ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

東野圭吾/「流星の絆」/講談社刊

東野圭吾さんの「流星の絆」。

深夜にペルセウス座流星群を見る為、家をこっそりと抜け出した功一、泰輔、静奈の三兄妹。
しかし、雨が降って結局見ることができず諦めて家に戻ると、両親が惨殺されていた。現場には
犯人と思しき透明のビニール傘が残されていた。次男の泰輔が犯人と思われる男を目撃しており、
似顔絵が作成されたが、警察の捜査も虚しく犯人は捕まらず、14年の歳月が流れた。
幼かった三兄妹は大人になり、殺された両親の復讐を流星に誓い合う。三人は生きて行く為、
詐欺師となっていた。その最後のターゲットとなったレストラン『とがみ亭』の御曹司・戸神行成。
功一の考案した作戦で泰輔と静奈は行成に近づくが、静奈の様子がおかしい。更に、行成の父親
の顔を見た泰輔は、両親が惨殺されたあの夜、目撃した人物に違いないと確信する――作者渾身の
長編ミステリー。


ようやく回って来ました。東野さんの新刊です。これは久々に面白い東野圭吾を読ませてもらった
感がしました(←偉そう^^;)。なんせ、ここ数作の刊行作品には「東野さん才能の枯渇!?」
と思えてしまう程、当たりがなかった。大好きな作家だから、新刊出る度に追いかけ続けている
ものの、ここ最近の自分が書いた記事はどれも酷評に近いものばかり。読む気が失せることは
ないのだけれど、さすがにちょっと読む熱意は失せかけて来てました。

そんな状態で読んだせいか、実はさほど期待をしていた訳ではなかった。しかも、今回も東野さん
十八番の悪女・静奈(この名前がもうすでに・・・苦笑)が出て来た時点でかなり嫌な予感が
漂っていたし。また後味の悪い結末なんだろうなぁと身構えていたのですが。

・・・ありゃ?どうしたんだ、東野さん!この爽やかなラストは!!というより、静奈と行成
の関係がああいう方向に行くというのが何より意外だった。こんな微妙な恋愛感情が描ける
作家だったのかーーー!!(←何気に酷い)静奈は悪女には違いないけど、行成と出会った後の
彼女の心の動揺や戸惑い、それを兄たちに必死で隠そうと取り繕う姿にはついつい応援して
あげたくなりました。珍しく好感の持てるヒロインだったかも(途中までの印象は最悪でしたが^^;)。







以下、弱冠ネタバレ気味かも?未読の方はご注意下さい。












途中やや中だるみする感じはあるものの、ミステリとしても細かく伏線が張ってあって面白
かった。真相はやるせないもので、三兄妹の中でも特に長男の功一にとっては辛い結末だった
と思う。いつもの東野さんだったらここで終わらせて酷く後味の悪いラストにする所ですが、
今回はその先があったので、読後感がとても良かった。人によっては『蛇足だ』と感じる人
もいそうですが。確かに出来すぎだし、これだとある人物が自分一人だけが幸せになるという
後ろめたさを感じながら生きなきゃいけなくなる。それに耐えられるかどうかはこの時点では
描かれていないし。上手く纏めすぎた感じがなきにしもあらずですが、私はこのラスト、
結構好きです。だって、東野作品でこんな優しい気持で読み終えられる作品珍しいんだもん!!
たまにはいいんじゃないかな、こういうのも。いつも作者の意地悪さばかりを感じてきたけど、
今回ばかりは東野さんの優しさとロマンティストな面が出ている気がする。何より、この流星で
繋がった三兄妹の兄妹愛がいいじゃないか。泣けるとこまでは行かなかったけど、充分感動
させてもらいました。

三兄妹のキャラも良かったし、三人に陥れられる行成もとても好感が持てるキャラでした。
よく考えると、この作品には本当の『悪人』が出て来ない。もちろん、犯人のしたことは許され
ないことだし、三兄妹が詐欺を働くことも酷いことです。自分たちが詐欺に遭ったからって、
『金は天下の回りもの』など根拠のない大義名分をつけて、関係ない人たちに詐欺行為を働く
彼らに嫌悪を抱いたのも事実。それでも、彼らの生い立ちや性格を知って行くにつれて、だんだん
彼らに肩入れしたくなりました。殺人犯の犯行理由も私利私欲ではなく、切実な動機が隠されて
いたので、やはりその人物を『悪人』とは思えなかった。こんなことを書いていると、吉田修一
さんの『悪人』を思い出してしまいますが。





ちょっとにやりとしたのは、終盤で功一と泰輔が行成の父・政行の前で刑事を騙る時に
名乗る名前が『草薙』と『加賀』だったこと。SMAPの草なぎと言いながら、この薙を
使ったということは、当然ガリレオシリーズの草薙刑事から来てるんでしょうね。


とにかく、久しぶりに素直に「面白かった」と云える東野作品でした。期待してなかったから
評価ちょっと甘めかもしれませんけど(苦笑)。もちろんリーダビリティは相変わらず抜群です。
これだから、どんなに駄作が続いても(オイ)、読むことをやめられないのよね。
もちろん、今後も読み続けますよ~。


さて、私の後には300人以上(!!)がこの本を待っているようなので、早く返しに行かなくちゃ。
(借りて三日くらいしか経ってないけど!←なんていい利用者なの!と自画自賛w)