ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

加納朋子/「モノレールねこ」/文藝春秋刊

加納朋子さんの「モノレールねこ」。

サトルの家にある日突然やってくるようになった、ふてぶてしくて不細工なデブな野良ねこ。
ちょくちょく現れては、柱で爪を研いだり、食卓の上で昼寝をしたり、庭に植えたお花をダメに
したりとと、ろくなことをしない。母親が怒り狂った為河原に捨てに行ったが、捨てたはずの
そのねこは一週間後に再びサトルの家に現れた。そしてねこの首には何故か赤い首輪がはめて
あった。サトルは新しい持ち主に向けて手紙を書き、首輪にくくりつけた。すると、ねこが再び
やって来た時、首輪には返事がくくりつけてあった。こうして、奇妙な手紙の交換が始まった――
(「モノレールねこ」)。温かく優しい、人と人との絆を描いた8編の短編を収録。


やっぱり、加納さんの作品はいいですね。どれを読んでも心がふわんと温かくなる。ただ、
今回の作品に共通するのは誰かの‘死’。それぞれの主人公はいろんな死に直面します。だから
といって、悲壮感漂う作品はほとんどなくて、読後感がとても爽やか。誰もが生きていれば、
必ず‘死’というものに直面する瞬間がある。身近な人だったり、飼っている動物だったり、
その時々で違っているけれど、生の隣にはいつも死というものがある。それはとても悲しくて、
辛くて、いろんなものが見えなくなったりする。それでも、その‘死’を乗り越えて、更に深まる
人と人との絆もあるということを、この物語たちは伝えてくれているような気がしました。

好きなのは表題作の「モノレールねこ」、「ポトスの樹」、そして「バルタン最期の日」
ですね。「モノレール~」は塀の上に載っているねこの姿を「モノレールねこ」と名づけた
タカキのネーミングセンス(というか、加納さんのネーミングセンス?)に笑ってしまった
のと、サトルとタカキのほののぼとした手紙のやりとりがとても好き。ラストはあまりにも
ベタな展開でしたが、こういうのがいいんですよ~。でも、ねこの末路が切なかった。
「ポトス~」は、どうしようもなく酷い父親だと思っていた人物が見せた本当の心と、ラスト
で見せた雄姿に感動しました。こんなに酷い育て方をされたにも関わらず、主人公が全うな
性格に育ったのもすごいと思いましたが(一歩間違ったら殺人事件ものです^^;)。
そして、一番やられたのがラストの「バルタン~」です。バルタンのちょこちょこはさまれる
突っ込みが可笑しい。平和だと思っていた家庭の中に隠された秘密。必死で家庭を明るくしよう
と頑張るお母さんがとても素敵。そして、バルタンに起きた最後の出来事・・・もう、ラスト
泣きそうでした。バルタン頑張った。その思いが家族に伝わったのが良かった。バルタンの頑張りを
知らないままに物語が終わっていたら、悲し過ぎるので・・・。この作品にはほんとにガーンと
やられました。やっぱ好きだー、加納さん!

ちなみに収録作の中の「セイムタイム・ネクストイヤー」のみ、以前e-novels編のアンソロジー
「黄昏ホテル」で既読でした。「黄昏ホテル」という架空のホテルを題材にした短編を集めた
アンソロジーで、どこか懐かしさと切なさを感じさせる良作揃いでした。機会がありましたら、
こちらも合わせて、是非お手に取ってみて頂きたいです。