ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

岸田るり子/「出口のない部屋」/東京創元社刊

岸田るり子さんの「出口のない部屋」。

編集者の私に作家の仁科千里が差し出したのは「出口のない部屋」という題名の原稿だった。
それは、文字通り‘出口のない部屋’に突然閉じ込められてしまった二人の女と一人の男の
不条理な物語。免疫学専門の大学講師、開業医の妻、人気若手作家。三人は気がつくと赤い
扉の前にいて、その扉に誘われるようにして部屋に入り、閉じ込められた。扉の外に出よう
ともがく三人だったが、扉は無情にも閉ざされ――途方に暮れた三人は、それぞれここに
来るまでの記憶を辿り始めた――私は原稿を読んだ。目の前にいる作家は、私の知っている
人物とはあまりにも変わり果ててしまった。私は全てを明らかにする為にここへ来た――。
第14回鮎川哲也賞受賞作家が贈る、受賞第1作。ミステリフロンティアシリーズ。


作中、ただの一人として好感の持てる人物が出てきません。とにかく出て来る人物それぞれ
反吐が出るようなエピソードのオンパレード。特に作中作の三人のそれぞれの過去はどれも
甲乙つけがたい程酷い。それでも、先が気になってどんどん読み進めて行けました。そして、
ラストで明かされる全ての真実。いやはや、良く出来ています。ちゃんと全てが繋がって
いて、感心するばかり。多少途中で文章に気になる所があったりしたのですが、そこに
目をつぶればかなり完成度の高い本格ミステリと云えるのではないでしょうか。ただ、
作中作の『出口のない部屋』のラストがなんとなくなし崩し的に終わっている所はちょっと
消化不良でしたが。
淡々とした叙述ミステリなのかと思いきや、終盤部分ではかなりエグイ猟奇的表現が出て来て
ちょっと意表を衝かれました。やはり鮎哲賞作家。この人は本物の本格作家を目指して
いるのだろうなぁと思いました。その手の表現が苦手な人は、その部分には引いてしまう
かも。まぁ、平山さんには遠く及びませんけど^^;

それにしても、この方デビュー作(「密室の鎮魂歌」)でも出て来る登場人物全てに嫌悪感を
感じたんですよね。ミステリに好感の持てるキャラはいらないと思っているのだろうか・・・。
正直、本書の犯人の動機は全く理解が出来ませんでした。まさに‘狂気’に取り憑かれた
としか言いようがありません。こういう犯人が一番怖いですね。

作品のラストは救いがないけど、ミステリとしては作者の技巧が光る良作でした。
本格好きな方には是非お薦めしたい一作です。