ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

太田忠司/「五つの鍵の物語」/講談社ノベルス刊

太田忠司さんの「五つの鍵の物語」。

作家の私は、物語を紡ぐことに限界を感じていた。そんな時、ある出版社の編集者から‘博物館’
の話を聞いた。そこは選ばれた者しか入館を許されない‘五つの鍵の物語’が体験できる博物館
・・・そして、5枚の絵がそれぞれの『鍵』に纏わる物語を語り始める――幻想ホラー短編集。


五つの鍵を巡って繰り広げられる、ちょっとぞくりとするような怪異譚集。読んでいて、
どの話も「世にも奇妙な物語」みたいだな、と思いました。いつもの太田さんのほのぼのした
作風はすっかり影を潜め、かなりブラックな結末ばかりです。それぞれに面白く読んだのですが、
ややわかりにくいものも。

私は普段でも『鍵』をモチーフにしたものが結構好きで、ベルトのバックルやら、ペンダント
やら、結構‘鍵もの’を持っています。鍵で『何かを開ける』という行為も好き。あのかちり、
と錠が解かれる瞬間の感触がなんとも言えず快感を覚えるのです。あと、昔の海外作品に出て
来るような、丸い鉄の輪っかにいくつもの鍵がじゃらじゃら連なってるのとか、たまらない
(変人^^;)。たくさんの鍵を持ってみたい、というのは昔からある願望だったりします。
まぁ、現実にも家の鍵やら職場の鍵やら自転車の鍵やら、自分のキーストックにはいっぱい
くっついていてじゃらじゃらうるさいんですが。それはちょっと自分が持ちたい鍵とは
違うんだよな~・・・。ヨーロッパ風のゴシックな鍵とか、持ってみたいなぁ。

あれ、話が逸れたな^^;まぁ、とにかく、そういう訳で『鍵』がテーマなんて、モロに
惹かれる題材でした。ただ、ここで出て来る鍵は普通の錠前やドアを開ける鍵とはちょっと
違っていて、中にはかなりグロテスクなものもあります。というより、ここで出て来る鍵
は個人的には持ちたくないと思えるものばかり。かなり心理的に『怖い』と感じるものが
多かったです。特に「眠りの鍵」に出てくる眠り男の鍵の結末は怖い。現代を舞台にして
いるから余計に身近に起こりそうで、ぞぞぞ。ちょっと「リング」を思い出しました。
「17世の鍵」もラストはかなり想像するとグロい。『錠』が○○自体というオチは
いくつかありましたが、やっぱり想像して気持ち良いものではなかったです。


出て来る『作家』というのはもしかしたら太田さんご自身なのかも。エピローグを読んで、
この作品はこれから自分が書いてゆく物語の為に書かれたのかもしれないなと思いました。
自分が今後も「物語の奴隷」となるように・・・。


カバー折り返しに書かれている太田さんの言葉を引用。


「物語はどこから来るか。物語はなぜ語られるか。僕はなぜ物語を書くのか。物語とは、
何か。突き詰めていった先に、やはり物語がありました」


太田さんの物語への答えがここにあるのかもしれません。
一作ごとにはさまれるカラー挿絵が綺麗。装丁と物語も合っていて、なんとも独特の作品集
でした。幻想的な怪異譚なんかがお好きな方にはお薦めしたいです。