ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

知念実希人「硝子の塔の殺人」(実業之日本社)

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最近大人気の知念さんに初挑戦。評判の良い作家さんなのは知っていたのだけれど、

医療ミステリってところにイマイチ食指が動かず、未読のままでした。でも、

本書は敬愛するミステリ作家さんたちがこぞって大絶賛しているらしいし、この

タイトルからして本格っぽさ満載だったので、絶対読んでみたいと思っていた作品。

島田御大と綾辻さんの推薦なら間違いなさそうですからね(特に綾辻さん推薦作品

にかなり絶大な信頼を置いているワタクシなので)。

結果、今年の本ミス1位、これで決まりかも!?って思っちゃうくらい、とても

面白かったです。そして、めちゃくちゃ本格+新本格ミステリへの愛に溢れていて、

読んでてとっても楽しかった。とりあえず、古今東西の本格要素全部まるっと

詰め込みましたって感じ。かといって、煩雑にならず、かなりすっきりと読める点

でも評価したい。何より、それなりに奇抜なトリックなのに、非常にイメージしやすい

ところがいい。基本設定は、雪で外界から閉ざされた館で起きる連続殺人事件という、

こってこての古典的なクローズド・サークルミステリ。ミステリマニアの館の

主人が集めたメンバーも、医者・刑事・料理人・霊能力者・小説家・編集者、

そして名探偵(+給仕で働くメイドと執事)と、いかにも殺人事件が起きそうな

曲者揃いのメンバー構成。第一の殺人のみが倒叙ミステリとして、冒頭で

犯人の犯行がそのまま描かれています。ただし、第一の殺人の犯人とは別の人間が、

第二、第三の殺人を起こして行く。ここで面白いのは、第一の殺人の犯人が、

自分の犯罪を第二と第三の殺人の犯人になすりつけるべく、後の二つの事件の

犯人を名探偵に推理させ、自分がいち早く犯人を知る為、ワトソン役に立候補する

ところ。自分の犯罪を棚に上げて、それを残り二つの事件の犯人になすりつける

というかなりのゲス野郎発想に辟易しましたけれど。出て来る登場人物には

ほとんど好感持てるキャラが出て来なかったですね。そこはまぁ、マイナス要素では

あるけれど、それがまた往年の本格ものっぽさが出ていていいとも云えるし。特に

名探偵役の碧月夜は、またひとクセもふたクセもあるようなキャラクターで、

エキセントリックな性格が名探偵らしいといえば名探偵らしかったです。ただ、

全く好感持てるキャラではなかったけれども。超がつくほどのミステリフリークで、

事件の捜査そっちのけでミステリ薀蓄を語りまくるところは、ミステリ好きの私

でさえちょっと鬱陶しいなと思ってしまいました。古今東西のいろんなミステリ

作品がちょいちょい登場するところは、ミステリ好きにとってはニヤニヤしちゃう

場面でもありましたけれど。

特に、綾辻さんの館シリーズへの愛が随所で感じられたところは大いに共感出来

ました。まぁ、本書の舞台である硝子館自体が、綾辻さんの館シリーズに触発されて

建てられたという設定になっているので当然なのですが。これは、綾辻さんご自身も

読んでいて嬉しい作品だったんじゃないかな。本書を読んで、改めて館シリーズ

読み返したくなった読者もたくさんいるんじゃないかな~(私もですが)。

三つ目の殺人のトリックは、面白いけどかなり強引なもので、こんなの上手く

行くものなのかな、と疑問を覚えたりしていたのだけど(被害者に着せられた

衣装の理由もいまいち納得がいかなかったし)、それも含めて、いろんな部分の

違和感や無理矢理感がすべて、ラストの反転への伏線になっていたところには

脱帽でした。なるほど、そういうことだったのか、と腑に落ちるものがありました。

ちなみに、作中でも触れられていたけど、三つ目の殺人のトリックを読んだ時、

私もS御大のあの作品思い浮かべました。館の傾斜を利用といえば、ね。

三つの殺人の謎が明かされた時点でも、まだかなりページが残っていたので、

絶対まだ何か仕掛けがあるだろうとは思っていたのですけれど、まさか、

名探偵が○○○とはね。そう来ましたか。こういう反転は個人的にはあんまり好き

じゃないけど、驚かされたのは間違いない。帯の綾辻さんの『ああ、びっくりした』

というご感想、まさにその通り!って感じでした。まぁ、ミステリの法則に則ると、

これは反則じゃないのかって気もしますけども。最後の締め方はもう一捻り

ほしかった気もしますが、とにかく最後までミステリファンを楽しませる工夫が

してあるところが素晴らしかったと思います。ただまぁ、こてこてのミステリ

ファンなら楽しめると思うけど、そうじゃない人にはどうなんだろうな~。

本格ミステリ大好きで、新本格ミステリを読んでミステリにどっぷりハマった世代

としては、これ以上ないくらいに好みの作品でしたが。硝子の塔の作り自体にも

細かい仕掛けがあって、面白かったですね。隠し○○は反則だろう~と思いましたが、

それも含めた伏線だったしね。

真犯人の動機の異常さには怖気が走りました。これぞ狂気。これぞサイコパス・・・。

ほとぼりが冷めた頃、また新たな犯罪に手を染めそうだ。一番会いたい人物に

会えるまで諦めないのかも。

知念さん、他の医療ミステリはどんな感じなのかな。評判良いから、そちらも少し

づつ手をつけていこうかな。この手の本格よりの作品があるなら、そっちを先に

読みたいですけどね(あるのかな?)。