ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

山口芳宏/「雲上都市の大冒険」/東京創元社刊

山口芳宏さんの「雲上都市の大冒険」。

昭和二十七年、東北の鉱山街にして、雲上の楽園と呼ばれる四場浦鉱山で、二十年間囚われていた
男が予告通り脱出不可能と思われる牢獄から脱獄した。そして、男は復讐の鬼と化し、次々と
殺人に手を染めて行く。現場には血の文字が一文字づつ残され、犯人からは脅迫状が届く――
事件の謎を解くのは白いスーツに身を包んだ気障で女たらしの荒城咲ノ助と、学ラン姿で義手の
片腕を持つ真野原玄志郎の二人の探偵。ひょんなことから、そんな二人の助手をすることになった
弁護士の私は、雲上の楽園で戦慄の事件に巻き込まれる――第17回鮎川哲也賞受賞作。


beckさんの記事で存在を知り、書店で実物を見て装丁がかなり好みだったので、読むのを楽しみに
していた作品。これは期待に違わぬ面白さでした!それぞれのキャラも立ってるし、ストーリー
展開もなかなか巧い。文章がまたとても読みやすくて、読み始めたら先へ先へとページを
捲っていました。賞作品にしては冗長を感じる長さではありますが、魅力的なキャラと文章で
飽きることなく読ませられてしまった。探偵役の二人のキャラはどちらもどこぞで出会ったことの
あるタイプという気もするものの、それを差し引いても真野のキャラは物語にユーモア感を与えて
いて、いいアクセントになっていたと思う。特に弁護士の殿島に柱時計を押し付ける『わらしべ
物語』のくだりは面白い。それを押し付けられた殿島のその後の困惑ぶりを読むのも楽しかった。
ただ、荒城のキャラは必要だったのかなぁという気がしないでもない。謎解きをする探偵の前に
間違った推理を開帳する人物が必要であれば、殿島でもいい訳だし。対称的な二人のキャラを
持って来たかったのはわかるのですが、それがどちらも探偵である必然性はあまり感じなかった
です。この二人に関しては過去に少なからぬ縁故があるようなので、その辺りが明かされて
いないせいもありますが。探偵を一人にしぼった方が、物語としてはすっきりして良かった
のではないかと思いました。二人の探偵のキャラの違いを楽しむには、やや荒城のキャラの
書き込みが弱いかなという印象もあったので。ただ、両方バランス良くエピソードを盛り込む
ともっと助長になってしまうだろうし。難しいところではあると思いますが。


肝心のトリックですが、これはもう正直バカミスと言っていいと思う。こんな方法絶対実現
可能とは思えないし、やってるところも想像したくない・・・。ただ、ロジックの組み立て方は
丁寧で、伏線もほぼ全てが回収されるのでそれなりに面白く読めました。腑に落ちない点が
残っているのも確かではあるのですが・・・。特に座吾朗を二十年間閉じ込めていた理由には
納得が行かなかったですね。その理由であれば、二十年閉じ込めている間に、何の行動も起こさ
ないというのはおかしい。拷問なんかが行われたという描写もないし。省いているだけかも
しれませんが・・・。あの環境ではいつ死んでしまうかもわからない訳だし。なんとなく
消化不良な印象は拭えませんでした。
細かい部分を突っ込んで行くとたくさん綻びがあるとは思うのですが、そんなのは些細な
ことで、物語として面白かったからいいやという勢いを感じる作品でした。街灯のねじの謎
を最後までひっぱるあたりはなかなか巧い。ただ、そこまで引っ張る必要がある謎だった
かは疑問を感じるところではありましたが^^;
最後に明かされる真野の本性には笑ってしまいました。まぁ、なんとなくこういう性格
なのは作中の言動からも伺えるところはありましたけれど。ちゃっかりしてるというか、
なんというか。でも呆れつつ、憎めないキャラという印象でした。

ラストでは探偵二人と殿島との関係はこの事件をきっかけに、この後も長い時間続いていく
ことが伺えます。選評でも、作者が受賞前から「シリーズ化する」と豪語した旨が書かれて
いるから、きっとまた同じキャラクターたちの別の物語が書かれるのでしょう。彼らの次の活躍
を楽しみに待っていたいと思います。