ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

芦原すなお/「海辺の博覧会」/ポプラ社刊

芦原すなおさんの「海辺の博覧会」。

昭和30年代の四国・香川県。海辺の街で子供たちは元気いっぱいに遊んで暴れて暮らして
いた。同い年のぼく、マサコ、トモイチ、アキテルと、アキテルの三つ下の弟・フミノリ。
仲良し5人組が体験する様々な出来事を明るく楽しく綴った連作短編集。


芦原さんらしさ満載の連作短編集です。本書の時代設定は昭和30年代。テレビゲームや
携帯ゲーム機など存在しない時代。本書に出て来る子供たちは海辺の街で元気いっぱいに
遊んでいます。万博、宵祭り、相撲、子供競馬、町長選挙・・・さまざまな出来事にワクワク
しながら暴れまわるやんちゃな子供たちの様子がとても生き生きと描かれていて嬉しくなり
ました。映画の「Always 三丁目の夕日」の世界のように、昭和の時代の郷愁を誘うノスタルジー
溢れる作品です。

どの作品も特別大きな事件が起きるという訳ではありませんが、田舎の町らしい小さな事件
の一つ一つに子供たちが真剣に必死になって取り組むところが微笑ましかったです。特に
仲良し5人組VS港のわるすんぼたちの戦いがばかばかしくも楽しかった。

それぞれのキャラクターも良いです。特に男まさりで何でもできちゃうマサコがいい。小学生
の頃はやっぱり女の子の方がちょっとだけ大人なんですよね。三つ年下で、好奇心旺盛な
フミノリのキャラも利いていました。兄に駄々をこねる時の決まり文句「のう、アキテル、
たのまい。」これが出るとみんな弱い。実際こんな弟いたら「わがまま言うんじゃない!」
と叱り飛ばしたくなるかもしれないですけど(苦笑)。なんだかんだで、フミノリがしたい
と思うことは、他のみんなもしたいことな訳で、結局わがままを聞いてあげるというよりは、
自分たちのしたいことをしているという感じでしたが^^;
‘デビラのばあちゃん’が出て来た時にも、芦原さんらしくて笑ってしまいました(笑)。

二章の「ヘビ祭り」の見世物小屋なんかは非常に懐かしかったです。私が小学生の頃にも
お祭で怪しげな見世物小屋があって気になりましたっけ。鶏を生で食べる女、とか(笑)。
子供心にドキドキしましたねぇ。入ったことはなかったのですけどね^^;いかにも
嘘くさいのに、子供って単純にああいうのに騙されるんですよね(苦笑)。

面白いのは、各短編ごとにゲストとなるキャラクターがいて、その人物プラス仲良し5人組
で物語が進んで行くのだけれど、必ず物語の最後にはそのキャラクターは消え去ってしまう
という点。遠くに行ってしまったり、文字通り‘消えて’しまったり、亡くなってしまったり
と形は違うのですが。あくまでその人物は一つのエピソードの中でのみ登場し去って行く人物
として描かれている。あっさりしているともいえるけれど、一章の白い浴衣のお兄ちゃんなんか、
なかなか良いキャラだったので少し残念な気もしました。


香川なまりは全く未知の言語という感じでしたが、ローカル色が出ていてよかったです。
ミステリーではないミステリランドといった感じ。謎がない分、私には少し物足りなさも
ありましたが、海辺の町で自由奔放に生きる子供たちの姿が生き生きと描かれていて楽しい
作品でした。