まかなあらすじはこんな感じ。

前半はかなり苦戦しました。なんせ、今回の舞台がカンボジアで、しかもストリートチルドレン
が主役。彼らの仕事はゴミ捨て場からゴミを拾うこと。そういう場面の描写がリアルなだけに、
読んでいて何度も気持ち悪くなってしまって。なんだか、臭いまで漂って来そうなんですもの。
彼らの生活そのものが淀んだ空気に覆われている感じがしました。天気もずっと雨だし。ただ、
その雨の描写が梓崎さんらしいしっとりとした叙情性を醸しだしているところは良かったのですが。
幼い子供の頃から、こんな酷い生活を余儀なくされなければならないなんて。それでも、
カンボジアにはそういう子供が山のようにいるのが当たり前。子供だろうが、狡猾でなければ
生きていけない。彼らの厳しい日常を当たり前のように突きつけられる。どうしたって、読めば
読む程気が滅入って来てしまう。途中までミステリ的な要素も全く出て来ませんでしたし。
だから、前半は驚くほど読むペースが遅かったです。読んでも読んでも進まない、みたいな。
場面が変わっても、彼らの日常を追うことが基本となっているので、あまり物語も進みませんし。
これはどうしたものか、と思っていたのですが、殺人が起きてミステリ要素が強くなって来る
後半からはぐいぐいスピードアップして読めました。日本で起きる殺人と違うところは、殺された
少年たちが殺されたことに対する扱いがあまりにも軽いところ。カンボジアでは、ストリート
チルドレンが殺されたからといって、騒ぐ人は誰もいない。それどころか、警察官こそが、目障りな
ストリートチルドレンを殺して回ることすら日常なのです。彼らにとって、そうした子供たち
など、虫けらほどの価値しかない。すなわち、彼らにとってストリートチルドレンなど『人間
ではない』ということです。こんな価値観がまかり通る世の中なんて。腐っているとしか思えません。

率直な感想としては、ミステリ的な驚きというのはほとんどなかったです。連続殺人の犯人も
選択肢が少ないだけに、意外性はあまりない。けれども、その動機は、今までになかったもの
ではないでしょうか。あまりにも悲しすぎる、この作品の世界観をそのまま映しだしたような
動機。とてつもなく、やりきれない思いだけが残りました。

――雨とは、涙なんだ。
――どうしようもなく辛いときには、星が代わりに泣いてくれるんだ。

こんな風に思えることは、人間であることの証明でもあるのに。何の感情もなく子供を殺せる
警察官たちなんかよりも、ずっとずっと人間らしいのに。
どうしようもなく理不尽なことが、当たり前のようにまかり通る世界があるという事実が
悲しかったです。
やりきれない事件ですが、ラストシーンで少し明るさが見えるところが救いでした。雨乞いの
おじいさんのキャラクターがいいですね。悲しくも美しいラストが印象的でした。

ミサキがこれからどうなるのかは気になります。それにしても、彼の父親の非道さには腸が
煮えくり返る思いがしましたね。カンボジアの警察官たちと同じくらい、いやそれ以上と言える
くらい嫌悪感を覚えました。
父親が、自分の息子を売った真意とは何だったんでしょうか。厄介払いがしたかったのか、
お金が欲しかったのか。何か悪いことをして借金でも抱えてたんですかね。この父親こそ、
人間じゃないと思いましたけどね。因果応報、いつかその報いを受ければいい、と思って
しまいました(黒べ?^^;)。

ところで、ミサキが出会った日本人の青年は一体何者だったんでしょうか。もしかして、
『叫びと祈り』に出て来たあの青年・・・?と思ってしまうのは、さすがに穿ち過ぎですよねぇ。
最後まで正体がわからないままだったので、ついつい、いろいろ考えたくなってしまいました(笑)。


正直、期待が大きすぎたせいか、ミステリ的には若干肩透かしな印象はありました。もうちょっと
派手に驚かせて欲しかったかなぁ、と。前作ほどのガツン!という衝撃はなかったので。
でも、カンボジアの貧民窟という、お世辞にも綺麗とは言い難い舞台設定で、ここまで叙情性を
出して読ませる手腕はさすがだなぁと思いました。雨を効果的に使ったところも評価したい
ですね。
前作から本書までに三年もかかっているそうなのですが、次回作はもう少しインターバルを短くして
頂きたいところですね。