ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

『ミステリと私』~本楽大学ミステリ学部入部に向けて~

2007年1月。
寒風吹きすさぶ中、邊瑠子は不安な面持ちで佇んでいた。ついに夢だった本楽家大学
ミステリ学部に入学できるかどうかがわかる日なのだ。
「ついにこの日が来てしまった・・・」
邊瑠子は、掲示板を見る勇気が出ずに、顔を下げたままここに至るまでの経緯を回想
し始めた。


名門本楽家大学に新しく設置されたミステリ学部。
かねてからミステリばかりを読み漁って来た邊瑠子は、新学部設置のニュースを聞き、
早速資料を集め、心躍らせて願書を提出した。しかし、試験勉強に辺り、邊瑠子は重大な事実に
気付いた。ミステリ学部といえば、古今東西のミステリを読んでいなければいけない。
しかし、邊瑠子はカタカナの頻発する海外小説が苦手だった。どうにもこうにも名前が
覚えられないのだ。クリスティやカーにも何度か挑戦した。ヴァン・ダインも読んでみた。
しかし、やはり邊瑠子が心惹かれるのは日本古来の本格推理小説、特に横溝正史のような
おどろおどろしい世界観の本格小説なのだ。今からでは到底海外の作品まで勉強しきれない。
どうしよう。焦る邊瑠子。ふと、もう一度受験要綱を確認してみた。ミステリ学部設置
という事実に舞い上がって、録に読まずに放っておいたのだ。すると、そこには
本楽大学ミステリ学部の校長・マダムしろねこからの意外な一言が書いてあった。

「試験科目は唯一つ。『ミステリと私』の題でレポートを書くこと」

「な、なんだ。レポート提出だったのか。」ほっとする邊瑠子。これなら何とかなりそうだ。
とにかくミステリについて語れば良いのだから。しかし、ミステリについてという
漠然としたテーマを与えられて、一体自分は何を語ればよいのだろう?きっと他のミステリ好き
の受験者たちはものすごいものを書いてくるに違いない。そんな中で自分の浅いミステリ知識で
合格点がもらえるものが書ける訳がない。萎えかける心。しかし、ミステリに対する思いだけは
他の人に負けない筈。とにかく、ミステリとの出会いと情熱を素直に紙面にぶつけてみよう。
そう決意した邊瑠子は、急いでペンを取りレポートを書き始めるのだった。



『ミステリと私』


思い返してみると本がものすごく好きな子供という訳ではなかった。

中学位迄は本や音楽よりマンガに熱中していた。実際、将来の夢を

聞かれる度に漫画家になりたいと答えていた。放課後、友人と誰かの

自宅に集まっては大好きな漫画を持ち寄って読んだりしていた。ミステリを

読み始めたのは中学の時の赤川次郎からだったと記憶している。友人がやたら

と赤川フリークでミステリなどほとんど読んだこともなかった私だが、借りて

見るとこんな風にステキな世界があるのだ!と目からウロコが落ちる思いだった。

高校でしばしミステリからは離れることになるのだが、再びはまったのは大学の図書

館で有栖川氏のダリの繭を読んだのがきっかけだった。それから、新本格という

ジャンルを知り大学生を主人公にした有栖川氏の月光ゲーム、綾辻氏の十角館の殺

人というような大部分のミステリ好きが必ず読んでいるような本も読むようになった。

無謀だと思いつつ創作ミステリなどに挑戦しようと目論む位までのめり込んだ。特に私

が好きだったのは設定が嵐や雪で外界から閉ざされた所謂クローズドサークルものだった。

読んでいる途中でおかしいと思いながらも、最後で明かされる真実に、騙された!と

爽快感を覚えるうめき声を上げる好きだった。

私はそんなこんなでミステリにどっぷりはまり込んだまま、現在に至る。最近では

ミステリブログ等というものまで立ち上げ、面白いミステリ情報収集に勤しむ日々を

過ごしているという次第だ。ブログというのは非常に面白い。自分が一番ミステリ

に詳しいというおごり高ぶった意識を見事に打ち砕いてくれる仲間が山ほどいる。

新設学部希望者をざっと見渡してみても、錚々たるメンバーだ。こんな中で自分は

果たしてこの先いい加減にならずにミステリを学んで行けるのだろうか。不安が過る。

しかしそれよりもまずは入学できなければ何も始まらない。とにかくこのレポート

を書き終えてからすべてが始まるのだ。

ここからが挑戦だ!

                          
 富長邊瑠子

 



と、ここまで書き終えて筆を置く邊瑠子。読み返す。所々に稚拙な表現が垣間見える。
実に内容の薄い駄文。小学生の作文以下だ。
しかし、書き直している時間はない。それに、邊瑠子には秘策があった。
しろねこ校長はあのメッセージに気付いてくれるだろうか・・・。



そして1月。合格発表の日。掲示板の前で佇む邊瑠子。
邊瑠子はついに顔をあげた。自分の名前が書かれていることを信じて、結果を
確認する為に。



注:この小説は一部を除いてフィクションです。
注2:作中作の中にあるメッセージが隠されています。気になる表現がたくさん
あるので、ミステリ好きの方ならば簡単だと思うのですが。
注3:記事UPしてみるとかなりわかりづらいことが判明しました。すいません・・・。
(下書きの次点だと一目瞭然なのですが・・・)
おわかりになった方、ご一報下さると嬉しいです(誰もいなかったりして・・・)。