ミステリ読書録

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島田荘司/「御手洗潔のメロディ」/講談社文庫刊

島田荘司さんの「御手洗潔のメロディ」。

御手洗潔のもとに、相談に訪れた高名な声楽家の秦野大造。不可解な行動をする謎の美女を
捜し求めているという。しかし、御手洗は話を聞いただけでさして興味を持たず、何も行動
しようとしない。一方、秦野がやって来た数日後、川崎区のレストランSでバイトをしている
青年が御手洗を訪ねて来た。青年が言うには、店のトイレで男性用の便器が壊されるいやがらせが
三度も続いているというのだ。これを聞いて御手洗は急に態度を変え、ことは急を要すると言う。
一体何がどうなっているのか――(「IgE」)。御手洗シリーズ四編の傑作短編を収録。


読んでいて、これは読むのが早すぎたかなぁと何度か後悔しました。二作目の「SIVAD SELIM」
は未読の「龍臥亭事件」の直後の話らしいし、最後の短編ではまだ知らないキャラのレオナ松崎
という女性が主要人物として出て来るし。まぁ、二作目に関しては内容的に関わりがある訳では
ないので問題はなかったのですが、御手洗さんも石岡さんも中年に近い年齢になっていて、
ちょっとまだその年齢の話は読みたくなかったという思いが・・・。まぁ、読んじゃったから
もう仕方ないですけど^^;今回は純粋な本格推理ものは二編だけだったので、少し物足りなさ
を感じました。サイドストーリー的な作品も面白いけれど、やっぱり御手洗さんのキレのある
推理を一番に楽しみにしているので。本格推理の二編はとても面白かったですけどね。



以下、各作品の短評。


「IgE」
これは全く無関係だと思われる二つの出来事があんな風に繋がるとは思いもよらなかったです。
便器が壊されるという訳のわからない状況にあんな理由があるとは。声楽家の美女に関しては
まぁ、そんなものだろうとは思いましたが。ああいう材料でどうしてあんな風に推理できるのか、
御手洗さんの頭の構造はどうなってるんだろうと思わずにはいられません。店の間取りや、
これから店を訪れる人物の台詞まで当ててしまうところは、預言者かと思いました。謎解きを
読むとなるほど!と思えるのですが。奇抜な謎が綺麗に解かれるこういう作品は好きですね。


「SIVAD SELIM」
先に述べたように、「龍臥亭事件」を読んでから読みたかった。別に内容は全く繋がってない
ので何らの差しさわりがある訳でもありませんが、微妙なリンクがあるのにわからないという
状況にあたると、つい損した気分になってしまうのです。
高校生主催の身障者の為のコンサートの出演を断る御手洗さんに対する石岡さんの非難を
読んでいて、少しイライラしました。だって、どうしても会わなければいけない人物との
先約があるのだから、断られても仕方ない。御手洗さんがどうしても会わなければいけない
と言っているのだから、きっとそれ相応に理由がある筈だと付き合いの長い石岡さんなら
わかる筈なのに。何故約束を破ってこちらを優先しないのだと身勝手に御手洗さんを非難する
石岡さんには少しがっかりしました。それでも、彼の思いに最終的には答えてあげる御手洗さん
には今回もシビレました。しかし、一体何故こんなすごい人と知り合いなの?^^;;
推理物ではないですが、一夜の奇跡を描いた余韻の残る一作でした。


「ボストン幽霊絵画事件」
最初は読んでいてピンと来なかったのですが、終盤の謎解きは面白かった。怪談めいたぞくり
とする要素が、鮮やかに現実的に解き明かされて爽快でした。作者が意図したように、海外
作品の翻訳っぽい文章が私としては苦手だったのですが、作品の雰囲気には合ってたと思い
ます。看板の文字の一部だけを銃で撃つという不可思議な出来事からあそこまで物語を推理
する御手洗さんに脱帽です。文字が銃で撃たれた理由も「ヤラレタ!」と思いました。


「さらば遠い輝き」
これも先に述べたようにレオナさんという人物を知らないのでなんともかんとも・・・正直、あまり
面白いと思えなかった。彼女のことを知っていればまた違った感想だったかもしれませんが・・・。
ただ、本書で御手洗さんと彼女の関係はよーく分かった気はします(苦笑)。唯一、御手洗
さんが石岡さんとの出会いを語った回想のシーンだけはにやりとしました。あとがき読むと、
このレオナさんという女性、女性読者から大層嫌われている模様ですが、なんとなく理由が
わかったような・・・私もあんまり好きじゃないかも。御手洗さんへの一途な想いは伝わって
来たので、切なくもなりましたけれど。でも、収録された先が御手洗ものの漫画アンソロジー
というのを読んで、この作品が書かれた理由に納得が行きました。とりあえず、このレオナさん
が初登場する作品を読まねば。



とりあえず短編集はこれくらいにしておいて、次は長編にチャレンジしようと思っています。
やっぱり「暗闇坂~」からかな~。ところで、レオナさんはどの作品から登場するのでしょう?
ご存知の方、教えていただけると嬉しいです。