ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

日明恩/「ギフト」/双葉社刊

日明恩さんの「ギフト」。

ある事件がきっかけで警察を退職しレンタルビデオショップでアルバイトを続ける須賀原。ある日、
ホラー映画コーナーの前で涙を流しながら立ち尽くす少年に目が留まった。その少年はもう10日間
もこうして同じことを繰り返しているのだ。仕事が終わり駅前のスーパーに行く途中、須賀原は
横断歩道に飛び出そうとしたその少年を助ける。少年は、死者が見える能力を持つが故に、誰にも
理解されない孤独を抱えていた。そして須賀原もまた、心に傷を負い、自己を苛みながらひそやかに
生きていた。孤独な二人が死者の魂を救済に導くハートウォーミングストーリー。


久しぶりに日明さんの新刊が出ました。連作短編形式ですが、それぞれの話が繋がっている
ので長編といって差し支えないでしょう。キャラ造詣なんかはいかにも‘らしい’感じ。須賀原と
明生少年の心の触れ合いがとても良かったです。この方の文章、嫌いではないのだけど説明が
まわりくどかったり、冗長に感じるところがいつも気になっていたのですが、今回その辺りは
かなり改善されてすっきりしたように思いました。作品の内容のせいもあるかもしれませんが。
お互いに傷を抱えて孤独に生きて来た二人が、悔いを残して現世に留まっている死者たちの魂を
救って行く上で、自らの傷をも癒していく。ストーリー展開はとにかくベタです。設定もさほど
目新しさがある訳ではない。でも、一人の少年を死に追いやってしまったことを只管悔やみながら、
ただ生きる屍として生きて来た須賀原や、死者が見えるという特殊能力を持ってしまったが故に
両親を不幸にしてしまったと自分を責め、周りに嘘をつき続けて生きて来た明生、二人の心の
痛みが伝わって来て切ない気持ちになりました。だからこそ、ラストが心に沁みました。予定
調和で上手く行き過ぎだと言う人もいるかもしれないけど、それでもやっぱり、二人が前向き
に生きて行こうとする姿は感動的でした。明生の決意はあまりにも悲しかったけれど。いつか、
彼の思いが伝わる日が来るといいと思う。そして、いつか、卵の弁償をしに須賀原の前に現れて
欲しい。成長してもっと強くなった明生と、笑顔を取り戻した須賀原の『普通の』会話が聞いて
みたいです。重い何かを抱えたまま本当の気持ちもいえない二人の会話は、どこか寂しさばかり
を感じるものだったので。

『自惚れ鏡』の圭子だけは二人にとって救えなかった死者として出て来ますが、彼女の言動は
本当に読んでいて嫌悪すべきものでした。かえって、ああいう結末にしたのも仕方なかった
のかな、と思いました。圭子のように自分を守ろうとして嘘ばかり吐く人間って、どこの社会にも
いる気がします。自分というものがないから、嘘という虚飾でしか自分を確立できない。考えよう
によっては寂しい人間とも云えるけれど、それに振り回される人間にとってはたまったものでは
ありません。読んでいて、宮部さんの「名もなき毒」を思い出しました。周囲の人に害を巻き
散らした彼女の人生の結末は自業自得だとしか思えません。全く同情もできませんでした。

作中に重要な要素として出て来る映画「シックスセンス」は私も観た時ものすごい衝撃を受けた
作品です。これに出て来る少年はほんとに健気に頑張る子で、彼とブルース・ウィリス演じる
精神科医の触れ合いがとても良かった。あのラストのどんでん返しには目が点になりましたっけ。
この作品には、そんな派手などんでん返しがある訳ではありません。結末はシンプルで、予想も
つきやすい。それでも、罪を背負って生きてきた人間の心の贖罪を描いた良作だと思います。
胸に沁みるラストに心が温まりました。
お薦めの一作です。

ところで、竹本シリーズや消防士シリーズはもう出ないのかなぁ。