ミステリ読書録

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乾くるみ/「林真紅郎と五つの謎」/光文社文庫刊

乾くるみさんの「林真紅郎と五つの謎」。

法医学者で35歳の林真紅郎は、愛妻を事故で亡くしたショックから勤め先の大学を
辞め、全てに方向性を見失い、早々に「隠居」生活に入った。それから1年半、何も
せずただだらだらと毎日を過ごしていた。そんなある日、姪の仁美ちゃんの付き添い
で行ったコンサートで事件が起きた。ステージの途中で行われたマジックで消失した
女性が、コンサート終了直後に女子トイレの個室で殴打され気を失った姿で発見された
のだ。しかも発見者は姪の仁美ちゃん!真紅郎は持ち前の推理力を駆使して事件の謎
を検証する。そして、真紅郎の脳裏でバラバラだった謎のかけらが<シンクロ>する時、
事件は一挙に解決する――シンクロ探偵林真紅郎が解決する5つの事件を収録。


真紅郎だけに‘シンクロ探偵’――なんて安易な発想、と笑ってしまいましたが、
なかなか面白かったです。扱う事件はラストの「雪とボウガンのパズル」以外は死体は
出て来ず、怪我人どまりでそこまで大きいものではありませんが、謎解きはなかなか
本格。1話目2話目は「なんじゃ、そりゃ」的な解決ではありましたが、後半の作品は
まずまずの出来。3話の「陽炎のように」は猟奇的な手切り魔事件と友人の妻の死の謎、
さらに真紅郎に取り憑いたかのような友人の妻の霊。この3つの要素がラストで鮮やかに
解決される所はなかなか爽快。
4話目の「過去から来た暗号」も好きですね。小学生の頃に考えた暗号を大人になって自力
で必死に解読しようとする真紅郎が微笑ましい。真紅郎が四苦八苦して暗号を解読する経緯が
丁寧に書かれていて楽しめました。その暗号解読が意外な方向に進んで行って、真紅郎のまぬけさ
のおかげで救われた人たちがいるのが良かったです。ただ、真紅郎が読み間違えた友人からの
ハガキの最後の4文字の暗号、私でさえ普通に考えたらアノ言葉しか思い浮かばないのに、
わざわざ難しく読み解く辺りが真紅郎のまぬけさを強調していたような・・・。頭はいいのに、
どこか抜けていてにくめないキャラですね。

ラストの解説でも述べられているように、どの事件も基本的には偶発的なものから起きて
いるものばかりで、そこに人の故意が入っていないせいか、読後感は良かったです。
乾さんがこの手のコメディタッチのミステリを書くとはちょっと意外な感じがしました。
といっても、乾作品は2作くらいしか読んでおらず、その2作も全く正反対のような作風
なのですが。いろんなタイプのミステリが書ける人なのでしょうね。
ほのぼのとまではいかないけど、簡単に読めるので、軽めのミステリが読みたい時などには
是非手に取ってみて頂きたいです。