ミステリ読書録

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桜庭一樹/「荒野の恋 第一部 catch the teil 」/ファミ通文庫刊

桜庭一樹さんの「荒野の恋 第一部 catch the teil 」。

山之内荒野は鎌倉に住む中学一年生。入学式の日に、電車の中でドアにはさまれ身動き
出来なくなってしまったところを、ある一人の少年に助けられる。新しいクラスに行って
みると、その少年・神無月悠也がクラスメートだと知り嬉しくなったが、なぜか担任が荒野の
名前を読み上げた途端、悠也から冷たい視線を送られ戸惑う。未知の恋に目覚め、少女から
大人へ―― 一人の少女の恋の軌跡を描いた「恋の三部作」第一作。


ファミ通文庫って何だー。初めて買いました(というか、あるっていうのさえ知らなかった^^;)。
冴さん、りあむさんが絶賛されていた桜庭作品ということで、頭の片隅にはひっかかっていた
本書。たまたまふらっと入った古本屋で見かけて「おお!」、100円コーナーにあって
「おおお!」、更にその日店内文庫すべて50円引きに「おおおお~!(狂喜)」←アホ。
・・・という訳で、めでたく50円でゲット(しかも本はかなり綺麗)するという行幸
恵まれたのでした。惜しむらくは、1巻しかなかったことですが・・・(そうそう、世の中
上手くいかない)。でも、100円の本まで50円引きにしてくれるのかは、レジまで
持っていくまでは半信半疑でした^^;定価は640円もするんですね。あれ、普通?
最近文庫は古本屋でしか買わないから感覚がおかしいかも・・・漫画と比べちゃいかん
ですよね^^;;


前置き長くてすいません。購入課程があまりにも嬉しかったんでつい。
そうそう、本書。面白かったです。まだ一作目だから物語がそんなに派手に動いた訳ではない
けれど、主人公・荒野が恋という未知の感覚に目覚めて行く課程がとても良かった。設定
だけ見るとかなりベタなんですが、そこは桜庭さん。個性的なキャラ作りと独特の筆致で
とても読ませる作品に仕上げている。だいたい、主人公の名前が「荒野(こうや)」って
いうところからして実に桜庭さんらしい。あとはやっぱり家政婦の奈々子さんのキャラが
良かった。荒野といる時は実にさばさばしていて、あっけらかんとした人なのに、実は
どうしようもない位に‘女’で、悲しい女性。荒野の父親には嫌悪しか覚えないのだけど、
きっとこういう男性ってたくさんいるんだろうなぁ。そして、こういう男性にやられて
しまう女性も。そういう意味では奈々子さんにも嫌悪を覚えそうなんですが、再婚後の
山之内親子に二度と再会しないというきっぱりした態度を取る彼女はやっぱり潔い人だと
思う。

この作品は少女の初恋を描きながらも、どこか官能の香りがする。もちろん、一番大きい
のは荒野の父・正慶の女性関係からですが、荒野自身の恋愛に関しても、ただプラトニックな
少女マンガ的な恋愛の展開ではないように感じます。生生しいという描写はないのだけれど、
荒野と悠也の間には何か緊張感を伴う妖しい空気が漂っている(最後のシーンだけでなく)。
それが悠也の隠された衝動からなのか、荒野から発する胸が膨らみ始めた少女の色気からなのか、
あるいは、その両方からなのか判断がつきかねるのですが。あとがきで著者自らこの作品の
テーマが「山之内荒野を巡るたくさんの恋と性の謎」と書いていることからも、性が重要な要素で
あるとわかります。荒野の胸が年齢の割にふくらんでいるというのも、ラノベらしい
サービス設定なのかわかりませんが(苦笑)、やはり性を意識する年頃というのを強調
している気がします。荒野が接触恐怖症であるという設定も、今後の荒野の恋愛と性に
関わってくるのでしょうね。純粋なだけではなく、どこかに生々しい感情を抱えた思春期の
少年少女の描き方が秀逸でした。

桜庭さんらしい、どこか変化球的な少女の恋愛。今後の展開がどうなるのか。き、気になる。
三冊揃えてから読み始めるべきだったなぁ・・・。
しかし、あと二冊、古本屋で見つけようとしたらいつ読めるのやら。
買うのか、自分・・・新刊で・・・(神のみぞ、知る)。