ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

山口雅也/「モンスターズ」/講談社刊

山口雅也さんの「モンスターズ」。

「この世で一番恐ろしいもの――それはもう一人の私」。会社員の私は、飲み会の帰り、通路の
片隅で段ボールの上に座っていた小汚いホームレスと出会う。どんよりとした沼のような濁った
眼をしたその男の顔は まぎれもなくもう一人の私 だった。不吉な思いに囚われた私は、その
男を捜し始める――(「もう一人の私がもう一人」)。‘怪物’をテーマにした6編の短編集。



『ミステリーズ』『マニアックス』に続く通称‘Mシリーズ’第三弾だそうです。そうかー、
これってMシリーズっていうんだったんだ~と本書のあとがき読んで初めて知りました(笑)。
ちなみに似たタイプの「play」は‘遊戯’というテーマで括られている為このシリーズとは
一戦を画しているのだそう。面白いのもあれば「う~~ん」ってのもありましたが、『怪物』
で括られているだけに少しぞくりとする怪奇風テイストが良いです。ホラーと言うほど怖くも
ないので、そちら方面が苦手な方でも大丈夫。どちらかというと、『世にも奇妙な物語』系
という感じ。山口さんの短編大好きなので、なかなか楽しめました^^




以下各作品の短評。


「もう一人の私がもう一人」
ドッペルゲンガーものです。割とありがちなテーマですが、ラストの循環するオチがきいて
いるし、ミステリとしても読ませる構成になっていて巧いです。会社員の私とホームレスの私、
二人の時系列がどうなっているのか、とか考えだすと頭がパニックになるので、深く考えずに
読んだ方がいいかも(私だけか^^;)。


「半熟卵にしてくれと探偵は言った」
半熟卵ってソフトボイルドエッグっていうんですね。知らなかったーー(無知)。
ありがちなミスリードといえなくもないけど、やっぱり巧い。なんとなくそうかも、とは
思ったので、さほど驚きはなかったのですが^^;最後、もっとハードな展開になるかと
思っていたのでやや拍子抜けでしたが。読後感がいいのか悪いのか・・・。


「死人の車」
都市伝説ものは好きなのですが、これはちょっとありきたりすぎるかな。ホラーを狙った割に、
オチも普通だし。こういうタイプのタクシーの運転手の車には乗りたくないな。できれば
あんまり話しかけて欲しくない。


「Jazzy」
これは一番わかんなかった。二つの話の関連性はなんだんだろう、と思っていたら、単なる
音楽繋がりってだけだったらしい・・・。どちらの話も??でした。SIDE Aの方はビリー・
ホリディ、SIDE Bの方はサックス奏者のアルバート・アイラーという人がモデルだそう。
ビリー・ホリディは名前だけは聞いたことあるけど、アイラーは初めて知りました。でも
それを知ったからといって作品の意味がわかったかというと・・・。


「箱の中の箱」
これは一番好き。あとがきでも述べられているようにマニアックスに収録すべき作品だと
思いますが。箱に取り憑かれた男と、それに惑わされる人々。この全体に漂う衒学的な
雰囲気がなんとも言えずイイ。もちろん、「魍魎の匣」を思い出しました。既読の方は竹本さんの
匣の中の失楽」なんかも思い出すのでは(私は未読ですが^^;)。ちょこちょこ挟まれる
既存作品のもじりにもにやり(『匣の中の欠落』『奇愚』etc)。サービス精神たっぷりです。
綾瀬千尋と吉川恭介は既出作品(「マニアックス」と「play」)に登場したキャラクターらしい
のですが、すっかり忘れていた自分に愕然^^;
でも、実は一番驚いたのは、「貴島麗子」という女優。本書とちょうど併読している別作家の
作品にも全く同姓同名の女優が登場するので、この偶然の一致に一人戦々恐々。これこそ
世にも奇妙な物語』・・・。


「モンスターズ」
これだけ少しページ数の多い中篇。タイトルもそのものズバリで内容もフランケンシュタイン
吸血鬼に○○○○(ネタバレになる為フセ字)と、有名モンスター勢揃い。でも舞台はナチス
ドイツの時代で、ヒトラーが秘かに人体実験を繰り返して怪物たちを創り出し、超人部隊を編成
していたというとんでもない内容。語り手の『私』の正体には唖然でした。そんなバカなーー^^;
構成もなかなか凝っていて読み応えはあるのですが、こういう海外を舞台にした作品はどうしても
読み難くて苦手。これが一番好きという人も多いでしょうけどね。



装丁もかっこいい。よく見ると、かなりキモチワルイ怪物の絵ですが。フランシス・ベーコン
だそうです。ルドンみたい。
各作品の不揃いなタイトル字も凝ってていい。ちょっと読みにくいけど^^:

このMシリーズはもっと続いて欲しいですね。ちなみに次回作の構想まではあるらしく、
タイトルは『マーダーズ』だそうです。ミステリ中心っぽそう。楽しみだ~~。