ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

小路幸也/「モーニング」/実業ノ日本社刊

小路幸也さんの「モーニング」。

大学時代の四年間、同じ屋根の下で暮らし、同じバンドの仲間として苦楽を供にしていた仲良し
メンバー5人のうちの一人・河東真吾が亡くなった。二十年ぶりに葬儀の席で再会した他のメンバー
4人。葬儀を終えてそれぞれの帰途に着こうとしていた時、メンバーの淳平が「このまま車に
乗って自殺する」と言い出す。他のメンバーは淳平の自殺を止めようと説得するが聞き入れない。
困ったメンバーたちは、淳平に交換条件を提案する。全員が淳平の車に乗って帰路を目指す
間に、淳平の自殺の理由を探り当てたら自殺を取り止めにするというものだ。そして、彼らの
大学時代を振り返るロングドライブが始まった――。


市内の図書館で予約待ちだったのですが、隣街の図書館の開架で発見。ラッキーでした^^
なんだかんだで新刊が出ると手を出してしまう小路さん。この間読んだ「カレンダーボーイ」
同様、読みやすいので2時間半位で読み終えてしまいまいました。作風もなんとなく似た
雰囲気で、今回も中年男が主人公。しかも男ばっかり4人(正確には5人と言うべきか)。
でも、その割にむさ苦しいというのがあまりない。ほとんどが大学時代の回想で構成されて
いるからかもしれませんが。この大学時代の回想が抜群にいい。こんなに美しい友情って
あるのかな、と疑いたくなる位、みんな友達思いで優しい。普通、みんなが憧れるような
女性と仲間の一人が付き合うことになったら、大なり小なり嫉妬心が芽生えそうなもの
だけど、彼らはみんな心から祝福して応援してあげるし、仲間の一人がピンチになったら
全員でその仲間を救おうとする。実際、それぞれの心の内までが描かれる訳ではないから、
複雑な思いを抱えていた人物もいたかもしれないけれど、少なくとも語り手のダイに関しては、
心底から仲間を信頼し、幸せになって欲しいと願っているのが伝わって来て、温かい気持になり
ました。茜さんの抱えていたものはあまりにも重くて、その運命の残酷さに憤りを覚えも
したけど、それを知ったメンバーたちの行動に胸がすく思いがしました。こんなことは
理性ではするべきではないとわかっているけれど、それでも、私は彼らのしたことが間違って
いるなんて思えなかった。大切な人の為にできること。当時の彼らは、彼らが出来る精一杯の
ことをしたと思うから。

そもそも、淳平の自殺の理由を探るロングドライブだった訳ですが、この自殺の真相を知った
時は唖然。「えーーーー」って叫びたくなりました。かなり肩透かしを喰らった気分で、
正直がっかりでした。

・・・が、ちゃーんとその後があって、意外な事実が隠されていたので、この書き方にも
納得でした。あそこで終わってたらほんとに壁本ですよ^^;淳平と茜さんの関係も
意外な真相が隠されていて驚きました。どんなに仲が良い友人関係でも、その人の本当の
内面なんて、その人にしかわからない。自分が勝手に思い描いていたその人が思わぬ本性を
隠し持っていたと知った時、人は愕然とするものです。その人は、毎日同じ時を一緒に過ごし
ながら、思いもよらない重い秘密を抱えているのかもしれない。それでも、友情が損なわれる
ことなんかないんだと思う。相手への思いやりさえあれば、本当のその人を知らなくたって。
多分、真吾を失い、淳平の為にこのロングドライブを経験した、かけがえのない青春時代を
供に過ごした4人は、ずっとこれからも親友であり続けるんだろうと思う。遠く離れて、簡単に
会える環境にいなくても、多分、ずっと。心で繋がった友情関係。それはとても美しくて、
切なくて、そして酷く羨ましい気がしました。

自分の学生時代と照らし合わせて、懐かしく思い返しながら読みました(もちろん彼らとは
全く違った学生時代だったけれど^^;)。
ノスタルジックで、ほろ苦くも優しい小路ワールドに浸れる一冊です。