ミステリ読書録

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有栖川有栖/「菩提樹荘の殺人」/文藝春秋刊

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有栖川有栖さんの「菩提樹荘の殺人」。

学生時代の火村英生の名推理が光る「探偵、青の時代」、若いお笑い芸人たちの野心の悲劇
雛人形を笑え」など、青春の明と暗を描く(紹介文抜粋)。


ひさーしぶりに単独作品の記事。こういう形式じゃないと、INDEX書庫に書名が載せられないので、
ほんとなら毎回単独で記事を書きたいところなんですよね^^;

有栖川さん最新作は火村シリーズ短篇集(表題作は100ページ近くあるので中編に
入るかもしれませんが)。四作収録されています。んで、うち2作は小説誌で既読。トリック
とか動機とか相変わらずすっぱり忘れていたので普通に楽しめましたけどね(こういう時
アホな鳥頭だと得だ(笑))。若かりし頃(大学生時代ね)の火村先生が登場する『探偵、
青の時代』がなんといってもファンには嬉しい一作じゃないでしょうか。いや、もちろん
表題作が一番ページ数も多いし表題になるくらいだから一番目玉の一作なのも間違いないので
しょうけれど^^;
ミステリ的にすごく感心したって作品がある訳じゃないんだけど(おい)、やっぱりどの作品も
安定して楽しめますね。このシリーズの記事書く度に同じセリフ書いてるんですけどね、
私は火村先生とアリスが仲良く登場するだけで、もう十分満足出来ちゃうんですよね。
ミステリとして弱かろうが、腑に落ちない点が多々あろうが、ね。甘いね、ほんとに(笑)。


では、各作品の感想をば。

アポロンのナイフ』
アポロンのような美少年の連続殺人犯が逃走し日本中を震撼とさせている中、大阪で新たな
連続殺人事件が起きる。逃げている殺人犯の逃亡先リストには大阪も入っていた。大阪の
事件も同じ犯人によるものなのか。

二つの連続殺人は関係があるのかないのか。その結末には若干拍子抜けしたところもあったの
ですが、大阪の女子高生殺人事件の真相の方は、ある人物がした行為に驚かされました。行為
というか、それをした動機にっていう方が正しいかなぁ。気持ちはわからなくもないんだけど、
捜査を攪乱させるようなことをするのはどうかと。確かに少年犯罪の取り扱いには理不尽な点が
多いと思いますけどね、私も。
ただ、残念なのは、アポロンの方の結末があっさりしすぎだった点。個人的には、そっちの
事件の方をメインに読みたかった気がするなー。あと、アリスが出会った少年がアポロン本人
だったのかどうかも(アリス同様)気になりました。そうとわからずに殺人犯とニアミスしてた
としたら、ぞーっとしますね。アリスが鎖国中でテレビを観ていなかったことが幸いしたのかも。
しかし、私も一ヶ月間外界をシャットダウンして読書強化月間やってみたいーー!それが実現
出来ちゃうアリスがちょっとうらやましかったです(笑)。

雛人形を笑え』
お笑いコンビ<雛人形>の一人が殺された。<雛人形>は、数年前にコンビ変えをしてから人気が
出た若手の漫才コンビ。火村とアリスは現相方や元相方に話を聞いて回るが・・・。

死体の奇妙な格好の理由は、正直ちょっと腑に落ちないものがありました。死の直前にそんなこと
する余裕あるのかなぁ・・・。ま、ダイイングメッセージなんて大抵が腑に落ちないものばっかり
なんですけど^^;;
アリスがコンビ改変前の雛人形のコントを見ていたというのが、なんだか運命的な感じがしました。
とはいえ、活躍してからの彼らを全然認知していなかったのだから、なんとも勿体ない話ですが。
サインでももらっておけば良かったのにねぇ(苦笑)。

『探偵、青の時代』
勉強会と称した飲み会に招かれた大学生の火村。雨が降る中飲み会に遅れて来た彼は、メンバー
たちの態度に不審なものを覚える。彼らは何かを隠している・・・火村が指摘する彼らの秘密とは。

火村先生が、大学時代にもその名探偵の才能を遺憾なく発揮していたことがよーくわかるエピソード。
大学生なのに、この落ち着きは何なの^^;;アリスが横にいない分、よりクールさが際立って
いるような。でも、飲み会に来る前に、メンバーたちが停めた車の下を火村先生が覗いた理由に
くすり。それに気付くアリスもいいですね。さすが、付き合いが長いだけある(笑)。その頃から
火村センセーの○好きは健在だったのね(笑)。

菩提樹荘の殺人』
アンチエイジングで名を馳せてメディアにひっぱりだこだった男が殺された。遺体は男の自宅の
庭の樹の根元に倒れていた。死体は下着を着けているのみで、ほぼ裸同然の姿であり、衣服は
側の池の中に捨てられていた。時代の寵児の不可解な死の真相とは。

今回一番ページ数が多いだけに、なかなか読み応えがありました。火村センセとアリスの出会いの
エピソードが読めたのが嬉しかったな。アリスが初めて書いた菩提樹荘の殺人』が読んで
みたいです。作中作として登場させてくれれば良かったのにな~(って、それ書いてたら長編に
なっちゃうか(笑))。
被害者がアンチエイジングの寵児ってところが時代を反映させてますね。誰だって若さを保ちたい
ものですもんねぇ。こういう男がもてはやされるってのもわかる気がしますね。私だって、肌に
いいっていう食べ物の情報を聞いたら、思わず食べたくなるものね(苦笑)。
犯人はそれほど意外な人物じゃなかったですが(明らかにちょっと怪しかったし^^;)、
被害者の遺体が服を着ていなかった理由には唖然。○○○○○の代わりとはね・・・しーん。
その部分に関しては納得しましたし面白かったんですけど、動機に関してはいまひとつ理解
出来なかったかなぁ。


あとがきによると、今回共通したテーマは『若さ』なのだそう。確かに、各作品で火村センセと
アリスの若かりし頃の思い出やエピソードがちょこちょこ登場してますね。『菩提樹荘~』
ではアリスの苦い初恋の思い出まで登場してますからね。初めてのラブレターの結末が悲し
過ぎる・・・。そ、そこまで辛い思い出があったとは・・・。アリスも間が悪い時に渡しちゃった
んだろうな。もっと、違う時期だったら彼女の対応も違っていたのかなぁ。彼女の翌日の行動が
アリスの手紙がきっかけだとは絶対思いたくないです。でも、その経験がアリスに創作意欲を
湧かせるきっかけになったのだからね。言い方悪いかもしれないけれど、何が幸いするかわから
ないものですね。アリスにとって、いつまでも胸が痛む悲しい思い出なのは間違いないでしょう
けれどね。


今回も装幀がかっこいいですね。楽譜が菩提樹の形になってるという。この音符はやっぱり
シューベルトですかね。菩提樹ってどんな曲だったっけ。あとでYouTubeで調べてみようっと。