ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

三浦しをん/「きみはポラリス」/新潮社刊

三浦しをんさんの「きみはポラリス」。

「ラブレター」「禁忌」「王道」「信仰」「三角関係」・・・『恋愛』をテーマに様々な愛の
形を描いた11編の珠玉の恋愛短編集。


あらすじが短くてすいません。三浦しをんさんといえば、私の第一作は昨年末から今年の
始めにかけて出版界の話題をかっさらっていた「風が強く吹いている」になるはずでした。
図書館待ちしていたらいつ読めるかわからない!と意気揚々と古本屋で購入し、読む気満々
だったのですが・・・なぜか今だに積読棚に・・・どうも読むタイミングを逃しまくってしまい、
今に至っています^^;そんな話題の三浦さんの作品が新刊コーナーにぽつねんと。とりあえず
どんな作家なのか読んでみようじゃないか、と手に取ってみた次第。

かねてから私は恋愛小説が苦手だ苦手だと公言しています。だから恋愛をテーマにとか
言われてしまうとちょっと引いてしまうところがある。でも、本書に出てくる恋愛はそこら
辺にころがっているベタ甘な恋愛とはちょっと違う。そういう作品もない訳ではないけれど、
どれもが歪んだ変質的な愛を扱っている。同性愛、兄妹愛、親子愛、共犯者同士の愛、死者
への愛、・・・どれも他人から見ればちょっと‘いびつ’に映る愛ばかりを描いています。
大きな事件が起こるような作品はあまりないのだけれど、日常の中に潜む歪んだ愛の形を
さらりと描いていて、なかなか上手いな、と思いました。冒頭にBL小説を持って来ること
自体に、『読者に引かれても自分の書きたい作品を書く!』という作者の心意気を感じました
(深読みしすぎ?^^;)。ただ、冒頭のこの作品を読んだ限りでは本当に仄かにその気配を
漂わせるだけに留めているので、気付かない人は気付かないのかも・・・と思っていたら、
最後の最後にこう来たか!作品構成もなかなかですね。岡田の一生届くことがないであろう
想いが切ない。胸に秘めた想いを抱えて一生を生きて行く。可哀想だけど、のんきな寺島
には決して気付くことがないんだろうな。彼らのその後はまた読んでみたいです。

どの作品もそれぞれに上手く纏まっていて読ませるものばかりだったけど、中でも好きだった
作品のみ短評を。

「森を歩く」
のんきでとぼけた性格の捨松のキャラが良かった。捨松の職業、こんなのほんとに実在する
のかな?っていうか、犯罪すれすれの職業ってどうなんだ^^;

「優雅な生活」
なんてことはない話なんだけど、高尾山に登って御来光を拝むという行動に身に覚えが
あるのでお正月を思い出しながら読みました。俊明はなかなか面白いキャラだった。

「春太の毎日」
どこぞで読んだような設定ですが、やっぱりこういう作品はほのぼのしてていいですね。
春太の正体はすぐに気付けちゃいましたが、作者が相当気を遣って描写しているのでちょっと
申し訳ない気持ちになりました^^;

「冬の一等星」
短いけれど、こういう設定は好きです。文蔵がその後どうなったのか気になって仕方ない。
彼は一体何者だったのだろう。



こう書き出してみると、後半に好きな作品が集中してる。前半の作品が嫌いという訳では
ないけれど、後味の悪いものが多い気がする。「私たちがしたこと」のラストの主人公の
行動、彼が望んだこととはいえ、やはり「ずるい」という印象が残ってしまった。「夜に
あふれるもの」「ペーパークラフト」は登場人物に好感が持てなかった。三角関係という
テーマ自体に惹かれるものがないというのもあるかも。でもどちらも嫌悪を感じつつも
読ませる作品ではありました。

装丁の可愛らしさとは裏腹に、内容はかなり濃くてこれ一冊でお腹いっぱいという感じでした。
これで心おきなく「風が強く吹いている」に・・・い、いつ、いけるんだ?今日も7冊も本を
借りてしまったというのに!!ひえぇ。
とりあえず、来年の箱根駅伝までには読みたいなぁ。


追記:表題の「ポラリス」は北極星のことだそう。どうも内容からは似つかわしくない。
恋愛の相手が北極星のように輝いているというような意味でしょうか・・・。でもそういう
明るい恋愛からは逸脱した話が多いので、やっぱり何か変な気がするな。