ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

奥田英朗/「イン・ザ・プール」/文藝春秋刊

奥田英朗さんの「イン・ザ・プール」。

大森和雄はここ一ヶ月の体調不良を理由に、伊良部総合病院にやって来た。検査をしても
特に異常はみられないことから、同じ病院内にある神経科の受診を勧められる。地下一階の
神経科にやって来た大森を待ち受けていたのは、この病院の道楽息子にして精神科医の伊良部
一郎だった(「イン・ザ・プール」)。プール依存症・勃起持続症・被害妄想・携帯依存症・
脅迫神経症・・・トンデモ精神科医・伊良部の元には奇妙な患者ばかりがやってくる!抱腹絶倒・
伊良部シリーズ第1弾。


やっと読めました。シリーズ一作目だけなぜかいつも図書館に置いておらず、読み逃していた
作品。映画は観ていたので、なんとなく話の内容はわかっているつもりではいたのですが、
内容はやっぱり随分違っていましたね。
あー面白かった。職場の空き時間に読んでいたのですが、顔がにやけてにやけて。誰かに
見られてたら、完全に変な人でした(周りに誰もいなくて良かった^^;)。
以下、各作品の感想。

イン・ザ・プール
私も週一回はプールで泳ぐので(しかも大森と同じで2キロ位)、大森が水泳にのめり込んで
行く描写は非常にリアルに感じられました。運動を始めると、確かに出来ない時ってかなり
焦りみたいなものを感じるんですよね。まぁ、大森の症状まで行くと完全に心身症になるので
しょうけど。しかし、5時間ぶっ続けで泳ぐなんて、考えただけでも怖ろしいです。伊良部の
思いつきに脱帽。

「勃ちっ放し」
私は男性じゃないので、この症状についてはなんともいえないのですがー・・・^^;これ、
映画だとオダギリジョーがやってたんですよね。よくもまぁ、こんな役を引き受けたもんです。
人間、言いたいことを溜め込むとろくなことにならない、という教訓話でしょうか(えっ、
違う?)。

「コンパニオン」
主人公には到底共感もできなければ好感も抱けませんでした。でも、こういう被害妄想的な
女性って実際いるんじゃないかなぁ。自分が一番だと思ってるような、他人から見ると
はた迷惑なだけの存在。伊良部とのかみ合わないやりとりが可笑しかったですね。ラストで
成長が見られたのも良かった。

「フレンズ」
これも今の高校生にはたくさんいそうな症状ですね。携帯依存症。メールしてないと落ち
着かない。以前テレビでメールを出して5分で返信が来ないと不安になるという女子高生の
逸話を思い出しました。携帯をあまり活用しない人間にはよくわからん話ではありますが^^;
これはマユミちゃんにしびれました。「友達いるんですか?」と聞かれて、あっさり「いないよ」
と答えるその潔さがいい。ラストの高校生への思いやりもいい。やっぱりマユミちゃん好きだー!

「いてもたっても」
これ好きですねー。主人公岩村が脅迫神経症の果てに起こした行動が何故か極悪犯罪人を
捕まえる結果になるくだりがいい。伊良部が子供みたいにライバル医院に嫌がらせをする
所も面白い。石を投げるっていうセコさが特に好き(笑)。


このシリーズを読んでると、細かい拘りなんかどうでも良くなるから不思議ですね。伊良部
みたいに生きられたら幸せだろうなぁ。でも彼にかかると、みんな結局最後には癒されてしまう
のだから、ある意味名医と云えるのかも。でもやっぱり、実際いたらはた迷惑な人物でしょうねぇ・・・。
順不動で読んでしまった本シリーズですが、一番コレが好きかもしれないです。伊良部の
トンデモぶりが一番際立っているような。落ち込んでたりした時に読むと、悩んでた自分が
バカに思えてきそうです。図書館で借りちゃいましたが、手元に一冊置いておくと良いのかも。
これも一種のサプリメントですよね。究極の癒し系小説なのかもしれません。