ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

豊島ミホ/「リリイの籠」/光文社刊

豊島ミホさんの「リリイの籠」。

美術部員の春は、嫌いなものが人より多く、自分の住む街や学校にも愛着を持てず、冷めた目線で
高校生活を送っていた。ある日、静物画ばかりを書いていた春に、顧問の木梨先生から「好きな
もん描いてみたら」とアドバイスを受ける。ピンと来ない春だったが、美術部の部室から見える
銀杏の下で見かけた一人の女生徒に惹き付けられ、彼女に絵のモデルを頼むことに。彼女と付き
合ううちに、どんどん彼女への憧れは強くなって行き――(「銀杏泥棒は金色」)。同一女子高
を舞台に繰り広げられる女同士の交流を描いた短編集。書き下ろしを含む七編を収録。


豊島さんを読むのは二冊目。実は新作(らしい)「花が咲く頃いた君と」も新作コーナー
に置いてあって、どちらにするか悩んだのですが、装丁が非常に好みだったのでこちらにして
みました。舞台は仙台にある女子高。基本的にはどの作品も二人の女の子中心。生徒同士
だったり、先生と生徒だったり、姉妹だったりと作品によって登場人物の年齢や立場はまちまち。
私は女子高というものを経験したことがありませんが、ここで描かれる女同士の微妙な感情の
交流は「わかる、わかる!」と感じるものが多かったです。そういう意味では、この間読んだ
神田川デイズ」よりも共感できました。結局、女子高でも共学でも、女の子同士の関係って
そんなに大差ないってことなのかも。まぁ、ラストの「ゆうちゃんはレズ」のゆうちゃんみたいな
子は女子高ならではなのかもしれませんが(少なくとも私は出会ったことなかったなぁ)。
ただ、恋愛感情の「好き」まではいかないけど、同性に憧れを抱く気持ちや、仲が良い友達が他の子
と仲良くしてたら嫉妬する気持もわかる。「いちごとくま」の、りかがくまっちに抱く感情なんか
読んでてほんとに痛々しいけど、すごくリアル。りかの優越感と敗北感。こんなヤツとは絶対
友達になりたくないけど、自分がりかみたいな容姿で、くまっちみたいな子が友達だったら
こんな風に感じてしまうのかもしれない。こういう子って、クラスに一人はいるよなぁ、多分、
と思いながら読んでました。
私には姉がいるので、「ながれるひめ」が一番身近に感じられたかな。姉妹の性格は全然
違うけど^^;身内だからこそ、お互いに微妙な感情を抱えていたりするんですよねぇ。
姉から言われた何気ない一言を何年も覚えているってのは結構あるかも。胸にぐさりと来た言葉
って、年月なんか関係なく、ふいに思い出して苦々しい気持になったりしますね(おそらく、
言った本人はすっかり忘れていると思われる)。まぁ、こういうのは姉妹に限らず、友達同士
でも他の関係でもあるとは思うけれど。

話として好きなのは「ポニーテール・ドリーム」かな。主人公の年齢も高めだし(何せ、
女子高校生なんてもう、私の齢になると異星人と一緒なんで^^;)。
主人公がドラマのヒロインに憧れてポニーテールに拘るとことか、昔、「東京ラブストーリー
のリカに感情移入して同じ髪型にしたかつての自分を思い出して、苦笑しつつも愛おしくなった。
(中学生以降で、あの時が多分一番髪が短かった!←あとはずっとロングでした)
一人の女子生徒の一言で、ちょっとづつ自分を変えて可愛くなって行くところも良かった。
この生徒との関係も好きでしたね。悪ぶってても、なんだかんだで先生思いのいい子だったので。

題名の「リリイ」って何のことなんだろう?と思っていたのですが、女子高=百合(リリー)って
ことなんでしょうね、多分。ただ、百合って言っちゃうとレズが強調されちゃう気がするので、
なんとなくちょっと違う気もするんですが(ラストの話はそのものズバリだけど^^;)。
ほとんどの話はそこまで行かない、ほのかな憧れや好意を描いているので。

女同士の微妙な感情の揺れを上手く描いた佳作だと思います。ちょっと読んでいて痛々しくて、
後味の悪いものが多いけれど。これがきっと、青春の苦さなんだろうな。