ミステリ読書録

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平山夢明/「他人事」/集英社刊

平山夢明さんの「他人事」。

崖から転落し、車の中に閉じ込められた親子三人。幸運なことに、一人の男が通りがかった。
しかし、助けを求めたその男はとんでもない行動に出る――(「他人事」)。表題作他、鬼才
平山夢明が贈る恐怖のホラー短編集。


もう、「ファンでしょ」と言われても決して否定ができなくなってきた平山さん。またしても
読んじゃいました。これはもう装丁からしてやってくれそうだなと思って楽しみにしていましたが、
本当に『鬼畜!』の言葉しか出てこない作品しかありませんでした。ある意味、ここまで全ての話が
後味悪いとかえって爽快感さえ覚えます。って、私おかしいですね^^;でも、「もしや、この
作品は救いがあるラストなのかも・・・」と期待させといて、最後の1ページでどーんと突き
落とされるあの沈没感。よくもまぁ、ここまで嫌な話が書けるもんだ。でも、それでこそ平山夢明
と思ってしまう自分がいるのが怖い・・・。不条理、不愉快、不可解。それでも、読まされてしまう
筆力はやはりすごいなと思います。

今回は携帯小説ということで、一作が20ページ前後の短編ばかり14作が収録されています。
ただ、短編とはいえ、読めば読む程、これでもか!という位、残酷で救いのない話ばかり。
人間の持つ嫌な部分が畳み掛けるようにさらけ出されます。ここで出て来る登場人物たち
はみんな性悪で下劣で暴力的で非人道的行動に出る人間のオンパレードです。オチを読んで
何度気分を害したことか・・・。
それでもなぜか一作読み終わったらすぐにまた次の作品を読みたくなってしまう自分がいた。多分、
受け付けない人も多いと思う。今回グロ度は控えめですが、その代わり登場人物たちの言動への
嫌悪感は今までで一番強かったです。人間性悪説を立証しているかのような、人間の本性の
部分での悪がたくさん出て来るから。まぁ、こんな人間ばかりだったら世の中から逃げ出したく
なるでしょうね・・・。

ラストでドーンと落とされ後味が最悪だったのは「れざれはおそろしい」と「人間失格」。
オチはわかりやすいものの作品的に秀逸だと思ったのはと「たったひとくちで・・・」。
現代社会の問題を取り上げ、似たような皮肉なオチで印象的だったのは「倅解体」と「定年忌」。
世界観がよくわからなかったのは「クレイジーハニー」。タイトルから全く内容が想定できなかった
のは「ダーウィンとべとなむの西瓜」。グロいけどなぜか切なくなったのは「おふくろと歯車」。
オチで『ヤラレタ!』のは「伝書猫」。

・・・こうやって挙げていくと、どれも個性的で強烈な印象を残すものばかりでした。平山
さんの小技が凝縮された短編集だと思います。「独白する~」「ミサイルマン」よりも比較的
わかりやすい作品が多いので、これから平山作品を読んでみたいと思っている方は
(いるのか?^^;)、この作品から入られるのも良いかもしれません。ただ、読んでいて
気分が良くなる話は一つもありません。
どこまでも残酷で、暗黒に彩られた後味の悪い作品ばかりですので、ご注意を。