ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

早見裕司/「満ち潮の夜、彼女は」/理論社刊

早見裕司さんの「満ち潮の夜、彼女は」。

「問題」のある女子学生だけを集め、厳しい校則のもと禁欲的な生活を架するガリラヤ学園。
厳格な女教師によって夏休みに学園に残された五人の生徒たちは、それぞれに問題を抱えて
いた。そんな中、一人の美しい少女が転校してくる。そして、その日を境に、奇妙な事件が
次々と起こって行く――ミステリYA!シリーズ。


懲りずに読み続けているミステリYA!シリーズ。なんとか制覇を狙って頑張っていますが、
なかなかいい作品に当たらないのが正直なところ。読みやすいからつい読んでしまう
のだけど、後に残らない作品が多いのが玉に瑕。

でもって、本書。作者が書きたいことや、出したい雰囲気というのはわかる。でも、こういう
作品は他にいくらでも優れた書き手がいて、はっきり云えば、「この作者ならでは」という
カラーが全く感じられなかった。キャラにしても内容にしても、どこかで読んだものの焼き直し
というような印象で、全てが薄味ではっきりしない。
ホラーの割に怖くもないし、ミステリとしての謎解きの面白さもない。どちらかというと
○○○ものとして、ホラー要素を強く出したいのだろうから、殺人事件の犯人の意外性なんて
あまり重要視していないのかもしれないけれど、それにしてももうちょっとひねってくれないと、
読む方も面白味がない。百合的要素もこういう作品にはお約束なんだろうけど、それぞれの
キャラがいまひとつ魅力的でないので余計に感じてしまった。せっかく‘学園に残された五人の
問題児たち’という設定を作ったのだから、もう少しそれぞれのキャラを掘り下げて書いて欲し
かったです。
それにしても、衣良や碧の扱いは酷かった^^;もうちょっと活躍させてあげて欲しかったです。
特に衣良に関しては全く本人が出てこないままにあのラスト。そりゃ、ないだろう~とツッコミ
たくなりました・・・。

蓼科教師のキャラ造詣も酷い。生徒たちに対する言葉に全く説得力がない上、いきなり体罰
と称して女生徒のブラウスを脱がして鞭で打ったり、全く行動に脈絡がない。挙句の果てには
嫉妬にかられてとんでもない行動に出るし。人間としてどうなんだ?と思いました。

何かアニメか漫画の原作みたいだなと思ったのですが、作者プロフィールを見たら「吸血姫
美夕」の脚本なんかをやってらした方なのですね。それで納得しました。ただ、美夕のあの
世界観を出したかったとしたら、正直成功しているとは云い難い。未佳子も渚も、美夕の魅力
には遥かに及ばない。未佳子に関しては、今後もっと光るキャラになって行くのかもしれま
せんが・・・。

今回一番心に残ったのは、未佳子が海岸で白い海鳥の羽根を拾って墓標にするシーン。この
場面で、未佳子が思い出した歌は、私が中学の時に合唱で唄った歌だったので、私も
すぐにその歌詞を思い出しました。中学生が合唱で唄うにはなんとも暗く物悲しい歌だったの
ですが、とても好きな曲でした。久しぶりにこの曲を思い出せただけでも読んで良かったかも
(って、そこだけかい^^;)。
文句ばかりつけてしまうミステリYA!シリーズですが、今後もしつこく読み続ける予定で
ございます。