ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

川に死体のある風景/東京創元社刊

< 川と死体 >――与えられたテーマはこれだけ。六人のe-novels作家(歌野晶午黒田研二
大倉崇裕佳多山大地綾辻行人有栖川有栖)が贈るミステリアンソロジー

とても豪華な作家陣のアンソロジー。佳多山さんだけは名前さえ知りませんでしたが。
(それもその筈、もともとミステリ評論家で、本収録作が初創作だとか)
図書館では早々に開架に並んでいて、いつも手に取りつつも読み逃していた一冊。
題名の通り、< 川に浮かぶ死体 > が共通するテーマ。水死体というのは実際は見られた
ものではないそうですが、シチュエーションだけで考えると確かにとても魅力的。
静かに流れる川に浮かぶ異形のもの。どこから流れて来たのか。どこに行き着くのか。
う~ん、ミステリですね。なんとも魅力的ではないですか?
ちなみに < 川に死体があるミステリ > を川ミスと呼ぶそうです(笑)。

以下、それぞれの感想を。

「玉川上死」/ 歌野晶午
面白かったのですが、正直オチは見えてしまいました。殺害理由もそうじゃないかなーと
アテがついてしまったので、ミステリとしての驚きというのはなかったですね。鶴見のキャラ
の扱いがちょっと中途半端な印象を受けました。

「水底の連鎖」/ 黒田研二
これは面白かったです。謎の提示が魅力的。事故が起こる筈のない道路から転覆する3台の車。
その車にはそれぞれ死体が乗っていた!謎解きは多少偶然に頼っている部分もありましたが、
トータルとしてはなかなか良く出来ていると思いました。オチは「容疑者Xの献身」に通じるもの
があるような・・・。でも一番面白かったのは著者あとがきだったかも(笑)。あわあわしてる
黒田さんがなんとも可愛いです。くろけん応援団の方はここだけでも是非読んで欲しい(笑)。

「捜索者」/ 大倉崇裕
これも良かった。犯人は大抵の人が当たりをつけられるような気もしますが、細かい伏線
の貼り方が好きです。特にサングラスの使い方がいかにもミステリの王道を行っている
感じでいいですね。しかし、あとがきで著者が述べているように、これはどう考えても
< 川ミス > ではなく < (雪)山ミス > ですね・・・どっちかっていうと、黒田さんが
書きそうです(苦笑)。

「この世でいちばん珍しい水死人」/ 佳多山大地
これは一番ダメでしたね・・・。まず私の苦手な外国ものだということ。連発するカタカナ
に頭が大混乱。しかも視点が次々入れ替わり、途中から主題が何なのかわからなくなって
しまった。とにかく文章が頭に入って来なかった。私の読み方のせいかもしれませんが、
やはり、文章的にちょっとこなれてない感じがしました。それに結局主人公が当初与えられた
使命を何にも果たしていないまま終わっちゃうのが何とも消化不良でした。

「悪霊憑き」/ 綾辻行人
綾辻さんということで期待して読んだのですが・・・途中まではとてもいい感じだったんです
よ。佳多山さんの後だし、文章が進む、進む。氏らしくホラー要素を盛り込み、途中京極夏彦
の名前なんかもちらつかせて読んでる方はニヤリ。ただ、謎解きが・・・せっかくのホラー
要素がぶち壊し。突如現実に引き戻されてしまい、作品にのめり込めなかったのが残念。
それにしても、あとがきで述べている当初の構想作品を書いて欲しい。そっちの方がめちゃ
くちゃ面白そうじゃないですか。長編で是非!頼みますよ、綾辻さん・・・。

「桜川のオフィーリア」/ 有栖川有栖
これ一番好き。これ読んで、『なんで、本書を読み逃していたんだ、バカバカ自分!!』って
思いました。誰かに情報聞いてた気もするんですが、すっかり忘れてました。だってねー、
これ、江神シリーズなんですよ!うわうわうわ~~江神さんだー。何年ぶりに会う?(動揺)
アリスもモッチーも織田君(こっちはほとんど覚えてなかったが^^;)も健在!というか、
「月光ゲーム」からわずか4ヶ月後の話なんですけど^^;ミステリとしてはそんなに目新しい
ものではないけど、とにかく六編の中で一番情緒があって美しい作品。桜舞う中で漂う美少女の
死体。いやはや、視覚に耐えうるシチュエーションはこれだけじゃないかなぁ。そしてこの話は
次回の江神長編への序章なのだそう。って、一体いつ出るんだよー(涙)。


江神さんに会えただけでもこの本読んで良かったと思えました(オイ)。でも他の作品も
それぞれに楽しめました。これだけの実力派を集めるのはなかなか大変です。未読の方は
是非お手に取ってみて下さい。