ミステリ読書録

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「吹雪の山荘 ― 赤い死の影の下に」/東京創元社刊

「吹雪の山荘 ― 赤い死の影の下に」。

年末、それぞれの思惑を秘め、清沢郷の山荘に宿泊に来た男女たち。大晦日の夜、幽霊が幾度も
目撃されたという山荘で首なし死体が発見される。居合わせた男女たちは、幽霊の正体と首なし
死体の謎の解明に乗り出すのだが――豪華執筆陣によるリレー小説。

執筆者:笠井潔、岩崎正吾、北村薫若竹七海法月綸太郎巽昌章


書店で見かけた時から読むのをとっても楽しみにしていたリレー小説。なんせ、寄稿作家の
名キャラクターたちが競演しているのですから。評論家でトリを飾った巽さんは例外として、
岩崎さんのみデビュー作しか読んでいない為キャラが良くわからなかったのですが(もしかして
デビュー作にも出て来ているのかもしれないけれど、全く内容を覚えていない^^;)。
なんといっても、笠井さんのナディアに会えたのは嬉しかった。「バイバイ、エンジェル」では
大学生だったナディアが30歳になり、フランス語教師として一年間日本にやって来ている
という設定。今年出る予定(出ろ~!←命令!?)の「瀕死の王」でも30歳のナディアが
活躍するらしいのですが、そちらのナディアとは微妙に設定が違っているのだそう。いわば
こちらはパラレルワールドの世界という位置づけのようです。
その他にも有栖川有栖青年、作家にして探偵の法月綸太郎若竹七海女史、北村さんの『私』と、
本当に名キャラクターが大集合。これが面白くない訳がない。各キャラたちに会えたってだけ
でも非常に楽しめました。肝心のミステリ部分に関してですが、さすがにリレー小説だけあり、
矛盾するような箇所がちらほら。ただ、基本ルールとして、全体の謎解きに関するヒントを
書き足すのはもちろんですが、各章ごとに小さな謎を提出し章内で解決するというのがあるので、
単独で読んでもそれなりに楽しめましたが。意外だったのは北村さんの『私』が予想外に名探偵
っぷりを見せてくれたこと。元シリーズではあくまであの落語家のワトソン役だったと思う
のですが、今回、なかなかに堂々たる謎解きを開帳してくれました。あと、綸太郎氏が意外
に女性に手が早く、軟派な性格というのにも笑ってしまいました(笑)。

やはり一番気になったのは有栖川青年を登場させたにも関わらず有栖川さんが執筆辞退を
した為に彼の存在が中ぶらりんになってしまった所ですね。法月さんはかなり苦労なさった
みたいですが、どうしても読んでいて不自然な印象ばかり受けてしまいました。でも、
トリの一つ前ということで、首なし死体の謎を含め、全体のからくりはかなりここで明かされ
ますが、さすが細かく考えてあるなぁと感心しました。トリの巽さんは、謎を全て解明しなければ
いけないので、かなり大変だったとは思いますが、なかなか巧く纏めたのではないでしょうか。
苦しい部分も多く、全てに整合性があるとはもちろん思わなかったですが・・・^^;

でも、今回一番引きずられたのは、ナディアの‘あの人’への感傷です。あの人の影を求める
ナディアの思いには共感しまくりでした。去年江神さんに会えた身として、今最も再会したい
探偵役はあの人以外にありません。ナディアが30歳ということは、彼はすでに40近い
年齢になっているはずですが、おそらく修行僧のようなストイックな生活を続け、退廃した
空気を纏っているのは変わらないに違いない。本書では、彼は10年前にナディアの前から
ある日何の前触れもなく忽然と姿を消してしまったことになっています。ということは、
シリーズ最後の「オイディプス症候群」からさほど時間を置かずに彼らは別れたままに
なってしまったということになる。これはちょっと切ない・・・。彼らしいとは思うけれども。
本書を読んでいて、「赤い死(=la mort rouge)」が関わっていることが判明した時点で、
最後に彼が出て来るのかどうかが一番の感心事でした^^;再会できたかどうかは
ここでは明かしませんけど。
今後のシリーズが一体どうなるのか、そっちの方が気になって仕方がないです・・・。


何にせよ、ミステリ部分はともかくも(こら)、各キャラたちの競演は充分楽しませて
頂きましたので、私的には満足です^^