ミステリ読書録

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瀬尾まいこ/「戸村飯店青春100連発」/理論社刊

瀬尾まいこさんの「戸村飯店青春100連発」。

大阪、下町の中華料理店『戸村飯店』の二人兄弟ヘイスケとコウスケ。二人は見た目も性格も
正反対。兄のヘイスケは四月から上京して小説家になる為の専門学校に行く。コウスケは、
要領が良く器用で見た目もいいヘイスケのことが昔から苦手で、ヘイスケは、周りから愛され、
笑いが取れるコウスケの愛嬌の良さを羨ましいと思っていた。東京と大阪で暮らす兄弟それぞれ
の日常を明るく爽やかに描いた傑作青春小説。


これは前評判から読むのを楽しみにしていた作品。題名からして笑えそうなんですもの。
ただ、少し前に『Re-born 始まりの一歩』というアンソロジーで始めの一作だけ読んだの
ですが、その部分だけではいまひとつ良さがわからなかった。だいたい、そこだけ読むと
兄はどう考えても好感が持てない性格でしたし。でも、一冊通して読んでみて、戸村兄弟
どちらもとってもいい奴で、読み終えた後はこの兄弟が大好きになっていました。でも、
ヘイスケの女性への態度は最後まで好感が持てなかったですが・・・^^;男性として
好きにはなりたくないけど、友達に一人いたら重宝するタイプって感じかな。正反対の
二人のキャラが生きていて、なんだかんだ反発し合いながらも兄弟愛を感じるところが
良かったです。大阪のお笑い要素もついつい、ぷぷぷと笑ってしまう微笑ましさがありました。
戸村飯店のお料理はどれもおいしそうで、大阪の下町の味そのものという感じ。もちろん気心の
知れたお客さんのにぎやかしさも大阪ならでは。東京ではなかなかこういうお店にはめぐり
合えないので、こんな風にお客さんと店員みんながわいわいやりながら食べられるお店って
羨ましいなぁと思いました。

コウスケのエピソードでは合唱祭の部分が好き。今回のツボキャラはピアノの北島君に決定!
(コウスケもヘイスケも好きだけど、ツボに来るほどではない)実に瀬尾さんらしい爽やかさ
100%みたいなキャラ。ピアノが弾けるってだけでポイント高いのに、コウスケに対する
丁寧で温かい態度がなんともいい。合唱祭が終わった後 颯爽とコウスケに握手を求める所
なんて、高校生とは思えないスマートさ。うーん、人間出来てる。彼女にして下さい(笑)。

ヘイスケのエピソードでは東京ばな奈をことあるごとに実家に送るところがツボでした。
何故って、東京ばな奈は私にとって並々ならぬ思い出があるものだからです。多くは語り
ませんが・・・(語り始めたら字数制限内に書ききれません^^;)。ちなみに、東京ばな奈
どこの駅で買っても同じ味です(東京駅が一番美味しいってことはありません^^;)。
あとは、バイト先のレストラン『RAKU』で、バイトにも関わらずお店の為にいろいろ考えて
あげる真面目な姿勢は好感が持てましたね。何でも器用にソツなくこなしちゃう人っている
んですよねぇ(羨ましい)。専門学校を一ヶ月で辞めたのはどうかと思いましたが^^;
秘かにウケるギャグを練習する涙ぐましい努力についつい笑ってしまいました(ごめんよ)。
アリサのことは正直最後まで好きになれませんでした。瀬尾さんの女性キャラはどうも苦手。
なしくずし的にヘイスケと付き合っちゃう所も理解できないし。というか、好きと言われた
訳でもないのに、いきなり彼女ヅラしてる神経が信じられなかった。それを受け入れる
ヘイスケの性格もよくわからなかったけれど。瀬尾さんの恋愛感って、実はいまいち
理解できない部分が多い。

全体的にはヘイスケとコウスケ二人のキャラが立っていて、ほんのり笑えて時にはジーンと
出来る爽やかな青春小説であり家族小説でした。瀬尾さんにしてはページ数が多めですが、
あっという間に読み終えてしまい、終盤はこの兄弟とお別れするのが寂しくなりました。
青春100連発ってのは少し誇張しすぎな気もしたけれど、心が疲れた時に読むとほっと
させてくれる一服の清涼剤のような作品でした。おススメです^^