ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

我孫子武丸/「狩人は都を駆ける」/文藝春秋刊

我孫子武丸さんの「狩人は都を駆ける」。

京都で個人事務所を開業して六ヶ月。赤貧に苦しむ私の元に、向かいの動物病院の院長・沢田が
持ち込んで来た依頼は、誘拐されたドーベルマンを捜すというもの。動物嫌いの私には受けたく
ない仕事だったが、生活の為背に腹は変えられないと依頼を受けることにしたのだが――(「狩人
は都を駆ける」)表題作他、4編を収録したミステリ短編集。


「ディプロトドンティア・マクロプス」の前日譚作品。といっても、私、この「ディプロ~」
の内容を驚く程覚えていない。題名の印象は強烈なんですが(意味不明で)。まさか繋がっている
とは思わないからおさらいが出来なかったのはちと残念。という訳で、ほぼ単独作品として
読んでしまいましたが(短編集なので全く問題はなし)、これが我孫子さんかと思う位ミステリ
としてはゆるかった。いや、キャラクターは好きだし、テンポ良く読めるところも良かったの
ですが、一作づつの完成度としてはいまひとつひねりのないものが多かったです。表題作なんか、
始めに出て来た脅迫状を読んだ時点で犯人像が見えてしまい、まさかこのままじゃないだろう・・・
と思ったのに、想像通りの展開だったので拍子抜け。しかも、その脅迫状が犯人推定の伏線として
使われなかったのもがっかりしました。絶対我孫子さんが意図した仕掛けだと思っていたのに。
ただ、犯人の末路はいかにも我孫子さんらしいブラックさ。普通、この手の犯人だったら違う
ラストを用意するものだと思うのだけれど、因果応報にしちゃう辺りが我孫子流。それに、犯人の
人物像も空恐ろしい。あとがきを読むと一昔前という時代設定のようだけど、この犯人像は
いかにも現代的という感じがしました(一昔前だったら考えられなかったような気も・・・)。
ただ、ラストの沢田と喜美子の会話は好きだったので、読後感は良かったです。

ミステリとして一番面白かったのは「野良猫嫌い」かな。犯人はわかりやすいけど、そこに
行き着くまでの論理展開には感心しました。「失踪」の残りの猫の行方にも騙されたのですが、
これは去年読んだ某鮎哲賞作品とオチが全く一緒だったので、驚きが半減してしまったのが残念。
ラストの「黒い毛皮の女」は、ミステリとしては一番ゆるいくらいだけれど、主人公が「黒い
毛皮の女」に対して少しづつ態度を変えて行く様が微笑ましい。

全体的にミステリとしてよりも、主人公が嫌々ながらも苦手な動物が絡んだ依頼をこなして
行くコメディタッチの作品として楽しめる作品でした。動物病院の院長・沢田のキャラも
なかなか良かったですね。一作目では沢田のことを毛嫌いしてる主人公ですが、二作目以降
少しづつ心を開いて(?)行くところも良かったです。










以下ネタバレ注意。











気になったのは、一作目の「狩人は~」でもらった成功報酬が二作目以降どこに行って
しまったかということ。一作目で一千万なら三年食いつないで行けると言っていたから、
最低でも六年は安泰だったはずなのに、二作目以降ではまたお金に困っている。納得
してもらった訳じゃないから、敢えて使わずに取っておいているのかなぁ。時系列が
違ってる訳ではないと思うのですけど・・・。










久しぶりの我孫子さんにしてはちと物足りなさは感じましたが、何にせよ、新作が読めた
ことが嬉しかった。前作「弥勒の掌」から三年ぶり位?「弥勒~」が出た時は13年ぶり
だったから、インターバルが短くなってる!(と思いたい)次は長編が読みたいな~^^