ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

濱岡稔/「ひまわり探偵局」/文芸社刊

濱岡稔さんの「ひまわり探偵局」。

梅雨真っ只中、雨のそぼ降る午後にひまわり探偵局を訪れたのは、先日亡くなった‘兜町
の風雲児’と呼ばれた実業家・加々美喬正の顧問弁護士だった。依頼は加々美が遺した
不可解なメッセージの解読だった。ほんわかお日様の似合うほのぼの探偵・陽向万象の
推理とは?(『伝言~さよなら、風雲児』)


図書館でふと手にした本書。まずは題名に惹かれて、次は装丁に惹かれて、そして中身を
ぺらぺらめくってみたらどうも内容も好みそう――という訳で早速カウンターへ。
これが、大当たり!3つの中篇と番外編の短編を含む4話で構成される本書。どの話も
とても温かい結末で、登場人物がちょっぴり前向きになれるような作品ばかり。何より、
探偵の陽向氏と助手のさんちゃんのコンビがとっても素敵。二人の掛け合い漫才みたいな
会話はともかく(ある意味、ほぼ内輪ウケ的内容な為、一定年齢以下の読者はほぼ置き去りに
されると想定)、お互いに信頼し合っていて、傍から見ていてとても微笑ましい。陽向氏は
40過ぎのおっさんだけど、甘いものが大好きで、紅茶を淹れるのが上手で、お菓子作りも
プロ級の腕。言動はそこらのガキんちょとほぼ同レベル、でも、一度依頼を受けると、鋭い
目線で名推理を開帳。この陽向氏のキャラがとても良いですね。ほのぼのしてて可愛いおじさん
という感じで、本当に‘ひまわりのような’という形容詞がぴったり。さんちゃんは25歳の
割りに老成した言動で周りから‘オヤジ’扱いされていて、本人もちょっぴりコンプレックス。
このさんちゃんについては、1話目の途中で「もしかして・・・」というのがあったのですが、
当たりでした。さんちゃんが、陽向氏の発言にいちいち突っ込みを入れるのが笑えます。
ただ、さんちゃんのオヤジギャグはほんとにやばいです。25歳でこの言動するさんちゃんの
行く末が心配されます・・・(笑)。

好きなのは二話目の「手紙~花と詩集と少年」ですね。先の展開は読めてしまうけれど、
「吾亦紅」に隠されたメッセージを解き明かすくだりが好きです。「吾亦紅」は私自身も
大好きな秋の草花の一つですし。それに、マドレーヌと紅茶でプルーストを彷彿とさせる
部分もツボ。過去を遡るきっかけの導入部としてよく使われる題材ではありますが。陽向氏の
手作りマドレーヌ、本当に美味しそうで食べてみたい!と思いました。

それにしても、あとがきでも延々と触れられていますが、作者の濱岡さんは相当の漫画好き
のようで、作中にもやたらと古い漫画の題名が出てきます。知らないものも多いのですが、
懐かしくて読み返したいような作品もたくさん。特に、ラストの番外編の冒頭で出て来た
竹本泉の「パイナップルみたい」の名前を目にした時は懐かしくて涙が出そうになった位
(爆)。実は私もさんちゃん同様、‘チェス’というゲームが存在すると知ったのはこの
漫画ででしたので・・・(覚えようともした・・・挫折でしたが)。

どの作品もほのぼのとしていて、優しい気持ちになれるような作品ばかりでした。日常の謎
系作品がお好きな方には是非読んでみて頂きたい一冊。ただし、オヤジギャグが苦手な方は
ちょっと引いてしまうかも・・・。謎解き後の挿話がやや助長な印象も受けましたが、
おそらく作者はこの部分を非常に楽しんで書いているのだろうという感じもするので、その
辺りはご愛嬌、かな。
誰のお薦めでもない、何の先入観もなしになんとなく手に取った作品が当たりだと、砂利の中
から砂金を見つけたみたいな嬉しさがありますね。
本読みにとって、その瞬間が一番幸せな時なのかもしれません。