ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

弘也英明/「厭犬伝」/新潮社刊

弘也英明さんの「厭犬伝」。

魑魅魍魎が跋扈する東都。死んだ人間の骸から生える「汚木」から作りだされる「仏」同士を
対戦させる「合(あわせ)」がさかんに行われていた。幼い頃に母を殺され、自らも去勢され
現在は東都警佐・水守柾兼の下で岳稜警として働く厭太郎は、あることをきっかけに仏師の
娘・犬千代と命を懸けた「合」の試合を行う羽目に。何度対戦しても勝てない犬千代を相手に、
決戦の時は近づいていた――第19回日本ファンタジーノベル大賞大賞作品。


これは本屋で装丁を見た瞬間「読んでみたい!」と思った作品でした。なんとも妖しい雰囲気
のイラストがいかにも私好みだと思ったから。表紙には、艶然と微笑む美貌の黒髪の少年と、
気の強そうな村娘風の女の子。これはきっと魑魅魍魎の世界で二人が出会い、身分を越えた
恋をするお話に違いない!と、そう、思うじゃないですか――って、そんな妄想を抱いたのは
私だけなのか!?



以下、これから読まれる方はご遠慮下さい
(最近こんな記事ばっかだな・・・すみません^^;;)。












とにかく、最近の日本ファンタジーノベル大賞作品は良作が多いし、過分な期待を背負って
にこにこしながら読み始めた訳です。
で、何でこんなにくどくどと前置きを書いているかというと、これが全く、私の想像した
作品とはかけ離れており、私の好みとは合致しない作品だったからなのです・・・。
もう、冒頭の厭太郎と犬暁の戦いからして躓きました。どうも基本設定がわかりづらく、
作品世界に入っていけない。文章を読んでも読んでも情景が浮かんでこないのです。
何が行われているのか頭に思い描けないから、作品はおろか人物にさえ感情移入できない。
多分映像化したものを見た方がわかりやすい物語なのかもしれない。全体的にゲーム的な
ストーリーだし。ほぼ全面が「合」という決闘シーンを中心に構成されているので、格闘技
やゲームに興味のない私には読むのが苦痛で仕方なかったです。しかも、対戦させるのが
「仏」とかいう仏像(?)という設定はどうなんだ。しかも厭太郎の仏なんかただ気持ち悪い
だけの存在だし。呼び方がまた「力士」。どうせ対戦させるならばもっと見目のいいものに
して欲しいですよ。対戦する度に形がいびつになって行き、皮膚からは膿が出て来る・・・
とか、変に気持ち悪い描写も多いし。厭太郎の去勢のシーンもそうですが、無駄にグロい
シーンが出て来るように思えて好きになれなかった。去勢されたことが厭太郎の心と身体に
どう影響したのかとか、そういう部分も全く触れられていないし。厭太郎自身の設定も
中途半端で、出生の秘密も結局わからないままだし、柾兼との関係も曖昧なままだし、全体的に
すっきりしなかったです。対戦シーンばかりを重要視して、人物の書き込みが全く足りて
いないように思えました。これがファンタジーノベル大賞なのか・・・がっかり。

なんだか設定ばかりが上滑りして筆力がついて行ってない印象でした。
私は本を読む時情景が思い描けない作品ってどうしても好きになれない。多少文章が下手
でも勢いがあるとか情景が浮かび上がってくるようなシーンがあったりすれば評価できるの
だけれど。今回は残念ながらそういう作品ではなかったです。「惜しい」とも思えなかった。
多分題材が好みでなかったのも大きいでしょう。

おそらく、ゲームや格闘ものがお好きな方は楽しめるのではないかな。私は読んでいる
最中ずっと「ドラゴンボール」の天下一武道会を思い出してましたよ・・・って、あっちの
方は面白く読んで(アニメは観て)いたのになぁ。おかしいな。